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通じ合う想い。

ねぇ、悠人…こっちを向いて?本当は…私もね…・・・

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車を走らせて、道も空いていた為か、いつもより速くに帰宅できた悠人。静かに入り、花音を起こさぬ様に頭首が帰館した時の部屋へと赴いた。

コンコン…

『どうぞ?』
「失礼致します。ただ今黒羽、帰館いたしました。」
「お疲れ様。それで?何か分かったのか?」
「えぇ…お伝えするにはあまりにも苦しい事ではございますが…」

そう切り出した悠人を見て、頭首はデスクから離れ、ソファに腰を下ろした。

「それで?」
「実は、芹澤邸の綾様の仕向けたと言いましょうか、雇われたと言いましょうか…その方たちの犯行だった用です。」
「それはどういう事だ?」
「男たちの持っておりました携帯電話の通信履歴、その他の通信状態等、工藤に調べさせました所、芹澤邸が浮上いたしました。併せて、その足で向かい、綾様に問うてみた所ですが…」
「自白、したか?」
「えぇ。」
「しかし、その悠人の意見だけでは向うは折れないだろう。」
「ですので、携帯を渡して参りました。」
「こちらからの手はないのでは?」
「ご心配には及びません。」

そういうと、悠人は胸ポケットから細身のレコーダーを取り出した。それを頭首に差し出す。

「まぁ、一部雄聞き苦しい所等ございますが…」

そうきりだし、申し訳なさそうに言う悠人の目の前で頭首はレコーダーを再生する。その小さなスピーカーからははっきりと悠人と綾の会話が聞き取れた。

「…なるほど、確かに少々言葉に問題があるところはあるが…その辺りは何とでも言い様は付くな。それで?あちらの御令嬢とは…?」
「申し訳ございません。」
「解った。明日、私が芹澤邸に行って来よう。何、心配には及ばんよ。」

座ったまま、口角を上げ笑って見せた頭首に悠人は少し安堵の表情を見せた。

「それでもう一つ聞きたいのだが?」
「はい…」
「悠人は芹澤の御令嬢と何か接点でも?」
「いえ、花音様に着いて綾様のお誕生日のパーティーに着いて行ったっきりでございます。その際にもこれといった接点はありませんでした。」
「そうか、解った。」

そうして悠人はその部屋を後にして、自室に戻ろうとする。その前に…と花音の部屋を覗き、阿智着いた様子と解るとそっと扉を閉めていった。

翌日、いつも通りに悠人がキッチンに立つ。朝食の準備を済ませて行く中、頭首と、矢野も起きてくる。

「済まなかったね、悠人。」
「いえ…昨日夕食をして頂いてしまったので、朝位はのんびりして頂こうかと…」
「久しぶりじゃないか?」
「えぇ、何年ぶりでしょうか…」
そう話しているもののなかなか花音が降りてこない。心配になった悠人は部屋へと見に行った。

「失礼します。」
「あ…」

そう、もう降りようと支度も済んでいた花音。タイミングが悪かっただけの様だった。

「御気分はいかがでしょうか?」
「…ん、何とか…でも…」
「御無理はなさいませんよう…」
「ありがとう…」

そうして悠人と一緒にダイニングに向かう花音。扉を入ると、父と矢野が待っていた。

「ごめんなさい、遅くなって。」
「いや、大丈夫だよ。おはよう」
「おはよう、パパ…矢野さんも」
「おはようございます、花音お嬢様」
「では…」

そうして椅子を引き、悠人は座らせると従事に徹していた。普段ほど…とはいかないものの、花音も食事が摂れている様子に安心していた。

「今日、出かけてくる。その後荷物だけ取りに戻って父さん帰るな?」
「そうなの…?やっぱり短いね…」
「まぁな、でも悠人君と話も出来たし、用件は済んだから…花音も悠人君と二人のが何かといいだろうと思ってな。」
「パパ…ッ!!」
「そう焦ることはない、しっかりと傍に居てもらうといい。」
「でも…私仕事…」
「仕事なら当面休み申請を出して来ているから心配しなくていい。」
「そう…なの?」

