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悠人の、願い。

頼むから…俺を信じて…・・・ あんまり俺を怒らせると…死ぬよ

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悠人の事までをも拒絶をする花音。怯えきった目で悠人を見ている。そっと近くまで近付く悠人に震える花音。しかしそんな目にも気に止めない様子で悠人は近付き、ベッドの縁で足を止めた。

「花音様…」
「嫌…やだ、…来ないで」
「そうもいきません。」
「放っておいて…お願い…近寄らないで…」

気付けば花音の頬に涙の跡が伝う…

「チ…泣かせたくねぇのに…」

ポツリと呟くと、悠人は瞼を一時閉じ、ゆっくりとあける。

「花音様…良く見てください。」
「嫌…」
「フゥ…」

なかなか戻らない悠人と花音の事が心配になったのか、廊下には花音の父と、矢野も来ている。そんな事には気付く事もないまま悠人は行動に出た。眼鏡を外し、一歩…また一歩と花音に近付く。

「嫌…来ないでぇ…」
「花音…」

ギシリとベッドに膝を着いて乗ると逃げ場を失った花音に対し、真正面からふわりと抱き締めた。

「やぁ…」
「花音…聞いて…大丈夫…今ここに居るのは俺だから…」
「…ン…やぁ…」
「嫌なら振りほどけばいい…でも頼むから…少しだけ俺を信じて…」
「…ック…ゥ…」
「大丈夫…落ち着いて…心配いらないから…今、花音の目の前に居るのは…間違いなく俺だから」
「ゆう…とぉ…」
「うん、俺だよ…?大丈夫だから…心配しないでいい…ここも花音の家だから…」

フワリと包み込んだまま悠人は花音の頭を撫で、そっと…軽く…背中をさすり続けた。その様子を少し開いた扉から見ていた父と矢野は、何も言わず、その場から離れリビングに戻った。

「…時に、矢野。」
「はい、旦那様?」
「あの二人は…いや…あの二人の事、どう思う?」
「どう、と言いますと…」
「いや…花音はどうか解らないが…」
「『悠人は完全に執事以上の感情に変わりつつある』かという事で御座いましょうか?」
「やはりそう見るか…」
「釘でも刺しておきましょう。申し訳ございません。」
「謝る必要はない。どう言ったとしても、お互い普通の人間なのだ。私が妻に惚れたのと何ら変わりなどない。ただ…あの二人には越えなくてはならない壁が高すぎる…それを『何もなければ』花音も受け入れたかもしれないが…今のこうなってしまった現状で…どうなるか」

矢野もどう答えを返したらよいのか迷っていた。

「しかし、花音お嬢様はまたなぜあの様な…」
「それは時期に解るだろう。黒羽があの目をしたのなら…」

そう、花音の父は解っていた。自身達が出るのは今ではないというのを。そしてその男たちの雇い主が居るという事…そうでなければ、単純な誘拐であるならば、とっくに身代金の話が出ているだろう。それが一切ないのだからと…

「今回の話し合いは延期になりそうだな。」
「そう…なりそうでございますね。」

そうして顔を見合わせて矢野は立ち上がった。

「夕食の支度でも致しましょう。」

そうひと言残して、立ち慣れているキッチンへと向かっていった。そうこうしている間に花音の父はアメリカに居る母へと連絡を取っていた。

「あぁ、詩音か?私だ。実は……」


その頃の悠人はというと相変わらず花音に付きっ切りだった。一旦は落ち着いたものの、今度は別の意味で荒れ始めていたのだ。

「悠人…離れて…」
「なぜ?」
「だって…私…」
「どうした?」
「……。。ナイ」
「ん?」

花音の消えそうな声に耳を寄せて話を聞こうとする悠人。しかし、せきを切ったように話し出した花音の言葉は止められなかった。

「私…き…たないから…」
「そんな事ない」
「だって…何度も何度も犯されたのよ!!何回も舐められて…触られて…!!」
「花音…」
「ほんとなら…悠人も思ってるでしょ!本当は触りたくないでしょ!!」
「花音…!」
「いいのよ!放っておいてよ!もう私なんて死んだ方が…!」
「花音!!」

