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スー、領地へ行く
そして絶望
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「がっ!?」
先頭でドアから出た兵士が壁へ吹き飛ぶ。
胴体には何本もの大きな矢。
何が起きたのか理解できず硬直するスーとフィアンを押しのけレープが怒鳴る。
「バカ野郎!
味方だぞオイ!」
「知ってるよ、少尉殿。」
それに応えるように、レープにも肩と胸に矢が突き刺さる。
狂ったように叫ぶフィアンを押しのけ、顔を出すと。
「…兵士!?」
野盗と違って、揃いの革鎧。
それが10人以上、その大半がクロスボウを構えている。
組織され訓練された集団。
「…誤射、じゃない。」
「あぁ、残念ながら。」
あごひげ生やした大男が一歩前に出る。
「あなた達、ミラン子爵の兵ね!
王国軍の兵士を殺して、反乱でも企てたわけ!?」
「まさか。
そんな大それたこと、こんな田舎の兵士が考えるものか。」
「じゃあ身代金!?
私もこの子も、払える財産なんて持ってないよ!」
その言葉に兵士たちから笑いが漏れる。
「目的は金だが、何もあんた方からもらおうなんて思っちゃいねぇ。
金は、あんたらを買う商人から貰うさ。」
人身売買。
それも地方領主の兵が絡んでいるという、おそらくは最悪の部類の。
明るみになれば所属派閥をも巻き込んで全面紛争になるほどの、最悪の事件。
「隊長、あれ男爵ですよね。」
「あぁ…全く、連中は使えねぇな。
俺は”男爵領の娘を攫って来い”と命令したんだ。
男爵本人を攫って来い、なんて誰が言った。」
「…私は、売り飛ばさないわけ?」
藪蛇になるかもしれないが、そう聞いたスーに、隊長と呼ばれた兵士が笑う。
それは下卑た笑いだった。
「貴族の娘ともなると、そりゃその辺の農民とは比較にならないほどのプレミアものだ。
そういうのが好きな変態にゃ高値で売れるだろうさ。
だがな、そのプレミア価格は俺たちにまで反映されないのさ。
で、男爵閣下殿。
貴族の娘ならともかく、貴族の当代が行方不明なんて話になると王宮が乗り込んでくる。
もしそこで多数の領民も行方不明になってるという日にゃ、連中は上から下までひっくり返す。
そうなると、俺たちの小遣い稼ぎもクソ面倒なことになる。」
隊長と、部下の兵士が弓に矢を番え。
「いくら何でもそこまで危ない橋は渡れねぇ。
そういうわけなんで、野盗と王国軍の兄ちゃんと一緒に、そこの納屋で死んでくださいや。
死体じゃ金にならないが、こっちに火の粉も飛んで来ないんでね。」
必死の形相で、目で逃げるように訴えるレープの胸に、止めとばかりに矢が突き立ち。
「少尉!
なんてことを!?」
下卑た表情の、兵士たち。
それを尻目にレープを抱き寄せる。
「あぁ、もしかして恋人でしたか?
それとも愛人でしたかぁ?」
「恨むなら俺達じゃなく、自分を恨んでくださいや。
バカみてぇな重税で領民が逃げ出しまくってる領地なら、攫われたって目立たねぇですから。
新婚だとか子持ちだとか、少し考えりゃおかしいって分かりそうなもんですがね。」
「ま、そういうわけなんで。
とりあえず死んどいてくださいや、男爵閣下。
そっちの娘は責任持って売り飛ばしときますから。」
あぁ、これは罪だ。
やりたい放題の先代の、無関心の私の。
だから領民は飢え、逃げ、売られ、死に。
「…レープ少尉。」
もはや焦点の定まらない目で、虫の息のレープの。
「命、ください。」
うなじに嚙みついた。
先頭でドアから出た兵士が壁へ吹き飛ぶ。
胴体には何本もの大きな矢。
何が起きたのか理解できず硬直するスーとフィアンを押しのけレープが怒鳴る。
「バカ野郎!
味方だぞオイ!」
「知ってるよ、少尉殿。」
それに応えるように、レープにも肩と胸に矢が突き刺さる。
狂ったように叫ぶフィアンを押しのけ、顔を出すと。
「…兵士!?」
野盗と違って、揃いの革鎧。
それが10人以上、その大半がクロスボウを構えている。
組織され訓練された集団。
「…誤射、じゃない。」
「あぁ、残念ながら。」
あごひげ生やした大男が一歩前に出る。
「あなた達、ミラン子爵の兵ね!
王国軍の兵士を殺して、反乱でも企てたわけ!?」
「まさか。
そんな大それたこと、こんな田舎の兵士が考えるものか。」
「じゃあ身代金!?
私もこの子も、払える財産なんて持ってないよ!」
その言葉に兵士たちから笑いが漏れる。
「目的は金だが、何もあんた方からもらおうなんて思っちゃいねぇ。
金は、あんたらを買う商人から貰うさ。」
人身売買。
それも地方領主の兵が絡んでいるという、おそらくは最悪の部類の。
明るみになれば所属派閥をも巻き込んで全面紛争になるほどの、最悪の事件。
「隊長、あれ男爵ですよね。」
「あぁ…全く、連中は使えねぇな。
俺は”男爵領の娘を攫って来い”と命令したんだ。
男爵本人を攫って来い、なんて誰が言った。」
「…私は、売り飛ばさないわけ?」
藪蛇になるかもしれないが、そう聞いたスーに、隊長と呼ばれた兵士が笑う。
それは下卑た笑いだった。
「貴族の娘ともなると、そりゃその辺の農民とは比較にならないほどのプレミアものだ。
そういうのが好きな変態にゃ高値で売れるだろうさ。
だがな、そのプレミア価格は俺たちにまで反映されないのさ。
で、男爵閣下殿。
貴族の娘ならともかく、貴族の当代が行方不明なんて話になると王宮が乗り込んでくる。
もしそこで多数の領民も行方不明になってるという日にゃ、連中は上から下までひっくり返す。
そうなると、俺たちの小遣い稼ぎもクソ面倒なことになる。」
隊長と、部下の兵士が弓に矢を番え。
「いくら何でもそこまで危ない橋は渡れねぇ。
そういうわけなんで、野盗と王国軍の兄ちゃんと一緒に、そこの納屋で死んでくださいや。
死体じゃ金にならないが、こっちに火の粉も飛んで来ないんでね。」
必死の形相で、目で逃げるように訴えるレープの胸に、止めとばかりに矢が突き立ち。
「少尉!
なんてことを!?」
下卑た表情の、兵士たち。
それを尻目にレープを抱き寄せる。
「あぁ、もしかして恋人でしたか?
それとも愛人でしたかぁ?」
「恨むなら俺達じゃなく、自分を恨んでくださいや。
バカみてぇな重税で領民が逃げ出しまくってる領地なら、攫われたって目立たねぇですから。
新婚だとか子持ちだとか、少し考えりゃおかしいって分かりそうなもんですがね。」
「ま、そういうわけなんで。
とりあえず死んどいてくださいや、男爵閣下。
そっちの娘は責任持って売り飛ばしときますから。」
あぁ、これは罪だ。
やりたい放題の先代の、無関心の私の。
だから領民は飢え、逃げ、売られ、死に。
「…レープ少尉。」
もはや焦点の定まらない目で、虫の息のレープの。
「命、ください。」
うなじに嚙みついた。
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