上 下
6 / 39

第6話

しおりを挟む
「―――天宮皐月が来てから死体を発見するまでの約2時間半、2人は何をしていたんだ?」

課長の言葉に、岩本さんはホワイトボードの皐月と戸田くんの写真を見た。

「2人で、レシピの内容を話しあっていたと言っています」

「そのためにレシピノートを取りに一度家に帰ったと言ってるんだな」

「そうです。そのレシピノートを見ながら2人で新しいメニュー候補を絞り、そして実際に作ってみようということになって天宮が冷蔵庫を開けて、死体を発見したということです」

「ふん・・・・その天宮が10時まで探偵事務所にいたのは間違いないのか?」

「はい。所長の河合浩斗には確認済みです。9時半過ぎに事務所にかかってきた顧客からの電話を受けていたってことでその顧客にも確認できましたので間違いないようですね」

「なるほど。で、戸田と天宮、2人の仲はどうなんだ?」

課長が関の方を向いて聞いた。

「まあ、仲はいいと思いますよ。歳も近いし、よく事務所へもコーヒーを持ってきてもらったりしてるみたいですし」

言いながら、関は俺の方をちらりと見た。

「ああ、そういえばお前らもこの2人と知り合いだって言ってたっけ。課長も、ご存知なんですよね?」

「ああ、その天宮皐月については以前うちで捜査した殺人事件の容疑がかかっていたこともあるからな。まぁ、もちろんシロだったわけだが。お前ら2人は、それからも交流があるのか?」

「ええ、まぁ。あのカフェにはたまにコーヒーを飲みに行ってますし、そこで天宮さんと会うこともありますから、挨拶なんかはしてますよ」

関があたりさわりのない言い方をしてその場をやり過ごす。

もちろん、俺と皐月が付き合っていることは秘密だ。

当然一緒に住んでいることも。

今、皐月は浩斗くんのマンションへ行っているはずだ。

そこに、2人で一緒に住んでいるということにしようと話していた。

俺としては不本意ではあるけれど、もし俺たちの関係がばれればこの捜査から外されることにもなりかねないと思った関の提案だった。

「―――しかし、なんでわざわざあの店の冷蔵庫なんかに入れたんだろうな?店の鍵を手に入れたとしても、死体を店の中に運び込むところを目撃でもされれば一巻の終わりになりかねない」

課長の意見はもっともだった。

どうしてあの店の中に?

いつ、どうやって?

「まぁ、鍵を入手できる立場だったということであれば、犯人が戸田以外にいるとしてもその人物もまた被害者と親しい関係だったことは間違いないでしょう」

「あの、天宮と戸田の共犯ってことはないですか?冷蔵庫に入れられていたということは死亡推定時間にも幅が出ると思うんですが」

1人の刑事が言った。

「もちろんそれも考えたが―――監察医に確認したところ、冷蔵庫に入れられていたっていう要素を加味しても死亡推定時間は10時よりも30分以上は前だろうということだった」

「なるほど。じゃあ、天宮はやっぱりシロか」

課長の言葉に、俺たちはこっそりと息を吐いた。




「ただいま戻りましたー」

戸田くんと皐月の見張りをそれぞれ2人一組でしていた刑事たちが4人、一緒に帰ってきた。

「ん?なんだお前ら、4人一緒だったのか?」

「天宮はいったん自宅に戻りましたが、すぐに家を出て今は戸田の家に一緒にいますよ。なので今交代した見張りが2人ずつ、戸田の家を張ってます」

「え・・・・なんで戸田くんの家に?」

思わず、俺は口走っていた。

今日は日曜日で、本来探偵の仕事は休みだ。

だから皐月は浩斗くんの家にずっといると言っていたのに。

「さあ、それはわかりませんけど。今のところ、戸田の家に2人でいて特に動きはありません」

そこへ、聞き込みに行っていた刑事たちも帰ってきた。

「目撃情報、やはり出ませんね。上野久美子と山本亮太の2人ですが、最近は会っていなかったというのは本当のようで、山本については最近アルバイト先の女の子と仲良くなったようで上野久美子とは連絡もとっていなかったということです」

「上野久美子の方は、あの店へ仕事で行く以外はあまり外出もしていなかったようで、ときどき夜9時ごろに車でマンションまで送ってもらう姿が目撃されています。運転していたのは戸田です」

「そうなると、やっぱり怪しいのは戸田か・・・・。よし、その2人の周辺を詳しく調べてくれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

処理中です...