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第6話

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「―――天宮皐月が来てから死体を発見するまでの約2時間半、2人は何をしていたんだ?」

課長の言葉に、岩本さんはホワイトボードの皐月と戸田くんの写真を見た。

「2人で、レシピの内容を話しあっていたと言っています」

「そのためにレシピノートを取りに一度家に帰ったと言ってるんだな」

「そうです。そのレシピノートを見ながら2人で新しいメニュー候補を絞り、そして実際に作ってみようということになって天宮が冷蔵庫を開けて、死体を発見したということです」

「ふん・・・・その天宮が10時まで探偵事務所にいたのは間違いないのか?」

「はい。所長の河合浩斗には確認済みです。9時半過ぎに事務所にかかってきた顧客からの電話を受けていたってことでその顧客にも確認できましたので間違いないようですね」

「なるほど。で、戸田と天宮、2人の仲はどうなんだ?」

課長が関の方を向いて聞いた。

「まあ、仲はいいと思いますよ。歳も近いし、よく事務所へもコーヒーを持ってきてもらったりしてるみたいですし」

言いながら、関は俺の方をちらりと見た。

「ああ、そういえばお前らもこの2人と知り合いだって言ってたっけ。課長も、ご存知なんですよね?」

「ああ、その天宮皐月については以前うちで捜査した殺人事件の容疑がかかっていたこともあるからな。まぁ、もちろんシロだったわけだが。お前ら2人は、それからも交流があるのか?」

「ええ、まぁ。あのカフェにはたまにコーヒーを飲みに行ってますし、そこで天宮さんと会うこともありますから、挨拶なんかはしてますよ」

関があたりさわりのない言い方をしてその場をやり過ごす。

もちろん、俺と皐月が付き合っていることは秘密だ。

当然一緒に住んでいることも。

今、皐月は浩斗くんのマンションへ行っているはずだ。

そこに、2人で一緒に住んでいるということにしようと話していた。

俺としては不本意ではあるけれど、もし俺たちの関係がばれればこの捜査から外されることにもなりかねないと思った関の提案だった。

「―――しかし、なんでわざわざあの店の冷蔵庫なんかに入れたんだろうな?店の鍵を手に入れたとしても、死体を店の中に運び込むところを目撃でもされれば一巻の終わりになりかねない」

課長の意見はもっともだった。

どうしてあの店の中に?

いつ、どうやって?

「まぁ、鍵を入手できる立場だったということであれば、犯人が戸田以外にいるとしてもその人物もまた被害者と親しい関係だったことは間違いないでしょう」

「あの、天宮と戸田の共犯ってことはないですか?冷蔵庫に入れられていたということは死亡推定時間にも幅が出ると思うんですが」

1人の刑事が言った。

「もちろんそれも考えたが―――監察医に確認したところ、冷蔵庫に入れられていたっていう要素を加味しても死亡推定時間は10時よりも30分以上は前だろうということだった」

「なるほど。じゃあ、天宮はやっぱりシロか」

課長の言葉に、俺たちはこっそりと息を吐いた。




「ただいま戻りましたー」

戸田くんと皐月の見張りをそれぞれ2人一組でしていた刑事たちが4人、一緒に帰ってきた。

「ん?なんだお前ら、4人一緒だったのか?」

「天宮はいったん自宅に戻りましたが、すぐに家を出て今は戸田の家に一緒にいますよ。なので今交代した見張りが2人ずつ、戸田の家を張ってます」

「え・・・・なんで戸田くんの家に?」

思わず、俺は口走っていた。

今日は日曜日で、本来探偵の仕事は休みだ。

だから皐月は浩斗くんの家にずっといると言っていたのに。

「さあ、それはわかりませんけど。今のところ、戸田の家に2人でいて特に動きはありません」

そこへ、聞き込みに行っていた刑事たちも帰ってきた。

「目撃情報、やはり出ませんね。上野久美子と山本亮太の2人ですが、最近は会っていなかったというのは本当のようで、山本については最近アルバイト先の女の子と仲良くなったようで上野久美子とは連絡もとっていなかったということです」

「上野久美子の方は、あの店へ仕事で行く以外はあまり外出もしていなかったようで、ときどき夜9時ごろに車でマンションまで送ってもらう姿が目撃されています。運転していたのは戸田です」

「そうなると、やっぱり怪しいのは戸田か・・・・。よし、その2人の周辺を詳しく調べてくれ」
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