凜恋心

降谷みやび

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battle2…旅立ち

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それから丸々二日経ち、明日にはこの村を出ようと言う日の昼間…最後の買い出しにと三蔵以外の三人が買い物に出掛けた。

「なぁなぁ、八戒!あれって…」
「あ、本当ですね、またお一人の様ですが…」
「おーい!雅ぃ!!!」

ぶんぶんと手を振る悟空はそのまま走り出して雅の元へと向かった。

「あ、おはようです」
「おはよう!雅!なんだよぉ、また一人なのかよ!なんで?」
「なんでって……それは…」

そんな二人を見て悟浄は小さく苦笑いを溢す。

「あのバカ猿、純粋に聞きやがって…」
「仕方ないですね、それにしても僕が気になるのは…」
「あー……言うな八戒…必死こいて聞こえねぇフリしてんだ」
「そうは言っても聞こえてしまいますからねぇ」

そう、無邪気な顔して話している悟空と問われている雅は聞こえにくくとも、八戒と悟浄の耳にはしっかりと村人の声が届いていた。

(全く…困りもんだよなぁ。)
(下手に追い出して俺達まで殺されたら溜まったもんしねぇから言えねぇだけで…)
(三蔵様に浄化して貰えないものかねぇ)

全て雅に向けられた冷たい声ばかりだ。しかし三蔵一行の悟浄や八戒はもちろん、雅と関わったからどうこうと言うのはなかった。ただ、自分達が雅と一切関わることをしない、それだけだった。

「悟空?そろそろ行きますよ?」

そう声をかけて、雅と最後になにか話しているのを見届けて買い物に向かっていた。

「何を話していたのですか?」
「んー…何かすげぇ雅がかわいそうで……」
「悟空?」
「だってさ。ずっと一人なんだよ…俺達が泊まりに行く前からずっとずっと一人なんだよ…」
「…悟空、同情だけじゃ寄り添ったことにはならねぇんだよ」
「そうかもしれないけど…」
「中途半端な優しさが時には鋭い刃にもなるんです。」
「じゃぁどうしたら雅救えるんだよ!」
「………救えやせんよ」

ふと三人の会話に割って入った一人の老人がいた。その声に足を止めた三人は老人に声をかけた。

「失礼ですが、…どう言うことでしょうか」
「あの子には人並外れた力がある。感情ひとつで自分の父親ですら殺してしまう。だからわしらも出ていけとは言えない。力をどうやって手に入れたのか、どうしたら押さえれるか、それすら解らんのじゃ。この村ではあの子はただ一人の存在じゃ。どんな薬も払い師も効かなかった。」
「…だからって……」
「それこそ前にきた三蔵法師様でも手に終えなかった。それも仕方ないこと。感情が揺れ動かなくてはあの子の力は出ない。見えないものに手は打てないからのぉ」

それだけ言うと老人は去っていった。

「…そんな事……雅の力、あんなにキレーなのに…」
「確かになぁ。」
「三蔵以外の三蔵がダメでも三蔵ならなんとか出来るんじゃねぇの?」
「うん、良くわかんねぇけどな?」
「確かに、うちの三蔵なら…と言いたいですが、言ってもただの人間ですからね…」
「だったら!八戒なら?八戒の気功みたいなのだったしさ!」
「あ、なーる。」
「でも僕達、明日にはこの村出るんですけどね」

その一言で悟空と悟浄は一気に言葉を失った。


時同じくして、一方の三蔵。


一人で、窓際に座り新聞を読んでいた。しかしバサリと畳むと横におき、深いため息を吐くと顔を向けること無く声をかけた。

「悪趣味だな、一体何の用だ?」
「クックッ…元気そうだな。」
「何の用だと聞いている。それに姿ぐらい出しやがれ」
「相変わらず口の聞き方がなってねぇなぁ。」

そう言うと姿を表したのは菩薩だった。

「あの、おもしれぇじゃねぇの。」
「何の事だ」
「すっとぼけてんなよ。どうしようかずっと考えてたくせに」
「……チッ」
「俺はいいぜ?連れてっても。」
「俺は力がどうとかわかんねぇしな。」
「あの娘、力の使い方が解ってないだけなら八戒がいるだろうが。バカかてめぇは」
「………」
「他に言い分がなけりゃ引き取ってやれ、保護者サン☆」
「ふざけるな、あのバカどもだけで手一杯なのにまだ増やす気か」
「ほぅ?いつもはあいつら何て放っておくのにか?」
「……」
「お前があの娘、雅だけで良いだろうが」
「確かにあのバカどもは俺が守らなくても十分だしな」
「なら良いな、決まりだ、決定、楽しくなりそうだな」
「ちょっと待て!俺はまだ承諾は…!!」

