4 / 14
第4話
しおりを挟む
「ゆう、もうご飯食べた?」
「あ・・・・うん、今」
舜の言葉に、俺は手に食器を持ったままだったことにに気付く。
「そっか。あのね、ビール買ってきたから飲もうよ。直くん、上がって。俺、何かつまみ作るから」
「は~い、お邪魔しま~す!」
ニコニコしながらパタパタと上がってくる城田。
俺は彼を案内するようにまたリビングへと戻った。
舜は、そのままキッチンへと入っていった・・・・。
「なんか、すいませんね。急にきちゃって」
テーブルをはさみ、向かい側のソファーに座った城田が遠慮気味にそう言った。
茶髪でひょろりとしたその風貌は軟派な感じにも見えるけれど、背筋は伸びていて目の輝き方は舜と共通している気がした。
「―――舜くんの、幼馴染だって」
「うん。家が近かったから、小学校からずっと一緒で。大学を卒業してからはしばらく会ってなかったけど・・・」
「舜くんは、おとなしい子だったって聞いたけど」
「そうだねえ。人見知りするタイプで・・・あ、俺もそうなんだけど、舜ちゃんは繊細なんだよね。でも、一度仲良くなるといっぱい話してくれるようになるから、人気者だったよ。女の子にももててたし」
「やっぱり、もててたんだ、舜くん」
「もてるよぉ!今もかっこいいけど、昔はちっちゃくて可愛くて・・・俺なんて、初めて会った舜ちゃんを女の子だと思ったからね!それくらい可愛かった!」
「へえ・・・・城田くんも、好きだったとか?」
「え・・・・」
途端、ぎくりとする城田。
わかりやす・・・・
「いや、俺は、そんな・・・・ねえ?」
なにが「ねえ」、なんだか。
「おまたせぇ、まずは簡単にできるものだけね」
舜が、トレイにおつまみの乗った皿を3つほど載せて持って来てくれた。
「あ、ありがと!舜ちゃんも一緒に飲もうよ!」
「うん、今作ってるのが出来上がったらね。そんなに時間かかんないよ。10分くらいでできるから、待ってて」
そう言って、また舜が行ってしまうと城田が小さく息をついた。
「・・・舜ちゃんが、お兄さんと暮らすことになったって聞いた時、ちょっと心配だったんだよねえ。大丈夫かなって・・・・。でも、今日舜ちゃんの顔見たらほっとした」
「え・・・・」
「だって、すげえいい顔してるんだもん。きっと、お兄さんていい人なんだと思ってさ、だから、会ってみたくなったの」
「会ってみて、どうでした?」
「うん、なんか安心した」
「安心・・・?」
「優しそうな人だからさ。きっと裕貴さんなら、舜ちゃんを傷つけないだろうなって思って」
そう言って城田は笑ったけれど―――
俺は、彼の言葉が引っ掛かった。
俺なら傷つけないって、どういう意味だ・・・・?
