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悪魔の試験
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サクと光輝くんの背中に突然現れた大きな黒い羽。
あっけにとられ、何も言えずに口を開けたまま2人の見る俺に。
「光輝くんの羽は、ここで一番きれいで大きいんだ。ケイのもその次に綺麗。俺のは、まだまだだけど」
そう言いながら、朱里が立ち上がると―――
ふぁさ、という軽やかな音とともに朱里の背中にもきれいな黒い羽が現れた。
確かに光輝くんやサクの羽と比べるとちょっと小ぶりではあったけれど、ちょっとグレーがかったその羽根は、ふわふわとした産毛のようなものが混ざりとても綺麗だった。
「じゃあ・・・・3人は本当に・・・・」
悪魔・・・・?
「進級試験っていうのは・・・・」
「一人前の悪魔になるには、それぞれが苦手分野を克服するための試験に合格しなくちゃいけないんだ。その試験に合格して初めて一人前の悪魔って認められて、黒い羽がもらえるんだ」
朱里がそう言って自分の羽をふぁさふぁさと揺らした。
「それまでは、コウモリみたいな形の小さな羽しか生えてないの。俺は試験に合格したばっかりで、この羽根ももらったばっかりだからまだ光輝くんのみたいにきれいじゃないけどね」
「その・・・・試験って、どういう内容なの?朱里が俺のところに来たことに、関係あるの?」
俺の言葉に、朱里はちょっと困ったような顔をして首を傾げた。
「あるよ。大あり。これ聞いたら、史弥は俺のこと嫌いになるかもしれない。でも・・・・正直に話すから、聞いてほしい。そんで・・・・全部聞いて、俺のこと嫌いになっちゃったら・・・・ちゃんと俺に言って。俺、ちゃんと受け止めるから」
朱里の目が潤んでいた。
今にも涙が零れ落ちそうなその目に、俺の胸がまた大きな音を立て始めた。
「―――朱里。お前は部屋で待ってろ」
光輝くんがそう言うと、朱里は光輝くんの方を見てまた頬を膨らませた。
「なんで?俺、史弥のそばにいたい」
「いいから、話が終わるまで部屋で待ってろ。俺が垣田さんに話をするから」
言い方は穏やかだったけれど、光輝くんの目は有無を言わせないような迫力に満ちていた。
「・・・・わかった。でも、俺に黙って史弥を帰らせたりしないでね?」
「わかったから、今度こそ俺が呼ぶまで来るなよ?」
と、今度はサクを睨みつけながら言う。
サクは肩をすくめ、頷いた。
「わかってますよ。朱里くん、行こう」
サクと一緒に朱里が部屋から出て行くと、光輝くんは大きなため息をつき、また椅子に座った。
その瞬間、背中の羽がまたシュルっという音とともに消えてしまった。
「・・・・ずっと羽根出してるわけじゃないんだね」
「そりゃ、あんなのずっとつけてたら重いし邪魔だし。実用的じゃねえんだよ」
そういう問題?
なんだかここに来るまですごく緊張していたような気がするのに、一気に気が抜けてしまった感じだ。
そもそも、久しぶりに会ったっていうのに朱里にも全く緊張感てものがなかったし。
「それで・・・進級試験っていうの?それに朱里が合格したって言ってたけど」
「そう。あいつも言ってたけど、それぞれの苦手分野が課題になってる。朱里の場合は、『優しさ』だな」
「優しさ?」
「甘さ、ともいうかな。あいつは誰に対しても優しすぎるんだ。悪魔にとって、甘さは欠点でしかない」
「そんな・・・・」
朱里の優しさが、欠点?
