62 / 94
battle51…悟浄とのデート
しおりを挟む
その日は三蔵に抱かれることも無く、雅は隣り合って眠るだけとなった。買うは買ったものの、なかなか使うタイミングが来ない三蔵は少しばかり苛立ちも抱えていた。そんな中の悟浄の誕生日の前日、大き目の街に着いた。
「明日悟浄誕生日だね!」
「早朝にでも出発するか」
「三蔵?意地悪だよ?」
「……フン…」
「前回の村ではそれ程食料の調達等も出来なかったですし、色々と切れかけていたり……あ」
「どうかしたか?」
「雅?あなたの服、大分くたびれてませんか?」
「……まだ着れるし!!」
「この街に居る間に何点か見繕いませんか?」
「でも…」
「良いじゃねえの?」
「三蔵、ありがと」
「別に。俺が買いに行く訳じゃねえ」
「三蔵と一緒に行けば良いじゃないですか」
「俺はいい。八戒とでも行ってこい」
「だって!付き合ってくれる?」
「ぜひ」
そうして八戒との買い物の約束もできた雅。
「楽しそうだな」
「だって!いろいろ盛りだくさんじゃん?」
「フ…確かにそうだな」
「あ、悟浄!!」
「んー?」
「明日、九時に宿の前でどうかな!」
「おー、解った!」
「ん!」
「……楽しそうだな」
「悟浄と二人きりってのも初めてだし!」
「……チッ」
そう軽く舌打ちしている三蔵には気にも止めずに雅は荷物の片付けに入っていた。その日の夜もまた、三蔵はお預けを食らっていたのだ。
翌日…準備をして、九時少し前に雅は宿屋の前に出ていった。しかしそこには見慣れた背中…
「悟浄!」
「おぅ」
「ごめんね?待たせちゃって」
「俺を待たせていいのは雅位なもんだ」
「誰にでも言いそうな台詞…」
「はは…」
「行こ!」
そういって雅と悟浄の初めてのデートは始まった。それを窓からみていた三人はにこやかにみていた。
「おやおや、楽しそうですね?」
「雅も楽しそうだな」
「……チッ…」
「良いなんて言うんじゃなかったって顔に書いてありますよ?三蔵」
「うるせえ」
「なぁ八戒!今日の夕飯って!ごちそうだろ?」
「ケーキ要らない何て悟浄は言ってましたけど、雅がどうしてもケーキ要るって言ってましたからね」
「本人が要らないって言ってんなら要らねえだろうが」
「雅の悲しむ顔みたいですか?」
「俺みたくねえ!」
「……ハァ…いい性格してんな…八戒」
「あなたには負けますけどね?三蔵?」
そう話しながら二人の小さくなる背中をみていた。
「悟浄!みてみて?」
「あんまはしゃぐとこけるぞ?」
「大丈夫!!」
そう答えながらも店のショーウインドゥを見ている雅。
「あ……」
「ん?どうした?」
「ごめん…私が楽しんでる……悟浄の誕生日なのに……」
「良いって事。普通のデートでいいんじゃね?」
「…で…ーと?」
「違うのか?」
「……ん……デート…」
「なに照れてんの?今さら?」
クスクスと笑う悟浄にふいっと顔を背ける雅。
「もう!!」
「何よ。ん?」
すっと雅の手を掬い取ると指を絡める悟浄。
「……ッッ…」
「ほら、腕組むことは無くても手ぐらい繋いでもエロにはなんねえと思うけど?」
「……ん」
そういって誕生日の悟浄の願いを叶えていく雅。行き交う女性はチラリと時折振り返っていく。
「……悟浄って……イケメンだよね」
「は?」
「…今気付いた」
「遅っ!!」
「だって…!!皆ほとんどの子がすれ違うと悟浄の事振り返ってる……」
「まぁ色男ではあるけど……」
「自分で言うんだ?」
「言わなきゃ雅言わねえだろうが…」
「クスクス…」
「でも、もしかしたらこの髪色の事で振り返ってんのかもよ?」
