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第17話
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俺の声に振り向く石倉。
その瞬間、皐月が石倉に体当たりし、石倉は呆気なくその場に倒れた・・・・・。
「皐月!!大丈夫か!!」
俺は皐月に駆け寄った。
「稔ーーー!早く、救急車!安井さんが!」
言われて、初めて皐月の前に倒れている安井に気付く。
「―――救急車呼びます!」
すぐに関が携帯を取り出す。
俺たちの後ろからも刑事たちが駆け付け、逃げようとした石倉を取り押さえた。
「離せ―――!俺を誰だと思ってるんだ!!」
わめいている石倉を、刑事たちが両側から体を抱え、連れていく。
「安井さん、すぐに救急車来るから・・・・・」
安井の傍らに膝をつき、皐月が声をかける。
皐月の言葉に、倒れていた安井が微かに目を開けた。
「皐月・・・・」
震える手を伸ばす安井。
皐月がその手を取り、両手で握りしめた。
「―――大丈夫。助かるよ。俺にはわかる。だから、安心して」
皐月の言葉に、安井は安心したように笑みを浮かべた。
やがて、遠くの方からサイレンの音が聞こえてきた―――――
その後安井は救急車で救急病院へ搬送されたが、刺し傷は急所を外れていたため、命に別条はないとのことだった。
石倉は拘留、皐月もまた事情を聞かれるため俺たちとともに警察へと向かったのだった。
その後、石倉は観念したのか、全ての犯行を自供した。
佐々木陽介殺害も、皐月の襲撃も、石倉によるものだった。
動機は、『天宮皐月』そのものだった。
安井が皐月を店に連れて来た時から、ずっと皐月に心奪われていたという石倉。
石倉はもともと同性愛者で、今までにも何人ものホストと関係を持っていた。
だが、安井はそれを知っていても咎めることはなかった。
理由は石倉の父親にあった。
石倉の父親は有名な政治家で、まだ安井が若く悪かった頃、当時弁護士だった石倉の父に世話になったことがあり、その縁で今のホストクラブを経営することができたのだという。
そして、そのホストクラブ開店の条件だったのが、石倉を店長として雇うことだった。
石倉は大学を出たものの就職もせずにぶらぶらと遊び歩いているような男だった。
ホストクラブの店長になってからも、ホストに手を出すなど好き放題で手を焼いていた。
ただ、人を使う能力には長けていたようで、ホストクラブの経営はおかげで大成功だった。
そこへ現れたのが、皐月だった。
皐月に一目惚れした石倉は、しかし、皐月には手を出すことができなかったという。
『皐月は特別なんだよ。俺なんかが汚しちゃいけない存在なんだ。皐月は絶対に、きれいなままでいなくちゃ・・・・・』
その言葉こそが、まさに犯行動機だった。
突然ホストクラブを辞めてしまった皐月。
安井は皐月が望むならと、最初は納得していたのだ。
だが、石倉に『絶対に連れ戻せ』と命令され、また自分も皐月に未練が残っていたこともあり、皐月を説得し続けていた。
だが、皐月のもとへ通い詰めているうちに、皐月が安井に笑顔を見せなくなってしまった。
そのことで安井の精神のバランスが狂い始め―――
そのバランスを取ろうとするかのように、安井は皐月の後を付け回し、写真を撮り続けたのだった。
だが、それが佐々木陽介にばれてしまった。
陽介は、安井を脅した。
『石倉さんの親って、あの有名な政治家だって?政治家の息子がゲイで、自分の店のホストに手ぇ出して、しかも店のオーナーまでもが辞めたホストのケツ追いかけてストーカーまがいのことしてる―――なんて、結構なスキャンダルだよなぁ?』
その言葉に青くなった安井に、陽介はくぎを刺した。
『安井さんも、自分の店潰したくないでしょ?石倉さんのこと―――説得してくれよな?もう、皐月のことは諦めろって。もちろん、安井さんもね』
言うことを聞くしかないと思った。
安井は石倉を、なんとか皐月を諦めるように説得し続けた。
だが―――
最初こそ父親のことを気にしておとなしくしていた石倉だが、それも長くはもたなかった。
