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第29話
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「―――はい、ココア」
カーディガンを羽織り、ベッドに座って待っていた皐月に、暖かいココアを渡す。
「ありがと」
にっこりと微笑んでカップを受け取る皐月の横に、俺も座る。
ふーふーと、息を吹きかけ少し冷ましながらゆっくりとココアを飲むその姿は、なんだか猫を思わせてかわいい。
思わずにやけていると、皐月が俺を見てむっと顔を顰める。
「笑うなよ」
「ごめん、可愛くて」
「可愛くねーし」
言いながら目をそらす皐月の頬が、微かに赤く染まっていた。
2人の間に、久しぶりに緩やかな時間が流れていた。
いつまでもこの時間を楽しんでいたかったけれど―――
「―――ずっと、あの店の様子をうかがってるやつがいたんだ」
ココアを半分ほど飲み終えたところで、皐月がゆっくりと口を開いた。
「岩本さんの視界に入ってた範囲でしかわからないから、顔はわからない。でも―――視界の端に、そいつのつま先が見えたんだ。いつも同じ靴だった。だからたぶん、同じ人物だったと思う。事件に関係してるかどうかもわからないけど―――」
「―――それを調べようとして、無理したの?」
皐月の特殊な能力は、普段は皐月がそれを使おうと思って発揮されているわけではない。
自然に、その人を見ているとわかってしまうらしいのだ。
その人の詳しい過去を知ろうとする時には多少『もっと知りたい』という気持ちを持っているようだけど、大抵は、自然とわかる範囲は決まっているらしい。
その能力を、今回皐月は事件を解決するためにもっと深いところまで知ろうと気持ちを集中させているらしい。
例の、戸田くんの記憶を探った時と同様だという。
「それで、熱が出たの?力使い過ぎってこと?」
「たぶん・・・・こんなこと、初めてだからわからないけど、風邪ひいてるわけでもないし他に理由考えられないから」
「そっか・・・・あんまり無理するなよ。事件のことは、俺たち警察がちゃんと調べるから」
「うん」
皐月が、俺の方を見て笑う。
俺は皐月の肩を抱き、その熱い体を引き寄せた。
皐月はされるがままに、俺にもたれかかる。
「・・・・・あの・・・・向井直人には・・・・連絡、した・・・?」
思い出しただけでもムカつくけど。
でも聞かないわけにはいかない。
だって、やっぱり皐月があの男と2人きりで会うとか、絶対嫌だった。
「―――してないよ、まだ」
その言い方に、俺の胸がざわつく。
「まだって・・・・連絡するつもり?」
「うん」
「なんで?あのSPのことなら、警察の方で調べれば―――」
思わず皐月の顔を覗きこみ、その肩を掴む手にも力がこもる。
「わかってるよ。でも、もしそのSPが犯人なら、すぐにばれるような証拠は残してないと思うし、もちろん話を聞いたって本当のことは言わないでしょ?何より、向井洋一の圧力がかかることだって考えられる。捜査できるかどうかだって怪しいじゃん」
「それは―――そうだけど―――」
「だから、俺が向井直人に近づいてそのSPが現れるのを待つのが一番早いんだよ」
「だけど!」
「たぶんだけど、そういう直人の交際関係関連の時だけ直人に着くSPなんじゃないかと思うんだ」
「え・・・そうなの?」
「うん・・・・直人の過去を遡ってみるとね、何人かいるSP・・・昼間の担当と夜の担当に別れてるっぽいんだ。昼はやっぱり主に仕事してることが多いし、恋人に会うとしたら夜が多い。それぞれに適したSPを使ってる―――ってことなんじゃないかと思う。だから、あのとき直人についてたSPを探すんだったら、やっぱり夜。それも、そういう機会の時の方が可能性が高いと思うんだ」
「そういう機会って・・・・でも、皐月・・・・」
「大丈夫だよ、稔。俺、そんな簡単に男に落ちたりしないから」
そう言って、皐月がいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「いくらSP探すためだって、そんな、どこにでもついて行くようなことしないよ」
「・・・・皐月が、そう思ってたって・・・・向こうは、口説くつもりでいるだろ?無理やり連れてかれたら―――」
「だって、俺だって男だよ?そんな簡単に連れてかれたりしないよ」
