上 下
120 / 866
第十四章 五歳の祝いとマロード温泉

二百四十五話 ムノー子爵だったものとのバトル

しおりを挟む
「ジェリルとランカー。直ぐに確認を。ムノー子爵、ここまでクズだったとは!」
「「はっ」」

 ティナおばあさまの怒号が飛び、直ぐにジェリルさんとランカーさんが従業員の女性の確認を行った。
 ティナおばあさまの額に浮かび上がっている血管がブチ切れそうだけど、気持ちは良く分かる。

「ティナ様、乱暴された形跡はありません」
「ただ、どの強いアルコールを飲まされた上に、何か睡眠薬を飲まされた様です」
「なら、私が治療するわ。一体これから、無抵抗の女性に何をしようとしたのかしらね」

 ジェリルさんとランカーさんの報告を聞いて、カミラさんは直ぐに女性に駆け寄って治療を始めた。
 勿論、カミラさんの刺す様な視線と厳しい言葉は、未だに裸のままの三人に向けられている。
 この宿の主人もこの惨状を見て、怒りの表情に変わっていっている。
 大事な従業員が、あわやとんでもない仕打ちを受ける所だったのだからだ。
 宿の主人も、ムノー子爵に厳しい言葉を浴びせる。

「ムノー子爵様、当店は娼館では御座いませんが」
「ふん、たかが平民ごときが。貴族が相手にしてやるんだから、喜んで股を開くものだ。それなのに無駄な抵抗をしやがって」
「ムノー子爵!」
 
 ああ、こいつは本当に人間のクズなんだ。
 ムノー子爵の吐き捨てた言葉を聞いて、この場にいる全員の怒りに更に火がついた様だ。
 ティナおばあさまが剣を抜いて、怒りの表情のままムノー子爵に剣先を向けた。

「それでムノー子爵、何か言い残す事は?」
「はあ? 何を粋がっているんだ。このばばあ!」
「控えよ、ムノー子爵。こちらは王族のティナ様本人ですぞ」
「うるせえ! 王族だろうが何だろうが、俺に逆らうと痛い目にあうと後悔させてやる!」

 ムノー子爵は酒に寄っている勢いもあるのか、マロード男爵が諫めても全く語気を弱めない。
 対して若い二人は、今更ながら飛んでもない事になったと理解したようでしたようで青い顔をしてお互いに抱き合ってガクガクと震えていた。

「お前らはここで死ぬのだ!」
「くそ、何をする!」

 と、ここでムノー子爵が突然横にあったテーブルの上の物をこちらに投げつけ、こちらが僅かにひるんだ隙に何かの薬をワイン瓶の一気飲みで飲み干した。

「ぐおおおお!」
「何だよあれは!」

 ムノー子爵は、ジンさんも驚愕の変化を起こしていた。
 脂肪でダルダルになっていた体は筋肉が盛り上がり、目つきもおかしくなっていく。
 その変化に一番驚いていたのが、近くにいたムノー子爵の息子とその嫁だった。

「ち、父上?」
「お、お父様?」
「ぐわあ!」
「「ぎゃあ!」」
「あ、まずい!」

 父親の余りの変化に驚いた息子が父親であるムノー子爵に一歩近づいた所で、ムノー子爵は突然息子の顔面を思いっきり殴りつけた。
 そのままムノー子爵は、息子の嫁も思いっきり蹴り飛ばしたのだ。
 二人は部屋の壁に思いっきり激突して崩れ落ちた。
 痛いと言っている息子の嫁はともかくとして、息子の方は全く反応がないぞ。
 宿の従業員の治療を終えたカミラさんが、僕の発した声を聞いて直ぐに二人に駆け寄って治療を始めた。

「グルルルル!」
「なんだよ、手が四本も生えてきやがったぞ」
「もう完全に化け物ね」

 共和国で対戦したテイマーの様に、ムノー子爵は更に異様な姿に変わっていく。
 ジンさんとレイナさんは、ムノー子爵の異様な姿に流石に気味悪がっていた。

「ティナおばあさま、テイマーと一緒です!」
「闇ギルドから薬を貰っていたのか。皆、遠慮は無用よ」
「「「はい」」」
「プリン、僕達は魔力を溜めるよ。スラちゃんは皆と一緒に攻撃をして!」

