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ウタカタメモリート
ウタカタメモリート③
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「今は柳原事件というみたいに呼ばれているけど、私達の時はそんな名前じゃなくて単にストーカー事件って呼ばれていたの。
その名の通り、ある女子生徒が男子生徒にストーカーされたという事ね。
そして、その女子生徒は北野花梨。そしてその男子生徒は湯田樹という人だったわ」
新たな登場人物の登場には驚かない。むしろそうでないと困るのだから。
ちらりと水掛先生の方を見る。やや後方から見た限りでは、特に動揺した素振りは見せない。
「私が初めてストーカーされているのに気付いたのは六月頃。
最初気付いた時は偶々帰り道が一緒なだけかと思ったんだけど、寄り道した時にもついてきていたから、ストーカーかもしれないと思っていたの。
そして、丁度今の時期になった頃には家のポストに手紙が届くようになったわ。流石に危険を感じて柳原先輩を頼る事にしたのよ」
ここで花山はスッと手を挙げる。
「話の途中ですみません。どうして家族や警察には頼らなかったんですか?」
「もっともな意見ね。私の家は母子家庭なの。私が幼い頃に父親が亡くなったみたい。それで、早朝から深夜まで働く母に余計な心配をして欲しくなかったの」
「そんな事情が。すみません。ありがとうございます」
花山が納得したのを確認した後、話を続ける。
「それで、元々仲がよくて、かつ絶対に犯人ではないであろう柳原先輩にストーカーの犯人は誰なのか調べてくれるようにお願いしたの。
柳原先輩はちょっと融通が利かない所はあったけれど、まっすぐな人だったから。柳原先輩にはすぐに手伝って貰えることになって、私の後方を歩いて犯人を探してくれる事になったの。
柳原先輩に助けを求めてから一週間後、柳原先輩から犯人を特定したと連絡がきたの。
その犯人はさっき言った通り、当時三年生で同じく写真部の先輩の湯田樹だったわ。
翌日、そのことを先生に伝えようと学校に行った時、学校のあらゆる掲示板に『花宮高校二年、柳原達也後輩女子生徒をストーカーか!?』という見出しの速報が張られていたの。
ご丁寧にその証拠写真までつけてね。
そんな事が起きれば嘘か誠か関係なく学校中に広まる事になるし、柳原先輩は悪い意味で有名になったのよ。
そして柳原先輩は謹慎処分になってしまったの。
勿論、真実を伝える為に動き回ったんだけど、湯田樹は学内でも人気があったし、柳原先輩はより一層立場がなくなってしまったの」
ここで北野先輩は持参していた水筒を取り出し、喉を潤す。
「それって先生達は動かなかったんですか?」
思い切って聞いてみる。
「君の言う通り私達も先生に相談しに行ったんだけどね。……先生もあまり頼りにならなかったのよ。速報の写真が本物である限りどれだけ弁明しても無理だろう、と」
水筒の蓋を占め、鞄の中にしまう。
「一つ気になるのですが、ストーカーしている写真を撮った人もストーカーしているのではないでしょうか? じゃないとそんな写真を撮れませんし」
東雲は中々鋭い所を付く。
「そうなの。それに気付いた私もその事を伝えたんだけどね」
ため息を付く北野先輩を見れば、すべて話さなくとも結果は見える。
「そう、なのですね」
北野先輩の表情を見て東雲も引き下がる。
「ええ。そして二学期になって謹慎処分が解けた最初は学校に来ていたんだけど、登校初日から他の学生からの扱いは酷かったわ。
特に、此処は田舎の高校で閉鎖的だから余計にそうだったのかもしれない。そして、すぐに柳原先輩は居なくなってしまったの。
それから暫くして体育倉庫裏の木で首を吊って死んでいたらしいと聞いたわ」
唇を噛む北野先輩を見ると、彼女自身もまだ納得出来ていない事も多いのだろう。もしかすると、私が柳原先輩に声をかけなければ、とでも思っているのかもしれない。