「そうだとしても…私も嫌いじゃないよ?悟浄の髪色」
「……どぉせ『キレイ』とか言うんだろ?」
「言ってほしい?キレイって」
「違うわけ?」
「ん。確かにキレイだなと一度も思わなかったかって言えば嘘だけど……それでも悟浄の個性でしょ?それはすごくキレイだと思う。」
「……個性…ねぇ」
「ん。悟浄にしかないものでしょ?それ」
「……まぁな。でもこれ、出来損ないの妖怪の色だぜ?」
「出来損ないだとしても、それが悟浄の良さだと思うよ?ほら。八戒は黒に緑でしょ?悟空は茶色に金目、三蔵は『雅?何の話よ』…髪と目の色。三蔵は金髪に紫。皆違う。悟浄は赤髪に赤の目。私は好きだな。」
「……クハ…血の色だとしてもか?」
「……桜の花も血の色でしょ?」
予想外の雅の反応だった。ぽかんとした悟浄は上から見下ろしていた。
「八戒に聞いたの。桜の下には人が埋まっていて血を吸って白い色がピンクになるって言い伝えがあるって。それでも私は桜が好きだし、キレイだなって思う。たぶん完全な言い伝えだけどね?」
「……」
「だから、それと同じ。血の色だとしても、だとしたら悟浄の血の色はすごくキレイなんだよ。それにしても……」
「ん?」
「誕生日の、それもデート中にこんな話してるの私達くらいよ?きっと。」
「…わり」
「そんなこと言い出した悟浄には罰ゲームね?」
そう言うと雅は小さな出店の前に向かっていった。
「んーっと……」
「雅?何してんの?」
「イチゴとマンゴーくーださい!」
「はいよ!」
そう言って勝手に注文を決め、ドリンクを受け取った。
「はい、悟浄!」
「……はい?」
「マンゴージュース!」
「そりゃ見りゃわかんだけど……」
「あっち行って座って飲も?」
そういって手を引いていった。ベンチに座り、にこやかにイチゴのドリンクを飲み出す雅。
「ごじょごじょ!!マンゴーの美味しい?」
「や、まだ飲んでねぇし」
「飲んで飲んで?!」
「……ん、うまい!」
「そか!」
しかしジーッと見たままの雅の視線に気付いた悟浄。
「なぁ雅?」
「何?」
「や、俺の勘違いかもしれないんだけどさ?」
「んー?」
「まさかと思うけど……飲みたいとかってオチ?」
「悟浄……」
「ん?」
「…のみたい…」
「…クハ…ほら」
そういって悟浄はマンゴーのカップを渡す。
「じゃぁ…はい!!」
「…は?」
「だって私ばっかり悟浄の飲んだら…悪いでしょ?だから…!イチゴも飲ませたげる!!」
満面の笑みで差し出してくる雅。
「あの…雅?この意味…解ってる?」
「意味?…何それ、悟浄、バカにしてる?」
「いや……知ってて?」
「知ってるよ!シェア!!」
正解でしょ?と言わんばかりに悟浄のマンゴーを取り、コクッと一口飲んだ。
「……ッッ!!美味しい!悟浄!イチゴ飲んでみた?」
「……いや…まだ」
「飲んでみなって!!」
「……んじゃ」
そういって悟浄は深追いするでも無く、言われた通りに飲んでみる。
「うめ…!」
「でしょ?だから言ってるのに…疑り深いんだから…!!」
「いや、そうじゃなくて……」
「はい!マンゴー!イチゴちょうだい?」
「…クスクス、ほら」
「…ありがと!」
「…で?雅、これのどこが罰ゲームだって?」
「だって……悟浄、甘いの苦手でしょ?」
「苦手っつぅか、三蔵ほど甘党じゃねえってだけで…食べたり飲んだりだって別に平気だけど?」
「あ……じゃぁ罰ゲームじゃなかった……」
「それに言うほど甘くねえだろうが。果物ってだけで…」
「…むぅ…」
そう少し膨れた顔をする雅を見て悟浄は小さく笑っていた。
