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アシスタント

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「ファン・・・・だっていうのはわかったけど・・・・」

志賀ちゃんがまた口を開くと、朱里がそれを遮るように口を開いた。

「アシスタント、いらない?」
「・・・・は?」
「あのね、ケイってすごい器用なんだよ。ゲームとか得意だし、たぶん2人の役に立つと思うんだ」

その言葉に、当の作間がぎょっとして朱里を見、俺たちは再び顔を見合わせた。

「俺ら、アシスタントなんていらないよ?」
「そうそう、そんな大層なもんじゃないし、基本1人でやるのが好きだから。特にふみちゃんなんて、仕事してる姿人に見られんのも嫌がるし」
「でも、誠は手伝いがいたらいいなって思ってたでしょ?」
「え・・・・」
「雑誌のインタビューで言ってたじゃん。最近仕事が忙しくって大好きな野球をする暇もないって。だから、アシスタントさんがいたらなって」
「言ってた・・・・けど、でも」
「俺、料理作れるよ?2人のために、料理作ってあげる」
「あ、それは嬉しいかも」
「ふみちゃん!」
「だってさ、志賀ちゃんが作ってくれるのはチャーハンと餃子ばっかりだし」
「ふみちゃんだってカレーばっかりじゃん!」
「だから、俺が作ってあげる」

にっこりと、魅惑の微笑み。

「で、ここに住まわせてよ」
「「はぁ?」」
「ダメ?」
「ダメだよ!てか、それは無理だよ!もともとここ、シェアハウス用に出来てないからそんなに広くないし、部屋だってない。2人でぎりぎりなのに、あと2人一緒になんて絶対無理だよ」
「誠、ケチ」
「ケチってゆーな!」
「掃除もするし、洗濯もできるよ?お買い物も行ってあげる」
「家政婦かよ」
「史弥も、仕事以外のことで手を煩わされるのは嫌だって言ってたでしょ?俺みたいな家政婦、欲しくない?」
「え・・・・」

その瞬間、朱里がふりふりのエプロンを着けて微笑んでいる図が頭に思い浮かんでしまった。

―――かわいい・・・・かも

「ちょっと・・・・朱里くん」

作間が、朱里の腕をツンツンとつつく。

「ん?なに?ケイ」
「ちょっと・・・・」

そう言って作間は朱里の腕を掴み、席を立つと玄関の方へと引っ張って行ってしまった・・・・。




「・・・・あの2人のこと、調べたの?」
「うん。下調べは必要でしょ?」

ふわりと微笑む朱里くんに、俺は確信する。

「・・・・知ってたの?今回の試験・・・・落ちたらどうなるか」
「うん。こおきくんが・・・・地獄へ落とされるって」

地獄へ落とされるということ。
それは、一生閻魔大王の下僕となり働かされるということだ。
悪魔は死なない。
だから、地獄に落とされれば永遠に下僕として働かなくてはいけないということだ。
手足に枷を着けられ、自由を許されない世界。
地獄の業火の元、鞭を打たれながら永遠に働き続ける。
それは本来、悪魔として生きられないもの、悪魔界の落伍者に課せられるものだ。
それがどうして、立派な悪魔である光輝さんに課せられるか。
それは・・・・

「俺のせいで、こおきくんが地獄に落とされるなんて・・・・そんなの嫌だ」
「朱里くん・・・・でも、朱里くんに出来るの?人を不幸にするなんて」
「できるよ。絶対、やってみせる。だから、ケイも協力して」
「・・・・わかった。朱里くんのためなら、俺、何でもするから」
「―――ありがとう、ケイ。大好きだよ」

そう言って、朱里くんが俺の額にチュッとキスをする。
その笑顔は光り輝く、まさに天使。
悪魔なのに天使の笑顔なんて、おかしいと思うだろうか。
でも実際、朱里くんは天使のように優しいんだ。
かわいい朱里くん。
大好きな朱里くん。
俺は、朱里くんのためなら・・・・・