そして、彼は死後も柳原事件の犯人としてされている事を考えるといたたまれない気持ちになる。
「山吹先輩……、大丈夫ですか」
山吹を心配する花山の声が聞こえる。そちらを見ると山吹の頬には涙が流れている。
山吹も自分と同じ事を考えているのだろうか。
違う事と言えば、柳原達也への思いの差、だろうか。
「えっと、山吹さん。大丈夫?」
その様子に北野先輩も心配をして声を掛けた。
「はい、大丈夫です」
その声はいつになく弱弱しい。
「勿論、辛いお話でした。……しかし、それでも、兄さんに起こった本当の真実を知れて良かったです」
涙を目に浮かべながらも毅然とした態度を取る。一方で、北野先輩は少し驚いている。
「山吹さんって柳原先輩の妹さん……?」
「いや、違う。こいつは柳原の従妹だ」
山吹の代わりに水掛先生が答える。
「それでそこまで」
何処か納得したような口調だ。
「さてお前ら。これで私の約束は達成した。これ以上なければ北野は帰すが」
「あ、相変わらず強引ですね。もう少し感傷浸りたいでしょうし」
北野は苦言を呈する。
しかし、先程までの暗い表情はどこかに行ってしまったようだ。
「ここでだらだらしていても仕方ないだろう?」
「まあ、そうですが。山吹さんの事も考えてあげないと」
「なに、こいつはそんなにやわじゃない」
「三年間一緒にいる先輩が言うなら間違いなのでしょうけど」
北野は不憫そうに山吹の方を見る。
「あ、そうだ。山吹さんに渡さないといけないものが」
再度山吹を見た途端、何かを思い出したようで、北野先輩は突然鞄の中を漁る。
そして、何かのケースを取り出す。
それを持って山吹の下まで歩み寄る。
「これ、柳原先輩に借りていたカメラなの。結局返せずじまいでだったから復活した部活の備品にでも使って貰おうと思って持ってきたんだけど。
もしよければ受け取ってくれないかな?」
山吹の前に出されたデジタルカメラのケースはボロボロになっており年季を感じさせる。
形も数世代前の物であることから、元々古かった物が更に古くなったのだろう。
山吹は少し迷った後、カメラを受け取る。
「ありがとう、ございます」
突然の代物に驚いているのか、反応が薄い。
「北野はそれでいいか? 私は仕事があるので戻るぞ」
いつの間にか扉を開け、部屋を出ようとしている。
「ちょっと待ってください。水掛先輩がいないと不審者になってしまいます」
水掛先生にそう言った後、
「山吹さん。柳原先輩は本当に良い先輩よ。彼は最後の最後まで勇敢に闘ったわ」
山吹にそう言い残し、部室を出ようとする。
その時に、
「先輩。最後に質問いいですか?」
と声を掛ける。
山吹の気持ちを考えると興味本位で聞いて良いものか迷うが、何となくこれは山吹も知っておいた方がいい気がする。
「ええ、どうぞ」
と北野先輩からの返事を貰う。
みんなの注目が集まる中、小さく息を吸い口に出す。
「どうして柳原達也は自殺をしたのに、今の学校では問題になっていないのですか。人が一人死んでいるんですよ。本当ならマスコミだって注目するかもしれなかったのに」
それを聞いて北野先輩だけでなく、水掛先輩も俯く。しかし、すぐに顔を上げてこちらに向き直る。
「柳原先輩が……、柳原先輩が遺書を残していたのよ。広めないでほしいって。これはあくまでも学校での問題だ。ってね。
勿論、この学校だけの問題で済むはずないんだけど、それでも学校側は出来る限り彼に配慮して事を収めたみたい」
「そう、なんですね」
柳原達也はどこまで自分勝手で、そしてどこまで親切なのだろうか。
そもそも、こんな田舎の学校にマスコミなどが来ることも考えにくいが、それでも枝垂町の住民には広まる可能性があったかもしれない。
学校側も問題は出来る限り隠したいだろうし、彼の遺書の文言を隠れみのとして使う事も出来る。
柳原達也はきっとそのように利用されると知りながらも自分以外の生徒を守るためにそうしたのかもしれない。
「私達は先に出るぞ」
考え事をしていると水掛先生の声が聞こえる。顔を上げて部室の扉の方向を見ると、丁度部室のドアが閉まった所であり、そこにはもう誰もいなかった。