「なぁ、雅?」
「んー?」
「あいつと二人きりの時ってどんな話してんの?」
「あいつって…三蔵?」
「あぁ」
「普通だよ?あんまり話さないときもあるし。」
「マジ?」
「ん。別行動したときなんかは、ほら、例えば八戒とお買い物行ったりとか。そういう時にはこんなのあったとか、そういう事話したりとか?」
「それって業務報告見たいじゃね?」
「クス…そうかも。三蔵はそれ聞いて『そうか…』で終わったり。」
「……マジ?」
「マジ。笑っちゃうよね」
「本気で言ってる?」
「うん。だから、悟浄の期待してるような甘い会話とかは一切無いのよ。」
「……ハァァァ」
大きな溜め息を吐いた悟浄。それを見て雅はどうしたのかと声をかけた。
「雅はさ、それで楽しい?」
「楽しいって言うか、私は三蔵と一緒に居れるだけで嬉しいって思うし、それに……」
「…?それに?」
「……その…キスとかも…してくれるし」
「あー、さいですか…」
「言っとくけど!!聞いたの悟浄だからね?」
「わぁーってるって」
そう言いとぐっと残りのジュースを飲み干した。
「ごちそうさん!」
「あ、のめた?はい!」
そう言ってスクっと立つと、手を出した雅。
「雅?空だけど…?」
「知ってるよ?だから」
少し不思議そうに思いながら悟浄はカップを渡す。受け取ると雅は待っててね!と伝え、ワゴンへ向かう。
「・・…ーーー……・・!!」
はにかみながらワゴンのお兄さんと話していた。そのままゴミ箱に捨てると戻ってくる。
「あ、そゆ事。」
「お待たせ!」
「ごみなら俺行ってくるのに」
「フフ…お兄さんにごちそうさま!って言いたかったし!」
「そういうとこよね……ほんと、マジ」
「え?何が?」
「いんや、こっちの話」
そういうと悟浄は一緒に再度歩き出す。広場を歩き、昼食を摂って、笑い、無言になる時間なんてものはなかった。
「ねえ、悟浄!!」
「んぁ?」
「あれ!!何?」
「…観覧車だろ?」
そう。この街にはなぜか広場の奥に大きな観覧車が一台だけあった。
「そっか!へぇぇ……」
「乗りたい?」
「でも…悟浄の誕生日だから……」
「んなのいいよ。乗りたいのかって…」
「…乗ってみたい!!」
「行くか?」
そうして観覧車に向かう二人。
「どうぞーー!!」
そういわれてカシャンと扉を閉められた。ゆっくりと上に上がっていく。
「う……わぁぁ!すごい!何?どんどん上がってく!!」
「クスクス…はしゃぎすぎ」
「…だって!!」
「まぁ座んなって」
「ん!」
そうしてストンと座った雅。
「ねえ悟浄?」
「んー?」
「今日、楽しかった?」
「おう。ありがとうな」
「ほんとに?」
「何、楽しかったよ?」
「なら良かった!」
そう言うと雅はゆっくりと立ち上がって悟浄の横に座った。
「あの、雅?ゴンドラめっちゃ傾くんですけど?」
「大丈夫だと思う!!」
「……どこにあんのその根拠……」
「だって…」
「んー?」
夕日に照らされ始めた町並みを眼下に見ながら、雅は悟浄の肩に凭れた。
「ごめんね?」
「何が?」
「誕生日プレゼント…何にも無くて…」
「これってプレゼントじゃねえの?」
「…これじゃ、プレゼントにもならないよ」
「そう?」
そっと腕を回して頭をポンッと撫でる悟浄。
「…欲しいの無い?…あ、あるって言っても私買ってあげれないから……お願いは?」
「何言ってんの?」
「私に出来る事ならお願い聞ける!」
「…おいおい…」
「美味しいご飯が食べたいとか…マッサージとか……あとは…そうだな…」
「…なんでもいいの?」
「ん!!何かある?」
「…キスして?」
「…ご…じょ?」
「……フフ…クックッ…冗談だよ…エロなしって言ってんのにそんなこと言えるわけねえだろうが…」
「…ッッ…」
優しく笑う悟浄。外に目をやる悟浄に雅は袖をくいっと引っ張った。
「ん?」
次の瞬間、悟浄の唇の横には柔らかく温かな温もりが重なった。ゆっくりと離れると首に巻き付いた。
「そこでごめんね?」
「み…やび?」
「お誕生日おめでと…悟浄…」
「…ハァ…さんきゅ」
そうしてもうすぐゴンドラが下に着くと言う時、ゆっくりと離れた。
「お疲れさまでしたーー!!」
「…クス…元気の良いお兄さんだね…」
「だな」
「…帰る?」
「三蔵の女じゃなかったらなぁ…本来ならこのまま二人でどこかに入って、抱いて、抱き倒したいところだけど…」
「悟浄?」
「解ってるよ。帰るか。そろそろ猿も腹減ったとか言ってそうだし」
「そうだね…!言ってそう」
そういって宿に戻る。部屋に着くと不機嫌な三蔵が一人居るもののなんだか楽しそうな三人が二人の帰りを出迎えてくれた。
「おかえりーー!!」
「おかえりなさい。楽しかったですか?」
「うん!!」
「…おやおや」
「…おい、三蔵」
「……なんだ」
「今日は…サンキュな」
「二度はねえからな…」
「解ってるって…クスクス」
「めしぃぃぃぃぃ!!!」
「…だそうだ」
「チッ…」
そうして、夕飯と言う名の最後のパーティーの締めくくりが始まった。
「おい…俺ケーキ要らないっていったぜ?」
「誕生日にケーキなしの寂しいのはダメ!!」
「文句があんなら貴様は食うな」
「ひで!!」
「そーだそーだ!!」
「本当に要らないなら悟空が食べてくれるって!」
「…くう」
「はじめから素直に言ってれば良いものの」
「うっせえ」
「じゃ、始めますよ?」
そうしてわいわいとしながらも照れ臭そうな悟浄を皆で祝っていたのだった。
「明日悟浄誕生日だね!」
「早朝にでも出発するか」
「三蔵?意地悪だよ?」
「……フン…」
「前回の村ではそれ程食料の調達等も出来なかったですし、色々と切れかけていたり……あ」
「どうかしたか?」
「雅?あなたの服、大分くたびれてませんか?」
「……まだ着れるし!!」
「この街に居る間に何点か見繕いませんか?」
「でも…」
「良いじゃねえの?」
「三蔵、ありがと」
「別に。俺が買いに行く訳じゃねえ」
「三蔵と一緒に行けば良いじゃないですか」
「俺はいい。八戒とでも行ってこい」
「だって!付き合ってくれる?」
「ぜひ」
そうして八戒との買い物の約束もできた雅。
「楽しそうだな」
「だって!いろいろ盛りだくさんじゃん?」
「フ…確かにそうだな」
「あ、悟浄!!」
「んー?」
「明日、九時に宿の前でどうかな!」
「おー、解った!」
「ん!」
「……楽しそうだな」
「悟浄と二人きりってのも初めてだし!」
「……チッ」
そう軽く舌打ちしている三蔵には気にも止めずに雅は荷物の片付けに入っていた。その日の夜もまた、三蔵はお預けを食らっていたのだ。
翌日…準備をして、九時少し前に雅は宿屋の前に出ていった。しかしそこには見慣れた背中…
「悟浄!」
「おぅ」
「ごめんね?待たせちゃって」
「俺を待たせていいのは雅位なもんだ」
「誰にでも言いそうな台詞…」
「はは…」
「行こ!」
そういって雅と悟浄の初めてのデートは始まった。それを窓からみていた三人はにこやかにみていた。
「おやおや、楽しそうですね?」
「雅も楽しそうだな」
「……チッ…」
「良いなんて言うんじゃなかったって顔に書いてありますよ?三蔵」