言い終わる前にもう既に菩薩の気配は消えていた。

「面倒なことになりやがった…」

そう言うと頭を抱えていた。少ししてバタバタと慌ただしく帰ってくるなり、扉は勢い良く開けられた。

「三蔵!三蔵、いる!?」
「…うるせぇよ、この猿」
「なぁ三蔵!雅の事なんとか助けてやれねぇの?」
「何だ、唐突に」
「雅、かわいそうだよ…助けてやりたいのに…」
「優しいだけの中途半端な気持ちは相手を傷つける。助けるには助ける側の方にもそれなりの覚悟が居るんだ。」
「わかんねぇよ…!」
「ガキで猿のお前にも解るように言うと、首を突っ込むなってことだ」
「ガキでも猿でも良い!助けたいと思う事の何が悪いんだよ!」
「たく…どいつもこいつも…」
「…三蔵?」

それっきり何も言わなくなった三蔵をキッと一回睨むと悟空は外に飛び出していった。

「三蔵…?」
「八戒、次の村か町までどの位で行ける?」
「なんですか?藪から棒に。」
「いいから、どの位で着く。」
「何もなければジープなら2日後には…」
「…そうか。」
「なにか要るならここで買えばいいじゃねぇの?」
「……」
「て、無視かよ!」

そう言いながらも悟浄も部屋を後にした。残った二人は沈黙のまま、時をやり過ごしていたが、ふと八戒が口火を切った。

「三蔵?」
「……ジープ、もし仮に、後部座席に一人増えても問題ないか?」
「三蔵、それってもしかして…」
「俺の意見じゃねぇよ。あのクソババァの企みだ」
「…観善音菩薩…の?」
「たく…俺は承諾はしてねぇし、あの女も来るとは聞いてない。」
「もしかしてさっき言ってた買い物って、彼女の身の回り品ですか?」
「…さぁな」

そう短く答えた三蔵に目配せをして、八戒は小さく笑うとゆっくりと立ち上がった。

物、一通り揃えますか?」
「一緒に来るかも解らねぇんだ、今から買っておく必要はねぇだろうが」
「まぁ…それもそうですが…」
「明日出る時に聞く。その時に答えをもらってそのまま出発するからな。」
「相変わらずですね…」

そう呟いて再度座り直した八戒。『あ、』と発する八戒に三蔵は徐に顔を上げる。
、雅ちゃんの部屋なんですよね?」
「だったらどうした?」
「この部屋から服だけでも持っていったらどうですか?」
「却下」
「何故です?彼女も着なれている服でしょうし。」
「一緒に来るなら嫌な思い出を背負わせるつもりなんざねぇよ。ただでさえこれから先、嫌って程見るんだ。」
「そう、でしたね」

そう呟くものの、三蔵の優しさに優しい笑みが溢れていた。

夜も深まる頃、悟空と悟浄も戻ってきた。

「皆さん、明日発つんですよね」
「えぇ、長いことお世話になりました」
「こちらこそ、たいしたおもてなしも出来ず…娘でもいたらよかったんですが…」

そう言って雅の母親はキッチンへと戻る。翠藍はその場に残りもくもくと食べる四人に頭を下げた。

「雅が、妹が居るんですが…ちょっと訳アリでして…すみません」
「すげぇ良い奴なのに…」
「……はい」
「皆さんにそう言って貰えること、妹が知ったら喜ぶでしょうね」

そう呟いて翠藍も席を立つ。

「…なぁ三蔵…」
「却下」
「俺まだ何にも言ってねぇだろ!?」
「聞かなくても解る。」
「三蔵の解らずや!…ごちそうさま!」

そうして珍しく悟空が一番始めに食事の席を立って部屋に戻る。

「三蔵…?少しは聞いてやっても良いんじゃねぇの?」
「無理矢理連れていく気はねぇよ」
「…ちょっ!それって…」
「俺や悟空や、お前達にも説得なんざさせねぇ。あいつが自分の意思で来たいといわなけりゃ仕方ねぇだろうが。」