花山もその流れに任せて
「僕達も出ようか」
と促す。
「はい」
「……ああ」
本当に山吹を部室に一人にして良いものか悩む。
しかし、ここに自分が残っても何か出来る訳ではない。それならばこの流れに乗じて部室を出る方が良いだろう。
最後に「お疲れ様です」と言い残して部室を出た。
♦︎
みんなが部室を出てからどれくらい時間が経っただろうか。頭の中の記憶を溯っているうちにかなり時間が経ってしまったようだ。
机の上に置いたカメラを持ち上げる。
このカメラは兄さんが初めて買ったカメラだ。当時でさえ中古で買った物なのだから、経過した年数よりも古く感じるのは当然だろう。
ケースから取り出すと、普段使っているものよりもはるかに大きなデジタルカメラが入っていた。
今とは違い背景モニターなどはない。
そんな旧世代のカメラを一通り眺めて楽しんだ後、カメラケースの中身を確認する。
すると、サイドポケットの中に何かがある。
持った感触から機械などではないのは分かるが、イマイチ検討がつかない。
取り出してみると、随分古く枯れており、押し花のようになっているが、シロツメクサであるのは間違いなかった。
ふと、八年前のクローバーの花畑での事を思い出す。
当時十歳だった私は今年も毎年恒例の花畑へ兄さんと行っていた。
「何があっても負けない子に育つんだ。決して諦めてはいけないよ」
そんな事を言われていたのを思い出す。
どうして急にこんな事を言ったのか当時の私は不思議でしかなかった。また、いつか聞こうと思っていた矢先、兄さんはこの世からいなくなってしまった。
兄さんがどうしていなくなったのか、どうしてこんな事を言ったのか。
当時の私には分からず、怒りや不安などが心の中に残った。その理由を見つけるためにこの高校に入学した。
そして二年と四か月という月日をかけて、私の待ち望んでいた真相はようやく解明された。
謎が解けた嬉しさに小さく微笑みを浮かべる。ようやく真実が見つかった。その感情だけで胸がいっぱいだ。いっぱいのはずなのに……。
部室には傾き始めた日の光が侵入してくる。それに照らされる時、キラキラと頬が輝いた。
その名の通り、ある女子生徒が男子生徒にストーカーされたという事ね。
そして、その女子生徒は北野花梨。そしてその男子生徒は湯田樹という人だったわ」
新たな登場人物の登場には驚かない。むしろそうでないと困るのだから。
ちらりと水掛先生の方を見る。やや後方から見た限りでは、特に動揺した素振りは見せない。
「私が初めてストーカーされているのに気付いたのは六月頃。
最初気付いた時は偶々帰り道が一緒なだけかと思ったんだけど、寄り道した時にもついてきていたから、ストーカーかもしれないと思っていたの。
そして、丁度今の時期になった頃には家のポストに手紙が届くようになったわ。流石に危険を感じて柳原先輩を頼る事にしたのよ」
ここで花山はスッと手を挙げる。
「話の途中ですみません。どうして家族や警察には頼らなかったんですか?」
「もっともな意見ね。私の家は母子家庭なの。私が幼い頃に父親が亡くなったみたい。それで、早朝から深夜まで働く母に余計な心配をして欲しくなかったの」
「そんな事情が。すみません。ありがとうございます」
花山が納得したのを確認した後、話を続ける。
「それで、元々仲がよくて、かつ絶対に犯人ではないであろう柳原先輩にストーカーの犯人は誰なのか調べてくれるようにお願いしたの。
柳原先輩はちょっと融通が利かない所はあったけれど、まっすぐな人だったから。柳原先輩にはすぐに手伝って貰えることになって、私の後方を歩いて犯人を探してくれる事になったの。
柳原先輩に助けを求めてから一週間後、柳原先輩から犯人を特定したと連絡がきたの。
その犯人はさっき言った通り、当時三年生で同じく写真部の先輩の湯田樹だったわ。
翌日、そのことを先生に伝えようと学校に行った時、学校のあらゆる掲示板に『花宮高校二年、柳原達也後輩女子生徒をストーカーか!?』という見出しの速報が張られていたの。
ご丁寧にその証拠写真までつけてね。
そんな事が起きれば嘘か誠か関係なく学校中に広まる事になるし、柳原先輩は悪い意味で有名になったのよ。
そして柳原先輩は謹慎処分になってしまったの。
勿論、真実を伝える為に動き回ったんだけど、湯田樹は学内でも人気があったし、柳原先輩はより一層立場がなくなってしまったの」
ここで北野先輩は持参していた水筒を取り出し、喉を潤す。
「それって先生達は動かなかったんですか?」
思い切って聞いてみる。
「君の言う通り私達も先生に相談しに行ったんだけどね。……先生もあまり頼りにならなかったのよ。速報の写真が本物である限りどれだけ弁明しても無理だろう、と」
水筒の蓋を占め、鞄の中にしまう。
「一つ気になるのですが、ストーカーしている写真を撮った人もストーカーしているのではないでしょうか? じゃないとそんな写真を撮れませんし」
東雲は中々鋭い所を付く。
「そうなの。それに気付いた私もその事を伝えたんだけどね」
ため息を付く北野先輩を見れば、すべて話さなくとも結果は見える。
「そう、なのですね」
北野先輩の表情を見て東雲も引き下がる。
「ええ。そして二学期になって謹慎処分が解けた最初は学校に来ていたんだけど、登校初日から他の学生からの扱いは酷かったわ。
特に、此処は田舎の高校で閉鎖的だから余計にそうだったのかもしれない。そして、すぐに柳原先輩は居なくなってしまったの。
それから暫くして体育倉庫裏の木で首を吊って死んでいたらしいと聞いたわ」
唇を噛む北野先輩を見ると、彼女自身もまだ納得出来ていない事も多いのだろう。もしかすると、私が柳原先輩に声をかけなければ、とでも思っているのかもしれない。
そして、彼は死後も柳原事件の犯人としてされている事を考えるといたたまれない気持ちになる。
「山吹先輩……、大丈夫ですか」
山吹を心配する花山の声が聞こえる。そちらを見ると山吹の頬には涙が流れている。
山吹も自分と同じ事を考えているのだろうか。
違う事と言えば、柳原達也への思いの差、だろうか。
「えっと、山吹さん。大丈夫?」
その様子に北野先輩も心配をして声を掛けた。
「はい、大丈夫です」
その声はいつになく弱弱しい。
「勿論、辛いお話でした。……しかし、それでも、兄さんに起こった本当の真実を知れて良かったです」
涙を目に浮かべながらも毅然とした態度を取る。一方で、北野先輩は少し驚いている。
「山吹さんって柳原先輩の妹さん……?」
「いや、違う。こいつは柳原の従妹だ」
山吹の代わりに水掛先生が答える。
「それでそこまで」
何処か納得したような口調だ。
「さてお前ら。これで私の約束は達成した。これ以上なければ北野は帰すが」
「あ、相変わらず強引ですね。もう少し感傷浸りたいでしょうし」
北野は苦言を呈する。
しかし、先程までの暗い表情はどこかに行ってしまったようだ。
「ここでだらだらしていても仕方ないだろう?」
「まあ、そうですが。山吹さんの事も考えてあげないと」
「なに、こいつはそんなにやわじゃない」
「三年間一緒にいる先輩が言うなら間違いなのでしょうけど」
北野は不憫そうに山吹の方を見る。
「あ、そうだ。山吹さんに渡さないといけないものが」
再度山吹を見た途端、何かを思い出したようで、北野先輩は突然鞄の中を漁る。
そして、何かのケースを取り出す。
それを持って山吹の下まで歩み寄る。
「これ、柳原先輩に借りていたカメラなの。結局返せずじまいでだったから復活した部活の備品にでも使って貰おうと思って持ってきたんだけど。
もしよければ受け取ってくれないかな?」
山吹の前に出されたデジタルカメラのケースはボロボロになっており年季を感じさせる。
形も数世代前の物であることから、元々古かった物が更に古くなったのだろう。
山吹は少し迷った後、カメラを受け取る。
「ありがとう、ございます」
突然の代物に驚いているのか、反応が薄い。
「北野はそれでいいか? 私は仕事があるので戻るぞ」