「―――大丈夫?ほんとに?」
まだ心配する俺に、皐月は可笑しそうに笑った。
カーディガンを羽織り、ベッドに座って待っていた皐月に、暖かいココアを渡す。
「ありがと」
にっこりと微笑んでカップを受け取る皐月の横に、俺も座る。
ふーふーと、息を吹きかけ少し冷ましながらゆっくりとココアを飲むその姿は、なんだか猫を思わせてかわいい。
思わずにやけていると、皐月が俺を見てむっと顔を顰める。
「笑うなよ」
「ごめん、可愛くて」
「可愛くねーし」
言いながら目をそらす皐月の頬が、微かに赤く染まっていた。
2人の間に、久しぶりに緩やかな時間が流れていた。
いつまでもこの時間を楽しんでいたかったけれど―――
「―――ずっと、あの店の様子をうかがってるやつがいたんだ」
ココアを半分ほど飲み終えたところで、皐月がゆっくりと口を開いた。
「岩本さんの視界に入ってた範囲でしかわからないから、顔はわからない。でも―――視界の端に、そいつのつま先が見えたんだ。いつも同じ靴だった。だからたぶん、同じ人物だったと思う。事件に関係してるかどうかもわからないけど―――」
「―――それを調べようとして、無理したの?」
皐月の特殊な能力は、普段は皐月がそれを使おうと思って発揮されているわけではない。
自然に、その人を見ているとわかってしまうらしいのだ。
その人の詳しい過去を知ろうとする時には多少『もっと知りたい』という気持ちを持っているようだけど、大抵は、自然とわかる範囲は決まっているらしい。
その能力を、今回皐月は事件を解決するためにもっと深いところまで知ろうと気持ちを集中させているらしい。
例の、戸田くんの記憶を探った時と同様だという。
「それで、熱が出たの?力使い過ぎってこと?」
「たぶん・・・・こんなこと、初めてだからわからないけど、風邪ひいてるわけでもないし他に理由考えられないから」
「そっか・・・・あんまり無理するなよ。事件のことは、俺たち警察がちゃんと調べるから」
「うん」
皐月が、俺の方を見て笑う。
俺は皐月の肩を抱き、その熱い体を引き寄せた。
皐月はされるがままに、俺にもたれかかる。
「・・・・・あの・・・・向井直人には・・・・連絡、した・・・?」
思い出しただけでもムカつくけど。
でも聞かないわけにはいかない。
だって、やっぱり皐月があの男と2人きりで会うとか、絶対嫌だった。
「―――してないよ、まだ」
その言い方に、俺の胸がざわつく。
「まだって・・・・連絡するつもり?」
「うん」
「なんで?あのSPのことなら、警察の方で調べれば―――」
思わず皐月の顔を覗きこみ、その肩を掴む手にも力がこもる。
「わかってるよ。でも、もしそのSPが犯人なら、すぐにばれるような証拠は残してないと思うし、もちろん話を聞いたって本当のことは言わないでしょ?何より、向井洋一の圧力がかかることだって考えられる。捜査できるかどうかだって怪しいじゃん」
「それは―――そうだけど―――」
「だから、俺が向井直人に近づいてそのSPが現れるのを待つのが一番早いんだよ」
「だけど!」
「たぶんだけど、そういう直人の交際関係関連の時だけ直人に着くSPなんじゃないかと思うんだ」
「え・・・そうなの?」
「うん・・・・直人の過去を遡ってみるとね、何人かいるSP・・・昼間の担当と夜の担当に別れてるっぽいんだ。昼はやっぱり主に仕事してることが多いし、恋人に会うとしたら夜が多い。それぞれに適したSPを使ってる―――ってことなんじゃないかと思う。だから、あのとき直人についてたSPを探すんだったら、やっぱり夜。それも、そういう機会の時の方が可能性が高いと思うんだ」
「そういう機会って・・・・でも、皐月・・・・」
「大丈夫だよ、稔。俺、そんな簡単に男に落ちたりしないから」
そう言って、皐月がいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「いくらSP探すためだって、そんな、どこにでもついて行くようなことしないよ」
「・・・・皐月が、そう思ってたって・・・・向こうは、口説くつもりでいるだろ?無理やり連れてかれたら―――」
「だって、俺だって男だよ?そんな簡単に連れてかれたりしないよ」
「―――大丈夫?ほんとに?」
まだ心配する俺に、皐月は可笑しそうに笑った。
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