「うるせえ」
「なぁ八戒!今日の夕飯って!ごちそうだろ?」
「ケーキ要らない何て悟浄は言ってましたけど、雅がどうしてもケーキ要るって言ってましたからね」
「本人が要らないって言ってんなら要らねえだろうが」
「雅の悲しむ顔みたいですか?」
「俺みたくねえ!」
「……ハァ…いい性格してんな…八戒」
「あなたには負けますけどね?三蔵?」
そう話しながら二人の小さくなる背中をみていた。
「悟浄!みてみて?」
「あんまはしゃぐとこけるぞ?」
「大丈夫!!」
そう答えながらも店のショーウインドゥを見ている雅。
「あ……」
「ん?どうした?」
「ごめん…私が楽しんでる……悟浄の誕生日なのに……」
「良いって事。普通のデートでいいんじゃね?」
「…で…ーと?」
「違うのか?」
「……ん……デート…」
「なに照れてんの?今さら?」
クスクスと笑う悟浄にふいっと顔を背ける雅。
「もう!!」
「何よ。ん?」
すっと雅の手を掬い取ると指を絡める悟浄。
「……ッッ…」
「ほら、腕組むことは無くても手ぐらい繋いでもエロにはなんねえと思うけど?」
「……ん」
そういって誕生日の悟浄の願いを叶えていく雅。行き交う女性はチラリと時折振り返っていく。
「……悟浄って……イケメンだよね」
「は?」
「…今気付いた」
「遅っ!!」
「だって…!!皆ほとんどの子がすれ違うと悟浄の事振り返ってる……」
「まぁ色男ではあるけど……」
「自分で言うんだ?」
「言わなきゃ雅言わねえだろうが…」
「クスクス…」
「でも、もしかしたらこの髪色の事で振り返ってんのかもよ?」
「そうだとしても…私も嫌いじゃないよ?悟浄の髪色」
「……どぉせ『キレイ』とか言うんだろ?」
「言ってほしい?キレイって」
「違うわけ?」
「ん。確かにキレイだなと一度も思わなかったかって言えば嘘だけど……それでも悟浄の個性でしょ?それはすごくキレイだと思う。」
「……個性…ねぇ」
「ん。悟浄にしかないものでしょ?それ」
「……まぁな。でもこれ、出来損ないの妖怪の色だぜ?」
「出来損ないだとしても、それが悟浄の良さだと思うよ?ほら。八戒は黒に緑でしょ?悟空は茶色に金目、三蔵は『雅?何の話よ』…髪と目の色。三蔵は金髪に紫。皆違う。悟浄は赤髪に赤の目。私は好きだな。」
「……クハ…血の色だとしてもか?」
「……桜の花も血の色でしょ?」
予想外の雅の反応だった。ぽかんとした悟浄は上から見下ろしていた。
「八戒に聞いたの。桜の下には人が埋まっていて血を吸って白い色がピンクになるって言い伝えがあるって。それでも私は桜が好きだし、キレイだなって思う。たぶん完全な言い伝えだけどね?」
「……」
「だから、それと同じ。血の色だとしても、だとしたら悟浄の血の色はすごくキレイなんだよ。それにしても……」
「ん?」
「誕生日の、それもデート中にこんな話してるの私達くらいよ?きっと。」
「…わり」
「そんなこと言い出した悟浄には罰ゲームね?」
そう言うと雅は小さな出店の前に向かっていった。
「んーっと……」
「雅?何してんの?」
「イチゴとマンゴーくーださい!」
「はいよ!」
そう言って勝手に注文を決め、ドリンクを受け取った。
「はい、悟浄!」
「……はい?」
「マンゴージュース!」
「そりゃ見りゃわかんだけど……」
「あっち行って座って飲も?」
そういって手を引いていった。ベンチに座り、にこやかにイチゴのドリンクを飲み出す雅。
「ごじょごじょ!!マンゴーの美味しい?」
「や、まだ飲んでねぇし」
「飲んで飲んで?!」
「……ん、うまい!」
「そか!」