いつの間にか扉を開け、部屋を出ようとしている。
「ちょっと待ってください。水掛先輩がいないと不審者になってしまいます」
水掛先生にそう言った後、
「山吹さん。柳原先輩は本当に良い先輩よ。彼は最後の最後まで勇敢に闘ったわ」
山吹にそう言い残し、部室を出ようとする。
その時に、
「先輩。最後に質問いいですか?」
と声を掛ける。
山吹の気持ちを考えると興味本位で聞いて良いものか迷うが、何となくこれは山吹も知っておいた方がいい気がする。
「ええ、どうぞ」
と北野先輩からの返事を貰う。
みんなの注目が集まる中、小さく息を吸い口に出す。
「どうして柳原達也は自殺をしたのに、今の学校では問題になっていないのですか。人が一人死んでいるんですよ。本当ならマスコミだって注目するかもしれなかったのに」
それを聞いて北野先輩だけでなく、水掛先輩も俯く。しかし、すぐに顔を上げてこちらに向き直る。
「柳原先輩が……、柳原先輩が遺書を残していたのよ。広めないでほしいって。これはあくまでも学校での問題だ。ってね。
勿論、この学校だけの問題で済むはずないんだけど、それでも学校側は出来る限り彼に配慮して事を収めたみたい」
「そう、なんですね」
柳原達也はどこまで自分勝手で、そしてどこまで親切なのだろうか。
そもそも、こんな田舎の学校にマスコミなどが来ることも考えにくいが、それでも枝垂町の住民には広まる可能性があったかもしれない。
学校側も問題は出来る限り隠したいだろうし、彼の遺書の文言を隠れみのとして使う事も出来る。
柳原達也はきっとそのように利用されると知りながらも自分以外の生徒を守るためにそうしたのかもしれない。
「私達は先に出るぞ」
考え事をしていると水掛先生の声が聞こえる。顔を上げて部室の扉の方向を見ると、丁度部室のドアが閉まった所であり、そこにはもう誰もいなかった。
花山もその流れに任せて
「僕達も出ようか」
と促す。
「はい」
「……ああ」
本当に山吹を部室に一人にして良いものか悩む。
しかし、ここに自分が残っても何か出来る訳ではない。それならばこの流れに乗じて部室を出る方が良いだろう。
最後に「お疲れ様です」と言い残して部室を出た。
♦︎
みんなが部室を出てからどれくらい時間が経っただろうか。頭の中の記憶を溯っているうちにかなり時間が経ってしまったようだ。
机の上に置いたカメラを持ち上げる。
このカメラは兄さんが初めて買ったカメラだ。当時でさえ中古で買った物なのだから、経過した年数よりも古く感じるのは当然だろう。
ケースから取り出すと、普段使っているものよりもはるかに大きなデジタルカメラが入っていた。
今とは違い背景モニターなどはない。
そんな旧世代のカメラを一通り眺めて楽しんだ後、カメラケースの中身を確認する。
すると、サイドポケットの中に何かがある。
持った感触から機械などではないのは分かるが、イマイチ検討がつかない。
取り出してみると、随分古く枯れており、押し花のようになっているが、シロツメクサであるのは間違いなかった。
ふと、八年前のクローバーの花畑での事を思い出す。
当時十歳だった私は今年も毎年恒例の花畑へ兄さんと行っていた。
「何があっても負けない子に育つんだ。決して諦めてはいけないよ」
そんな事を言われていたのを思い出す。
どうして急にこんな事を言ったのか当時の私は不思議でしかなかった。また、いつか聞こうと思っていた矢先、兄さんはこの世からいなくなってしまった。
兄さんがどうしていなくなったのか、どうしてこんな事を言ったのか。
当時の私には分からず、怒りや不安などが心の中に残った。その理由を見つけるためにこの高校に入学した。
そして二年と四か月という月日をかけて、私の待ち望んでいた真相はようやく解明された。
謎が解けた嬉しさに小さく微笑みを浮かべる。ようやく真実が見つかった。その感情だけで胸がいっぱいだ。いっぱいのはずなのに……。
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