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重症

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「蒼ちゃん、雪村先生のこと好きなの?」

俺の言葉に、蒼ちゃんの顔が見る間に赤く染まる。

「何だよ、みぃ、急に」

わかりやす過ぎる。
俺も嘘が下手ってよく言われるけど、蒼ちゃんも同じ。
すぐ顔に出ちゃうんだ。

「先生なんて、やめた方がいいんじゃない?」
「・・・・・何で?」

むうっと口を尖らせ、不満げな蒼ちゃんが上目使いに俺を睨む。
そんな顔したって、かわいいだけで全く怖くないけどね!

「やっぱり好きなんじゃん」
「・・・・何でやめた方がいいの?」
「だって、先生だよ?それに男だし」
「・・・・先生だとダメなの?男だと、ダメなの?」

あ、やばい、泣きそう。
昔から蒼ちゃんの泣き顔には弱いんだよ、俺。

「俺は、言わないよ?そんなこと。でもさ、やっぱり世間一般的には先生との恋愛とか男同士の恋愛は・・・・なんて言うか、タブーっていうか・・・・他の人に知られちゃったら、なんて言われるかわかんないよ?」
「・・・・悪いことなんて、してないよ」
「そりゃそうだよ!蒼ちゃんはなんにも悪くないけどさ!でも先生だって困るんじゃない?生徒と付き合ってるなんて思われたら・・・・・」
「・・・・雪村先生が、困るの・・・・・?」
「かもしれないってこと。今みたいに2人っきりで勉強教えてもらってるのとか見て、変に思うやつだっているかもしれないじゃん」
「・・・・・」

俯き、押し黙ってしまった蒼ちゃん。
蒼ちゃんの考えていることはわかってる。
きっと、あのことを考えてる。
蒼ちゃんにとって、きっと思い出すのはとても辛いこと。
でも、俺だって蒼ちゃんに辛い思いはして欲しくない。
だからこそ―――

「蒼ちゃんには、俺がついてるよ。困ったことがあったら、絶対助けてあげるから」

俺の言葉に、蒼ちゃんはただ黙って、こくんと頷いたのだった・・・・・。





「先生、勉強教えて」

いつものように、放課後になって時田が職員室へやってきた。
が、今日は1人ではなくて・・・・・

「あれ・・・・生田も?」

時田と同じクラスの生田真司だった。
松島とも仲が良くてよく一緒にいるところを見るけれど―――

「うん、真司も、数学教えてほしいって。いい?」
「ああ、もちろん・・・・。じゃ、行こうか」

そう言って歩き出した俺の後ろを、時田と生田が少し遅れておしゃべりしながら歩いてくる。
いつもだったら俺のすぐ隣を歩きながら今日授業でこんなことがあったとかあんなことがあったとかニコニコしながら話してくれるのに・・・・
今日は、俺の方を見ようともしない。
なんか・・・・・
なんか、やな感じなんだけど・・・・・


もやもやとした気持ちのまま視聴覚室につき、俺は2人に数学を教えることに。
時田と違って生田は中学で習う公式などは知っていたけれど、もともとあまり得意ではないのか、応用問題になるとわからなくなってしまうようだった。

「だからさ、この場合はこの公式を使えば―――」
「え~、全然わかんない!蒼汰、わかる?」
「え、うん・・・・これ、こないだ授業で先生が教えてくれたやつじゃん。ちゃんと聞いてろよ」
「だって授業聞いてると眠くなっちゃって・・・」
「寝るなよ!」

2人が楽しそうに声を上げて笑う。

「・・・お前ら、楽しそうだな」
「だって、蒼汰といると楽しいもん。先生、知ってた?蒼汰ってすげえもてるの」
「へえ・・・・・」
「バカ、やめろよ」
「だってほんとじゃん。昨日だってげた箱にラブレター入っててさ!」
「真司!」

時田が困ったように生田を睨みつける。
そしてちらりと俺を見て、恥ずかしそうに目を伏せた。

ふーん・・・・もてるのか。そうか・・・・
なんか、へこんだぞ。
いや、もてたって不思議じゃないだろ。
でもここ男子校なのに、ラブレターって・・・・

「俺、トイレ行ってくる」

唐突に生田が席を立ち、部屋を出て行った。
時田はドリルの問題を解いていた。
そんな時田を見つめながら・・・・

「・・・返事、したの?」
「え?」

時田が顔を上げる。
大きな瞳が、俺を見て瞬く。

「ラブレター、もらったんだろ?」
「ああ・・・・してない。ちゃんとした方がいいかなって思ったんだけど、みぃに相談したら全部捨てられた」
「松島に?へえ、やるな」
「俺、恨まれないかなあ」
「大丈夫だろ。もし何か言われたりしたら、相談に来いよ」

フルボッコ―――にはしないけど、厳重に注意してやろう。

「相談・・・してもいい?」
「え・・・・そりゃ、いいに決まってるだろ?」

時田の目が心なしか潤み、俺を上目使いに見つめる瞳が、熱を帯びているようで・・・・
急にどくどくと心臓が早鐘を打ち出した。

「・・・先生、俺ね・・・・」

そう、時田が口を開いた時だった。

「なぁ、外雨降ってきてるんだけど!本降りになる前にもう帰ろうぜ!蒼汰!」

生田が入って来てそう言いながら机の上にあった筆記用具をバッグに片付け始めた。
時田は一瞬不満そうに口を尖らせたものの、すぐに肩をすくめ自分も片付け始めたのだった・・・・。



「何を言おうとしたのかなあ」
「何が?」

思わず心の声が口から出てしまった。
ここは教師たちの寮のミヤの部屋で、俺とミヤ、それから浩司くんはよくミヤの部屋で3人で飲んでいた。
今も飲みながら他愛のない会話をしていたのだが・・・・
ふと時田のことを思い出し、声が出てしまったのだ。
テレビゲームをしていたミヤが、俺の声にいち早く反応する。
浩司くんは机の上に頬杖をつきうとうとしていた。

「いや・・・・別に」
「時田のこと?」
「・・・・何でもないって」
「あれは、かわいいね。もてるでしょ」
「え・・・・お前もそう思う?」
「そりゃね。男だって可愛いもんはかわいい。特に男子校なんてさ、女っ気ないからああいう子は人気出るよね。かわいくて、華奢で、守りたくなるタイプ?」
「・・・・そう?」
「そんな話してる生徒がいたよ、今日。時田だったら、抱けるって」



バンッ!!



気付けば、俺は机を思い切り叩いていた。

「んん?なに?どした?」

浩司くんが寝ぼけ眼を開く。

「あ・・・ごめん」
「・・・・純さん、重症だね」
「悪い・・・・」
「俺はいいけど・・・・このままだと、純さんも時田も、辛いことになるんじゃない?」
「・・・・・・」
「何?ん?純くんどした?」
「・・・・何でもないよ、浩司くん。そろそろ部屋に戻ろうか」
「んぁ?もう11時か。んじゃそうすっか」

俺はふらふらと立ち上がる浩司くんの腕を引き、軽く手を振るミヤを残して部屋を後にしたのだった・・・・。



このままだと、辛い目に・・・・・


俺は、いい。
でも、時田は・・・・・・
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