上 下
16 / 43

第16話

しおりを挟む
岩本さんは、以前関わった事件で妹さんを殺されている。

その時に皐月くんとも話し、なんとなくではあるけれど、皐月くんの特殊な能力にも気付いているようだった。

「これから向かうのは、天宮くんが半年間身を寄せていた養護施設だったな」
「はい。昨日、戸田くんの店で会った男もそこにいたということなので、とりあえずはそこに聞きこみに行ってみようかと。皐月くんは、彼は犯人じゃないと言ってましたけど・・・・」
「まあ、他にこれといった手掛かりもないしな。―――天宮くんの生い立ちなんかについては、もう調べてあるんだろう?」

俺はバックミラー越しにちらりと樫本さんを見て、また前に視線を戻した。

「―――ええ。皐月くんは千葉で生まれ、両親と3人家族でした。中学2年生の時に両親が事故で亡くなり、養護施設で半年過ごしたあとは横浜の親せきの家に引き取られ、高校卒業までそこで過ごしています。高校卒業後は大学には進まずにすぐに親せきの家を出て働きながら東京で1人暮らしをしています。最初は保険会社の事務員を半年ほど。そこを辞めてからはいろいろなアルバイトを転々としています。どれも長くて半年、短いところでは1週間でやめていて・・・・今の探偵事務所が一番長いですね」
「まあ、その辺の話は聞いてるよ。彼も苦労してるんだよな・・・・。で、その日に会うと言っていた『世話になった人』というのには、2人とも心当たりはないんだな?」
「僕は、全くないです。今の探偵事務所で働くまでは、本当にいろんなところを転々としていたみたいで、『世話になった』って言えるほど関わった人はいなかったんじゃないかって印象でしたね」
「なるほど・・・・。樫本は?」
「僕も・・・わからないです。あまり、昔のことは話さないし・・・・」

樫本さんは、ちょっと悔しそうに顔を顰めた。

昨日までに皐月くんのことでわかったこと。

中学から高校卒業まで身を寄せていたという親戚の家。
皐月くんはその親戚とはあまりうまくいっていなかったようだった。
その夫婦に子どもはなく、2人共働きでほとんど家にいなかったために3人の間にあまり会話はなく、皐月くんは心を開くことはなかったと、その妻の方が言っていた。
悪さをして困らせるようなことはなかった代わりに、打ち解けて笑顔を見せることもなかったと。
いつも部屋で1人ゲームをしているか、本を読んでいるか。
皐月くんのプライベートについても知っていることは何もないと。
どんな友達がいたかも、全く知らないということだった。

それを俺から聞いた樫本さんは、無言で唇を噛んでいた。

両親を事故で亡くし養護施設で半年を過ごし、その後留守がちな親せき宅で5年間を過ごした皐月くん。
皐月くんにとって、その5年間はどんなものだったんだろう。
家に帰っても誰とも話すことなく部屋に閉じこもっていた彼にとって・・・・

『なんだか、薄気味悪くって』

そう親せきの女性は言った。

『いつも人を見透かすような目でわたしたちを見て―――わたしたちのことをぴたりと言い当てて・・・・普通じゃなかったわ。わたしたちは親せきと言ったって遠縁だし子どもがいないからってあんな子を押しつけられて・・・・本当に迷惑だったんです。高校を卒業して出て行ってくれた時には、本当にほっとしたんですよ』

胸が悪くなるような話に、俺は電話を切ってからもしばらくもやもやと気分が悪かった。



そんな話を聞いた後だからだろうか。

俺たちは、その後どこか暗い気持ちのまま、千葉の養護施設へと向かったのだった・・・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

僕が愛しているのは義弟

朝陽七彩
BL
誰にも内緒の秘密の愛 *** 成瀬隼翔(なるせ はやと) *** *** 成瀬 葵(なるせ あおい) ***

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

幼馴染みの二人

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
三人兄弟の末っ子・三春は、小さい頃から幼馴染みでもある二番目の兄の親友に恋をしていた。ある日、片思いのその人が美容師として地元に戻って来たと兄から聞かされた三春。しかもその人に髪を切ってもらうことになって……。幼馴染みたちの日常と恋の物語。※他サイトにも掲載 [兄の親友×末っ子 / BL]

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

処理中です...