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アイヲ、キミニ。
Zero of the Area…
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それからホスト時代に貯めた金額の2/3の額は言っていた通り施設に入っていた。それの残りと言ってもかなりの額が陵透の通帳には残っている。それをもって、ホストを辞める事にした。そんな陵透が『透』としての最後の日の前日…凛音からラインが入ってきた。
『明日、桜ちゃん用事ある?』
『凛さん…突然すぎますけど?そして時間にもよります!』
『17時~19時位でいいんだけど。』
『夕方…ですか。何があるんですか?』
『陵透の送別会。』
『送別会!?』
そう返事を入れると直ぐに凛音から着信が来た。
「もしもし?」
『桜ちゃん?明日、どうかな?』
「どうって…陵透の送別会ってホストクラブでしょ?」
『まぁ、そうなるけど。桜ちゃん18才でしょ?』
「はい。そうですが…』
『お母さんに聞いてみて、それで大丈夫なら俺迎えにも行くし。』
「でも私行かなくてもお客様いるし。私行っても陵透の売り上げにならないよ?」
『問題ないよ。それに、桜ちゃんで料金かかったら陵透につけておくから』
クスクスと笑いながらも『返事待ってるから』といい通話は切れた。リビングに行き桜は母に今の電話の事を告げた。
「でも、美堂さんの送別会って…」
「うん。ホストの業務を辞めるのが明日なんだって。だから最後に遊びに来るかって。」
「その場所ってホストクラブとか?」
「そぉなるかもって言ってた。やっぱお断りした方がいいよね。お祝いなら明日じゃなくてもいいし。」
「…ハァ……何時からなの?」
「17時からだって…2時間位って。」
「良い?21時までには帰ってくる事。お酒には手を出さないこと。約束してね?」
「…え、…行っていいの?」
「最後の姿なら見てきてもいいんじゃない?お父さんには内緒ね?」
「ありがとう!!」
嬉しそうに桜は部屋に戻りながらラインを入れる。
『良いって!17時~なんですよね!』
『そう。だから16時半には迎えに行くよ。』
『どんな格好がいいんでしょうか、そんなドレス的なのない…』
『大丈夫。普段着で!』
そう言われながらもかわいい感じのワンピースを出した。
「これでいいかな…」
そう呟きながらも桜は緊張していた。そんな時だ、ラインが再び入ってきた。
『あ、陵透には話すなよ?あいつの驚いた顔みたいから。』
『え、そぉなの?』
『もちろん!!!それと桜ちゃんには大役を用意してる!』
『大役…って!』
『秘密、明日のお楽しみだな』
そう言われて桜は陵透に『明日行くからね!』と言った、話したい気持ちを抑えて明日を待った。
翌日、時間もどんどん過ぎていく。大役ってなんだろう…私が行って浮いたりしないだろうか…そんな事を考えているとラインが入り、桜は母親に声をかけて出掛ける。
待ち合わせの場所は家から極近いコンビニだった。待ち合わせで迎えた凛音は笑っている。
「うん、可愛い」
「フフ…ホストっぽい言葉…」
「だって俺ホストだもん?」
「『もん』って…」
「はい乗って?あんまり遅いと疑われる…」
「疑うって…」
「ほら!」
急かされながらも、桜は凛音の開ける助手席に押し込まれる様に乗り込む。そうして車を走らせる凛音。その間もいつも通りに心地よい洋楽が微かに流れていた。この凛音の横顔を見るのも桜は何度目かだった。
「…?どうした?」
「いえ…相変わらず凛さん…きれいだなぁって思って…」
「ありがとう。」
「それを否定し無いのも凛さんらしい…」
「小さんはありがたく頂くものだよ?」
笑い合いながらも車は店舗に着いた。
「今の時間なら陵透もいる場所はだいたい予想は付く。それなら…」
「凛さん?」