「できたよ~。直くんの好きな唐揚げと~、ゆうの好きなハンバーグ!あっためるだけの手抜きだけどね!」
舜がまたトレイにたくさんの料理を乗せ、テーブルに並べて今度は自分も床に座った。
「あ、さっきコンビニで買ったやつだ!その唐揚げ、うまいんだよね~!」
「ね。あ、このハンバーグもうまいんだよ、ゆう、食べてみて」
「あ、うん。いただきます」
「あ、俺もそれ食べたい!」
城田が俺の目の前におかれた皿に手を伸ばそうとして、舜にパチンとたたかれる。
「ゆうが先!直くんは唐揚げ食べてよ!」
「だってこの唐揚げ食ったことあるもん!ハンバーグ食いたい!」
「だーめ!ゆうのために買ってきたんだから、ゆうが先に食べるの!」
「ずるい!贔屓だ!」
「いや、あの、一緒に食べれば?」
思わず口を挟むと、城田と舜が同時に俺を見る。
「さすが舜ちゃんのお兄ちゃん!」
「ゆう、優しい!」
「はは・・・ありがと」
ちょっとわかってきた。
舜は、城田といるとより無邪気になる。
2人の会話は、まるで兄弟みたいだ。
俺が知らない舜の22年間を知っている城田。
歳は舜と一緒だけど、城田の方が年上に見えるのが不思議だった。
見た目は舜の方が大人っぽいししっかりしてそうに見えるのに、その会話は舜が城田に甘え、城田が舜を見守っているような感じだった。
―――心配することも、なかったか・・・・。
城田の目は優しく舜を見つめていて、もしかして、本当に舜のことが好きなのかとも思ったけど―――
だけど彼の瞳にあるのは慈愛に似た暖かさ。
どこまでも、優しい眼差しだった。
いろいろ話しているうちに、城田の人懐こい性格もあって俺も砕けて話せるようになるのに時間はかからなかった。
「城田くん、不動産屋に勤めてるんだっけ?仕事、ちゃんとしてるの?」
「してるよ!超きついんだよ~、舜ちゃん聞いてよ~、いやな先輩がいてさ~」
「はいはい」
「ちょっと、あんまり舜くんにくっつくなよ!」
「なんでさ!久しぶりに会ったんだからいいじゃん!舜ちゃん、この人に変なことされてない?」
「なんだよ変なことって!」
「だって、お兄さんちょっと変態っぽいじゃん!」
「変態じゃねえわ!」
「ふはは、なんか2人の掛け合い面白い!漫才みたい!」
「舜くん、笑ってないでなんか言ってやってよ!俺変態じゃないんだからさ!」
「え~、でもなんかわかる~。ゆうってちょっと変わってるもんね」
「え~~~、舜くん!」
「うひゃひゃひゃ」
「そういえば、こないだ新宿行った時、吉野さんに会ったよ」
城田がそう言って舜の方を見ると―――
「あれ・・・・舜ちゃん、寝ちゃった?」
舜は、ソファーにもたれて目を瞑っていた。
「みたいだね。いいよ、このままにしといてあげよう。あとで部屋に連れて行くから。それより、吉野さんて?」
初めて聞く名前だ。
「カメラマンなんだけど、前に舜ちゃんが雑誌のモデルをしてた頃仲良くなったんだ。ファッション関係だけじゃなくていろんな写真撮る人でさ、妙に舜ちゃんと気があって・・・・・一時期は舜ちゃんが吉野さんちに入り浸ってたりもしたんだ」
「へえ・・・・そんなに仲いいんだ。聞いたことなかったけど・・・・」
「1年前くらいに、突然修業に行くとか言って海外行っちゃって、それ以来会ってなかったんじゃない?帰国したのは先週だって言ってた。旅先で携帯が壊れちゃって、舜ちゃんの連絡先わかんなくなったから言っといてくれって頼まれたんだよね」
「携帯壊れたってことは、番号も変わったの?」
「いや、それは変わってないって。データは全部飛んじゃったけど、アドレスも変えてないって言ってたよ」
「じゃあ、伝えとくよ」
そう言って俺は、テーブルの上の皿を片づけ始めた。
「え、何それ、帰れってこと?」
「え、まだいるの?舜くん寝ちゃったのに」
「うわ、冷たい!舜ちゃんには超優しかったのに!」
「うるさいよ。かわいい弟のために気ぃ使ってたんでしょ!もう帰んなさいよ」
「いいじゃん!俺明日休みだし、なんだったら舜ちゃんと一緒の部屋で寝かせてもらって―――」
「絶対だめです」
「即答かよ!」
「あたりまえでしょ!」
ぎゃあぎゃあやり合いながらも、城田は結局舜を部屋まで運ぶのを手伝ってくれたあとに帰ることになった。
「また遊びに来るね!今度は舜ちゃんの手料理食べに来るから!」
「あ、お断りします」
「おいっ」
なんか、本当に漫才みたいになってきたな。
「じゃ、おじゃましました~。おやすみなさ~い」
「はいはい・・・あ、ちょっと待って」
「え?」
俺は、玄関の扉に手を掛けた城田に声を掛けた。
ふと、聞きたくなったことがあったのだ。
「舜くんて、もててたんでしょ?」
「ああ、うん。あのルックスだし、優しいしね」
「彼女とか、いなかったの?」
「へ?ああ・・・・」
城田は、ちょっと目を見開いた後、なぜかうろたえたように俺から目をそらせた。
「舜ちゃんて、シャイだからさ・・・・そういうの、恥ずかしがるんだよ」
「いなかったの?全然?」
「うん。―――じゃ、また遊びに来るから、舜ちゃんにも言っといて!」
「あ、ちょ―――」
あれだけ帰るのを渋っていたのに、あっという間に出て行ってしまった。
―――ほんと、わかりやすいな・・・・。
でも、なんでだろう?
