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第8話

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「―――いらっしゃい」

俺たちが戸田くんの住むマンションへ行くと、インタホンを押す前に扉が開いて皐月が顔を出した。

皐月は勘がいいので、よくこちらがインタホンを鳴らす前だったり鍵を回そうとする前に玄関を開けてくれる。

そして、たぶん俺たちが来ることもわかっていたのだろう。


張り込みをしている刑事たちには自分たちが2人につくので一度署の方へ戻るようにと言っておいた。

課長と岩本さんにも連絡済みだ。

色々聞かれそうなので被害者の家族について戸田くんと皐月に聞き込みをしたいと先に言い訳をしておいた。




「どうぞ、入って。リビングに裕太くんもいるから」

まるで自分の家のように慣れた様子で案内する皐月に、俺はちょっと戸惑いを感じていた。

―――そんなに頻繁に、ここに来てるのか?



リビングに入ると、ソファーに戸田くんが座っていた。

俺たちの顔を見ると、ほんの少し顔を歪め笑おうとするけれど、それは笑顔とはほど遠いものだった。

憔悴したようなその様子に、俺と関はちらりと目を見交わした。

「今コーヒー入れるから、そこ座ってて」

キッチンに入り、慣れた様子でコーヒーメーカーのセットをする皐月。

「・・・・・捜査の方、進んでる?」

戸田くんが力ない声で言う。

「まぁ・・・・まだ始めたばかりですからね」

関の言葉に、苦笑する戸田くん。

「そう。まだ、俺・・・・疑われてるんでしょ?」

「―――今のところ、他に疑わしい人物が見あたらないので・・・・でも、俺たちは戸田さんのことを疑ったりはしてませんよ。ね、樫本さん」

その言葉に、俺も頷く。

「もちろん。戸田くん以外の誰かだってことはわかってる。その真犯人を見つけるために、戸田くんにも協力してほしい」

「協力・・・・俺に出来ることがあれば、するけど・・・・。でも俺、そんなに詳しいことはわからないよ。久美ちゃんの彼氏のことだって、名前も顔も知らなかったんだから」

戸惑ったように首を傾げる戸田くん。

皐月が4人分のコーヒーを淹れ俺たちの前のテーブルに置くと、戸田くんの隣に座り、戸田くんを気遣うようにその背中を優しく撫でた。

その様子に、俺は思わずカップを握る手に力を込めた。

―――なんで、そんなくっついて座るかな・・・・。

戸田くんのことを気遣ってるのはわかるけど。

俺の中で、もやもやとした気持ちが広がっていた。

―――俺って、こんなに心狭かったっけ・・・・・。

「久美ちゃんは、気を使ってたんだよ。戸田くん、優しいから。彼氏とうまくいってないなんて言ったら、心配かけると思ってたんだよ」

「でも、うまくいってるときだって、あの店に彼氏を連れてきたこともないし・・・・」

「それは、ただ恥ずかしかっただけ。戸田くんには黙ってたけど・・・・付き合って3ヶ月くらいから、うまくいってなかったみたいだよ」

皐月の言葉に、俺たちも驚く。

「それ、本当に?」

「うん。話を聞いたわけじゃないけど・・・・。どうも、浮気っぽい男だったみたい。久美ちゃんはそういうの許せない子だったから・・・・。徐々に冷めていっちゃったみたいだな。ただ、その彼氏の方は別れる気はなかったみたいだけど・・・・久美ちゃんからは連絡してなかったと思う」

「―――その彼氏との別れ話がこじれてってことは・・・・ないか。アリバイがあるんだった」

久美ちゃんの死亡時間、その山本亮太にはコンビニでバイト中だったという確かなアリバイがあったのだ。

動機としては、一番怪しいと思ったけれど・・・・。

「そうなんだ・・・・」

俺の言葉に、戸田くんもため息をついたのだった。
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