そうして凛音に誘われるままに裏口から入る。予想通り今のこの時間…スタッフは居なかった。そのままVIPルームに連れて行くと桜にこのまま少し待つように凛音は、下のフロアに向かって降りて行った。その瞬間にフロア内のスタッフも一同に頭を下げる。
「なんか…すごいんだなぁ…」
そう思いながらも身を隠すように桜は座りなおした。
一方、凛音はスタッフが全員そろっているのを確認して召集をかけ、あいさつを済ませる。
「じゃぁ、透からも…」
「何言うんだよ…」
「まぁそれなりに?」
「えーと、今日は通常の営業というよりも完全なるパーティーです。とはいっても、僕の送別会…との事…本当に今まで長い間教えて頂く事もあり、教える事もあり…毎日が驚きや感動や…そんな事が続く毎日でした。若い新人の人も、これからもっといろいろと学びとって下さい。そして、凛からも、誰からでもいい、姫をたくさん喜ばせてください。」
「透、案外なげぇな。」
「うるさい。」
笑いが生まれながらもスタッフへの挨拶も終えた。そして少し時間も押して開店となる。頃合いを見計らって凛はドリンクを持って、桜の居るVIPルームへと向かった。
コンコン…
「入るよ?」
「あ…凛さん。」
「どう?ここから透見える?……はい、これ。」
「ありがとうございます!…はい、陵透見えるけど…なんか、本当にすごいんですね…いつも見る陵透とは全く違う…」
「まぁ、そうだろうな。横、いい?」
「はい」
そうして凛は桜の横に座った。最近見た凛音とも違う、ホスト・凛としての風貌に桜は少しドキドキとしていた。そんな中、凛は重大な役目の事を話出す。
「そう言えば…もうじき桜ちゃんの出番な?」
「え?私の出番って…」
「うん。送別会と言ったら花束贈呈!みんなの見てる前でサプライズ登場して、透に渡してもらおうと思って。」
「ふぇ!?!?何…私そんなのできないよ!?」
「大丈夫!相手は透だから。」
「そうはいっても…」
確かに形は自分の愛おしい相手だが、その中身は今日初めて接するホストバージョンなのだ。知ってはいても、初めてコンビニで会った時も、口調は陵透だった。それが突如『透』を目の前にするという。このある意味無謀とも取れる凛の言い分に桜は戸惑ったがそれでも『やってみる』と返事をした。
「良し。それじゃぁ…行きますか?」
「は…い……」
そうして透にばれない様に部屋を出て降りていく。入口手前で桜に大きな花束を渡すと凛は、そこにいる2人のドアボーイに声をかける。
「俺が合図したら、開けてやって?」
「はい!」
「桜ちゃんも。自分のペースで降りてきてくれたらそれでいいから。ゆっくりでいい。」
「……」
「緊張してる?」
「そりゃしてますよ…こんな大役…」
「大丈夫だよ。桜ちゃんなら…」
そう言い残して凛もフロアに降り立った。時間はもう早いもので1時間が過ぎていた。そんな時、凛はマイクを持った。
「えー、お楽しみの所申し訳ございません。ここで…少し早いですが、透にサプライズを用意致しました。」
そう言う凛の声掛けに辺りはざわついた。凛が仕込むサプライズ…一体どんなものなのだろう。そう言った興味もありつつ、あたりを見渡す。しかし、サプライズと言っても何も変わっている様子は無かった。
「それでは…登場してもらいましょうか…お待たせいたしました!」
その合図とともに、ドアボーイはキィ…と扉を引いた。するとそこには桜が立っている。大きな花束を抱え、1段1段しっかりと、こけない様に踏みしめながら階段を下りてくる。
「さ…くら?」
透は自分自身の眼を信じる事が出来ずにいた。こんな所に居る訳無い…この時間に…この場所に…いくら自分が今日で透を辞めるからと言っても、桜から何も聞いていない。たどたどしくもありながら初々しい桜に近付いてエスコートしたのは凛だった。その様子でも、その場に居た殆どの女性やホスト達も驚いていた。
「うそぉ、あの子何者?」
「私も凛さんのエスコート受けたいー!!」
「…にしても、誰?」
「いや…知らない…凛さんの手配ってこの事か?」