彼女がいなかったっていうことに、何か特別な理由があるんだろうか・・・・。
俺に知られたくない、何かが・・・・・
「ごめん、俺先に寝ちゃってたんだね。片付けとか、やってくれたんだ」
翌朝、朝食を作ってくれた舜が申し訳なさそうに言った。
「別に、大したことじゃないよ、気にしないで」
「ゆう、仕事で疲れてたのに・・・・。ほんとごめんね。直くん、何時ごろ帰ったの?」
「11時くらいかな。片付けるのも、ちょっと手伝ってもらったよ。―――あ、そういえば、伝言頼まれてた」
「伝言?」
「うん、ええと・・・・吉野さんて人が、連絡とりたがってるって」
「え!ほんと!?寛太、帰ってきてるの!?」
突然舜が目を輝かせ、声を弾ませた。
「あー、吉野寛太っていうの?その人と、なんか新宿で会ったって言ってた。携帯が壊れちゃって、データが消えちゃったんだって」
「そうなんだ!そっか、よかった。全然連絡とれないから、心配してたんだ。ありがと、さっそく連絡してみるよ」
「・・・仲いいんだってね」
「うん。もう、今年30かな?年離れてるけど、なんか気があって。今度、ゆうにも紹介するね」
「ああ・・・・うん、そうだね。城田くんも、また遊びに来るって言ってたよ」
「ほんと?ふふ、ゆうが直くんと仲良くなってよかった」
「仲良く・・・・なったのかな?あれ」
「すごく、仲よさそうだったよ?」
楽しそうに笑う舜。
まぁ、舜が楽しいならそれでいいけど・・・・。
結局、どうして彼女ができなかったのかを舜には聞けなかった。
あの時の舜の態度とか、昨日の城田の態度を思い返してみても、きっとそこには触れられたくないんだろうなと思ったから。
別に、無理に聞くこともないし・・・・。
だけどなぜか、あの時の舜の態度がとても気になったのだ。
その話題に触れた瞬間、舜の周りの空気が一変した。
触れたら舜を傷つけてしまいそうな、そんな空気だった。
だから、俺はもうその話題に触れるのはやめようと思った。
舜を傷つけるようなことは、したくなかった。
『きっと裕貴さんなら、舜ちゃんを傷つけないだろうなと思って』
城田の言葉を思い出す。
舜は、今までに誰かに傷つけられたことがあるってことだろうか・・・・・。
「ゆうは、ここに友達連れてきたりしないの?」
「え、俺は・・・そこまで仲いい友達っていないし、自分以外の人間でここに入ったことがあるのは母親くらいかな」
「そうなの?友達、いないの?」
「いないってわけじゃ・・・・ああ、そういえばこないだ大学で久しぶりに高校の時の先輩に会って、舜くんの話したんだ」
「へえ。先輩?」
「うん。会ってみたいって言ってたから、今度機会があったら連れてくるよ。頭のいい人で、医者なんだ」
「お医者さん?へえ、さすが!ゆうも頭いいもんね」
「別に、俺は―――」
「だって東大でしょ?俺には絶対無理だもん。自慢の兄貴だよ」
ニコニコと嬉しそうに笑う舜を見て、俺も嬉しくなる。
なんだかくすぐったい気持ちだけど・・・・
そのうち、慶さんを呼んでみよう。
そう思って、俺は研究室へと向かったのだった・・・・・。
「あ・・・・うん、今」
舜の言葉に、俺は手に食器を持ったままだったことにに気付く。
「そっか。あのね、ビール買ってきたから飲もうよ。直くん、上がって。俺、何かつまみ作るから」
「は~い、お邪魔しま~す!」
ニコニコしながらパタパタと上がってくる城田。
俺は彼を案内するようにまたリビングへと戻った。
舜は、そのままキッチンへと入っていった・・・・。
「なんか、すいませんね。急にきちゃって」
テーブルをはさみ、向かい側のソファーに座った城田が遠慮気味にそう言った。
