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第一章 バルガス公爵領

第二十八話 怪盗タラちゃん参上

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 ギルドを出てすぐに街の警備が強化されているのに気がついた。
 既に多くの騎士さんが、街の巡回を始めていたからだ。
 しかも巡回用の軽装ではなくフル装備だ。
 街の人もその様子から異変に気がついたのか、人通りは少なくなっていた。
 流石バルガス様とビアンカ殿下だ、手を打つのが早い。
 この分なら襲撃者も容易に手だしは出来ないだろう。

「うん、流石はバルガス様だ。何回かあったことあるけど、あの人の手腕はすごいぞ」
「ですね。あって日が浅い俺でも実感しています」

 巡回や護衛の効果もあってか、ビルゴさんと道中話ながらすんなりとお屋敷に到着した。
 玄関に着くと、直ぐに執事のグレイさんが出迎えてくれた。

「サトー様、お帰りなさいませ。ビルゴ様もお久しぶりにございます。早速で申し訳ありませんが、御館様がお呼びです。ご案内いたします」
「グレイさん、ただいま。こちらもバルガス様と話をしたかったので助かります」

 グレイさんに案内された部屋に通されると、そこにはバルガス様とビアンカ殿下の他にミケやシルといったうちの面々やリンさん達もいた。
 うちの面々は至って普通だったが、リンさん達やビルゴさん達は公爵と王女の前なので緊張していた。

「おお、サトーよ。よく帰ってくたぞ。遅いのでちと心配じゃったぞ」
「全くですな殿下。まあ、私は心配しておりませんでしたよ」
「遅くなり申し訳ありません。ギルドマスターより手紙を預かっております」
「ありがとう。うむ、流石はマリシャ殿だ。それにしてもまたもや闇の魔道具とは」
「そうじゃの。しかも闇の魔道具の中でもタチが悪いものじゃ」
「何にせよ、制圧してくれたサトー殿とビルゴ殿に感謝する」
「そんな、滅相もないです」

 遅くなった事を詫びつつ、バルガス様にマリシャさんからの手紙を渡し中身を確認してもらった。
 バルガス様とビアンカ殿下は再度闇の魔道具が使われた事に驚きつつも、その脅威を抑えた俺とビルゴさん達に感謝していた。
 ビルゴさんは恐れ多いって感じの受け止め方だな。

「ビアンカ殿下、この内容も王族の方にお伝えしますか?」
「伝えはするが、先の魔道具は使わなくて良くなった」
「と言いますと?」
「うむ、それをいう前に今から話す事は口外せぬように」

 なんだろう?
 重要な話っぽい。
 みんなビアンカ殿下に向かって頷いた。

「うむ、と言っても知らぬものも直ぐにわかる。本件で王家から近衛部隊が来る予定じゃが、早くても明後日にならないと到着はせぬ。しかしその間に二回目の襲撃があった。しかもギルドを巻き込んでの事じゃ。事態を重くみた王家は急遽飛龍部隊を派遣する事になったのじゃ。本日の夕方には到着する」

 王家と公爵に対する二回の襲撃、そして違法な魔道具と、確かに事の重大さから考えても妥当だな。
 
「それに犯人の目星もついておる。なあシルよ」
「主人、それにビアンカよ。監視を頼まれていた奴は、主人が出かけると屋敷から抜け出し、主人が帰ってくる前に慌てて戻ってきたぞ」
「シルさんに私から補足しますと、我屋敷のメイドに確認した所、この街について以降度々街に長時間出掛けていた模様ですな」
「ありがとうございます。バルガス様」

 これでほぼ犯人は確定。
 だけど決定的な証拠がないんだよね。

「決定的な証拠がないなと思っておるな。サトーよ」
「はい、今は状況的証拠しかありません」
「なら物的証拠を引っ張り出すまでよ。なあミケよ」
「うん! ビアンカお姉ちゃん。あのねお兄ちゃん。今日の魔法特訓でタラちゃんがすごい魔法を覚えたの!」
「ええ、私も先ほど見させてもらいました。私のポチや殿下のフランソワも出来なかった魔法です」
「主人よ、タラの力を使えば直ぐに解決するぞ」

 タラちゃんもやる気があるのが、両方の前脚を上げてやる気十分だ。
 リンさんやシルも太鼓判を押すのだから相当なものなのだろう。

「ふふふ、絶対に見て驚くよ! タラちゃん『バニッシュ』!」

 ミケがタラちゃんに言うと、タラちゃんの姿が突然消えた。
 すげー、本当にすごい魔法だ。

「さらにタラは『スリープ』の魔法も会得したぞ。これを合わせれば……。ふふふ」

 ビアンカ殿下の笑顔が黒い。今までの鬱憤が溜まっているのだろう。

 と言うことで、タラちゃんに怪盗をしてもらう事になりました。
 場所は被疑者と思われる部屋の近くに、俺、タラちゃん、バルガス様、ビアンカ殿下。
 ミケは騒ぎそうなので、応接室でみんなとお留守番です。

「じゃあ、タラちゃんお願いできる?」

 俺がタラちゃんにお願いすると、タラちゃんは片足を上げると同時に姿が見えなくなった。
 作戦はこうだ。
 タラちゃんに透明になってもらい、屋根裏部屋から侵入してもらう。
 ターゲットに近づいて、スリープをかけ眠らせる。
 その間タラちゃんに書類を見てもらい、怪しいのがあったらドアの下の隙間から出してもらう。
 スリープは効果が十分間なので、短時間の勝負だ。

 タラちゃんが部屋に侵入して一分、もうそろそろかなと思ったら、扉の隙間から一枚の紙が出てきた。
 足音を立てないように急いで紙を取り、バルガス様とビアンカ殿下の元に持っていった。

「流石は早い仕事よ。どれどれ、これは……」
「殿下、思ったよりも問題になりそうですね」
「うむ、しかしこれで奴は言い逃れはできんぞ」
「全くです。おや? 次から次へと紙が出てきますぞ」

 ヒソヒソ話でバルガス様とビアンカ殿下が話をしていたが、想像以上の物が出てきたみたいだ。
 そして後ろを見ると、扉の隙間から次から次へと出てくる怪しい紙が……
 
「はあ、こやつは証拠を全く消さなかったみたいじゃの」
「襲撃者の主犯としては三流以下ですな、目が覚めたら慌てる様子が目に浮かびますぞ」

 どうしようもない程に証拠が出てきた。
 みんな顔を見合わせて、思わずため息が出るほどの量だ。
 はあ、こんなやつを相手にしていたんだ……
 
 そんな事を思っていたら、無事にタラちゃんが戻ってきた。
 時間にしてわずか五分。想定の半分の時間だ。
 タラちゃんは誇らしげに脚を上げていた。
 長居は出来ないので、急いでみんながいる応接室に戻った。

「あー、タラちゃんよくやったね」

 タラちゃんは褒められると、少し照れたような素振りをしていた。
 ミケの話によると、ポチとフランソワが犯人の拘束に力を発揮したと聞いて、タラちゃんもやる気がMAXだったようだ。
 それにしても手早い仕事だ。怪盗タラちゃんは想像以上に優秀だった。
 想像以上に早く戻ってきたので、みんなから何か失敗では? と思ったくらいだった。

「よし、これで全ての情報が父上に行ったぞ。後はアルスお兄様が到着すれば万全じゃな」

 ビアンカ殿下が例のFAXみたいな魔道具で、王様に全ての情報を送ったようだ…
 これで準備が整ったぞ。反撃開始です。
 
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