6 / 14
甘い気持ち
しおりを挟む
「あれ、時田?どうした?」
昼飯を食べた後、自分の授業がなかったため職員室にいたのだが、どうにも眠くて仕方なくて、眠気を覚まそうと屋上に来た。
が、そこには先客が。
「あ・・・・沢渡せんせー」
いたずらが見つかった子供みたいに眉を下げ、悲しそうな顔をする時田蒼汰。
そんな顔されたら、怒れない。
「どした?眠くなっちゃったか?」
「それ、せんせーでしょ?」
「んふふ、わかっちゃった?」
「・・・・怒らないの?」
「・・・・まぁ、気分が乗らない時もあるよな」
時田が、きゅっと唇を噛みしめる。
大きな瞳が潤み、今にも涙が零れそうだった。
かわいい。
こりゃあ、純ちゃんもやられちゃうよな。
「・・・・数学の授業なんだよ」
「ああ・・・・そっか」
事情は、純ちゃんから聞いていた。
かと言って、俺に出来ることなんて―――
「俺じゃあ、数学教えてやれないしなぁ」
「・・・・ふふ。じゃあ、沢渡せんせーには絵の描き方教えてもらおっかな」
「お?いいよ。でも専攻、確か音楽じゃなかったっけ?」
「だって俺、絵ぇ下手なんだもん。あ、歌もうまくはないけどお」
えへへと恥ずかしそうに笑う時田。
無防備な笑顔に思わずドキッとする。
「・・・・今度、絵のモデル、やってくんない?」
「え?モデル?」
きょとんと首を傾げる時田に、俺ははっとする。
思わず口から出てしまった言葉。
「あ、いや・・・・ちょうど、次何描こうか悩んでたから・・・・・暇な時にさ、美術室遊びに来てよ」
「暇な時でいいんだ?」
「うん、いつでもいい」
「ふふ、じゃあ今度お菓子持って遊びに行くね」
楽しそうに笑う時田に、ちょっとほっとする。
純ちゃんが、すごく落ち込んでた。
きっと、時田は純ちゃんにとってすごく大事な存在なんだ。
その時田が、悲しそうにしているのを放っておくことなんて・・・・
・・・・・・そうじゃ、ねぇな。
ただ俺は、時田を描いてみたくなったんだ。
くるくるとその表情を変える時田を―――
「こんなとこにいたの」
ふと気付くと、屋上の入口にミヤが立っていた。
「ミヤ、どうかした?」
「どうかした、じゃないでしょ。なんであなたが一緒にいるんですか。―――時田、授業は?」
ミヤの言葉に、時田の体がピクリと震える。
「・・・・雪村先生が、心配してる。戻ろう」
そう言ってミヤが優しく時田の肩を叩く。
時田は、素直に頷くとミヤと一緒に歩き出した。
屋上から出るところで、ふと俺を振り返る。
「せんせー、ありがとう」
「ん、授業がんばって」
その言葉に少しだけ笑い、2人の姿は見えなくなった。
俺はそっと息を吐きだし、空を見上げた。
「・・・・やばいなぁ・・・・あいつ、かわいいじゃん」
何とも言えない、甘い気持ち。
そしてちょっとだけ、胸が痛かった。
時田は・・・・・純ちゃんが好きなんだよな・・・・・
「・・・・何してたの?沢渡先生と」
「ちょっと話してただけ。俺が先に屋上でサボってたの。沢渡先生はついさっき来て俺の話を聞いてくれてただけだよ」
「話って?」
「・・・・いろいろ」
「・・・・時田」
俺は足を止め、後ろを歩いていた時田を振り返った。
時田が、びくりと体を震わせる。
「雪村先生のこと・・・・あれは、雪村先生が悪いんじゃないんだよ」
「・・・・なんのこと?俺、別に―――」
「雪村先生は、お前のことを考えて―――」
「そんなこと!」
突然、時田の声が大きくなった。
自分でそのことに驚いたのか、時田は口を抑える。
「・・・・結局、雪村先生も・・・・同じなんだよ」
「え?」
「・・・・みんな、同じだよ、先生なんて・・・・!」
そう言って、時田は駆けだした。
「時田!?」
俺は慌てて追いかけようとしたけれど―――
「宮内先生?どうかしました?」
「あ・・・・・」
後ろから声をかけてきたのは、ベテランの女性教師だった。
また前を向いた時には、もう時田の姿はなかった・・・・・
昼飯を食べた後、自分の授業がなかったため職員室にいたのだが、どうにも眠くて仕方なくて、眠気を覚まそうと屋上に来た。
が、そこには先客が。
「あ・・・・沢渡せんせー」
いたずらが見つかった子供みたいに眉を下げ、悲しそうな顔をする時田蒼汰。
そんな顔されたら、怒れない。
「どした?眠くなっちゃったか?」
「それ、せんせーでしょ?」
「んふふ、わかっちゃった?」
「・・・・怒らないの?」
「・・・・まぁ、気分が乗らない時もあるよな」