そう話していると悠人がキッチンから出てきた。そのまま、食卓を囲む三名に食後のデザートを配ると嬉しそうにニコリと笑う。

「どこか、出かけますか?それともお屋敷でのんびりと過ごしましょうか?」
「…どうしよう…」

その時は迷っている様子だった花音だったが外の風景を思い出した途端に俯いてしまった。そう『外』というのが怖いということに今気付いたのだ。

「無理する必要はございません。少しのんびり致しましょうか。」

そう促した悠人に花音の父も矢野もまた、温かな表情を見せた。朝食を終えて、父が電話をかけていると矢野は車を拭き出している。こちらに置いてある車も、悠とがたまにエンジンを回してあるのだ。10時を回る頃、花音の父は矢野と一緒に芹澤邸に向かっていた。悠人は部屋で書類や、報告書等纏めている。そんな時だ。

ガタン…バタン!!

扉が勢いよく開き締めされる音がした。廊下に出てみると浴室からシャワーの音がする。花音が入ったのだろうか…そう思いその場を離れようとした時だった。シャワーの水音に交じって嗚咽が聞こえる…

「…まさか……」

自身の耳を疑ってみたものの、気になり戸をノックした悠人。

「花音様?どうかされましたか?」
「…ゥッ…ック…」
「開けますよ?」

部屋とは違い、さすがに一度断ってから入った悠人。そこには床に座り込んだ花音が居る。その花音にシャワーの湯は降り注ぐ。タキシードのまま入り、湯を止める悠人は花音の肩に手を置きそっと頬を撫でる。

「どうした?」
「悠…ック…」
「花音?」
「落ちないよ…私…汚れが落ちない…」

見れば、腕から胸元…足まで赤くなっている。汚れてなどいないはずだった。

「花音…落ち着いて?」
「こすって…洗っても…何度も洗っても…!あの人達の感覚が消えない…どうしたらいいの…ぉ?」
「花音…ッツ」

堪らずに悠人はそっと口唇を重ねる…ゆっくりと、何度も重ね合った…

「花音…大丈夫…怖くない…」
「悠人…」
「俺が愛してるから…落ち着いたら出ておいで…」

そう言い悠人がその場を離れようとした時だった。背中にトンっと軽い衝撃が届く…自分の腰には細い腕が回ってきていた。

「か…のん?」
「悠人…ッ…」
「どうした?」
「悠人に……消してもらいたい…」

そう呟く花音の声は、しっかりと聞かないと聞こえない位に小さな声だった。そんな声に、悠人の理性がプツリと音を立てて、どこかで切れた…
フワリと抱き上げ、そのまま悠人は自分の自室に花音を連れて行き、内から鍵をかけ…ベッドにドサリと降ろすとそのまま唇を重ねる。幾度となく…綾の時とはまるで違い、何度も何度も…離してはまた…息もつかない程に重ね合い、悠人の舌は花音の口唇を割り込んだ…

クチュ…チュ…クチュ…

悠人の舌は器用に花音のそれを絡め取っていく。ゆっくりと離れた時には、二人の間を銀糸が繋げていた…

「花音…怖くないか?」
「ん…」

そう呟いた花音を見て悠人はそっと体を起こした。眼鏡を外すと、フッと息を吐く。

「悠…と?」
「無理なんてしなくていい…傷が深くなるだけだ…」
「無理なんて…」
「本当に愛おしいと思える人と…ッ?!」

そう言いかけた悠人の腰に腕を回し、肩口に凭れた花音。

「私…私だって…その…」
「花音?」
「悠人の事…好きだよ…?」


ウソダロ…  コンナコト…    

花音が…?


その不意打ちにも似た告白に多少の戸惑いを見せた悠人。そんな悠人の体の向きを自身に向け直すと眼鏡に手を伸ばし、そっと外す…そのまま震える口唇を触れるかどうかにギリギリまで近付けて、恥ずかしさから俯いてしまった花音。

「タク…」

小さく呟くと悠人は腰に腕を回し、抱き寄せると花音の口唇に自身のそれをふわりと…優しく…愛情を伝えるかのように重ねた…

「俺も…愛してる…・・・・花音……」

そう言い残してゆっくりとベッドに再び押し倒した…・・・・
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