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第22話

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「稔は・・・・俺のこと、そんなふうに思ってたんだ・・・・?」

「――――」

樫本さんは自分の口から出た言葉が信じられなかったのか、口を開くけれど声を発することができずにいた。

「皐月くん、違うよ、樫本さんはそんな―――」

そんなこと、思ってるわけない。

樫本さんがどれだけ皐月くんのことを好きか、いつもそばにいる俺は嫌ってほど知ってる。

「―――俊哉、車とめて」

皐月くんが、低い声で言った。

「え―――」

「降りるから、止めて」

「降りるって―――こんなところで降りてどうすんの?」

「―――浩斗くんの車に移動するから、止めて」

「皐月くん、でも―――」

「いいから、止めて」

断固とした言い方に、俺はこれ以上言っても無駄と知る。

溜息をつき、車を路肩に寄せて止めた。

樫本さんは、何も言わない。

前方の浩斗さんの車が、俺の車が止まったことに気付いていったん止まり、それからバッグしてきた。

皐月くんは車を降り、そのまま少し歩いて浩斗さんの車の後部座席へ乗り込んだ。

「―――樫本さん、いいんですか?」

樫本さんはじっと皐月くんの後ろ姿を見つめていたけれど、車に乗り込んだのを見ると、視線を落とした。

「―――いいもなにも、どうしようもない」

―――樫本さんも、疲れてるんだ。

1週間かかって前の事件を解決し、休む間もなく今回の事件だ。

つい、かっとなって言ってはいけないことを言ってしまった。

いつもの穏やかな樫本さんからは考えられないことだ。

事件を早く解決したいという気持ちはもちろん俺も樫本さんも持ってる。

しかも戸田さんや皐月くんが関わってるとなれば、気を抜くわけにはいかない。

だけどできることなら、樫本さんは皐月くんを事件に関わらせたくないと思っているはずだ。

それなのに、当の皐月くんがその事件の中心に飛び込んでくる。

もちろん、皐月くんが事件を解決したいという想いから取った行動だとは思っているけれど―――。

あんな風に、他の男に色目を使う場面なんて、樫本さんが見たいわけもない。

たとえそれが、樫本さんのためだとしても―――

「樫本さん・・・・皐月くんは、樫本さんを裏切ったりしませんよ」

「・・・・わかってるよ。皐月は、戸田くんのため・・・・殺された久美ちゃんのために犯人を自分で見つけようとしてる。きっと・・・・久美ちゃんを、あの時の佐々木と重ねてるんだろう」

皐月くんの親友だった佐々木陽介。

彼は、皐月くんに恋していた。

そしてまた、同じように皐月くんに恋していた男に殺されたのだ。

それは皐月くんのせいではない。

だけど、まじめな皐月くんは自分のせいだと思いつめていた。

それを救ったのは、樫本さんだ。

「・・・・俺は・・・・皐月を失いたくないんだ」

まるでひとり言のように呟かれたその言葉が、言霊のように重い空気の中、漂っているようだった・・・・・。
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