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2章 半身と番【つがい】
なつなの秘密
しおりを挟む「私の…秘密?」
突然の言葉に、ぽかんとして。
ただただレイを見下ろせば、私を見つめたまま頷いてみせた。
「なつな、君はあの神からこの世界のことを教えて貰ったと言っていたね?それに、この世界を少し見せて貰ったとも言っていた。」
「うん、空の上からだったから…全体像がほとんどだけど。」
「その時、城は幾つあった?」
「城?確か…2つだった気が。」
「そう。この世界には城が2つある。1つは、僕達龍が住むこの城。そしてもう1つは、人間の王が住む城だ。」
「人間の、王様…?」
その呟きに頷くと、レイはふわりとベッドから飛び立つ。
その背中を追って歩みを進めると、隣りの部屋へと入っていく。
そこにあったのは、壁にかけられた古い地図。
月明かりに照らされたその地図の前までレイは案内するように飛んでいき、私が目の前に立つと、まるで翼を休めるように私の腕の中へと収まった。
「この国の名は、ルシェラザルト王国。4つの大陸からなり、その中央に…僕達龍王とその半身が生まれた聖域――『ルシェラザルト山』がある。」
「あの山がそうだったんだ…」
「そう。そして山の頂上にこの城があり、麓に王城がある。何故だか分かるかい?」
「ん……。レイ達龍は政治に関与してなくて、人間達は…この山に勝手に入れないからとか?」
「なつなは賢いね。ほとんど正解だ。この山は僕達龍にとって、聖域なんだ。だからこそ、『不可侵』を求める。龍は、縄張り意識が強いんだよ。」
そう言って苦笑いを漏らすと、レイは地図を見上げた。
「この国が興った昔、人は龍に統治を求めた。でも先代の龍王とその半身はそれをよしとせず、あくまで『共存』の道を選んだ。政治は人が行い、我々は…導くのみだと。」
「嫌がったんだね…」
「そう。人の国だ、人が統治するのが必定。けれど人は龍を敬う、だから先代の龍王とその半身は見守ることにした。誤ることのないように、愚かにならないように。」
「優しい、龍達だったんだね…」
そう呟いた私に穏やかに微笑んで、レイは続けた。
「けれど、人は時に愚かな過ちをする。それを人である先代の半身は知っていた。だからこの聖域に、僕達が招いた人以外、入れないようにしたんだ。」
「…そっか。確かに、そうかもしれないね。」
「分かるかい?」
「うん、分かるよ。龍がどういう考え方をするか分からないけど…人は簡単に誰かを羨むし、妬んだり憎んだり、自分本位だったりするから。」
「そうか…人はある意味、素直なんだな。」
その呟きに彼を見れば、私の言葉をまるで覚えるように噛みしめていて、少しおかしくなってしまう。
くすくすと笑い出した私に、レイはどこか不思議そうな顔をする。
「何かおかしかった?」
「ううん、そんなに大層なことは言ってないのに、初めて聞いたみたいな顔をしてたから。」
「なつなの言葉は、初めて聞くことばかりだよ。僕が初めて話した人だからかもしれないね。」
「!そうなの?」
「そうだよ。人には、何千人も会ってきた。この国で僕と同じ日に生まれた人間に…男女問わず、会ってきたからね。」
「私を…探して?」
その言葉に静かに頷いたレイの姿に、たまらずぎゅっと抱きしめる。
そんな私の頬に鼻先を擦り寄せて、彼は笑った。
「もう、それも過去の話だ。今はなつな、君に会えた。僕はそれだけで報われてる。」
「レイ…」
「だから、君の言葉はどんなものでもとても重要なんだ。僕にとっても――『彼ら』にとっても。」
不意に漏らされた、『彼ら』という言葉。
さっきからよく耳にするそれはどこか重さを含んでいて、私はレイを見る。
「ねえ、レイ。さっきからレイも神様も『彼ら』って言ってるけど…それって誰のことなの?」
「…うん、それを話さないといけないね。」
そう呟いて、レイはまた地図を見上げる。
その視線を追って見上げた先に、ある光景が映る。
「僕達、『龍王』とその『半身』には、ある特別な力が備わっている。僕にはあって、なつなにはない力。なつなにはあって、僕にはない力。」
1人の女性を、包み込む腕。
慈しむように、大切なんだと訴える瞳。
その腕に包まれて、その女性は穏やかに微笑んでいる。
「この世界には、君がいた世界にはない『魔力』というものが存在する。それは人や龍の身体の中に必ず流れている力。それを意識し、使う術を身につけることで…魔力は剣にも盾にもなる。」
そんな2人に向けて、向けられるたくさんの眼差し。
それは穏やかであって、慈しんでもいるようで、でも。
『彼女』に向ける瞳は、どこか違う。
「『龍王』には、無尽蔵の魔力が備わっている。けれど、『半身』には魔力がない。何故だか分かるかい?」
——ねえ、あなたは何を望むの?
なんでも叶えてあげる。
あなたの望むことは、全て。
どうして、泣いているの?
誰があなたを悲しませたの?
許せない――赦せない!
「『半身』に備わる力、それは――万物に愛されること。」
「人も龍も動物も、『見えざる者』も全てが君を愛するだろう。」
「なつなが悲しめば天は泣き、なつなが微笑めば花すら綻ぶだろう。――それが、君にだけ備わる力。」
君は、この世界全てに愛されているんだ。
生まれおちた、その日から。
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