そう言いながらふぅっとタバコをふかす。表情一つ変えずに言いきる三蔵を見て悟浄は、くはっと笑った。 

「そうならそうと言ってやればぁ?あの猿に」
「断る」
「あいかわらず難くなだぁこと。」

そう笑い合いながらも母親が来れば自然と話題は変わる。そして夜も更け、いざ、出発となる朝になった。

「さて、じゃぁいきますか。」
「そうだな」
「………あ、待って三蔵!」

そう言い人混みの中から雅を見つけた悟空は走りよった。

「雅!!俺、何にも出来なかった…」
「良いんだよ、悟空さん。」
「ちょっと来て!」

そう言い手を引くとジープの姿に変えた白竜の元に集まる三人の前に連れてきた。その姿を見た母親は顔色が変わる。

「雅!これ、やるよ!!」
「え…」
「すっげぇ旨かったんだ!豚まん!だから!」
「あのぉ、雅さん?」

悟空の背中越しに声をかけたのは八戒だった。

「僕達、今から出発するんです。長い間ありがとうございました」
「いえ、私は何も…」
「そうですよ!この子なんて何にもやってない、異端児ですので…」
「ちょぉっと待ったぁ、これ以上俺の前でかわいい子をけなすのやめてくんねぇ?」
「私の子ですよ?!あなた達になんやいわれる筋合いは…」
「かわいい女性に暴言吐くのはいただけねぇっつぅの」
「悟浄…さん」
「この子はね!異端児で化け物なんだよ!どんな薬も効かない、前にきた三蔵さまも、今回のお方だって!どうにもならなかったじゃぁ無いか!」
「まぁまぁ、その辺にしてください。」
「この際だからはっきり言わせて貰います!嫁にも行けない、稼ぎにもならない!はっきり言って迷惑なんだよ!」
「もぉ止めて!」

そう言って会話を遮ったのは雅本人だった。回りに居た村人も一瞬静かになりながらも『力』の暴走を恐れたが何も怒らなかった。

「もぉ良いよ…私…この村から出ていくから…村の人も怯えなくてすむように…それで良いでしょ?」
「雅、ダメだ!村の外には妖怪が…!」
「翠藍兄ぃ、大丈夫。もし万が一でも翠藍兄ぃにも迷惑、かかならないでしょ?」

言うだけ言ってその場から歩きだそうとした時だ。ずっと黙っていた三蔵が呼び止めた。

「……おい」

しかし自分の事とは思っていない雅は振り返ることもなくそのまま涙をこらえて歩いていく。

「おい、待てって言ってんの、聞こえてんだろうが」
「…え?……私?」
「他に誰が居る」

その問いかけでようやく止まった雅。深いあからさまなため息を溢しながら三蔵は、とても迷惑だと言わんばかりに車から降りた。しかし、進んだのは雅の方でなく、母親に向かっていった。

「俺の目の前で命を軽く扱うような言葉は避けろ。」
「三蔵…様、私はそう言うつもりではなく…」
「そうもこうもねぇ。さっき迷惑だっていったな。」
「……あぁ、言ったさ!」
「だったら話は早いな」
「…え?」
「雅!」

そう軽々しくも名前を呼びつけ、三蔵は雅の前まで歩みを進める。しかし一体何の事か解らない雅は立ち尽くしたままだった。

「一回しか聞かねぇから良く聞け」
「…はい」
「危険と隣り合わせの旅になるが、俺が守ってやる。一緒に来るか?」
「え…?」
「ただし、この村には二度と帰れない。その覚悟があれば…」

そこまで言うと、三蔵はスッと右手を差し出した。

「俺達と一緒に来い、

状況がつかめない雅。後ろから悟浄や八戒、悟空が近付いてくる。

「俺も大歓迎だぜ?雅チャン!」
「力の使い方なら僕が教えます。」
「行こうよ!雅!」

ざわざわと五月蝿い村人の声などもう、雅の耳には届いていなかった。ゆっくりと三蔵の出される手を取った。

「…フ…おせぇんだよ、バカが。」
「さて、じゃぁ挨拶は、どうしますか?」
「……ッ」
「さっさとしろ、そんなに待たんぞ」

そう言われ雅は母親と兄の元へと向かった。

「私…行くね」
「雅…!!」
「さっさと行きな!清々する!」
「翠藍兄ぃ、母さんの事、よろしくね。今までありがとう、母さん」

そう言うだけ言い、目を合わそうとしない母の横顔を見て雅は出会ったばかりの三蔵達の元へと戻っていった。

「あの…よろしくお願いします。」

そうしてジープに乗り込み長く育った村に、雅は別れを告げ、出ていった。
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