 魔物となり下がったムノー子爵に対して、もう遠慮はいらないとティナおばあさまは僕達に指示を出した。
 テイマーを倒した様に、僕とプリンは魔力を溜め始める。

「「どっせーい!」」
「グアオー!」
「ちい、硬いね」
「でも攻撃は通りそうだよ」

 宿のおかみと冒険者のおばさんが同時にでっかいハンマーをムノー子爵に振り下ろした。
 テイマーの様に皮膚はかなり硬いのだが、今回は攻撃が通じるのかムノー子爵はかなり痛がっていた。

「てやー!」
「せい!」
「グギャー!」
「よし、腕を一本切り落としたぞ!」

 ムノー子爵はたくさん生えた腕をぶんぶんと振り回すが、その嵐をかいくぐったジンさんとレイナさんが同時攻撃を仕掛けて腕を一本切り落とす。
 ムノー子爵はかなり痛がり、動きが一瞬完全に止まってしまった。

「うおおおおお!」
「これでも食らいなさい」
「「とう!」」
「ギャアアー!」

 ムノー子爵の足が止まった所を見逃す僕らではない。
 気合一閃のマロード男爵の剣がムノー子爵の胸を大きく切り裂き、ティナおばあさまの高速の突きがムノー子爵の顔をとらえた。
 更にはジェリルさんと室内なので魔法ではなくメイスを使っているランカーさんが、同時攻撃で強烈な一撃をムノー子爵にお見舞いする。
 その後も、皆の絶え間ない攻撃がムノー子爵へと続いていく。
 この攻撃の嵐に、魔物と化したムノー子爵も思わず膝をついた。

 ブオン。

「ブフォ」

 膝をついたムノー子爵の頭をめがけて、スラちゃんが飛び上がってテイマー戦でも見せていた巨大ハンマーを触手で持って思いっきり振りかぶった。
 ムノー子爵は空気の抜ける様な声を出して、床に大の字にうつ伏せで倒れた。

「プリン、いくよ」
「グオオオオオオオオオ!」

 そして僕とプリンの合体魔法による強力な雷撃を、うつ伏せで倒れているムノー子爵向けて放った。
 ムノー子爵が焦げ臭い臭いを放ちながら、断末魔をあげた。
 
 そして、黒焦げになり完全に動かなくなったムノー子爵の成れの果てにジェリルさんが近づいていく。

「完全に息の根は止まっています」
「ふう、終わったか」

 ジェリルさんの報告を受けて、ティナおばあさまはようやく一息ついた。
 
「うーん、何でテイマーよりも弱かったのでしょう?」
「元がテイマーよりも弱かったのと、大量の飲酒の影響もあったのかもしれないわね」

 僕の発した疑問に、ティナおばあさまが冷静に答えてくれた。
 確かに飲酒した上での投薬って、効果が薄くなって良くないって言うもんね。
 こうして、魔物化したムノー子爵は殆ど魔獣化で得た力を発揮する事もなく討伐されたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

婚約破棄された私と、仲の良い友人達のお茶会

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
国名や主人公たちの名前も決まってないふわっとした世界観です。書きたいとこだけ書きました。一応、ざまぁものですが、厳しいざまぁではないです。誰も不幸にはなりませんのであしからず。本編は女主人公視点です。*前編+中編+後編の三話と、メモ書き+おまけ、で完結。*カクヨム様にも投稿してます。

異世界転生したので、のんびり冒険したい!

藤なごみ
ファンタジー
アラサーのサラリーマンのサトーは、仕事帰りに道端にいた白い子犬を撫でていた所、事故に巻き込まれてしまい死んでしまった。 実は神様の眷属だった白い子犬にサトーの魂を神様の所に連れて行かれた事により、現世からの輪廻から外れてしまう。 そこで神様からお詫びとして異世界転生を進められ、異世界で生きて行く事になる。 異世界で冒険者をする事になったサトーだか、冒険者登録する前に王族を助けた事により、本人の意図とは関係なく様々な事件に巻き込まれていく。 貴族のしがらみに加えて、異世界を股にかける犯罪組織にも顔を覚えられ、悪戦苦闘する日々。 ちょっとチート気味な仲間に囲まれながらも、チームの頭脳としてサトーは事件に立ち向かって行きます。 いつか訪れるだろうのんびりと冒険をする事が出来る日々を目指して! ……何時になったらのんびり冒険できるのかな? 小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しました(20220930)

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。