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第4話
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皐月は、店を出て行く岩本さんの後姿をじっと見つめていた。
「―――皐月、何か気になることでもあるのか?」
俺の声に、皐月がはっとしたように振り向く。
「―――え、なに?」
「岩本さんのこと・・・さっきからじっと見てるから」
「あぁ・・・・あの人・・・・久美ちゃんの―――」
「え?」
皐月は、眉間にしわを寄せじっと考え込んでいた。
そしてしばらくすると、ゆっくり横に首を振った。
「―――何でもない。それより、久美ちゃんのことでしょ?」
「え、ああ・・・・まあ俺たちも、多少は彼女のこと知ってるけど、そう詳しくはない。戸田くん、教えてくれる?」
俺の言葉に、戸田くんは溜息をつきながら頷いた。
ずっと一緒に働いてきたウェートレスが亡くなったのだ。
そのショックは相当なものだろう。
「―――久美ちゃんは、この喫茶店のオープン時から働いてくれてたんだ。面接に来た時はまだ高校生だった。田舎から出てきたばっかりって感じの、初々しいところがかわいいなって思ったよ。素直で明るくてまじめで、本当にいい子だったんだ。こんなことになるなんて―――」
戸田くんはすでに目を真っ赤にして涙ぐんでいた。
「戸田さん、今こんなこと聞くのは心苦しいんですけど、彼女のプライベートのこととか、詳しく話してくれませんか」
関の言葉に、戸田くんは鼻をすすり、服の袖で涙をぬぐった。
「―――付き合ってる人がいたのは聞いてるよ。半年前くらい前からだったと思うけど―――誰だかのライブに行ったときに声かけられて、意気投合したって。すごく楽しそうだったけど・・・・そういえば最近は彼氏の話、しなくなってたな」
「その彼氏の名前とか、わかりませんか?」
「名前は・・・聞いたことないな・・・」
その言葉にがっかりしかけた時―――
「―――俺、わかるけど」
そう言ったのは、皐月だった。
「え、さっちゃんわかるの?なんで?久美ちゃんに聞いた?」
戸田くんが目を丸くした。
「・・・・聞いてない。わかるだけ」
皐月の言葉に、俺たちははっとする。
―――そうだ。皐月には、その人が見たもの、聞いたことがわかるという能力があるのだった。
「あ・・・・皐月くん、そしたら、もしかして犯人のことも・・・・」
関の言葉に、皐月は首を振った。
「―――それは、無理。俺―――死んだ人からは、何も感じ取ることができないんだ・・・・」
そう言って、俯く皐月は辛そうだった。
「あの時もそうだった・・・・・。何か感じ取れないかと思って、しばらく陽介の傍にいたけど―――なにもわからなかった。・・・ぬくもりのなくなった人からは、何も感じ取ることができないんだって・・・・すごく、悔しかった」
それは、俺たちが初めて皐月と出会った事件でのことだった。
事務所の同僚だった佐々木陽介の遺体確認に来た皐月は、横たわる佐々木の傍にじっとたたずんでいた。
その時はまだ、皐月のことをよく知らなかったから皐月が何をしているのかわからなかったけど―――
感情を露わにすることをあまりしない皐月。
でも、本当は人一倍感受性が強い人間だということ、俺たちは知ってる。
今もきっと、上野さんのため、そして戸田くんのために何もできないことをとても悔しく思っているんだろう・・・・・。
「―――皐月、何か気になることでもあるのか?」
俺の声に、皐月がはっとしたように振り向く。
「―――え、なに?」
「岩本さんのこと・・・さっきからじっと見てるから」
「あぁ・・・・あの人・・・・久美ちゃんの―――」
「え?」
皐月は、眉間にしわを寄せじっと考え込んでいた。
そしてしばらくすると、ゆっくり横に首を振った。
「―――何でもない。それより、久美ちゃんのことでしょ?」
「え、ああ・・・・まあ俺たちも、多少は彼女のこと知ってるけど、そう詳しくはない。戸田くん、教えてくれる?」
俺の言葉に、戸田くんは溜息をつきながら頷いた。
ずっと一緒に働いてきたウェートレスが亡くなったのだ。
そのショックは相当なものだろう。
「―――久美ちゃんは、この喫茶店のオープン時から働いてくれてたんだ。面接に来た時はまだ高校生だった。田舎から出てきたばっかりって感じの、初々しいところがかわいいなって思ったよ。素直で明るくてまじめで、本当にいい子だったんだ。こんなことになるなんて―――」
戸田くんはすでに目を真っ赤にして涙ぐんでいた。
「戸田さん、今こんなこと聞くのは心苦しいんですけど、彼女のプライベートのこととか、詳しく話してくれませんか」
関の言葉に、戸田くんは鼻をすすり、服の袖で涙をぬぐった。
「―――付き合ってる人がいたのは聞いてるよ。半年前くらい前からだったと思うけど―――誰だかのライブに行ったときに声かけられて、意気投合したって。すごく楽しそうだったけど・・・・そういえば最近は彼氏の話、しなくなってたな」
「その彼氏の名前とか、わかりませんか?」
「名前は・・・聞いたことないな・・・」
その言葉にがっかりしかけた時―――
「―――俺、わかるけど」
そう言ったのは、皐月だった。
「え、さっちゃんわかるの?なんで?久美ちゃんに聞いた?」
戸田くんが目を丸くした。
「・・・・聞いてない。わかるだけ」
皐月の言葉に、俺たちははっとする。
―――そうだ。皐月には、その人が見たもの、聞いたことがわかるという能力があるのだった。
「あ・・・・皐月くん、そしたら、もしかして犯人のことも・・・・」
関の言葉に、皐月は首を振った。
「―――それは、無理。俺―――死んだ人からは、何も感じ取ることができないんだ・・・・」
そう言って、俯く皐月は辛そうだった。
「あの時もそうだった・・・・・。何か感じ取れないかと思って、しばらく陽介の傍にいたけど―――なにもわからなかった。・・・ぬくもりのなくなった人からは、何も感じ取ることができないんだって・・・・すごく、悔しかった」
それは、俺たちが初めて皐月と出会った事件でのことだった。
事務所の同僚だった佐々木陽介の遺体確認に来た皐月は、横たわる佐々木の傍にじっとたたずんでいた。
その時はまだ、皐月のことをよく知らなかったから皐月が何をしているのかわからなかったけど―――
感情を露わにすることをあまりしない皐月。
でも、本当は人一倍感受性が強い人間だということ、俺たちは知ってる。
今もきっと、上野さんのため、そして戸田くんのために何もできないことをとても悔しく思っているんだろう・・・・・。
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