苦くて甘い

まつも☆きらら

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第9話

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「・・・吉野さんて、いつもあんな感じ?」

俺は吉野さんが消えてったバスルームに視線を向け、呟いた。

「ん?寛太?んふふ、そうだね。昔からあんな感じだよ。全然変わんない」

そう言って笑う舜は楽しそうで、嬉しそうで・・・・・

胸が、ぎゅっと締め付けられるみたいに痛む。

「舜くんは・・・・吉野さんと、その・・・・・」
「え?」
「・・・・そういう関係って・・・・言ってたでしょ?あれは・・・・」

どういう意味?

ちゃんと聞きたいのに、聞きたくない。

声が、自分の声じゃないみたいに小さく震えていた。

俺って、こんなに情けないやつだったっけ?

「・・・寛太は、俺を救ってくれた人なんだ」
「救ってくれた・・・・?」
「そう。俺を・・・地獄から救ってくれたんだ」
「え・・・・」

―――地獄・・・?

「ゆう・・・。俺、ゆうが好きだよ」
「!」

突然の嬉しい言葉に、俺はびっくりしすぎてすぐに反応できなかった。

「だから、ゆうと一緒にいたい。ゆうのうちに帰りたい・・・・けど」
「・・・けど?」

舜は、俺のことをじっと見つめ、しばらく黙っていたけれど―――

急に、ニコッと笑うとソファーから立ち上がった。

「ゆう、お腹空かない?なんかルームサービス頼もうよ!寛太がいいって言ってたし」
「え・・・・あ、いや、俺は・・・」
「あ、俺デザート頼もう!これうまそう!バニラ風味のクリームブリュレ!ね、ゆうは何がいい?」
「あー・・・俺は、なんでも・・・」

てか、クリームブリュレ?って何?
なんか・・・・
やっぱり舜て・・・・・


―――可愛い


「―――お、これから頼むの?じゃあ俺、カレーライスが食いてぇな」

吉野さんがバスタオルで頭を拭きながらバスルームから出てきた。

「寛太はカレーね、ゆうは~?」
「俺は、なんでも・・・」
「え~、じゃあこれ!いちご大福にしよ!」
「い・・・・あ、うん、いいよ・・・」

ホテルにイチゴ大福なんてあるのか・・・。

「―――そう、いちご大福・・・と、シャンパンも」

電話でルームサービスを頼んでいる舜を横目で見つめていると、吉野さんがにやにやしながら俺の向かい側のソファーに座った。

「―――何すか」
「んにゃ。ゆうって、頭いいんだって?」
「・・・別に」
「舜が言ってた。東大に行ってるって、まるで自分のことみたいに自慢すんだもん。ちょっと俺、妬いたからね」
「え・・・」
「久しぶりに会ったのにさ、ずーっとゆうがどうしたこうしたって―――」
「寛太!余計なこと言うなよ!」

電話を終えた舜が真っ赤な顔で言う。

「ほんとのことじゃん。さっきだって、いきなり部屋に入ってきたと思ったらぽろぽろ涙流してさ、『ゆうに嫌われちゃったからもう帰れない』って―――」
「うわあぁ!!もう!!言うなってぇ!!」
「うははっ、舜、やめろ!重い!」

舜が吉野さんの上に飛び乗り、髪をぐちゃぐちゃにしたり体をくすぐったりしている。

―――猫がじゃれあってるみたいだ。

でも・・・・
舜が、俺のことを吉野さんにそんな風に話していたということが、なんだか嬉しかった。
『寛太は、俺を救ってくれた人なんだ』
その言葉の意味はまだ分からないけど―――

吉野さんの目は、どこまでも暖かく舜を包み込むようで。
舜の目は、純粋に吉野さんを信頼しきっていて。
兄弟のような、親子のような、不思議な絆があるように思えてきた。

ちなみにこの部屋はこのホテルの最上級スウィートで、広いリビングの奥にキングサイズのダブルベッドがあり、さらに10畳ほどの部屋にダブルベッドとバスルームまでついていた。

「中国の資産家が俺の写真を偉く気に入ってくれて、その人の依頼で写真を撮ってたんだ。この部屋は、そのお礼にって。好きなだけ泊まっていいって言われてるけど、次の仕事が決まったから今週いっぱいしかいられねえんだ」

と吉野さんが言った。

「もう遅いし2人とも今日はここに泊まってけば?俺は向こうの部屋で寝るから、ここは好きに使っていいよ」
「え」

吉野さんの言葉に、思わず固まる。

―――泊まるって・・・・同じ部屋、しかもダブルベッドで・・・?

「あ、そうだね」

しれっとそう言う舜にさらに驚く。

「え、舜くん?」
「ゆう、風邪気味って言ってたじゃん。熱はないっぽいけど顔色あんまりよくないし、ここでゆっくり休めばいいよ」

そう言われて、そういえば具合が悪くて仕事を早退したんだと思いだす。

「それに・・・・帰る前に、話しておきたいことがあるし」

―――話しておきたいこと・・・?



その後、ルームサービスが到着し、カレーライス、クリームブリュレ、いちご大福というてんでばらばらなものを食べ、シャンパンまで飲み干した後、吉野さんは腰を上げた。

「ごちそーさん。じゃ、俺もう寝るわ。―――舜」

吉野さんの声に舜が顔を上げると、吉野さんはその舜の頭をやさしくぽんぽんと撫でた。

「・・・・また、明日な」
「ありがと、寛太」

そのやり取りが、なんだか何かを含んでいるように感じた。
吉野さんは本当に不思議な人で、舜の気持ちも、舜がこれから何を話そうとしているのかも、わかっているようだった・・・・。



それから俺たちは交互にお風呂に入り、2人でホテルのバスローブを身にまとい、ソファーに並んで座った。

冷蔵庫にあったミネラルウォーターを口に含みながら、舜はゆっくり口を開いた。

「―――ゆうに、俺のことを知っておいてほしい」
「うん・・・?」
「でも・・・・全部知ったら、ゆうは俺のことを嫌いになるかもしれない」
「そんなこと―――」

そんなこと、あるわけない。
でも、舜の声は真剣だった。

「俺が、どんな風に生きてきたのか・・・・それを今から話す。全部・・・。最後まで、聞いてほしい。それで、その後に、聞かせて。本当に、俺と一緒にいてくれるか・・・・」

舜の大きな瞳が、俺をまっすぐに見つめていた。

俺は黙ってうなずいた。

これから語られるのが、どんなことなのか。

俺はまるで想像することができなかった・・・・・。





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