ゆめまち日記

三ツ木 紘

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カイセイメモリート

カイセイメモリート③

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 写真部でのミーティングから数日後。
 夕食と風呂を終え、後は寝るだけとなった時に連絡が来た。

花山:二人ともこんばんは。さっき、山吹先輩から教えてもらったよ。

 携帯電話の画面にはそう表示されていた。携帯電話のスリープ状態を解き、連絡用のアプリケーションを開く。
 開いたタイミングで東雲からの連絡が入る。

東雲:夜分遅くまでお疲れ様です。
東雲:このような時間までありがとうございました。
東雲:写真部の顧問の方はどなたでしたでしょうか?

 東雲の文字の打つ速度に驚きながらも花山の労をねぎらう。

時枝:おつかれ
花山:二人とも連絡を確認するの早いね
東雲:はい!  私ずっと気になっていたので。
花山:それは申し訳ない
花山:思っていたよりも時間がかかってしまった
時枝:で、結局の所誰なんだ?
時枝:というか、自分達が知っている先生なのか?
花山:お?  時枝も興味あるんだね
時枝:ここまで調べといて、全く興味がありませんとはならんだろ
花山:それもそうだね
花山:写真部の顧問の先生は

 少しずつ間が開く。恐らく勿体ぶっているのだろう。

花山:なんと、水掛先生だったよ

  水掛先生が顧問、か。

東雲:なんと……。
東雲:水掛先生が顧問の先生となると資料の件はどうしましょうか?
花山:んー

 悩んでいるのかまた少し間が開いた。

花山:そうだね
花山:水掛先生に直接写真部の資料を見せて貰うように頼もう
花山:その後、証拠を突き付けよう
東雲:はい。わかりました。
東雲:では、明日、水掛先生の所に向かいますか?
花山:そうだね
花山:明日の放課後、水掛先生の授業終わりを狙おう

 そこで連絡が終わる。まだ、続きがないかを確認するために暫く待つがどうやらこれで終わりのようだった。
 そろそろ寝ようと携帯電話を机の上に置いた時、部屋の扉がノックされる。「はい」と返事をすると、そこには姉が立っていた。
 その表情は随分にこやかだ。

「なんだ、姉貴。こんな時間に」
「あんたに良い情報を持ってきたよ」
「良い情報?」
「そうよ。あんた、まだ柳原事件について追っているんでしょ」
「それが何か関係あるのか」
「まあね。でも、ツンツンしている弟には教えてあげない」

 何を言い出しているんだ、この姉は。 

「じゃあ、どうしたら教えてくれるんだ」
「そうね。先輩が部活をもうすぐ引退するんだけど、その時に渡す花束って何がいいのかを教えてくれたら教えてあげる」
「そんなことか。それなら教えるだけじゃ心許ないし一緒についていってやるよ。だから、姉貴が知っている事を教えてくれ」
「言ったわね。絶対よ」
「わかったから」
「仕方ないなぁ」

  一泊を置き

「前、花高の水掛先生は元写真部員っていうのは話したわよね。その水掛先生のもう一つの話なんだけれど。
 水掛先生って、昔後輩がいじめにあって自殺した事から教師を志したらしいよ。私が教師になって生徒を救うんだ、ってさ」
「それって……」
「うん。多分そういうことだと思うよ」
「そうか。姉貴ありがとう」
「いえいえ!  こういう事はお姉さまに任せなさい」

 姉は得意げに胸をポンっと叩く。

「ところで、なんでそんな情報を姉貴が知っているんだ?」
「ああ、それはね。私の先輩の先輩が水掛先生だからよ。先輩に聞いたら色々と話してくれたわ」

 人に話した事ってこんな風に帰ってくるんだな。

「じゃあ、それだけだから。約束! 絶対忘れないようにね」
「わかったよ」

 適当にあしらいながら部屋の扉を閉める。椅子に座り、姉の話と今までの話を整理する。さて、どうやって話を持っていこうか。




 翌日の最後の授業。
 この授業の後、すぐに水掛先生を捕まえて話を聞く算段になっている。そして、この授業をする者こそが水掛先生であった。

 化学の教師である水掛先生は教科書とノートを開き、チョークを持つ。

「じゃあ、前回の復習から始める。そうだな。時枝、水はどういった結合をしているか覚えているか」

 突然の指名に驚く。よりによって当たりたくないタイミングで当たるというのは何故だろうか。

「共有結合、です」
「そうだ。この様に水素原子と酸素原子が電子を出しあい、このように共有しているから共有結合と覚えるといい」

 口頭で説明しながら黒板に模式図を記載していく。模式図を書き終えたようで、チョークの動きを止め、そのまま模式図の一部分を指した。

「じゃあ、花山。この部分を何と言う?」

 慌てた様子の花山だがすぐに答える。

「えっと、共有電子対です」
「では、こっちは?」
「そちらは非共有電子対です」
「正解だ。じゃあ、東雲。黒板に水の電子式と構造式を書いてみろ」
「え、あ、はい!」

 どこかぎこちない動きで東雲は黒板に向かう。
 偶然だろうが、こうも見事に三人を当てられてしまうと、まるで先生はお前達が今日尋ねに来るのをわかっているぞ、と言われている気がしてしまう。

 答えを書き上げて自分の席に戻る東雲の顔には、バレていませんよねと書かれている。こちらもそれに返答するように少し首を傾げて、そのはずなんだがと返す。
 それ以降は特に当てられる事はなかったが、終始何とも言えない気分だった。
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