しかしジーッと見たままの雅の視線に気付いた悟浄。
「なぁ雅?」
「何?」
「や、俺の勘違いかもしれないんだけどさ?」
「んー?」
「まさかと思うけど……飲みたいとかってオチ?」
「悟浄……」
「ん?」
「…のみたい…」
「…クハ…ほら」
そういって悟浄はマンゴーのカップを渡す。
「じゃぁ…はい!!」
「…は?」
「だって私ばっかり悟浄の飲んだら…悪いでしょ?だから…!イチゴも飲ませたげる!!」
満面の笑みで差し出してくる雅。
「あの…雅?この意味…解ってる?」
「意味?…何それ、悟浄、バカにしてる?」
「いや……知ってて?」
「知ってるよ!シェア!!」
正解でしょ?と言わんばかりに悟浄のマンゴーを取り、コクッと一口飲んだ。
「……ッッ!!美味しい!悟浄!イチゴ飲んでみた?」
「……いや…まだ」
「飲んでみなって!!」
「……んじゃ」
そういって悟浄は深追いするでも無く、言われた通りに飲んでみる。
「うめ…!」
「でしょ?だから言ってるのに…疑り深いんだから…!!」
「いや、そうじゃなくて……」
「はい!マンゴー!イチゴちょうだい?」
「…クスクス、ほら」
「…ありがと!」
「…で?雅、これのどこが罰ゲームだって?」
「だって……悟浄、甘いの苦手でしょ?」
「苦手っつぅか、三蔵ほど甘党じゃねえってだけで…食べたり飲んだりだって別に平気だけど?」
「あ……じゃぁ罰ゲームじゃなかった……」
「それに言うほど甘くねえだろうが。果物ってだけで…」
「…むぅ…」
そう少し膨れた顔をする雅を見て悟浄は小さく笑っていた。
「なぁ、雅?」
「んー?」
「あいつと二人きりの時ってどんな話してんの?」
「あいつって…三蔵?」
「あぁ」
「普通だよ?あんまり話さないときもあるし。」
「マジ?」
「ん。別行動したときなんかは、ほら、例えば八戒とお買い物行ったりとか。そういう時にはこんなのあったとか、そういう事話したりとか?」
「それって業務報告見たいじゃね?」
「クス…そうかも。三蔵はそれ聞いて『そうか…』で終わったり。」
「……マジ?」
「マジ。笑っちゃうよね」
「本気で言ってる?」
「うん。だから、悟浄の期待してるような甘い会話とかは一切無いのよ。」
「……ハァァァ」
大きな溜め息を吐いた悟浄。それを見て雅はどうしたのかと声をかけた。
「雅はさ、それで楽しい?」
「楽しいって言うか、私は三蔵と一緒に居れるだけで嬉しいって思うし、それに……」
「…?それに?」
「……その…キスとかも…してくれるし」
「あー、さいですか…」
「言っとくけど!!聞いたの悟浄だからね?」
「わぁーってるって」
そう言いとぐっと残りのジュースを飲み干した。
「ごちそうさん!」
「あ、のめた?はい!」
そう言ってスクっと立つと、手を出した雅。
「雅?空だけど…?」
「知ってるよ?だから」
少し不思議そうに思いながら悟浄はカップを渡す。受け取ると雅は待っててね!と伝え、ワゴンへ向かう。
「・・…ーーー……・・!!」
はにかみながらワゴンのお兄さんと話していた。そのままゴミ箱に捨てると戻ってくる。
「あ、そゆ事。」
「お待たせ!」
「ごみなら俺行ってくるのに」
「フフ…お兄さんにごちそうさま!って言いたかったし!」
「そういうとこよね……ほんと、マジ」
「え?何が?」
「いんや、こっちの話」
そういうと悟浄は一緒に再度歩き出す。広場を歩き、昼食を摂って、笑い、無言になる時間なんてものはなかった。
「ねえ、悟浄!!」
「んぁ?」
「あれ!!何?」
「…観覧車だろ?」