グイっと引き寄せた悠人はそのまま花音の口唇を塞いだ…顔を背けようとする花音の口唇を離させまいと何度も角度を変えては悠人は口唇を重ねる。

「ンン…チュ…」
「ン…フゥ…・・チュク」

フッと花音の力が和らいだところで悠人はやっと、その口唇を解いた…流れる涙を拭うと悠人は至近距離で話始める…

「良く聞いて、花音。汚くないよ。大丈夫、俺は知ってる。花音は汚くなんてない。」
「汚い…よ。何度も指入れられて…沢山…かけれて…身体中…」
「もう思い出さなくていい。忘れろ…」
「無理よ。…私は…あんなの望んでなんか…好きな人と……なのに…舐められた感覚も…」
「花音、俺を見て。俺の話を聞いて…忘れろ。」
「出来ないよ…ぉ」
「なら…俺が忘れさせてやる…」
「悠人…?」
「……好きだ」

突然の悠人の告白に、花音は戸惑いを隠しきれずにいた。

「ゆう…と…なに言って…」
「どうもこうもない。俺は花音が好きだよ。」
「だって…私は…汚いし…それに悠人は執事だし…他の男に汚されて…」
「花音、もう黙って?」

そう呟くと悠人はそっと花音の頬を包み込みゆっくりと…顔を近付けた。


拒まれたら終わりにしよう…

このキスを遮られたら…
口唇が重なることがなかったら…

もう自分の気持ちを止めてしまおう…

一層の事、自身の心を殺してしまおう…


そう考えながら、悠人はそっと口唇を寄せる。そのまま、悠人の心を知った上で、今までのような強引さもないまま…花音と悠人のそれは優しく寄り添うかのように重なりあった。ゆっくりと離れると悠人は額をコツリと当て小さく笑いかけた。

「まだ…俺が怖い?」
「…悠人は…平気なの?こんな汚い私でも…」
「汚くなんてない。…もう一度聞くよ?花音はまだ俺が怖い?」
「怖くない…よ」

しかしそういう花音もまだ、少し震えていた。そんな花音を再度ふわりと包み込むと悠人は話し出した。

「花音の中で愛おしいと…心からそう言える相手が見つかるまで、俺がずっと傍に居るから。男としても、…執事としても。」
「悠人…あの…」
「無理はしないでいい。今までと何にも変わりはないから。」

そういうと、そっと体を離す悠人。少し落ち着きを取り戻した花音を見て頭を撫でると『少し休むといい…』と一言残し、部屋を後にした。

その足でリビングに戻ると花音の父が一人いた。

「大変申し訳ございません。…頭主…」
「構わんよ、して、花音は休んだのか?」
「はい。遅くなり大変申し訳ございません。」
「それは構わない。今回こちらに来た件も、前もって話してある通りだ。花音、および君の年間計画の事だからな。」
「存じております。」
「とは言っても、花音の仕事はシフト制とのことだからそれは店側とうまくやってもらえれば構わない。今回の件、店舗への連絡は?」
「まだでございます。店長である結城様のシフト時間も聞いておりますゆえ、それ以降に赴こうかと。」
「そうか。その時に私も一度行ってみようか。花音の働く場所の店主に挨拶もしていなかったからね。」
「かしこまりました。」
「それから、NDLの任務はひとまず休止としよう。とは言っても、来月の終わりに大一狩してもらわなくてはならない。その任務はしてもらうがね。」
「いえ、そちらの件は今まで通り、依頼が通りましたら受けさせていただきます。」
「無理は…ないか?」
「無理、とは何に対してで御座いましょうか?…大丈夫ですよ。問題はございません。」

そういうと悠人は花音の父にフッと笑いかけるかのように返した。ふと時計を見ると、花音の勤め先の店長の出勤時間になっている事に気付いた悠人は電話をかけ始めた。

『お電話ありがとうございます。星屑のアトリエ、結城でございます。』
「いつもお世話になっております、夏目花音の家の者でございます」
『あ、夏目さんの?はい、店長の結城です。どうかされましたか?』
「後でそちらに行ってお話しさせて頂こうかと思いますが、明日から少し、休暇を頂きたく思いまして。」
『そうでしたか、休暇といいますと2~3日ですか?』
「いえ、そういったことも含めまして、後程ご挨拶にと…」
『そうなんですね。解りました。』

そうして電話は切れた。その電話を聞いていた花音の父も立ち上がり、フッと息を吐く。キッチンにいる矢野に声をかけた。

「矢野。少し出かけてくる。」
「でしたらお車を…」
「いや、いい。悠人に出してもらうよ。」
「畏まりました。花音お嬢様はいかがなさいますか?」
「花音は置いていく。様子変わったら連絡してくれ。」
「はい。それではお気をつけて…」

そうして花音の父を乗せた悠人の車は店舗に向かった。それほど時間が掛かる事もなく店舗には着く。相変わらずタキシード姿の悠人は目立つ。店舗に入って時期に花音の幼馴染の那智が気付いた。

「いらっしゃいませ!…あら、おじさん!お久しぶりです。」
「那智さん…だったな。元気そうで何より。」
「いつまで日本にいられるんですか?」
「まぁ、すぐ帰国になると思うけどねぇ。」
「そうでしたか、花音も喜んでるでしょ!…ごゆっくり。」

そうして悠人にもにこりと笑いかけて那智はその場を離れていった。カウンター側から一人の男性が近付いてくる。そう、結城だった。

「お待ちしてました。」
「いつも花音がお世話になっております。父の夏目修と申します。」
「いえ、こちらこそ…ではこちらへ…」

そうして奥の事務所に通された二人。意外にきれいにされている。

「それで…今回夏目さんがお休みという事なんですが…」
「えぇ、実は…休暇の復帰が目処が立っていない様子でして。」
「もしかして…入院とかされたのですか?」
「いえ、そうではないのですが…決して口外なさいませんよう宜しくお願い致します。」
「…えぇ、どうしました?」
「黒羽…、私が話そう。…実は、本日、昼前でしょうか。出かけ先にて娘が連れ去られまして。その際にレイプされました。その為心のケア、また、恐怖心を取り除くのに時間が掛かる…そういった次第にございます。」
「…ッ?レ…イプですか?」
「えぇ。隠しても仕方のないこと。隠されて休み申請だけ押し通すというのも道理が通りません故、お話しさせていただきました。」
「…そうですか……」
「そこで、急ではあるのですが、無期限にてご検討願えれば…と思っております。如何でしょうか。」

突然の父親からの申し出だった。戸惑った様子の結城も返事に詰まる。

「わ…かりました…では、一時休暇扱いにさせていただきます。その後に復帰が可能であるのかどうか…お話しさせていただく形でいいですか?」
「かしこまりました。」

そうして話し短に終えた二人は店舗を後にする。何も知らないスタッフや那智も笑顔で見送ってくれる。そんな空気感に花音の父も少し安心したような、しかし何か引っかかるような感じがしていた。帰り道、悠人は花音の父におもむろに話しかけた。

「…頭首…」
「何だ?どうした?」
「…今日明日中に…調べ上げさせて頂きます。ただ…その後ですが…」
「悠人、君はどうしたい?」
「相手にもよりますが…殺しはしません。相手の望みがどういう事なのか…それはしっかりと表に焙り出します。その上で、判断を一任頂ければ…そう思います。」
「『殺しはしない』…さっきそういったな?」
「はい。」
「その約束…それだけは守れるな?」
「もちろん。そうさせて頂きます」
「だったら構わん。好きにしろ。ただし、どうしたにせよ、その後の報告だけは、確実にする事。いいな?」
「かしこまりました。ありがとうございます。」
「しかし、悠人…君も変わったな。」
「そうでございますか?」
「あぁ…クスクス」

今日初めてではないだろうか、花音の父が優しく笑いかけた。屋敷に帰り、扉を開けて時期に走り出す音が聞こえる。そう、花音が走ってやってきたのだ。そのまま父の目の前で悠人の腕の中に飛び込んでいく。

「ゆぅ…ッ!」
「どうされました?」
「一人は…嫌…」

そう言い震えたままの花音をふわりと抱き上げた悠人は父に会釈をして部屋に連れ戻る。そんな様子を見た花音の父と矢野は顔を見合わせるとリビングへと入って行く。

「今はやはり…NDLの仕事は避けた方が良いのかも知れないな。」
「旦那様…」
「悠人は『大丈夫だ』と言ってはいたが…花音があの様子では…それか…」
「どう致しましょうか?」
「詩音を…呼ぶか…」
「しかし奥様も色々とあるのではございませんか?」
「…確かに…そうだな…」

そうした話をしている間、悠人と花音は自室にて落ち着かせていた。

「大丈夫です、花音様の職場に行ってきただけの事ですから。」
「悠人…」
「大丈夫です、一人に等させませんから。」
「でも…」
「今は未だ外に出られるのは困難でしょう?」
「そんな事…ないよ?それより悠人が居ないほうのが…いや…」

そういう花音の体を離して悠人は目を見つめて話し出した。

「大丈夫だ…離れていたとしても、必ず花音の元に帰ってくるから。心配はしないでいい。大丈夫だから。」

そういい笑いかけた。その笑顔に安心したのか、横にならせると花音はすぅ…と眠りに就いた。
その様子を見届けて悠人は部屋を出る。そこに待っていたのは矢野だった。

「旦那様よりご伝言でございます。皆で夕食を食べようとの事にございます。」
「しかし…」
「差し出がましくも、この矢野。夕食の支度を整わせていただきました故、皆様で頂きましょう。」
「すみません。」

そうしてダイニングに向かう矢野と悠人。そこには花音の父が待っていた。

「花音は?」
「はい、先程お休みになられました。」
「そうか。せっかく矢野が支度をしてくれたのだ、頂こうか。」

そうして珍しくも三人で食卓を囲む。話題はほとんどが花音の話になる。食事も済ませた後、悠人は『少し出てきます』と伝え、屋敷を後にする。向かった先は工藤のもとだった。

「連絡してから早ぇよ。来るのが。」
「悪いな。これ、調べてくれ。」
「何で俺が。」
「俺がその追跡システムを持っていたら借りはしない。」
「まぁ、俺のこれは仕事にも使うようにある程度深追い出来るタイプにされてるからな。」
「だから頼みに来た。すまない、頼む。」
「…ハァ…で?何を?」
「この送受信の相手を知りたい。」
「分かりやすいな、依頼が。」
「どの位で解る?」
「バカか、俺を誰だと思ってる。」

話ながらも工藤は花音を連れ去った男が持っていた携帯の解析を始める。すぐに解析は終了。番号を割り出し、その位置情報を確認すると悠人の目付きが変わった。

「解った、サンキュ、陣。助かった。」
「まぁ、何となく粗方の事は弘也から聞いてるけど。無理はするなよ?」
「なにがだ?こいつ相手に無理も何もあるか。」
「まぁ、にな?」

そういわれながらも背中越しに手を振り、悠人は帰って行く。車に乗り込むと、車を出す前に花音の父に電話をかける。

『はい、夏目』
「悠人です。もう少し時間を頂いてよろしいでしょうか?」
『それは構わんが。また帰宅前には連絡を…』
「勿論でございます。ありがとうございます。」

そうして短い電話も切れると、悠人はその足で、とある屋敷に向かった。それは、一度、花音と訪れた『芹澤邸』だった。

ピンポーン…

『はい?』
「突然の訪問申し訳ございません。私、夏目花音様の執事をしております、黒羽悠人と申します。芹澤綾お嬢様、ご在宅でございますでしょうか?」
『少々お待ちくださいませ。』

