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第16話
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岩本さんは、以前関わった事件で妹さんを殺されている。
その時に皐月くんとも話し、なんとなくではあるけれど、皐月くんの特殊な能力にも気付いているようだった。
「これから向かうのは、天宮くんが半年間身を寄せていた養護施設だったな」
「はい。昨日、戸田くんの店で会った男もそこにいたということなので、とりあえずはそこに聞きこみに行ってみようかと。皐月くんは、彼は犯人じゃないと言ってましたけど・・・・」
「まあ、他にこれといった手掛かりもないしな。―――天宮くんの生い立ちなんかについては、もう調べてあるんだろう?」
俺はバックミラー越しにちらりと樫本さんを見て、また前に視線を戻した。
「―――ええ。皐月くんは千葉で生まれ、両親と3人家族でした。中学2年生の時に両親が事故で亡くなり、養護施設で半年過ごしたあとは横浜の親せきの家に引き取られ、高校卒業までそこで過ごしています。高校卒業後は大学には進まずにすぐに親せきの家を出て働きながら東京で1人暮らしをしています。最初は保険会社の事務員を半年ほど。そこを辞めてからはいろいろなアルバイトを転々としています。どれも長くて半年、短いところでは1週間でやめていて・・・・今の探偵事務所が一番長いですね」
「まあ、その辺の話は聞いてるよ。彼も苦労してるんだよな・・・・。で、その日に会うと言っていた『世話になった人』というのには、2人とも心当たりはないんだな?」
「僕は、全くないです。今の探偵事務所で働くまでは、本当にいろんなところを転々としていたみたいで、『世話になった』って言えるほど関わった人はいなかったんじゃないかって印象でしたね」
「なるほど・・・・。樫本は?」
「僕も・・・わからないです。あまり、昔のことは話さないし・・・・」
樫本さんは、ちょっと悔しそうに顔を顰めた。
昨日までに皐月くんのことでわかったこと。
中学から高校卒業まで身を寄せていたという親戚の家。
皐月くんはその親戚とはあまりうまくいっていなかったようだった。
その夫婦に子どもはなく、2人共働きでほとんど家にいなかったために3人の間にあまり会話はなく、皐月くんは心を開くことはなかったと、その妻の方が言っていた。
悪さをして困らせるようなことはなかった代わりに、打ち解けて笑顔を見せることもなかったと。
いつも部屋で1人ゲームをしているか、本を読んでいるか。
皐月くんのプライベートについても知っていることは何もないと。
どんな友達がいたかも、全く知らないということだった。
それを俺から聞いた樫本さんは、無言で唇を噛んでいた。
両親を事故で亡くし養護施設で半年を過ごし、その後留守がちな親せき宅で5年間を過ごした皐月くん。
皐月くんにとって、その5年間はどんなものだったんだろう。
家に帰っても誰とも話すことなく部屋に閉じこもっていた彼にとって・・・・
『なんだか、薄気味悪くって』
そう親せきの女性は言った。
『いつも人を見透かすような目でわたしたちを見て―――わたしたちのことをぴたりと言い当てて・・・・普通じゃなかったわ。わたしたちは親せきと言ったって遠縁だし子どもがいないからってあんな子を押しつけられて・・・・本当に迷惑だったんです。高校を卒業して出て行ってくれた時には、本当にほっとしたんですよ』
胸が悪くなるような話に、俺は電話を切ってからもしばらくもやもやと気分が悪かった。
そんな話を聞いた後だからだろうか。
俺たちは、その後どこか暗い気持ちのまま、千葉の養護施設へと向かったのだった・・・・・。
その時に皐月くんとも話し、なんとなくではあるけれど、皐月くんの特殊な能力にも気付いているようだった。
「これから向かうのは、天宮くんが半年間身を寄せていた養護施設だったな」
「はい。昨日、戸田くんの店で会った男もそこにいたということなので、とりあえずはそこに聞きこみに行ってみようかと。皐月くんは、彼は犯人じゃないと言ってましたけど・・・・」
「まあ、他にこれといった手掛かりもないしな。―――天宮くんの生い立ちなんかについては、もう調べてあるんだろう?」
俺はバックミラー越しにちらりと樫本さんを見て、また前に視線を戻した。
「―――ええ。皐月くんは千葉で生まれ、両親と3人家族でした。中学2年生の時に両親が事故で亡くなり、養護施設で半年過ごしたあとは横浜の親せきの家に引き取られ、高校卒業までそこで過ごしています。高校卒業後は大学には進まずにすぐに親せきの家を出て働きながら東京で1人暮らしをしています。最初は保険会社の事務員を半年ほど。そこを辞めてからはいろいろなアルバイトを転々としています。どれも長くて半年、短いところでは1週間でやめていて・・・・今の探偵事務所が一番長いですね」
「まあ、その辺の話は聞いてるよ。彼も苦労してるんだよな・・・・。で、その日に会うと言っていた『世話になった人』というのには、2人とも心当たりはないんだな?」
「僕は、全くないです。今の探偵事務所で働くまでは、本当にいろんなところを転々としていたみたいで、『世話になった』って言えるほど関わった人はいなかったんじゃないかって印象でしたね」
「なるほど・・・・。樫本は?」
「僕も・・・わからないです。あまり、昔のことは話さないし・・・・」
樫本さんは、ちょっと悔しそうに顔を顰めた。
昨日までに皐月くんのことでわかったこと。
中学から高校卒業まで身を寄せていたという親戚の家。
皐月くんはその親戚とはあまりうまくいっていなかったようだった。
その夫婦に子どもはなく、2人共働きでほとんど家にいなかったために3人の間にあまり会話はなく、皐月くんは心を開くことはなかったと、その妻の方が言っていた。
悪さをして困らせるようなことはなかった代わりに、打ち解けて笑顔を見せることもなかったと。
いつも部屋で1人ゲームをしているか、本を読んでいるか。
皐月くんのプライベートについても知っていることは何もないと。
どんな友達がいたかも、全く知らないということだった。
それを俺から聞いた樫本さんは、無言で唇を噛んでいた。
両親を事故で亡くし養護施設で半年を過ごし、その後留守がちな親せき宅で5年間を過ごした皐月くん。
皐月くんにとって、その5年間はどんなものだったんだろう。
家に帰っても誰とも話すことなく部屋に閉じこもっていた彼にとって・・・・
『なんだか、薄気味悪くって』
そう親せきの女性は言った。
『いつも人を見透かすような目でわたしたちを見て―――わたしたちのことをぴたりと言い当てて・・・・普通じゃなかったわ。わたしたちは親せきと言ったって遠縁だし子どもがいないからってあんな子を押しつけられて・・・・本当に迷惑だったんです。高校を卒業して出て行ってくれた時には、本当にほっとしたんですよ』
胸が悪くなるような話に、俺は電話を切ってからもしばらくもやもやと気分が悪かった。
そんな話を聞いた後だからだろうか。
俺たちは、その後どこか暗い気持ちのまま、千葉の養護施設へと向かったのだった・・・・・。
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