時田が、きゅっと唇を噛みしめる。
大きな瞳が潤み、今にも涙が零れそうだった。
かわいい。
こりゃあ、純ちゃんもやられちゃうよな。
「・・・・数学の授業なんだよ」
「ああ・・・・そっか」
事情は、純ちゃんから聞いていた。
かと言って、俺に出来ることなんて―――
「俺じゃあ、数学教えてやれないしなぁ」
「・・・・ふふ。じゃあ、沢渡せんせーには絵の描き方教えてもらおっかな」
「お?いいよ。でも専攻、確か音楽じゃなかったっけ?」
「だって俺、絵ぇ下手なんだもん。あ、歌もうまくはないけどお」
えへへと恥ずかしそうに笑う時田。
無防備な笑顔に思わずドキッとする。
「・・・・今度、絵のモデル、やってくんない?」
「え?モデル?」
きょとんと首を傾げる時田に、俺ははっとする。
思わず口から出てしまった言葉。
「あ、いや・・・・ちょうど、次何描こうか悩んでたから・・・・・暇な時にさ、美術室遊びに来てよ」
「暇な時でいいんだ?」
「うん、いつでもいい」
「ふふ、じゃあ今度お菓子持って遊びに行くね」
楽しそうに笑う時田に、ちょっとほっとする。
純ちゃんが、すごく落ち込んでた。
きっと、時田は純ちゃんにとってすごく大事な存在なんだ。
その時田が、悲しそうにしているのを放っておくことなんて・・・・
・・・・・・そうじゃ、ねぇな。
ただ俺は、時田を描いてみたくなったんだ。
くるくるとその表情を変える時田を―――
「こんなとこにいたの」
ふと気付くと、屋上の入口にミヤが立っていた。
「ミヤ、どうかした?」
「どうかした、じゃないでしょ。なんであなたが一緒にいるんですか。―――時田、授業は?」
ミヤの言葉に、時田の体がピクリと震える。
「・・・・雪村先生が、心配してる。戻ろう」
そう言ってミヤが優しく時田の肩を叩く。
時田は、素直に頷くとミヤと一緒に歩き出した。
屋上から出るところで、ふと俺を振り返る。
「せんせー、ありがとう」
「ん、授業がんばって」
その言葉に少しだけ笑い、2人の姿は見えなくなった。
俺はそっと息を吐きだし、空を見上げた。
「・・・・やばいなぁ・・・・あいつ、かわいいじゃん」
何とも言えない、甘い気持ち。
そしてちょっとだけ、胸が痛かった。
時田は・・・・・純ちゃんが好きなんだよな・・・・・
「・・・・何してたの?沢渡先生と」
「ちょっと話してただけ。俺が先に屋上でサボってたの。沢渡先生はついさっき来て俺の話を聞いてくれてただけだよ」
「話って?」
「・・・・いろいろ」
「・・・・時田」
俺は足を止め、後ろを歩いていた時田を振り返った。
時田が、びくりと体を震わせる。
「雪村先生のこと・・・・あれは、雪村先生が悪いんじゃないんだよ」
「・・・・なんのこと?俺、別に―――」
「雪村先生は、お前のことを考えて―――」
「そんなこと!」
突然、時田の声が大きくなった。
自分でそのことに驚いたのか、時田は口を抑える。
「・・・・結局、雪村先生も・・・・同じなんだよ」
「え?」
「・・・・みんな、同じだよ、先生なんて・・・・!」
そう言って、時田は駆けだした。
「時田!?」
俺は慌てて追いかけようとしたけれど―――
「宮内先生?どうかしました?」
「あ・・・・・」
後ろから声をかけてきたのは、ベテランの女性教師だった。
また前を向いた時には、もう時田の姿はなかった・・・・・
10
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
闇に咲く華
吉良龍美
BL
心を閉ざした律は、ひとりの男に出逢う。それは禁断の『恋』
母親に捨てられ、父親に引き取られた律。
だが、父親には律が生まれる前から別の家庭を持っていた。
孤独の中でただ生きてきた律はある男に出逢う。
熱い抱擁、熱い情欲の瞳。
出逢ってはいきない男に出逢った律は、そうとは知らずに惹かれていき……。
冷えきった心ごと、熱い身体で抱き締めて欲しい。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
それはきっと、気の迷い。
葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ?
主人公→睦実(ムツミ)
王道転入生→珠紀(タマキ)
全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる