上 下
37 / 39

第37話

しおりを挟む
関が店内に入り、従業員用の出入り口に向かう。

俺は店の裏に回り、裏口の扉へと手を伸ばしたが―――

突然扉が外側に開き、中から男が飛び出してきた。

茶色く痛んだ髪に、不健康そうな青白い顔。

山本だ。

山本は俺の顔を見るとぎょっとして、一瞬止まりかけたけれど―――

「くっ」

そのまま俺を突き飛ばすように走りだした。

「おい!待て!!」

油断していたつもりはなかったけれど、山本が思いのほか焦っていて、受け身を取るのが遅れてしまった。

突き飛ばされたはずみでよろけてしまい、追いかけるのが遅れる。

―――逃げられる!!

そう思ったけれど―――

「うわっ」

店の角を曲がったと思った山本が、大きな声を出したかと思うとどさっと何かが倒れる音。

俺は急いでその後を追って角を曲がる。

そこにいたのは前のめりに地面に倒れ込んだ山本と、それを腕を組んで見下ろす皐月だった。

「皐月!」

「足、ちょっと出したら勝手に引っかかって転んでくれたよ」

そう言って、皐月はにっこりと笑ったのだった・・・・・。



「俺は、何もしてない!店の裏で仕事してたって言ってんだろ!」

探偵事務所へ連れて来られた山本が、落ち着きなく視線を彷徨わせながらそう声を張り上げた。

「だから、そのことなら彼女が証言してくれたよ。あんたに頼まれて、店にいたことにしてくれって言われたんだって」

関の言葉に山本は青くなりながらも、関を睨みつけながらふん、と鼻を鳴らした。

「あいつ、俺に振られたからってそんなこと言ってんだよ。俺が裏にいなかったなんて、レジにいたあいつにわかるわけないじゃん」

確かに、店内と違って従業員のみが入れる店の事務所には監視カメラはついていないので、そこにいるかどうか、レジの人間には確かめようがないのだけれど・・・・

「運送会社の人間が、来てるんだよ」

俺の言葉に、山本がぎょっとする。

「夜の11時に、運送会社のドライバーが宅配の荷物の集荷にきてる。さっき、電話で確認したよ。事務所でサインをもらおうと思ったら、誰もいなかったんでレジの彼女に頼んだって。ドライバーがレジでサインをもらってるところは、監視カメラでも確認できてる。その時間、どこで何をしていたか説明してもらおうか?」

「それは・・・・!」

「俺が代わりに説明しようか?」

そう言って、山本の目の前に座った皐月が山本の顔を覗きこんだ。

「なんだよ、お前・・・・」

「―――ずっと、久美ちゃんのことをつけまわしてただろ?久美ちゃんに別れたいって言われて、焦ってたんだ。久美ちゃんの優しさにつけ込んで、浮気なんてし放題だと思ってたんだろ?だけどそうじゃなかった。久美ちゃんは、あんたが思っているよりもずっと芯のしっかりした、まじめな女の子だからね。でも別れ話を切り出された時―――ほぼ同時期に、久美ちゃんの出生の秘密も知った。久美ちゃんに会いに行ったとき、偶然重松完治が久美ちゃんのマンションの部屋から出てくるのを見て。それで、あんたは久美ちゃんと結婚することを企んだんだ。でもこのままじゃ、久美ちゃんは自分と別れて向井直人と結婚してしまう。それで、あんたはなんとか久美ちゃんと結婚する方法を見つけようと久美ちゃんの周りを嗅ぎまわってた」

皐月の話に、山本の顔は見る見る青くなっていった。

目を見開き、額には脂汗が浮かんでいた。

「なに・・・・・言ってんだよ・・・・」

「向井直人がゲイだってことも嗅ぎつけた。久美ちゃんが向井と結婚する気がないことを知って一度は安心したけど、久美ちゃんにしつこく迫って、久美ちゃんに自分とは別に好きな人がいること―――自分とやり直すつもりはないことを知って―――憎しみが、増したんだろうね。その憎しみが殺意に変わり、今回の計画を思いついたんだ」

「計画?だって、今回久美ちゃんがあのホテルに行ってすぐに飛び出してきたのって、前から決まってた事じゃないだろ?」

自分のデスクに座り、俺たちの会話をずっと聞いていた浩斗くんが口を開いた。

「ううん、途中までは計画通りだったんだよ。久美ちゃんが向井からあのホテルに呼び出すメールをもらったとき、偶然こいつが傍にいたんだよ。それで、そのメールの内容を知って、こう言ったんだ。『向井に言いくるめられないように、好きな人と会う約束をしてるからって言ってすぐに出てこい』って。向井が久美ちゃんの好きな人を知ってることも、それを理解してくれてることも知ってる。だからそう言えば向井は納得することもわかってたし、そうすれば裕太くんに罪を着せることができる―――こいつは、そう思ったんだよ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今日くらい泣けばいい。

亜衣藍
BL
ファッション部からBL編集部に転属された尾上は、因縁の男の担当編集になってしまう!お仕事がテーマのBLです☆('ω')☆

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

ルサルカ・プリンツ~人魚皇子は陸(おか)の王子に恋をする~

るなかふぇ
BL
海底皇国の皇太子・玻璃(はり)は、ある嵐の夜、海に落ちた陸の帝国第三王子・ユーリを救う。いきなりキスされ、それ以上もされそうになって慌てふためくユーリ。玻璃はなんと、伝説と思われていた人魚だった……!?  数日後、人の姿に変貌した玻璃がユーリを訪ねてきて……。 ガチムチ人魚皇子攻め、凡人・人間王子受け。 童話「人魚姫」の姫が屈強ガチムチ人魚皇子だったら……? ってな感じのお話ですが、似ているのは冒頭だけだと思われます。 コメディ部分多めですが、一応シリアスストーリー。お楽しみいただけましたら幸いです。 ※R18シーンには、サブタイトルに(※)、R15残酷シーンには(※※)をつけていきます。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

処理中です...