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第12話

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「・・・・あの人のこと、聞かないの?」

シャワーを浴びて寝室に戻ると、皐月は目を覚ましていた。

「ん?」
「今野さん・・・・裕太くんの店で会った人」
「ああ・・・・昔の、知りあいなんでしょ?」
「うん・・・・。俺が、中学生の時に両親が亡くなったって話は、したよね?」
「うん」
「その時、半年くらいだけど・・・・俺の行き先が決まるまで、養護施設に入ってたことがあるんだ。あの人は、そこにいたんだ。俺の2歳年上で・・・・母親は彼が小さいころに死んで、父親は彼が小学生だった時に彼を置いて蒸発したって聞いた。俺がそこに入った頃、彼は問題児で・・・・小さい子にも暴力をふるうことがあったから、みんなに怖がられてた」

その頃のことを思い出したのか、皐月は辛そうに目を閉じた。

俺は、皐月の髪をそっと撫でた。

「俺も、彼は苦手だった。中学は違う学校だったけど、俺のいた中学まで彼の悪評は届いてて・・・・学校のガラスを割ったりされた。彼がやったっていう証拠はなかったけど、夜中に学校の周りをうろついてる姿が見られたりしてた。そのうち何か大きな事件を起こすんじゃないかってみんなが心配してた時・・・・やっぱり事件が起きたんだ」
「どんな?」
「町の商店に、夜中に盗みに入って・・・・そこの店主に見つかって、通報されそうになって焦った彼とその仲間が、その店主を暴行したんだ。全治3ヶ月の重傷で・・・・奴らは少年院送りになった」
「ひでえな・・・」
「そのあと、俺も親せきの家に引き取られることになって、その施設を出て・・・・学校も転校したからその後、彼がどうしたのかは知らなかった。まさか、こんなとこで会うなんてね・・・・」
「・・・・関わらないようにした方がいいな。またあの店に来そうだけど・・・・」
「裕太くんにも、お店の人たちにも、迷惑をかけないようにしたい・・・・」
「俺たちも協力するから。あんまり心配するな。それより・・・・彼は、本当に今回の事件には関係ないのか?」

皐月をホテルに呼び出した人物。

その時皐月は、浩斗くんに『昔お世話になった人』と言ったんだ。

『世話になった』というのとは違うだろうが、なんとなく、このタイミングで再会したことが偶然ということに違和感を感じていた。

「・・・・うん。その日、今野さんは千葉にいた。今あの人は消費者金融の会社で仕事してて、その日は債権者のとりたてに行ってたんだ。あの人は・・・俺がどこにいるかも知らなかった。今回の事件には関係ないよ」
「そっか・・・・」
「そのホテル・・・俺、明日行ってみる」
「え」

皐月の言葉に、俺は思わず手の動きを止めた。

皐月が、ゆっくりとその目を開く。

「思いだそうとしても、その日のことだけは全く思いだせない。浩斗くんと稔の記憶を通してのことしかわからない。でも、もしかしたら事件現場を見れば何か思い出すかもしれないから」
「そうだけど・・・・大丈夫か?まだ、無理しなくても・・・」

顔色の優れない皐月が心配になる。

事件ももちろん早く解決したいけど・・・・。

「平気。浩斗くんにもついて行ってもらうから。稔も、明日から仕事できるね」
「あ、うん」
「俺のせいで、休ませちゃってごめんね」
「別にいいよ。久しぶりに3日も休めて、かえってよかったくらい」
「んふふ。体力余ってるもんね」

おかしそうに笑って俺を見上げる皐月に、俺も思い当たることがあり思わず目をそらす。

「・・・稔、ずっとついててくれてありがとう」

皐月の手が、俺の手をそっと握る。

俺は皐月の手を握り返し、その手にキスを落とした。

「・・・・明日、俺も行こうか?ホテル」

だけど、皐月は首を振った。

「大丈夫だよ。危ないことはないだろうし・・・・稔、3日も休んだんだからちゃんと仕事しないと」

皐月は一度言い出したらなかなか意見を曲げない。
俺は仕方なく頷いた。
まだ犯人が捕まっていない分、心配もあったけれど―――
浩斗くんがついててくれるなら、大丈夫だろう。


もう夜も遅くなってしまったけれど、夕食を食べていなかった俺たちは結局宅配ピザを頼み、久しぶりに2人食卓で食事をしたのだった。

皐月と向かい合ってるだけで嬉しくて、笑顔になれた。

皐月の顔色も、徐々に明るくなってきた。

このまま何もないことを祈って・・・・・




だけどその時、皐月を狙うやつは確実に、その暗い瞳で俺たちの隙を狙っていたんだ・・・・・。

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