「え~~~、やっぱり駄目なの?」

朱里が思い切り頬を膨らませる。
それを見て志賀ちゃんも困ったように頭をかくけれど

「だって、やっぱり無理だもん。ここに2人が住みこむなんて!それにお給料だって、ふみちゃんはともかく俺そんな高給取りじゃないし!」
「お給料なんて、いらないのに」
「え・・・・」
「ま、いいや。じゃ、この近くのマンションに住もうよ、ケイ」
「近く・・・・じゃ、隣にする?確か一部屋空いてると思うよ」

作間が、こともなげに言う。

「え!隣って、確かすごい高級マンションじゃなかったっけ?なんか、高級ホテル並みのセキュリティだとかって・・・去年建ったばっかりで住んでるのもセレブばっかりって聞いたよ」
「そうなの?志賀ちゃん、詳しいね」
「だって大騒ぎだったじゃん。うちのマンションは5階建てでこじんまりしてるからさ、隣に15階建ての、あんな豪華なマンション建っちゃったら影になっちゃうって」
「そうだっけ」
「もう、ふみちゃん、本当に世間に疎いんだから!」

そんなこと言われたって。
同じマンションの中だって、隣に誰が住んでるのかなんて知らないし興味もないのに。
隣のマンションのことなんて知るはずもない。
と、俺たちの会話を聞いていた朱里がくすくすと笑いだした。

「ふふ、史弥って、面白い。俺が料理だ掃除だってこの家でやってても、『あれ、いたの?』なんて言ってそうだね」
「確かに、ふみちゃんなら言いそう。てか、本当にあのマンション?2人とも、そんなに金持ちなの?」

作間が、ちらりと朱里を見る。

「・・・まあね。とりあえず、明日にでもまたここへ来ますよ。住み込みはダメでも、アシスタントになるのはいいってことでしょう?志賀さんは」
「え・・・・まぁ、いてくれたら助かるけど・・・・」
「なら、俺がそれをやりますよ。朱里くんは、家事をやる。それでいい?」
「うん」

朱里は頷くと、俺を見てにっこりと笑った。
綺麗な、絵画のような微笑。
だけど、今朝寝顔を見た時の様にドキドキすることはなかった。
どうしてかな・・・・



「朱里くん、あの指輪は?」

朝食を食べ終わり、作間が席を立ちながらそう言った。

「あ・・・・どこだろう?史弥の部屋かな。取ってくる」

そう言って朱里が俺の部屋へ向かったので、俺もついて行くことに。

部屋に入り、ベッドのまくら元を探す朱里。

「あれぇ?俺、どこ置いたんだろ?」

成り行き上、俺もきょろきょろと部屋を見渡し―――
ふと、朱里の足もとに銀色に光るものを見つけた。

「その、足元の・・・・」
「え?―――あ、あった!」

嬉しそうに指輪を拾い上げ、左手の中指にはめる朱里。
満足そうに指輪を見つめるその笑顔に、ドキッとする。

「・・・大事なもの?」
「うん。こおきくんにもらったの」
「こおきくん?」
「ん。俺の兄さん」
「ああ・・・・過保護なお兄さん?」
「んふふ。すごく優しいんだよ。かっこよくて頭もいいし」
「へぇ」

ニコニコと、本当に嬉しそうだ。
さっき、俺に向けられた絵画のような微笑とはまるっきり違う・・・・。

「・・・よっぽど、好きなんだね、お兄さんのこと」
「え」

朱里が、きょとんと俺を見つめる。

「あ・・・・いや、すげえ嬉しそうだから」
「・・・・うん。こおきくんが、大好きだよ、俺」
「そうなんだ・・・・・。いいね、兄弟仲良くて」
「・・・・・・史弥」
「え?」

ふいに、朱里が俺に一歩近づいた。

なんだろう。

そう思った瞬間。

ちゅっ

唇が、触れた・・・・・・。
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