皐月が手に入らないということが、精神的に石倉を追い詰めたのだ。
怒りの矛先は陽介へ向かっていた。
皐月を手に入れるためには、陽介を消すしかない。
そう思い込んだ石倉は、何度となく安井の目をくぐりぬけ、陽介を殺す機会を狙っていたのだ。
日中は陽介はたいてい河合や皐月と仕事をしていて、1人になることはなかった。
店にいる間も安井が目を光らせていた。
チャンスは夜中、まだ店が営業中に安井が事務所に詰めている間、休憩で30分ほど抜ける時だけだった。
何度か陽介のマンションまで足を運んだ結果、陽介がいつも2時から3時頃までの間にたばこを買いに公園を通り抜け、近くのコンビニまで出ていることを知った。
スーパーで包丁を買い、それをバッグに隠し持ち、公園で陽介が通るのを待った。
後ろから襲うつもりだったが、公園の中で一瞬陽介を見失い―――
気付くと、陽介が後ろにいた。
『―――石倉さん?こんなとこでなにしてんの?』
『陽介・・・・いや、ちょっと客を送った帰りで―――』
『へえ?ごくろうさん』
陽介は特に疑う様子もなく笑っていた。
『―――皐月は、元気か?』
『もちろん。あいつ、探偵に向いてるよ。ちょっと優し過ぎるけどな。あー、石倉さんには言っておこうかな』
『え?』
『俺ね、皐月と一緒に住もうと思ってるんだ』
『一緒に・・・・住む・・・・・?』
『ああ。結婚はできなくても、同棲ならできるからね。俺が、皐月を幸せにするよ。だから、石倉さんや安井さんには見守ってて欲しいな』
『・・・・・・そう、だな・・・・・わかったよ・・・・・皐月のため、だもんな・・・・・』
『そうだよ。皐月のため――――――!?』
包丁の刃は、音もなく陽介の体に吸い込まれていった。
陽介の体が崩れ落ちる。
石倉はその上に覆いかぶさり、何度も何度も、陽介の体を刺し続けた。
石倉が店にいないことに気付いた安井が慌てて探しに出たが、安井が公園で見つけたのは、血だらけで横たわる陽介の前に呆然と座りこんでいる石倉の姿だった。
安井はすぐに状況を把握し、石倉の持っていた包丁を取り上げ、指紋をふき取るとその場に残し、石倉を安井の自宅へ連れていき、帰り血の付いた服を着替えさせ店に戻したのだった・・・・・。
安井は1度は石倉を自首させようとしたが、石倉に『店を失ってもいいのか』と脅され、黙っていることにしたのだ。
だが、石倉が今度は皐月の命までも狙っていることを知る。
『―――誰かに汚される前に、皐月を俺のものにする』
何度も止めるよう説得をしていた安井だったがーーー
あの日
石倉の姿が見えないことに気付いた安井は、戸田の店に行き、皐月の無事を確認し、その後皐月の自宅近くで石倉が現れるのを待っていた。
だが、そのときすでに、石倉は皐月の家に忍び込んでいたのだ。
鍵は、皐月がホストをしていた時にこっそり合鍵を作っていたらしい。
皐月が帰ってきて、部屋に入り―――
中の物音に、何かあったと気付いた安井。
助けに入ろうと思った時、石倉が中から飛び出してきた。
中の様子を伺い、皐月が無事だということがわかると、安井はすぐに石倉の後を追った。
石倉に追いつき、事務所まで連れて行くとこれ以上庇うことはできないと、警察に出頭するよう説得したが―――
『知ってますよ。安井さん、あなたが皐月の後を付け回して写真を撮り溜めていること。それが警察に分かったら疑われるのはあんただ。あんた、陽介の時も今回も、アリバイはないだろ。親父に頼んであんたを逮捕させることだってできるんだ』
石倉の言葉に安井はパニックになり、その場から逃げ出してしまった。
だが警察に追われていることを知った安井は自宅にも戻れず、あのビルの空き店舗に隠れていたのだ。
前科のある安井は警察に話しても信じてもらえるとは思えず、自ら命を絶とうとしていた。
そこで、最後に皐月に会いたいと電話で呼び出した。
そして屋上へ向かう安井に気付いた石倉がそこへ現れた―――というわけだった。
石倉は、事情聴取中も、まるで呪文のように同じことを呟いていた。