そう。この街にはなぜか広場の奥に大きな観覧車が一台だけあった。
「そっか!へぇぇ……」
「乗りたい?」
「でも…悟浄の誕生日だから……」
「んなのいいよ。乗りたいのかって…」
「…乗ってみたい!!」
「行くか?」
そうして観覧車に向かう二人。
「どうぞーー!!」
そういわれてカシャンと扉を閉められた。ゆっくりと上に上がっていく。
「う……わぁぁ!すごい!何?どんどん上がってく!!」
「クスクス…はしゃぎすぎ」
「…だって!!」
「まぁ座んなって」
「ん!」
そうしてストンと座った雅。
「ねえ悟浄?」
「んー?」
「今日、楽しかった?」
「おう。ありがとうな」
「ほんとに?」
「何、楽しかったよ?」
「なら良かった!」
そう言うと雅はゆっくりと立ち上がって悟浄の横に座った。
「あの、雅?ゴンドラめっちゃ傾くんですけど?」
「大丈夫だと思う!!」
「……どこにあんのその根拠……」
「だって…」
「んー?」
夕日に照らされ始めた町並みを眼下に見ながら、雅は悟浄の肩に凭れた。
「ごめんね?」
「何が?」
「誕生日プレゼント…何にも無くて…」
「これってプレゼントじゃねえの?」
「…これじゃ、プレゼントにもならないよ」
「そう?」
そっと腕を回して頭をポンッと撫でる悟浄。
「…欲しいの無い?…あ、あるって言っても私買ってあげれないから……お願いは?」
「何言ってんの?」
「私に出来る事ならお願い聞ける!」
「…おいおい…」
「美味しいご飯が食べたいとか…マッサージとか……あとは…そうだな…」
「…なんでもいいの?」
「ん!!何かある?」
「…キスして?」
「…ご…じょ?」
「……フフ…クックッ…冗談だよ…エロなしって言ってんのにそんなこと言えるわけねえだろうが…」
「…ッッ…」
優しく笑う悟浄。外に目をやる悟浄に雅は袖をくいっと引っ張った。
「ん?」
次の瞬間、悟浄の唇の横には柔らかく温かな温もりが重なった。ゆっくりと離れると首に巻き付いた。
「そこでごめんね?」
「み…やび?」
「お誕生日おめでと…悟浄…」
「…ハァ…さんきゅ」
そうしてもうすぐゴンドラが下に着くと言う時、ゆっくりと離れた。
「お疲れさまでしたーー!!」
「…クス…元気の良いお兄さんだね…」
「だな」
「…帰る?」
「三蔵の女じゃなかったらなぁ…本来ならこのまま二人でどこかに入って、抱いて、抱き倒したいところだけど…」
「悟浄?」
「解ってるよ。帰るか。そろそろ猿も腹減ったとか言ってそうだし」
「そうだね…!言ってそう」
そういって宿に戻る。部屋に着くと不機嫌な三蔵が一人居るもののなんだか楽しそうな三人が二人の帰りを出迎えてくれた。
「おかえりーー!!」
「おかえりなさい。楽しかったですか?」
「うん!!」
「…おやおや」
「…おい、三蔵」
「……なんだ」
「今日は…サンキュな」
「二度はねえからな…」
「解ってるって…クスクス」
「めしぃぃぃぃぃ!!!」
「…だそうだ」
「チッ…」
そうして、夕飯と言う名の最後のパーティーの締めくくりが始まった。
「おい…俺ケーキ要らないっていったぜ?」
「誕生日にケーキなしの寂しいのはダメ!!」
「文句があんなら貴様は食うな」
「ひで!!」
「そーだそーだ!!」
「本当に要らないなら悟空が食べてくれるって!」
「…くう」
「はじめから素直に言ってれば良いものの」
「うっせえ」
「じゃ、始めますよ?」
そうしてわいわいとしながらも照れ臭そうな悟浄を皆で祝っていたのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる