上 下
33 / 394
第一章 バルガス公爵領

第三十三話 第一回薬草取り選手権

しおりを挟む
「とはいえ、今日はまだ何も動きはないだろう。午後から薬草取りに行くんだろう? 今後の事も考えて一杯取ってくるがよい」
「うん! ミケ一杯薬草取るよ!」

 アルス王子が話は終了といい、薬草取りのことを話すとミケが元気に手を上げた。
 さっきの涙から一転して笑顔になっている。
 そしてミケが急ぐとばかりに昼食にしようとみんなを誘った。
 先ほどの重い空気が一変して明るくなった。
 ちなみにビルゴさんたちはこの後用事があるということで、昼食前に帰って行った。
 リンさんたちは一緒に昼食を取って、その後薬草取りも一緒についてくるとの事。
 昨日色々あって依頼こなせなかったのもあるそうだ。

「ならルキアも今後の事を考えて一緒に行っておいで。まだ冒険者カードも返却していないんだろう?」
「御館様……。しかし私は」
「昨日の娘の聖魔法で古傷も治ったはずだ。薬草取りくらいなら大丈夫だろう」
「御館様……。ありがとございます」

 ルキアさんも昼食時にバルガス様に背中を押されて一緒に来るようだ。
 実は昨日のサリー様の聖魔法はお屋敷にいたメイドさんとかにも作用したらしく、腰痛が治ったとか肩こりが良くなったと好評だった。
 そしてルキアさんの古傷も全快した。だけど冒険者としてのブランクもあるのでまずは薬草取りでという事です。

「なら妾も久々に行くとするかのう。フランソワもおるし沢山取れるはずじゃ」

 えー! ビアンカ殿下もついてくるの?
 でもビアンカ殿下は冒険者登録していないのでは?

「おー、ビアンカお姉ちゃんも一緒に来るの?」
「うむ、こう見えておぬしらよりもランクは上じゃ」
「凄い! ビアンカお姉ちゃんかっこいい!」

 ああ、なんという事でしょう。
 高く掲げられたビアンカ殿下のギルドカードのランクはEランク。
 Fランクの俺らよりも全然上だ……

「良いなあ、私も一緒に薬草取りをしたいなあ……」
「サリーはまだ先じゃな。バルガスの許可をもらわんと」
「うー、残念です」

 サリー様はお留守番。
 ビアンカ殿下も言っている通り冒険者登録していないし、バルガス様も一人娘を危険な所には出したくないよね。

 ということで昼食も終わり、着替えた後にギルドへ。
 その後はこの間薬草を取った森に移動です。
 
「おー、ビアンカお姉ちゃんの冒険者服かっこいいね!」
「ふふん、どうじゃミケよ。妾のお気に入りじゃ。国外のデザインらしいのう」

 ビアンカ殿下の冒険者服はちょっと和風っぽいのだ。
 着物っぽい服装で髪を大きなリボンでポニーテールにしている。見た感じ派手な剣道着だ。
 武器は小太刀二刀流で、ルキアさん曰く結構な腕前らしい。
 動きやすそうな感じで、活発なビアンカ殿下にあっている。

「ルキアお姉ちゃんは魔法使いみたい」
「ふふふ、ありがとうございます。でも急いで少し直したんですよ」
「そうなんだ!」

 ルキアさんは黒を基本としたいかにも魔女って感じの魔法服だ。
 魔女の帽子はかぶっていないけど、マントがよくお似合いです。
 どこか服を直していたと言っていたが……、その……、お胸がぱつんぱつんです。
 冒険者をしていない二年間で成長されたようだ。メイド服は生地が厚いので気が付かなかった。
 それにミニスカだからおみ足も凄いことに。ギルドでも男性の視線を集めていましたよ。
 そして自分とシルを除いてパーティは全員女性。みんな可愛いし美人です。
 ギルド内の俺に対する視線がとても痛かった。

「よし、お兄ちゃん。誰が一番取れるか競争だ!」
「「「おー!」」」
「えー?」

 そしてミケによって突如宣言された薬草取り大会の開催です。
 俺の抗議の声は、みんなのやる気の声でかき消された……
 ちなみにメンバーはこんな感じ。
 ・ビアンカ殿下、ルキアさん、フランソワ
 ・リンさん、オリガさん、マリリさん、ポチ
 ・ミケ、シル、スラタロウ、タラちゃん
 ・俺

「異議を申し立てる!」
「えー? なんで?」
「なんでじゃないでしょうが!」

 俺一人だけだし、そっちにはみんなシルクスパイダーいるし。
 どう考えても勝ち目ないでしょうが!

「お兄ちゃんなら大丈夫だよ! 始めよ!」
「「「おー!」」」
「ちょっとー!」

 俺の再度の抗議の声もかき消され、ミケによって開始の合図がされた。
 最初から負け試合だよ!

 ちくしょう……
 それなら前回みたいにシルクスパイダーを見つけて仲間にしてやる!
 
 一時間経過。
 ……うん分かっていたよ。
 そういう時に限って何も出てこないのは。
 絶望感に襲われながら一人でもくもくと薬草採取。なんか悟りが開そうです。
 他のみんなはワイワイと楽しそうに薬草採取。
 女の子が集まって楽しそうですね。
 
 ちくしょう……、寂しくなんかないやい……

 二時間経過。
 薬草取り終了。
 俺は地面にのの字を書いています。

「お兄ちゃん大丈夫?」

 大丈夫じゃないです……

「サトーよ、こういう事もあるのじゃ……」

 うん、そうですよねー……

「サトー様、その……えっと……」

 ルキアさんも久しぶりではしゃいでいましたね……

「サトーさん。その、ミケさんが負けた人が全員に串肉を奢りだと……」

 リンさん良いですよー。最初から分かっていましたよ……

 うん結果なんて分かっていたよ。最初から分かりきっていたんだ。
 慰めなんていらないよ……
 いくらでも奢るよ……

 流石に女性陣も悪いと思ったのか、結果については何も言わなかった。
 俺にどう声をかけていいかわからないみたいだ。
 どうみたって俺の十倍は軽く超えているんだよ。
 勝ち目なんてないよね。
 こんなアラサーの男なんて放っておいて良いですよー。

 トボトボとギルドに歩いて帰る。
 ギルドの解体所に入っても、項垂れる俺となんて声をかけて良いかわからない女性陣を見て何かやらかしたと感じ、流石に他の冒険者も冷やかすことはなかった。

「では皆様の採取の結果を確認しますね」
 
 受付のお姉さんが薬草の確認を始めた。
 なんだか後ろに野次馬が固唾を飲んで見守っている。

「「「おおー!」」」

 野次馬が一斉に声を上げた。
 ビアンカ殿下、リンさん、ミケたちの採取結果を見て驚いている。
 確認台にこんもりと置かれた薬草の山が三つ。
 今までの採取記録を超えているそうだ。
 そりゃシルクスパイダーもいて本気で二時間やれば、このくらい軽く行くよね。
 ギルドとしてもこれだけ薬草があればホクホクだろう。
 何よりこれだけ薬草が取れるって良い宣伝になる。
 この間よりも一杯人が集まりそうだ。

「ではサトー様の採取結果を確認しますね」
「「「……ああ、なるほど……」」」

 二時間頑張って集めた結果が作業台に出ていた。
 かなり頑張ったと思うけど、流石に多勢に無勢。
 野次馬も何かを悟ったのだろう、一言発しただけで何も言わなかった。
 ありがとう、お前らの優しさが身に染みるよ……

「でも買取金額はサトー様の方が上ですね」
「「「え?」」」

 おや? これは予想もしなかった事だぞ。
 女性陣も野次馬もびっくりしている。
 もちろん俺もだ。

「女性の皆様は純粋に薬草だけ沢山ありますが、サトー様は貴重な薬草も結構含まれています。これはもしかしたら薬草の買取金額を更新するかも……」
「「「おおー!」」」

 俺も女性陣も野次馬もみんなびっくりしている。
 なるほど、量で行くか質で行くかの違いか。
 無意識の内に高級な薬草を結構取っていたんだ。
 ギルドにとっても、貴重な薬草も取れるっていうのは量と合わせて良い宣伝になるし。

「今回は判定は引き分けじゃな」
「量で決めるか金額で決めるか決めてなかったですし」
「うむ、でも久々で面白かったのじゃ」
「そうですね殿下。私も昔を思い出しました」

 ビアンカ殿下とルキアさんも話していたが、結局みんな凄い結果になったので勝負は引き分けになった。
 俺も負けると思っていての結果だから一安心だ。

「じゃあお兄ちゃん、頑張ったご褒美にみんなに串肉奢って!」

 ミケさんや、綺麗にまとまったのにそれはないのでは……
 とは思いつつもここ男の見せ所だと思って、俺がみんなに串肉奢ってそれぞれの帰り路についた。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...