茶髪でひょろりとしたその風貌は軟派な感じにも見えるけれど、背筋は伸びていて目の輝き方は舜と共通している気がした。
「―――舜くんの、幼馴染だって」
「うん。家が近かったから、小学校からずっと一緒で。大学を卒業してからはしばらく会ってなかったけど・・・」
「舜くんは、おとなしい子だったって聞いたけど」
「そうだねえ。人見知りするタイプで・・・あ、俺もそうなんだけど、舜ちゃんは繊細なんだよね。でも、一度仲良くなるといっぱい話してくれるようになるから、人気者だったよ。女の子にももててたし」
「やっぱり、もててたんだ、舜くん」
「もてるよぉ!今もかっこいいけど、昔はちっちゃくて可愛くて・・・俺なんて、初めて会った舜ちゃんを女の子だと思ったからね!それくらい可愛かった!」
「へえ・・・・城田くんも、好きだったとか?」
「え・・・・」
途端、ぎくりとする城田。
わかりやす・・・・
「いや、俺は、そんな・・・・ねえ?」
なにが「ねえ」、なんだか。
「おまたせぇ、まずは簡単にできるものだけね」
舜が、トレイにおつまみの乗った皿を3つほど載せて持って来てくれた。
「あ、ありがと!舜ちゃんも一緒に飲もうよ!」
「うん、今作ってるのが出来上がったらね。そんなに時間かかんないよ。10分くらいでできるから、待ってて」
そう言って、また舜が行ってしまうと城田が小さく息をついた。
「・・・舜ちゃんが、お兄さんと暮らすことになったって聞いた時、ちょっと心配だったんだよねえ。大丈夫かなって・・・・。でも、今日舜ちゃんの顔見たらほっとした」
「え・・・・」
「だって、すげえいい顔してるんだもん。きっと、お兄さんていい人なんだと思ってさ、だから、会ってみたくなったの」
「会ってみて、どうでした?」
「うん、なんか安心した」
「安心・・・?」
「優しそうな人だからさ。きっと裕貴さんなら、舜ちゃんを傷つけないだろうなって思って」
そう言って城田は笑ったけれど―――
俺は、彼の言葉が引っ掛かった。
俺なら傷つけないって、どういう意味だ・・・・?
「できたよ~。直くんの好きな唐揚げと~、ゆうの好きなハンバーグ!あっためるだけの手抜きだけどね!」
舜がまたトレイにたくさんの料理を乗せ、テーブルに並べて今度は自分も床に座った。
「あ、さっきコンビニで買ったやつだ!その唐揚げ、うまいんだよね~!」
「ね。あ、このハンバーグもうまいんだよ、ゆう、食べてみて」
「あ、うん。いただきます」
「あ、俺もそれ食べたい!」
城田が俺の目の前におかれた皿に手を伸ばそうとして、舜にパチンとたたかれる。
「ゆうが先!直くんは唐揚げ食べてよ!」
「だってこの唐揚げ食ったことあるもん!ハンバーグ食いたい!」
「だーめ!ゆうのために買ってきたんだから、ゆうが先に食べるの!」
「ずるい!贔屓だ!」
「いや、あの、一緒に食べれば?」
思わず口を挟むと、城田と舜が同時に俺を見る。
「さすが舜ちゃんのお兄ちゃん!」
「ゆう、優しい!」
「はは・・・ありがと」
ちょっとわかってきた。
舜は、城田といるとより無邪気になる。
2人の会話は、まるで兄弟みたいだ。
俺が知らない舜の22年間を知っている城田。
歳は舜と一緒だけど、城田の方が年上に見えるのが不思議だった。
見た目は舜の方が大人っぽいししっかりしてそうに見えるのに、その会話は舜が城田に甘え、城田が舜を見守っているような感じだった。
―――心配することも、なかったか・・・・。
城田の目は優しく舜を見つめていて、もしかして、本当に舜のことが好きなのかとも思ったけど―――
だけど彼の瞳にあるのは慈愛に似た暖かさ。
どこまでも、優しい眼差しだった。
