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王宮絵巻

日常への帰路

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車寄せには、既に馬車が待機していた。
家の紋章すら刻まれていない簡素な貸し馬車である。
アラスタが公爵家の紋章が刻まれた馬車で王宮へ来れば、それを問題視する者も出るだろう。

そう、先ほどのマティス公爵のように。

(全く、忌々いまいましい…)

アラスタは貸し馬車へ乗り込む。
中には、既に3人の女性が乗っていた。

「おかえりなさい、閣下。」

「出迎え、ご苦労。」

ベガドリアから連れてきた第4支援小隊の人間である。
一人はヒューキャットだが、貴族の亜人嫌いを考慮して、帽子とドレスで特徴を隠している。
日中はともかく夜中の薄暗い馬車の中なら、外からはこれで十分誤魔化せた。

「出してちょうだい。
 私はセージ公爵家で降ります。」

御者に告げると、馬車が動き出した。

「いかがでした、お久しぶりの王宮は?」

「全く、不快な場所だった。
 不快な顔も見たし、不快な言葉も聞かされたし、不快なことも口にした。」

「それは何とも…お見舞い申し上げます。」

アラスタが吐き出すと3人も苦笑する。

「奴隷階級だからって、貴族階級に憧れないことね。
 私の悪口を叫びながら3キロくらい罰走している方が、気が楽よ?」

「それは、まぁ何とも…
 でも、閣下のおかげで体力が付きました。
 20キロの丸太も担げなかった私が、仲間を担いで救助訓練できるようになりましたから。」

「それは良かったわ。
 私も別に憎くてやっているわけじゃないもの。
 …さて、通達を実施する。」


空気が一変し、雰囲気が一瞬で引き締まる。


「明日からは宿から外出しても良い。
 ただし必ず3人一組での分隊行動と、夜間の外出禁止は守れ。
 日の出から日没までは自由、ただし南部の貧民街には近づくな。
 無線機の所持は必須、緊急事態を除き発信は控えろ。
 あと、王都での抜弾は徹底しろ。」

「心得ております。
 拳銃本体は分隊長が、弾倉は分隊員が所持するよう徹底しております。」

「自己や仲間の生命が危機に瀕しない限り、発砲は厳禁だ。
 徒手格闘も控えろ、叩きのめした相手が何らかの組織に属する者だと面倒だ。
 無用なトラブルも極力回避、路地裏や寂しい場所は注意しろ。」

「はい閣下。
 王都出身の者も多いので大丈夫でしょうが、再度小隊長より訓示頂きます。」

「警務官や憲兵隊には抵抗するな。
 どこかの貴族家の衛兵もだ。
 もし投獄されたら牢番にセージ公爵家の名前を出せ。
 お前たちのリストは家令と執事長に渡してある、よほどの罪状でなければ弁護士で対応できる。」

地方の貴族領ならともかく、様々な貴族が活動する王都である。
捕縛した相手が仮に高位の貴族家に連なる者だと非常に面倒な話になる。
そのため投獄した相手から具体名が出れば、念のためその貴族家に確認が取られる。

「了解しました。
 それで、閣下のご予定は変更ございませんか?」

分隊長の言葉に、アラスタはゲッソリした顔になる。

「明日は家族親族で私の歓迎会だ。
 その翌日は、派閥貴族を集めての歓迎会だ。
 母上殿は、婚約破棄された私に適当な相手を見つけたいそうだ。」

アラスタの立場は非常に面倒だ。
次席公爵家長女と見れば、それなりの爵位に連なる人間であることが必須となる。
逆に男爵と見れば爵位はそこそこで十分だが、死地に赴くことが必須となる。


『第一王子との婚約破棄歴があります。
 しかも王命により北の死地に男爵として赴いております。
 結婚すれば次席公爵家との縁も出来る13歳ですが、いかがですか?』


誰が結婚するものか。


そんな面倒極まりない娘はゴメンだ。

(まぁ親孝行の一環だよなぁ…
 髪を切った私を見て号泣した母上には、王都にいる間くらいは優しくするか…)

外を眺めると、セージ家の王都邸が見えてきた。

「閣下、そろそろです。」

「ん。
 ではお前たちは宿へ戻れ。
 本当なら別宅くらい使えればいいんだが、普通の貴族は亜人嫌いだからな。
 容赦してくれ。」

「とんでもございません。
 我々には過分のご配慮、常に感謝しております。
 では閣下、これにして失礼致します。
 何かございましたら、宿に残っている者にご伝言ください。」
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