しかし、聞こえてくるそんな声は全く気にしないで凛は腰に手を回しながらも透の元に連れてきた。
「どう?驚いた?」
「凛…おまえ…てか…なんで…」
「えと…透さん…今日までお疲れ様でした…」
そう言いながらも恥ずかしそうに花束を差し出す桜。それを訳も解らないままに受け取った透。まだ色々な疑問が頭の中を駆け巡っていたのだった。
「透の1番の姫君です。どうぞ、温かい目で…」
そう凛が言い終わるが早いか、フロアは黄色い歓声で埋め尽くされた。そう、透は桜を抱き締めていたのだ…あれほど今までホストとしてやってきた透が1度も自分から抱き寄せる等無かった。それは誰もが周知していた事。それなのに突然透が女の子を抱き締めた事に驚いているのだった。
「ちょ…っ!!!陵透…ッッ」
「最高の最後だ…」
「そんな…ね…みんな見てる…」
「構うか…」
花束はサイドテーブルに置かれたまま両腕はしっかりと桜を抱き締めていた。そんな2人を写真に収める者もいた。ゆっくりと腕を緩めた透は小さく笑い、頬を撫でる。
「正直驚いた…でも来てくれてありがとう」
「ううん。凛さんにサプライズでって…昨日呼ばれた」
「それじゃぁ今日凛が遅かったのって…」
「お迎えに来てくれてた」
そう話していると後ろから声をかけられる。
「写真!!!撮るぞ?!」
「桜もおいで?」
「え…でも…」
「いいから、おいで?」
そう言いながらも透はそっと桜の腰を抱いてエスコートしながらも中央に位置した。他の姫方もいる中、誰が居ようと関係ないと言わんばかりに透は満面の笑みで写真に写った。この写真は姫方の間でも貴重な1枚ともいえるものだった。
こんな温かで、柔らかい表情の透を見た事が無い…
どれほど望んでも、いつもどこか距離がある様な…そんな雰囲気だったのに…
何よりも、幸せそうな透の顔、これを見れるとあっては、それに勝るものは無かったのだ。
この集合写真の他にも、様々なショットを撮っていた。あまり写真に写る事の無かった透もこの日が最後とあって申し出がある時には常にフラッシュを浴びていた。桜が来て2時間が経とうとした頃だ。透は凛に相談していた。
「なぁ、僕が抜けるのはマズイ?」
「まずいだろう?…今日の主役だぞ?」
「そうだよな…」
「桜ちゃんなら俺が送りに行ってくる。そろそろ送らないと、まずいだろう?」
「いいか?頼んで…狂気に満ちた姫も所所に居るし…」
「だな…でも桜ちゃんどう引き離す?」
「任せろ」
そう言うと透は桜の元に向かっていった。
「桜?」
「あ…えと…」
「そろそろ時間だろう?かぼちゃの馬車が待ってる…」
「ふぇ?」
そう言うと凛のいる方を合図した。時計を見ると来てから2時間が過ぎていた。
「そっか…うん…解った…」
「心配するな。僕は送れないけど…」
「主役だもんね?!」
「ごめんな?」
「大丈夫!凛さんに送ってもらうから…」
ニコリと笑いかけると桜は立ち上がった。透の元から離れ、凛の元に行くと桜は凛に頭を下げた。
「すみませんが…送って頂けるとの事…本当にありがとうございます。お願いしてもいいですか?」
「もちろん。もう出れる?」
「はい!」
そうして顔を上げた桜。その顔に凛も笑い返していた。階段を上がりかけた時だ。
「凛!!」
下から透が呼びとめた。にっと笑うと何かを投げようとしていた。
「落とすなよ?!」
「は?!何…ッ!!」
キレイな弧を描き、きらりと光るそれは、凛の元に真っ直ぐに向かってくる。それを受け取ると凛は手のひらの中の物を見て笑っていた。
「自分で渡せっての…」
そうしてポケットに入れてその場を離れた。車に乗り込みシートベルトをすると、発信する前に凛音はさっき透から投げて渡された物を桜に手渡した。
「あの…これって…」
「ウチの店ではさ?年間売り上げでNo1を取ると、その称号をピンズにするんだ。それは次の1年は付けてその年間No1の発表と同時に返却か、維持かになる。それと別に良く○○ニスト的な物で聞いた事あると思うけど、殿堂入りっての、知ってる?」