『皐月は、俺のものなんだ・・・・・皐月は、誰にも汚すことができないんだ・・・・・皐月は、特別なんだ・・・・・』
その瞬間、皐月が石倉に体当たりし、石倉は呆気なくその場に倒れた・・・・・。
「皐月!!大丈夫か!!」
俺は皐月に駆け寄った。
「稔ーーー!早く、救急車!安井さんが!」
言われて、初めて皐月の前に倒れている安井に気付く。
「―――救急車呼びます!」
すぐに関が携帯を取り出す。
俺たちの後ろからも刑事たちが駆け付け、逃げようとした石倉を取り押さえた。
「離せ―――!俺を誰だと思ってるんだ!!」
わめいている石倉を、刑事たちが両側から体を抱え、連れていく。
「安井さん、すぐに救急車来るから・・・・・」
安井の傍らに膝をつき、皐月が声をかける。
皐月の言葉に、倒れていた安井が微かに目を開けた。
「皐月・・・・」
震える手を伸ばす安井。
皐月がその手を取り、両手で握りしめた。
「―――大丈夫。助かるよ。俺にはわかる。だから、安心して」
皐月の言葉に、安井は安心したように笑みを浮かべた。
やがて、遠くの方からサイレンの音が聞こえてきた―――――
その後安井は救急車で救急病院へ搬送されたが、刺し傷は急所を外れていたため、命に別条はないとのことだった。
石倉は拘留、皐月もまた事情を聞かれるため俺たちとともに警察へと向かったのだった。
その後、石倉は観念したのか、全ての犯行を自供した。
佐々木陽介殺害も、皐月の襲撃も、石倉によるものだった。
動機は、『天宮皐月』そのものだった。
安井が皐月を店に連れて来た時から、ずっと皐月に心奪われていたという石倉。
石倉はもともと同性愛者で、今までにも何人ものホストと関係を持っていた。
だが、安井はそれを知っていても咎めることはなかった。
理由は石倉の父親にあった。
石倉の父親は有名な政治家で、まだ安井が若く悪かった頃、当時弁護士だった石倉の父に世話になったことがあり、その縁で今のホストクラブを経営することができたのだという。
そして、そのホストクラブ開店の条件だったのが、石倉を店長として雇うことだった。
石倉は大学を出たものの就職もせずにぶらぶらと遊び歩いているような男だった。
ホストクラブの店長になってからも、ホストに手を出すなど好き放題で手を焼いていた。
ただ、人を使う能力には長けていたようで、ホストクラブの経営はおかげで大成功だった。
そこへ現れたのが、皐月だった。
皐月に一目惚れした石倉は、しかし、皐月には手を出すことができなかったという。
『皐月は特別なんだよ。俺なんかが汚しちゃいけない存在なんだ。皐月は絶対に、きれいなままでいなくちゃ・・・・・』
その言葉こそが、まさに犯行動機だった。
突然ホストクラブを辞めてしまった皐月。
安井は皐月が望むならと、最初は納得していたのだ。
だが、石倉に『絶対に連れ戻せ』と命令され、また自分も皐月に未練が残っていたこともあり、皐月を説得し続けていた。
だが、皐月のもとへ通い詰めているうちに、皐月が安井に笑顔を見せなくなってしまった。
そのことで安井の精神のバランスが狂い始め―――
そのバランスを取ろうとするかのように、安井は皐月の後を付け回し、写真を撮り続けたのだった。
だが、それが佐々木陽介にばれてしまった。
陽介は、安井を脅した。
『石倉さんの親って、あの有名な政治家だって?政治家の息子がゲイで、自分の店のホストに手ぇ出して、しかも店のオーナーまでもが辞めたホストのケツ追いかけてストーカーまがいのことしてる―――なんて、結構なスキャンダルだよなぁ?』
その言葉に青くなった安井に、陽介はくぎを刺した。
『安井さんも、自分の店潰したくないでしょ?石倉さんのこと―――説得してくれよな?もう、皐月のことは諦めろって。もちろん、安井さんもね』
言うことを聞くしかないと思った。
安井は石倉を、なんとか皐月を諦めるように説得し続けた。
だが―――
最初こそ父親のことを気にしておとなしくしていた石倉だが、それも長くはもたなかった。
皐月が手に入らないということが、精神的に石倉を追い詰めたのだ。
怒りの矛先は陽介へ向かっていた。
皐月を手に入れるためには、陽介を消すしかない。
そう思い込んだ石倉は、何度となく安井の目をくぐりぬけ、陽介を殺す機会を狙っていたのだ。
日中は陽介はたいてい河合や皐月と仕事をしていて、1人になることはなかった。
店にいる間も安井が目を光らせていた。
チャンスは夜中、まだ店が営業中に安井が事務所に詰めている間、休憩で30分ほど抜ける時だけだった。
何度か陽介のマンションまで足を運んだ結果、陽介がいつも2時から3時頃までの間にたばこを買いに公園を通り抜け、近くのコンビニまで出ていることを知った。
スーパーで包丁を買い、それをバッグに隠し持ち、公園で陽介が通るのを待った。
後ろから襲うつもりだったが、公園の中で一瞬陽介を見失い―――
気付くと、陽介が後ろにいた。
『―――石倉さん?こんなとこでなにしてんの?』
『陽介・・・・いや、ちょっと客を送った帰りで―――』
『へえ?ごくろうさん』
陽介は特に疑う様子もなく笑っていた。
『―――皐月は、元気か?』
『もちろん。あいつ、探偵に向いてるよ。ちょっと優し過ぎるけどな。あー、石倉さんには言っておこうかな』
『え?』
『俺ね、皐月と一緒に住もうと思ってるんだ』
『一緒に・・・・住む・・・・・?』
『ああ。結婚はできなくても、同棲ならできるからね。俺が、皐月を幸せにするよ。だから、石倉さんや安井さんには見守ってて欲しいな』
『・・・・・・そう、だな・・・・・わかったよ・・・・・皐月のため、だもんな・・・・・』
『そうだよ。皐月のため――――――!?』
包丁の刃は、音もなく陽介の体に吸い込まれていった。
陽介の体が崩れ落ちる。
石倉はその上に覆いかぶさり、何度も何度も、陽介の体を刺し続けた。
石倉が店にいないことに気付いた安井が慌てて探しに出たが、安井が公園で見つけたのは、血だらけで横たわる陽介の前に呆然と座りこんでいる石倉の姿だった。
安井はすぐに状況を把握し、石倉の持っていた包丁を取り上げ、指紋をふき取るとその場に残し、石倉を安井の自宅へ連れていき、帰り血の付いた服を着替えさせ店に戻したのだった・・・・・。
安井は1度は石倉を自首させようとしたが、石倉に『店を失ってもいいのか』と脅され、黙っていることにしたのだ。
だが、石倉が今度は皐月の命までも狙っていることを知る。
『―――誰かに汚される前に、皐月を俺のものにする』
何度も止めるよう説得をしていた安井だったがーーー
あの日
石倉の姿が見えないことに気付いた安井は、戸田の店に行き、皐月の無事を確認し、その後皐月の自宅近くで石倉が現れるのを待っていた。
だが、そのときすでに、石倉は皐月の家に忍び込んでいたのだ。
鍵は、皐月がホストをしていた時にこっそり合鍵を作っていたらしい。
皐月が帰ってきて、部屋に入り―――
中の物音に、何かあったと気付いた安井。
助けに入ろうと思った時、石倉が中から飛び出してきた。
中の様子を伺い、皐月が無事だということがわかると、安井はすぐに石倉の後を追った。
石倉に追いつき、事務所まで連れて行くとこれ以上庇うことはできないと、警察に出頭するよう説得したが―――
『知ってますよ。安井さん、あなたが皐月の後を付け回して写真を撮り溜めていること。それが警察に分かったら疑われるのはあんただ。あんた、陽介の時も今回も、アリバイはないだろ。親父に頼んであんたを逮捕させることだってできるんだ』
石倉の言葉に安井はパニックになり、その場から逃げ出してしまった。
だが警察に追われていることを知った安井は自宅にも戻れず、あのビルの空き店舗に隠れていたのだ。
前科のある安井は警察に話しても信じてもらえるとは思えず、自ら命を絶とうとしていた。
そこで、最後に皐月に会いたいと電話で呼び出した。
そして屋上へ向かう安井に気付いた石倉がそこへ現れた―――というわけだった。
石倉は、事情聴取中も、まるで呪文のように同じことを呟いていた。
『皐月は、俺のものなんだ・・・・・皐月は、誰にも汚すことができないんだ・・・・・皐月は、特別なんだ・・・・・』
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