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本編
その魔法の名前は『無線機』だそうです。
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これは、ベガドリア男爵アラスタ様の家令フィーナが非公式に残す日誌である。
書いている私自身、理解が及ばない点が多々ある。
ただ遠い未来、これを理解できる者が読むことを祈り、今ここで起きたことを書き残す。
なお、この日誌はアラスタ様の査読済みである。
「家令殿、来ました!
帝国軍の斥候と思われる集団を視認!
直ちに作戦本部へお越しください!」
「分かりました、すぐ行きます。」
ついに来た。
あらかじめ渡されていた服に着替える。
兵士たちが着ているものと同じデザインで、色は黒だ。
(着やすいわね、これ。)
初めて袖を通すが、貴族用のドレスと違いすぐに着替えられる。
コルセットなどはもちろん、装飾なども極力排されている。
やたらポケットが多い。
(これが死に装束か…まぁお気に入りのドレスでも、一緒か…)
呼びに来た黒い服のヒューラビットの少女と一緒に平野を目指す。
作戦本部は、平野が広く見渡せる小さな丘の上にあった。
何十人も入れる大きなテントで、そこにいる人は全員が黒い服を着ていた。
アラスタ様も同様である。
普通、戦に出る貴族は煌びやかな鎧を身に着け、近衛兵や儀仗兵を伴うものなのに。
「フィーナ。
今から、お前の理解できないことが起こる。
まぁその椅子に座って、大人しくしていろ。」
「はぁ…」
確かに理解できない。
黒い服を着た兵士が、地図の前で独り言をしゃべっている。
まるで目に見えない誰かとしゃべっているかのよう。
「家令殿。
ここは後方ですが、念のためこれを。」
大隊長と呼ばれていた男性が鍋を差し出す。
ここにいる誰しもが被っているヘルメットだ。
(あ、軽い。)
鉄だと思っていたヘルメットは、思っていたよりも非常に軽かった。
顎ひもを結んでもらう。
「大隊長、無線機のスイッチを入れてやれ。」
「了解です。
家令殿、失礼。」
腰のベルトに黒い箱を付けられ、そこから伸びた線をヘルメットの方に伸ばす。
『第3歩兵小隊から作戦本部。
支援中隊の展開状況を通知願います。』
「うわぁ!?」
耳元で、誰かの声が聞こえる。
ここにいない、誰かの声が。
「安心してください、家令殿。
ここにいる誰もが数週間前に体験しました。」
「邪魔にならない程度なら、騒いでもいいぞ。
お前のは聞くだけで、フィーナの声は送られないからな。」
「え!?え!?」
誰かの声が聞こえる、何この”鍋”。
ただ、この声と周囲の”独り言”がかみ合うことに、少しして気づいた。
「作戦本部から第5歩兵小隊。
敵の編成状況、知らせ。」
『第5歩兵小隊から作戦本部。
先陣は軽装騎馬兵、続いて歩兵。
帝国旗と、所属する貴族家と思われる部隊旗を視認。』
「了解、本陣は視認できるか。」
『ここからは視認できない。』
それを聞きながらヒューホースの少年が、地図上の人形を動かしていく。
「男爵閣下、いかがしますか?」
「どうせ編成が完了したらバカ正直に突っ込んでくるさ。
こちらの準備は万端か?」
「完了しています。」
「結構。」
何が起きていたのか、私は未だに理解できていない。
書いている私自身、理解が及ばない点が多々ある。
ただ遠い未来、これを理解できる者が読むことを祈り、今ここで起きたことを書き残す。
なお、この日誌はアラスタ様の査読済みである。
「家令殿、来ました!
帝国軍の斥候と思われる集団を視認!
直ちに作戦本部へお越しください!」
「分かりました、すぐ行きます。」
ついに来た。
あらかじめ渡されていた服に着替える。
兵士たちが着ているものと同じデザインで、色は黒だ。
(着やすいわね、これ。)
初めて袖を通すが、貴族用のドレスと違いすぐに着替えられる。
コルセットなどはもちろん、装飾なども極力排されている。
やたらポケットが多い。
(これが死に装束か…まぁお気に入りのドレスでも、一緒か…)
呼びに来た黒い服のヒューラビットの少女と一緒に平野を目指す。
作戦本部は、平野が広く見渡せる小さな丘の上にあった。
何十人も入れる大きなテントで、そこにいる人は全員が黒い服を着ていた。
アラスタ様も同様である。
普通、戦に出る貴族は煌びやかな鎧を身に着け、近衛兵や儀仗兵を伴うものなのに。
「フィーナ。
今から、お前の理解できないことが起こる。
まぁその椅子に座って、大人しくしていろ。」
「はぁ…」
確かに理解できない。
黒い服を着た兵士が、地図の前で独り言をしゃべっている。
まるで目に見えない誰かとしゃべっているかのよう。
「家令殿。
ここは後方ですが、念のためこれを。」
大隊長と呼ばれていた男性が鍋を差し出す。
ここにいる誰しもが被っているヘルメットだ。
(あ、軽い。)
鉄だと思っていたヘルメットは、思っていたよりも非常に軽かった。
顎ひもを結んでもらう。
「大隊長、無線機のスイッチを入れてやれ。」
「了解です。
家令殿、失礼。」
腰のベルトに黒い箱を付けられ、そこから伸びた線をヘルメットの方に伸ばす。
『第3歩兵小隊から作戦本部。
支援中隊の展開状況を通知願います。』
「うわぁ!?」
耳元で、誰かの声が聞こえる。
ここにいない、誰かの声が。
「安心してください、家令殿。
ここにいる誰もが数週間前に体験しました。」
「邪魔にならない程度なら、騒いでもいいぞ。
お前のは聞くだけで、フィーナの声は送られないからな。」
「え!?え!?」
誰かの声が聞こえる、何この”鍋”。
ただ、この声と周囲の”独り言”がかみ合うことに、少しして気づいた。
「作戦本部から第5歩兵小隊。
敵の編成状況、知らせ。」
『第5歩兵小隊から作戦本部。
先陣は軽装騎馬兵、続いて歩兵。
帝国旗と、所属する貴族家と思われる部隊旗を視認。』
「了解、本陣は視認できるか。」
『ここからは視認できない。』
それを聞きながらヒューホースの少年が、地図上の人形を動かしていく。
「男爵閣下、いかがしますか?」
「どうせ編成が完了したらバカ正直に突っ込んでくるさ。
こちらの準備は万端か?」
「完了しています。」
「結構。」
何が起きていたのか、私は未だに理解できていない。
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