「はい…ベストジーニストとか、いろんなのにつかわれる、あれですか?」
「そう。うちにもあてt、5年間続けて年間No1を取り続けるとキングの称号を貰えるんだ。それを示すのがこれ。」
そういい指さした先には桜の手に光るものだった。中央に埋め込まれているのはダイヤモンド。クラウンのような形にも見えるそれを、透は桜に渡したかったのだろう。
「そんな大事な物…もらえません…陵透がやってきた功績…」
「だからじゃないかな?あいつがやってきた事だから、桜ちゃんに渡したかったんだろう。貰っておいたらいいさ」
「…いいのかな…」
「それは返却規制は無い。だからあいつの好きなようにしたらいい。」
そう聞いた桜は胸の前でキュッと握りしめて、瞼を閉じ、そっと俯いた。車を走らせて道の込み具合をうまく避けられたせいか思ったほどかからずに帰宅した。
「今日はありがとうございました。本当に色々な経験できて…」
「いや、良いさ。楽しめたなら…」
「本当に!!」
そう言いながらもクシャリと笑った桜。しかし次の瞬間顔が曇った。
「でも…本当にお金…いいんですか?」
「ん?あぁ、いいよ!」
「でも前回のお茶した時も…」
「大丈夫だって!気にしない…」
「むぅぅ…」
俯いた桜に『それなら…』と呟き凛音は頬に腕を回した。
「え…?」
軽く触れるだけのキスを重ねた凛音。突然の事で桜はされるままだった…ゆっくりと離れると凛音は桜の口唇を親指で拭い、ふわりと笑った。
「これで十分。」
「…ッッ…」
「…さ、そろそろ時間遅くなるといけないから…」
「はい……」
そうして車を降りる桜。凛音も一緒に降り、運転席側から天井に凭れ、手を振っていた。
「お休み!」
「おやすみなさい」
しっかりと玄関を入りきるまで見送った凛音は運転席に戻った。シートベルトをする前にぐっとシートに凭れて腕で目の前を覆う。
「…ばっかだな…陵透の相手だってのに…キスするなんてな…」
そう呟いた時だった。携帯が鳴り後輩からの早急帰宅を伝えられて車を発進させた。
「遅い、凛」
「わり、透が渡したものの説明とか?いろいろあって。」
「そっか…悪かったな。助かった。」
「いえいえ。」
そうして送別会に凛も戻り、宴は続いた。
『明日、桜ちゃん用事ある?』
『凛さん…突然すぎますけど?そして時間にもよります!』
『17時~19時位でいいんだけど。』
『夕方…ですか。何があるんですか?』
『陵透の送別会。』
『送別会!?』
そう返事を入れると直ぐに凛音から着信が来た。
「もしもし?」
『桜ちゃん?明日、どうかな?』
「どうって…陵透の送別会ってホストクラブでしょ?」
『まぁ、そうなるけど。桜ちゃん18才でしょ?』
「はい。そうですが…』
『お母さんに聞いてみて、それで大丈夫なら俺迎えにも行くし。』
「でも私行かなくてもお客様いるし。私行っても陵透の売り上げにならないよ?」
『問題ないよ。それに、桜ちゃんで料金かかったら陵透につけておくから』
クスクスと笑いながらも『返事待ってるから』といい通話は切れた。リビングに行き桜は母に今の電話の事を告げた。
「でも、美堂さんの送別会って…」
「うん。ホストの業務を辞めるのが明日なんだって。だから最後に遊びに来るかって。」
「その場所ってホストクラブとか?」
「そぉなるかもって言ってた。やっぱお断りした方がいいよね。お祝いなら明日じゃなくてもいいし。」
「…ハァ……何時からなの?」
「17時からだって…2時間位って。」
「良い?21時までには帰ってくる事。お酒には手を出さないこと。約束してね?」
「…え、…行っていいの?」
「最後の姿なら見てきてもいいんじゃない?お父さんには内緒ね?」
「ありがとう!!」
嬉しそうに桜は部屋に戻りながらラインを入れる。
『良いって!17時~なんですよね!』
『そう。だから16時半には迎えに行くよ。』
『どんな格好がいいんでしょうか、そんなドレス的なのない…』
『大丈夫。普段着で!』
そう言われながらもかわいい感じのワンピースを出した。
「これでいいかな…」
そう呟きながらも桜は緊張していた。そんな時だ、ラインが再び入ってきた。
『あ、陵透には話すなよ?あいつの驚いた顔みたいから。』
『え、そぉなの?』
『もちろん!!!それと桜ちゃんには大役を用意してる!』
『大役…って!』
『秘密、明日のお楽しみだな』
そう言われて桜は陵透に『明日行くからね!』と言った、話したい気持ちを抑えて明日を待った。
翌日、時間もどんどん過ぎていく。大役ってなんだろう…私が行って浮いたりしないだろうか…そんな事を考えているとラインが入り、桜は母親に声をかけて出掛ける。
待ち合わせの場所は家から極近いコンビニだった。待ち合わせで迎えた凛音は笑っている。
「うん、可愛い」
「フフ…ホストっぽい言葉…」
「だって俺ホストだもん?」
「『もん』って…」
「はい乗って?あんまり遅いと疑われる…」
「疑うって…」
「ほら!」
急かされながらも、桜は凛音の開ける助手席に押し込まれる様に乗り込む。そうして車を走らせる凛音。その間もいつも通りに心地よい洋楽が微かに流れていた。この凛音の横顔を見るのも桜は何度目かだった。
「…?どうした?」
「いえ…相変わらず凛さん…きれいだなぁって思って…」
「ありがとう。」
「それを否定し無いのも凛さんらしい…」
「小さんはありがたく頂くものだよ?」
笑い合いながらも車は店舗に着いた。
「今の時間なら陵透もいる場所はだいたい予想は付く。それなら…」
「凛さん?」
そうして凛音に誘われるままに裏口から入る。予想通り今のこの時間…スタッフは居なかった。そのままVIPルームに連れて行くと桜にこのまま少し待つように凛音は、下のフロアに向かって降りて行った。その瞬間にフロア内のスタッフも一同に頭を下げる。
「なんか…すごいんだなぁ…」
そう思いながらも身を隠すように桜は座りなおした。
一方、凛音はスタッフが全員そろっているのを確認して召集をかけ、あいさつを済ませる。
「じゃぁ、透からも…」
「何言うんだよ…」
「まぁそれなりに?」
「えーと、今日は通常の営業というよりも完全なるパーティーです。とはいっても、僕の送別会…との事…本当に今まで長い間教えて頂く事もあり、教える事もあり…毎日が驚きや感動や…そんな事が続く毎日でした。若い新人の人も、これからもっといろいろと学びとって下さい。そして、凛からも、誰からでもいい、姫をたくさん喜ばせてください。」
「透、案外なげぇな。」
「うるさい。」
笑いが生まれながらもスタッフへの挨拶も終えた。そして少し時間も押して開店となる。頃合いを見計らって凛はドリンクを持って、桜の居るVIPルームへと向かった。
コンコン…
「入るよ?」
「あ…凛さん。」
「どう?ここから透見える?……はい、これ。」
「ありがとうございます!…はい、陵透見えるけど…なんか、本当にすごいんですね…いつも見る陵透とは全く違う…」
「まぁ、そうだろうな。横、いい?」
「はい」
そうして凛は桜の横に座った。最近見た凛音とも違う、ホスト・凛としての風貌に桜は少しドキドキとしていた。そんな中、凛は重大な役目の事を話出す。
「そう言えば…もうじき桜ちゃんの出番な?」
「え?私の出番って…」
「うん。送別会と言ったら花束贈呈!みんなの見てる前でサプライズ登場して、透に渡してもらおうと思って。」
「ふぇ!?!?何…私そんなのできないよ!?」
「大丈夫!相手は透だから。」
「そうはいっても…」
確かに形は自分の愛おしい相手だが、その中身は今日初めて接するホストバージョンなのだ。知ってはいても、初めてコンビニで会った時も、口調は陵透だった。それが突如『透』を目の前にするという。このある意味無謀とも取れる凛の言い分に桜は戸惑ったがそれでも『やってみる』と返事をした。
「良し。それじゃぁ…行きますか?」
「は…い……」
そうして透にばれない様に部屋を出て降りていく。入口手前で桜に大きな花束を渡すと凛は、そこにいる2人のドアボーイに声をかける。