いろいろ話しているうちに、城田の人懐こい性格もあって俺も砕けて話せるようになるのに時間はかからなかった。
「城田くん、不動産屋に勤めてるんだっけ?仕事、ちゃんとしてるの?」
「してるよ!超きついんだよ~、舜ちゃん聞いてよ~、いやな先輩がいてさ~」
「はいはい」
「ちょっと、あんまり舜くんにくっつくなよ!」
「なんでさ!久しぶりに会ったんだからいいじゃん!舜ちゃん、この人に変なことされてない?」
「なんだよ変なことって!」
「だって、お兄さんちょっと変態っぽいじゃん!」
「変態じゃねえわ!」
「ふはは、なんか2人の掛け合い面白い!漫才みたい!」
「舜くん、笑ってないでなんか言ってやってよ!俺変態じゃないんだからさ!」
「え~、でもなんかわかる~。ゆうってちょっと変わってるもんね」
「え~~~、舜くん!」
「うひゃひゃひゃ」
「そういえば、こないだ新宿行った時、吉野さんに会ったよ」
城田がそう言って舜の方を見ると―――
「あれ・・・・舜ちゃん、寝ちゃった?」
舜は、ソファーにもたれて目を瞑っていた。
「みたいだね。いいよ、このままにしといてあげよう。あとで部屋に連れて行くから。それより、吉野さんて?」
初めて聞く名前だ。
「カメラマンなんだけど、前に舜ちゃんが雑誌のモデルをしてた頃仲良くなったんだ。ファッション関係だけじゃなくていろんな写真撮る人でさ、妙に舜ちゃんと気があって・・・・・一時期は舜ちゃんが吉野さんちに入り浸ってたりもしたんだ」
「へえ・・・・そんなに仲いいんだ。聞いたことなかったけど・・・・」
「1年前くらいに、突然修業に行くとか言って海外行っちゃって、それ以来会ってなかったんじゃない?帰国したのは先週だって言ってた。旅先で携帯が壊れちゃって、舜ちゃんの連絡先わかんなくなったから言っといてくれって頼まれたんだよね」
「携帯壊れたってことは、番号も変わったの?」
「いや、それは変わってないって。データは全部飛んじゃったけど、アドレスも変えてないって言ってたよ」
「じゃあ、伝えとくよ」
そう言って俺は、テーブルの上の皿を片づけ始めた。
「え、何それ、帰れってこと?」
「え、まだいるの?舜くん寝ちゃったのに」
「うわ、冷たい!舜ちゃんには超優しかったのに!」
「うるさいよ。かわいい弟のために気ぃ使ってたんでしょ!もう帰んなさいよ」
「いいじゃん!俺明日休みだし、なんだったら舜ちゃんと一緒の部屋で寝かせてもらって―――」
「絶対だめです」
「即答かよ!」
「あたりまえでしょ!」
ぎゃあぎゃあやり合いながらも、城田は結局舜を部屋まで運ぶのを手伝ってくれたあとに帰ることになった。
「また遊びに来るね!今度は舜ちゃんの手料理食べに来るから!」
「あ、お断りします」
「おいっ」
なんか、本当に漫才みたいになってきたな。
「じゃ、おじゃましました~。おやすみなさ~い」
「はいはい・・・あ、ちょっと待って」
「え?」
俺は、玄関の扉に手を掛けた城田に声を掛けた。
ふと、聞きたくなったことがあったのだ。
「舜くんて、もててたんでしょ?」
「ああ、うん。あのルックスだし、優しいしね」
「彼女とか、いなかったの?」
「へ?ああ・・・・」
城田は、ちょっと目を見開いた後、なぜかうろたえたように俺から目をそらせた。
「舜ちゃんて、シャイだからさ・・・・そういうの、恥ずかしがるんだよ」
「いなかったの?全然?」
「うん。―――じゃ、また遊びに来るから、舜ちゃんにも言っといて!」
「あ、ちょ―――」
あれだけ帰るのを渋っていたのに、あっという間に出て行ってしまった。
―――ほんと、わかりやすいな・・・・。
でも、なんでだろう?