そんなこと―――
「だから、朱里に与えられた課題は『誰かを傷つけること』だった」
「え・・・・」
「普通は、その試験はここ、悪魔界の中で行われる。朱里の場合ももちろんそうだったんだ。でも、あいつは誰も傷つけることができなかった。逆に、同じ課題を課せられたやつに傷つけられたんだ」
「傷つけられた・・・・?」
「友達だと思ってたやつに・・・・羽根をむしり取られた」
「むしり・・・・取られた?」
「悪魔の羽は、羽の状態がその悪魔のレベルを現してる。その艶と形、大きさによってどの程度のレベルの悪魔かわかるんだ。朱里は、頭がいいしこの俺の弟として育ってきたからな。この界隈じゃダントツに綺麗な羽を持ってたんだ。だが、その羽をむしり取られたんだ。寝てる間にね」
「そんな・・・・」
「この世界の学校で朱里と仲よくしてたやつだ。そいつが朱里を自分の家に呼んで睡眠薬入りの飲み物を飲ませ、寝てる間に朱里の背中から無理やり羽をむしり取った。羽はまたすぐに生えてくるけれど、同じ大きさのものは生えてこない。生まれたての時にもともと生えていたような、小さな羽が生えてくるんだ。また同じくらい大きな羽になるにはすごく時間がかかる。朱里は信じてた友達に裏切られ、さらに羽をなくしたことで傷つけられたんだ」
「ひでえ・・・・」
「でも、この世界じゃ珍しいことじゃないんだよ。みんな自分が試験に合格するために何でもする。朱里にはそういうハングリー精神的なものもない。だからなかなか試験に合格することができなかったんだ」
淡々と話す光輝くん。
俺はなんだか、聞いているだけで気分が悪くなってきた。
「ねえ、その試験に合格できないと・・・・どうなるの?」
「・・・・20歳までに合格できなければ、悪魔界から追放される」
「追放?その後はどうなるの?」
「さあ。悪魔界以外ならどこへでも行ける。ただし、悪魔の姿は変えられないからどこへ行っても隠れて生きることになる。人間界でも悪魔に会ったとかいう話があるだろ?」
「確かに・・・・」
「朱里は、もう少しで20歳になる。それまでに合格しなければいけなかったんだ。ただ、朱里の場合は俺の弟っていうことで・・・・あ、一応俺はこの世界では力のある方だからその家族も特別待遇なんだよ」
「へ、へえ」
「それで、試験の判定をしてる審査委員会から言われたんだよ。人間界へ行ってもいいって。人間なら悪魔と違って扱いやすいだろうって」
「何か、感じわる」
「悪魔だから」
そういうこと?
さっきから聞いてると、すげえ適当なんだよな・・・・。
「で、そこで指名されたのがあんたと志賀くんだったわけ」
「な・・・・るほど・・・・?」
いや、なんで俺?
てか、志賀ちゃんも?
いや、それよりも―――
こんな話、信じていいのか?俺・・・・
あっけにとられ、何も言えずに口を開けたまま2人の見る俺に。
「光輝くんの羽は、ここで一番きれいで大きいんだ。ケイのもその次に綺麗。俺のは、まだまだだけど」
そう言いながら、朱里が立ち上がると―――
ふぁさ、という軽やかな音とともに朱里の背中にもきれいな黒い羽が現れた。
確かに光輝くんやサクの羽と比べるとちょっと小ぶりではあったけれど、ちょっとグレーがかったその羽根は、ふわふわとした産毛のようなものが混ざりとても綺麗だった。
「じゃあ・・・・3人は本当に・・・・」
悪魔・・・・?
「進級試験っていうのは・・・・」
「一人前の悪魔になるには、それぞれが苦手分野を克服するための試験に合格しなくちゃいけないんだ。その試験に合格して初めて一人前の悪魔って認められて、黒い羽がもらえるんだ」
朱里がそう言って自分の羽をふぁさふぁさと揺らした。
「それまでは、コウモリみたいな形の小さな羽しか生えてないの。俺は試験に合格したばっかりで、この羽根ももらったばっかりだからまだ光輝くんのみたいにきれいじゃないけどね」
「その・・・・試験って、どういう内容なの?朱里が俺のところに来たことに、関係あるの?」
俺の言葉に、朱里はちょっと困ったような顔をして首を傾げた。
「あるよ。大あり。これ聞いたら、史弥は俺のこと嫌いになるかもしれない。でも・・・・正直に話すから、聞いてほしい。そんで・・・・全部聞いて、俺のこと嫌いになっちゃったら・・・・ちゃんと俺に言って。俺、ちゃんと受け止めるから」
朱里の目が潤んでいた。
今にも涙が零れ落ちそうなその目に、俺の胸がまた大きな音を立て始めた。
「―――朱里。お前は部屋で待ってろ」
光輝くんがそう言うと、朱里は光輝くんの方を見てまた頬を膨らませた。
「なんで?俺、史弥のそばにいたい」
「いいから、話が終わるまで部屋で待ってろ。俺が垣田さんに話をするから」
言い方は穏やかだったけれど、光輝くんの目は有無を言わせないような迫力に満ちていた。
「・・・・わかった。でも、俺に黙って史弥を帰らせたりしないでね?」
「わかったから、今度こそ俺が呼ぶまで来るなよ?」
と、今度はサクを睨みつけながら言う。
サクは肩をすくめ、頷いた。
「わかってますよ。朱里くん、行こう」
サクと一緒に朱里が部屋から出て行くと、光輝くんは大きなため息をつき、また椅子に座った。
その瞬間、背中の羽がまたシュルっという音とともに消えてしまった。
「・・・・ずっと羽根出してるわけじゃないんだね」
「そりゃ、あんなのずっとつけてたら重いし邪魔だし。実用的じゃねえんだよ」
そういう問題?
なんだかここに来るまですごく緊張していたような気がするのに、一気に気が抜けてしまった感じだ。
そもそも、久しぶりに会ったっていうのに朱里にも全く緊張感てものがなかったし。
「それで・・・進級試験っていうの?それに朱里が合格したって言ってたけど」
「そう。あいつも言ってたけど、それぞれの苦手分野が課題になってる。朱里の場合は、『優しさ』だな」
「優しさ?」
「甘さ、ともいうかな。あいつは誰に対しても優しすぎるんだ。悪魔にとって、甘さは欠点でしかない」
「そんな・・・・」
朱里の優しさが、欠点?
そんなこと―――
「だから、朱里に与えられた課題は『誰かを傷つけること』だった」
「え・・・・」
「普通は、その試験はここ、悪魔界の中で行われる。朱里の場合ももちろんそうだったんだ。でも、あいつは誰も傷つけることができなかった。逆に、同じ課題を課せられたやつに傷つけられたんだ」
「傷つけられた・・・・?」
「友達だと思ってたやつに・・・・羽根をむしり取られた」
「むしり・・・・取られた?」
「悪魔の羽は、羽の状態がその悪魔のレベルを現してる。その艶と形、大きさによってどの程度のレベルの悪魔かわかるんだ。朱里は、頭がいいしこの俺の弟として育ってきたからな。この界隈じゃダントツに綺麗な羽を持ってたんだ。だが、その羽をむしり取られたんだ。寝てる間にね」
「そんな・・・・」
「この世界の学校で朱里と仲よくしてたやつだ。そいつが朱里を自分の家に呼んで睡眠薬入りの飲み物を飲ませ、寝てる間に朱里の背中から無理やり羽をむしり取った。羽はまたすぐに生えてくるけれど、同じ大きさのものは生えてこない。生まれたての時にもともと生えていたような、小さな羽が生えてくるんだ。また同じくらい大きな羽になるにはすごく時間がかかる。朱里は信じてた友達に裏切られ、さらに羽をなくしたことで傷つけられたんだ」
「ひでえ・・・・」
「でも、この世界じゃ珍しいことじゃないんだよ。みんな自分が試験に合格するために何でもする。朱里にはそういうハングリー精神的なものもない。だからなかなか試験に合格することができなかったんだ」
淡々と話す光輝くん。
俺はなんだか、聞いているだけで気分が悪くなってきた。
「ねえ、その試験に合格できないと・・・・どうなるの?」
「・・・・20歳までに合格できなければ、悪魔界から追放される」
「追放?その後はどうなるの?」
「さあ。悪魔界以外ならどこへでも行ける。ただし、悪魔の姿は変えられないからどこへ行っても隠れて生きることになる。人間界でも悪魔に会ったとかいう話があるだろ?」
「確かに・・・・」
「朱里は、もう少しで20歳になる。それまでに合格しなければいけなかったんだ。ただ、朱里の場合は俺の弟っていうことで・・・・あ、一応俺はこの世界では力のある方だからその家族も特別待遇なんだよ」
「へ、へえ」
「それで、試験の判定をしてる審査委員会から言われたんだよ。人間界へ行ってもいいって。人間なら悪魔と違って扱いやすいだろうって」
「何か、感じわる」
「悪魔だから」
そういうこと?
さっきから聞いてると、すげえ適当なんだよな・・・・。
「で、そこで指名されたのがあんたと志賀くんだったわけ」
「な・・・・るほど・・・・?」
いや、なんで俺?
てか、志賀ちゃんも?
いや、それよりも―――
こんな話、信じていいのか?俺・・・・
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