そうして出てきた綾。門があき、中へと通して貰った悠人は促されるまま中に入って行く。リビングに通して貰うものの、悠人は彩に向かってまず、一言申し入れをした。

「申し訳ございませんが、全てお人払い願えますでしょうか?」
「え?それはどうして?」
「あなた様と内密にお話ししたい事がございまして、本日参った次第ですので。」
「人払いと言っても…ここには見ての通り久我しかいないですが?」
「えぇ、存じております。解った上で申しております。」
「何故…でしょうか?」
「それは久我様にもお教え出来かねます案件にございます故、申し訳ございません。」
「…わかりました。人払い…というより私たちが移動しましょうか。」

そういい綾は久我に行先を告げぬまま、悠人を連れて書庫へと向かった。

「ここなら誰も居ないわ?それで…私に話って何かしら?」
「一度しか言いませんので、ようお聞きくださいませ。」
「…何?」
「二度と、今回のような真似事はなさいませんよう…」
「今回…って。…一体何のこと?」
「…そうですか。では…」

そういうと悠人は2台の携帯をそこに出した。しかし表情は変わらない。

「何ですか?その携帯。」
「…ほぅ…。でしたら…」

そう切り返すと悠人はあの男たちと繋がるものとのやり取りのメールを表示する。その画面を見せた瞬間だった。綾の顔が一瞬曇った。

「さて、このメールに見覚えはございませんか?」
「…そんなメール…知らないわよ!」
「先ほどまでの落ち着きはどこへ行ったのでしょう?…最後ですよ?…二度とあんな真似はしないで頂きたい。」
「だから……!!何の事よ!まったく…解んないわ!」

そういいながら悠人に背中を向けた綾。その腕をグッと掴むと書庫の本棚に押さえつけた悠人。綾との距離は極近くなった。

「いい加減にしろ…あんまり俺を怒らせないでくれ。」
「…悠人…さん?」
「……じゃないと…あんた、死ぬよ?」

その目を見た綾はゾクリと寒気すら感じた。どうにもならずに綾の体から力が抜けていく。

「そ…んなに。……そんなに花音が好き?」
「好きかどうかはあんたには関係ない。」
「私は好きよ…悠人さんが…」
「知らねぇよ。俺はただ、花音様が大切で傷付けるものが許せねぇんだよ。」
「そんなこと…!」
「うるせぇな…」
「私はあなたが好きよ。花音よりも!あなたの事が好きなの!」

その言葉を聞いていた悠人は再び本棚に綾を押さえつけた。

「あんたの愛情なんて要らねぇから。」
「そんな…」
「くだらねぇ。甘ったるい感情なんて要らねぇよ。」
「そんなに花音が大事なら…もぉ邪魔なんてしないから…ここでキスして」
「は?何の意味がある?」
「意味なんてない…ただ…一度も悠人さんに触れられないままなんて…嫌だ」
「それで結果的には花音を傷付けるだろう」
「約束する…花音を襲わせた男たちの事も謝るわ…だから…」

しっかりと腕を握りしめた状態の綾。小さく舌打ちをした悠人は俯く綾の顎を持ち上げて口唇うぃ重ねたものの、すぐに離れ距離を取った。

「これで満足?もう二度と関わるな。」
「…ッ」
「もし仮に次があったら…あんたは確実に俺が殺すよ?」

口唇を噛みながら、綾はその場に座り込んでしまった。そんな綾に目も留めずに悠人は書庫から出てきた。久我と出会うと悠人はニッと笑い、眼鏡を外す。

「お嬢様なら、地下の書庫においでです。」
「貴様…何もしてはいないだろうな…!!」
「その言葉、そのまま返そうか。自身の仕えるものなれば、しっかりと目を光らせておいてくれ。」
「それはどういう事だ…」

そう聞き返す久我に対して、悠人は袋に入れたままの携帯を差し出した。

「先程、綾様にお返しそびれました故、預けておきます。」
「…これは一体…」
「さぁ、疑問に思われるなら直接自分で確認なさいませ。」

そう言い残して悠人は芹澤邸を後にした。車に乗り込んだ時点で、花音の父に電話をかけ、今から帰る旨を伝えると急いで車を走らせて帰路に着いたのだった。
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