「俺が合図したら、開けてやって?」
「はい!」
「桜ちゃんも。自分のペースで降りてきてくれたらそれでいいから。ゆっくりでいい。」
「……」
「緊張してる?」
「そりゃしてますよ…こんな大役…」
「大丈夫だよ。桜ちゃんなら…」
そう言い残して凛もフロアに降り立った。時間はもう早いもので1時間が過ぎていた。そんな時、凛はマイクを持った。
「えー、お楽しみの所申し訳ございません。ここで…少し早いですが、透にサプライズを用意致しました。」
そう言う凛の声掛けに辺りはざわついた。凛が仕込むサプライズ…一体どんなものなのだろう。そう言った興味もありつつ、あたりを見渡す。しかし、サプライズと言っても何も変わっている様子は無かった。
「それでは…登場してもらいましょうか…お待たせいたしました!」
その合図とともに、ドアボーイはキィ…と扉を引いた。するとそこには桜が立っている。大きな花束を抱え、1段1段しっかりと、こけない様に踏みしめながら階段を下りてくる。
「さ…くら?」
透は自分自身の眼を信じる事が出来ずにいた。こんな所に居る訳無い…この時間に…この場所に…いくら自分が今日で透を辞めるからと言っても、桜から何も聞いていない。たどたどしくもありながら初々しい桜に近付いてエスコートしたのは凛だった。その様子でも、その場に居た殆どの女性やホスト達も驚いていた。
「うそぉ、あの子何者?」
「私も凛さんのエスコート受けたいー!!」
「…にしても、誰?」
「いや…知らない…凛さんの手配ってこの事か?」
しかし、聞こえてくるそんな声は全く気にしないで凛は腰に手を回しながらも透の元に連れてきた。
「どう?驚いた?」
「凛…おまえ…てか…なんで…」
「えと…透さん…今日までお疲れ様でした…」
そう言いながらも恥ずかしそうに花束を差し出す桜。それを訳も解らないままに受け取った透。まだ色々な疑問が頭の中を駆け巡っていたのだった。
「透の1番の姫君です。どうぞ、温かい目で…」
そう凛が言い終わるが早いか、フロアは黄色い歓声で埋め尽くされた。そう、透は桜を抱き締めていたのだ…あれほど今までホストとしてやってきた透が1度も自分から抱き寄せる等無かった。それは誰もが周知していた事。それなのに突然透が女の子を抱き締めた事に驚いているのだった。
「ちょ…っ!!!陵透…ッッ」
「最高の最後だ…」
「そんな…ね…みんな見てる…」
「構うか…」
花束はサイドテーブルに置かれたまま両腕はしっかりと桜を抱き締めていた。そんな2人を写真に収める者もいた。ゆっくりと腕を緩めた透は小さく笑い、頬を撫でる。
「正直驚いた…でも来てくれてありがとう」
「ううん。凛さんにサプライズでって…昨日呼ばれた」
「それじゃぁ今日凛が遅かったのって…」
「お迎えに来てくれてた」
そう話していると後ろから声をかけられる。
「写真!!!撮るぞ?!」
「桜もおいで?」
「え…でも…」
「いいから、おいで?」
そう言いながらも透はそっと桜の腰を抱いてエスコートしながらも中央に位置した。他の姫方もいる中、誰が居ようと関係ないと言わんばかりに透は満面の笑みで写真に写った。この写真は姫方の間でも貴重な1枚ともいえるものだった。
こんな温かで、柔らかい表情の透を見た事が無い…
どれほど望んでも、いつもどこか距離がある様な…そんな雰囲気だったのに…
何よりも、幸せそうな透の顔、これを見れるとあっては、それに勝るものは無かったのだ。
この集合写真の他にも、様々なショットを撮っていた。あまり写真に写る事の無かった透もこの日が最後とあって申し出がある時には常にフラッシュを浴びていた。桜が来て2時間が経とうとした頃だ。透は凛に相談していた。
「なぁ、僕が抜けるのはマズイ?」
「まずいだろう?…今日の主役だぞ?」
「そうだよな…」
「桜ちゃんなら俺が送りに行ってくる。そろそろ送らないと、まずいだろう?」
「いいか?頼んで…狂気に満ちた姫も所所に居るし…」
「だな…でも桜ちゃんどう引き離す?」
「任せろ」
そう言うと透は桜の元に向かっていった。
「桜?」
「あ…えと…」
「そろそろ時間だろう?かぼちゃの馬車が待ってる…」
「ふぇ?」
そう言うと凛のいる方を合図した。時計を見ると来てから2時間が過ぎていた。
「そっか…うん…解った…」
「心配するな。僕は送れないけど…」
「主役だもんね?!」
「ごめんな?」
「大丈夫!凛さんに送ってもらうから…」
ニコリと笑いかけると桜は立ち上がった。透の元から離れ、凛の元に行くと桜は凛に頭を下げた。
「すみませんが…送って頂けるとの事…本当にありがとうございます。お願いしてもいいですか?」
「もちろん。もう出れる?」
「はい!」
そうして顔を上げた桜。その顔に凛も笑い返していた。階段を上がりかけた時だ。
「凛!!」
下から透が呼びとめた。にっと笑うと何かを投げようとしていた。
「落とすなよ?!」
「は?!何…ッ!!」
キレイな弧を描き、きらりと光るそれは、凛の元に真っ直ぐに向かってくる。それを受け取ると凛は手のひらの中の物を見て笑っていた。
「自分で渡せっての…」
そうしてポケットに入れてその場を離れた。車に乗り込みシートベルトをすると、発信する前に凛音はさっき透から投げて渡された物を桜に手渡した。
「あの…これって…」
「ウチの店ではさ?年間売り上げでNo1を取ると、その称号をピンズにするんだ。それは次の1年は付けてその年間No1の発表と同時に返却か、維持かになる。それと別に良く○○ニスト的な物で聞いた事あると思うけど、殿堂入りっての、知ってる?」
「はい…ベストジーニストとか、いろんなのにつかわれる、あれですか?」
「そう。うちにもあてt、5年間続けて年間No1を取り続けるとキングの称号を貰えるんだ。それを示すのがこれ。」
そういい指さした先には桜の手に光るものだった。中央に埋め込まれているのはダイヤモンド。クラウンのような形にも見えるそれを、透は桜に渡したかったのだろう。
「そんな大事な物…もらえません…陵透がやってきた功績…」
「だからじゃないかな?あいつがやってきた事だから、桜ちゃんに渡したかったんだろう。貰っておいたらいいさ」
「…いいのかな…」
「それは返却規制は無い。だからあいつの好きなようにしたらいい。」
そう聞いた桜は胸の前でキュッと握りしめて、瞼を閉じ、そっと俯いた。車を走らせて道の込み具合をうまく避けられたせいか思ったほどかからずに帰宅した。
「今日はありがとうございました。本当に色々な経験できて…」
「いや、良いさ。楽しめたなら…」
「本当に!!」
そう言いながらもクシャリと笑った桜。しかし次の瞬間顔が曇った。
「でも…本当にお金…いいんですか?」
「ん?あぁ、いいよ!」
「でも前回のお茶した時も…」
「大丈夫だって!気にしない…」
「むぅぅ…」
俯いた桜に『それなら…』と呟き凛音は頬に腕を回した。
「え…?」
軽く触れるだけのキスを重ねた凛音。突然の事で桜はされるままだった…ゆっくりと離れると凛音は桜の口唇を親指で拭い、ふわりと笑った。
「これで十分。」
「…ッッ…」
「…さ、そろそろ時間遅くなるといけないから…」
「はい……」
そうして車を降りる桜。凛音も一緒に降り、運転席側から天井に凭れ、手を振っていた。
「お休み!」
「おやすみなさい」
しっかりと玄関を入りきるまで見送った凛音は運転席に戻った。シートベルトをする前にぐっとシートに凭れて腕で目の前を覆う。
「…ばっかだな…陵透の相手だってのに…キスするなんてな…」
そう呟いた時だった。携帯が鳴り後輩からの早急帰宅を伝えられて車を発進させた。
「遅い、凛」
「わり、透が渡したものの説明とか?いろいろあって。」
「そっか…悪かったな。助かった。」
「いえいえ。」
そうして送別会に凛も戻り、宴は続いた。
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