彼女がいなかったっていうことに、何か特別な理由があるんだろうか・・・・。
俺に知られたくない、何かが・・・・・
「ごめん、俺先に寝ちゃってたんだね。片付けとか、やってくれたんだ」
翌朝、朝食を作ってくれた舜が申し訳なさそうに言った。
「別に、大したことじゃないよ、気にしないで」
「ゆう、仕事で疲れてたのに・・・・。ほんとごめんね。直くん、何時ごろ帰ったの?」
「11時くらいかな。片付けるのも、ちょっと手伝ってもらったよ。―――あ、そういえば、伝言頼まれてた」
「伝言?」
「うん、ええと・・・・吉野さんて人が、連絡とりたがってるって」
「え!ほんと!?寛太、帰ってきてるの!?」
突然舜が目を輝かせ、声を弾ませた。
「あー、吉野寛太っていうの?その人と、なんか新宿で会ったって言ってた。携帯が壊れちゃって、データが消えちゃったんだって」
「そうなんだ!そっか、よかった。全然連絡とれないから、心配してたんだ。ありがと、さっそく連絡してみるよ」
「・・・仲いいんだってね」
「うん。もう、今年30かな?年離れてるけど、なんか気があって。今度、ゆうにも紹介するね」
「ああ・・・・うん、そうだね。城田くんも、また遊びに来るって言ってたよ」
「ほんと?ふふ、ゆうが直くんと仲良くなってよかった」
「仲良く・・・・なったのかな?あれ」
「すごく、仲よさそうだったよ?」
楽しそうに笑う舜。
まぁ、舜が楽しいならそれでいいけど・・・・。
結局、どうして彼女ができなかったのかを舜には聞けなかった。
あの時の舜の態度とか、昨日の城田の態度を思い返してみても、きっとそこには触れられたくないんだろうなと思ったから。
別に、無理に聞くこともないし・・・・。
だけどなぜか、あの時の舜の態度がとても気になったのだ。
その話題に触れた瞬間、舜の周りの空気が一変した。
触れたら舜を傷つけてしまいそうな、そんな空気だった。
だから、俺はもうその話題に触れるのはやめようと思った。
舜を傷つけるようなことは、したくなかった。
『きっと裕貴さんなら、舜ちゃんを傷つけないだろうなと思って』
城田の言葉を思い出す。
舜は、今までに誰かに傷つけられたことがあるってことだろうか・・・・・。
「ゆうは、ここに友達連れてきたりしないの?」
「え、俺は・・・そこまで仲いい友達っていないし、自分以外の人間でここに入ったことがあるのは母親くらいかな」
「そうなの?友達、いないの?」
「いないってわけじゃ・・・・ああ、そういえばこないだ大学で久しぶりに高校の時の先輩に会って、舜くんの話したんだ」
「へえ。先輩?」
「うん。会ってみたいって言ってたから、今度機会があったら連れてくるよ。頭のいい人で、医者なんだ」
「お医者さん?へえ、さすが!ゆうも頭いいもんね」
「別に、俺は―――」
「だって東大でしょ?俺には絶対無理だもん。自慢の兄貴だよ」
ニコニコと嬉しそうに笑う舜を見て、俺も嬉しくなる。
なんだかくすぐったい気持ちだけど・・・・
そのうち、慶さんを呼んでみよう。
そう思って、俺は研究室へと向かったのだった・・・・・。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
ある日、人気俳優の弟になりました。2
ユヅノキ ユキ
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
弟は僕の名前を知らないらしい。
いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。
父にも、母にも、弟にさえも。
そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。
シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。
BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる