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scene24:レンタル彼氏…?
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こうしてレンタル彼氏当日。待ち合わせ時間の15分前、三波は待ち合い場所に着いて待っていた。
「うーん、まだ、…ですかね。」
「三波さん!…ハァハァ…遅くなりました!ごめんなさい。」
息を切らしながら小宮が走ってきたのを見つけて三波はにこりと笑いかけた。
「いえ、僕もさっき来たばかりですから。」
「すみません。本当に…」
「さて、早速ですが行きましょうか?」
「でもまだ早いんですが…」
「クス、恋人には、色々とあるんですよ?」
そう言って三波は小宮に向かって手を差し出した。赤くなりながらその手を取る小宮。きゅっと握ると柔らかな笑顔で三波は歩きだした。そんな三波を見て一瞬どきっと胸を高鳴らせた小宮の歩幅にあわせている。
「これからどこに行くんですか?」
「そうですねぇ。まずどこか入りますか?」
「どこかって…」
「たまにはウロトルマ以外のコーヒーも悪くないでしょう?」
そう話しながらもカフェに向かって歩いていた。小宮が楽しみにしていたイベントは16時から…待ち合わせたのは10時だった。そのカフェラウンジでで三波は小宮にそっと渡した。
「これ、加奈さんの好みに合うか解りませんけど…」
「…え?本当に…用意してくれたんですか?」
「そりゃ、何かが無いと入れないんですよね?」
「そうですけど…あ、いくらでしたか?私の我儘なので…」
「加奈さん?良いですよ。迷惑でなければ僕からのプレゼントで…貰ってください?」
「ありがとう…ございます…」
そうしてほっこりと嬉しそうに包みを開けた。中からは細身のブレスレットが色違いで2本、入っている。
「填めてもいいですか?」
「どうぞ?」
そういい三波にブラックとシルバー基調の物を渡し、自身はピンクとシルバー基調の物を填めた。
「なんか…不思議な感じですね…」
「そうですか?」
「そりゃ…そうですよ。でもこんな所お店の常連JKに見られでもしたら…三波さんも気を付けてくださいね?」
「加奈さん?」
「はい?」
「今日1日は僕の事名前で呼んでください?」
「え?」
「だって、1日だけの限定とはいっても恋人なんでしょう?」
「でも…それじゃぁ…」
「問題でもありますか?」
「いいんですか?」
「えぇ。それと敬語も禁止」
「それは三波さんだって同じですよ?」
「三波さん?」
「あ…修さん」
「ん。」
にこりと笑う三波の顔はいつも店で見慣れているはずなのに…小宮の眼にはいつもと違う様に映っていた。
「これから時間、どうしましょうかね…」
「そうですね…」
「何か見に行きたい所とか…ありますか?」
「…んー……夏物!ちょっと見に行きたいんです!」
「それじゃぁ決まりですね。行きますか」
そうしてほど近いショッピングモールに移動した。色々と見て回っている内に時間もちょうど昼食の時間に差し掛かる。何を食べたいか三波は小宮に問うと、迷った挙句にスパゲッティと答えが返ってくる。他の所のパスタがどんな味なのか…!と意気込んでいる小宮に、三波は小さく笑った。
「どんなパスタも加奈さんの作るカラスミパスタには適いませんよ?」
「そんな…おだてても何も出ません!」
「クス、本当ですよ?」
注文をして、待っていた。その間に色々と小宮は三波に聞いていた。
「そう言えば…」
「はい?」
「三波さんの彼女ってどんな方なんですか?」
「どんな…ですか」
「彼氏役ってだけでもこんな風にしてくれる三波さんの相手っていったらいろんなことしてあげたくなっちゃうくらいな人何だろうなぁって思って…そうしたら、どんな人何だろうって思って…」
「そうですね。泣き虫で、意地っ張りで、強がってしまう。それでいて僕が少し不摂生だったりするとすぐ怒ってくる。『休んで!!』とかね。」
「…何か、お母さんみたいな?」
「似てるかもしれません。」
「それで?」
「人の痛みを自分の事の様にとらえて、泣いてしまう事もあったりしてますね。その割に意外と強い…」
「なんだか…難しそうな人ですか?」
「そんな事ないよ。結構解りやすい。怒っているとか、機嫌悪いとか…その逆にすごく幸せそうだなとかもね。喜怒哀楽がはっきりしてるからかな。」
「へぇ……クス、でもなんか三波さん、幸せそうですね」
「そうですか?」
「はい、今までそんな優しい顔あまり見た事ないですから。」
「…ッッ」
頬をカリカリと掻きながらも、今度は小宮に聞いていた。
「加奈さんは?彼とか居るんですか?」
「いえいえ!そんな!!!いないですよ…」
「好みのタイプとか」
「もぉ!私の事は良いんですって!」
「…それってなんか僕だけ聞かれてズルくないですか?」
「だって、三波さんは居るんでしょ?私は居ないもん」
そういう小宮は少し膨れた様子を見せていた。
「そんなに怒らないでくださいよ」
「別に怒ってませんけど?!」
「クスクス…ほら、パスタ。来ましたよ?」
そう促して2人は食事を楽しんだ。そこから移動をして、開場より1時間ほど早くついてしまった2人。
「他に行くところとか、良かったんですか?」
「はい!!こうして待つのも醍醐味です!」
「それならいいんですが…」
小宮の嬉しそうな顔を見て三波もまた笑い返す。入口で待っている間に行き交う女性が何人も三波を見て振り返っている。
「やっぱり三波さん…目立ちますね…」
「そうですか?」
「はい…皆見てるんですよ?」
「でもカップル限定のイベントに来てる方が僕の事なんて振り返りますかね」
「見てるんです!家に来るお店のJK達だって言ってるじゃないですか!イケメンだって!」
「そう言われても…」
「自覚が無いのってほんと、困ります」
「……フフ、そんなに怒らないでくださいよ」
そういうと三波はそっと肩を抱いて小宮を抱き寄せた。突然のことで少し驚いた小宮だったがそのすぐ後の南の言葉で少しそのままでいる事にした。
「皆、不振そうな目で見てますよ?加奈さんがそんなヤキモチ妬くので…」
「…ッ……そうはいっても…」
「ほら…もう少しこっちに…」
そう言う三波の腕に少しだけ力もこもる。そうこうしていると開場の時間になった。ぞくぞくと中に入って行く。席は指定席の為慌てる事もなかった。
「ここ!ここですよ!」
「そんなに慌てなくても大丈夫」
「うわぁ…楽しみ!!」
「そうですね」
「あと1時間……」
そう話していると三波は『お手洗い…』と言ってその場を離れた。
「待ってますね!」
「はい。」
そのまま一旦会場を後にする。しかし、トイレと言ったはずの三波は出てすぐに携帯を取り出した。
『はい、成瀬です』
「僕だ。済まない、出られなくて。」
『大丈夫です。』
「どうした?」
『先程、家宅捜索で入った所で、栖谷さんに関する物が出たんです。』
「僕の?」
『はい。なのでその事についてのご報告ともし帰れるとすれば、何時ごろになりそうかという事の確認に。』
「少し遅くなるが…20時には着ける様に向かう。」
『解りました。お休みの所申し訳ありません』
「問題ない。」
そうして通話を切り三波は小宮の元に戻って行った。2時間のイベントも思っていたよりも早く時間の経過を感じ、小宮も大満足の様子だった。時計を見れば終了予定時刻から5分程遅くなったものの、想定内だった。
「夕飯、どうしますか?」
「そうですね…あんまり修さん拘束してるのも彼女さんに悪いですし…」
「クス…それじゃぁ家まで送ります」
そうして小宮と車に乗せて自宅に向かった。どれくらいかして到着するとシートベルトを外す小宮。そんな小宮の横で三波はカチっとブレスレットを外した。
「そうだ…加奈さん?」
「え?」
「これ。」
そう言うと外したブレスレットを小宮に差し出した。
「え…でもこれって三波さんの…」
「僕が1日付けていたものですが…」
「そんな、悪いです」
「良ければ貰ってください。楽しかった思い出に」
「…ありがとう」
三波の前に手を差し出した小宮はそのブレスレットを受け取った。玄関に入るのを見届けてゆっくりとインカムを装着する。
「もしもし?僕だ」
『栖谷さん?』
「今から向かう。ここからなら15分もあれば着くだろう」
『くれぐれも安全運転でお願いしますね?』
「解って居る」
そうして電話を切り、栖谷に戻ったその顔は署に戻って行った。
それから話した通りにおよそ15分ほどした時、栖谷は署に到着した。インカムで話しながらも中に入って行く。
「…・・それで?」
『栖谷さん以外の話は聞かないと…ようやく言った言葉が『黙秘権使います』だったそうで…』
「加賀は?」
『はい、今目の前で何かオトせる手がかりをと探していますが…』
「解った。」
そうして通話が切れた数分後、ピッと音が鳴り扉が開いた。
「済まない。待たせた。」
「いえ。」
「それで僕しか受け付けないとはどういう事だ?」
「…こちらを…」
そう言うと雅はその犯人についての書類を出してくる。併せて加賀は話し出す。
「名前は水野誠。29才の男性です。」
「……この情報だけ見たら僕じゃなくても…誰でもよさそうだが…」
「そうなんです。何で栖谷さんしか取り調べを受けたくないのか…全く見えてこないんです…」
それまで取り調べていたのも加賀だった。
「どちらにしても、明日話を聞いてみるか。」
「お願いします。」
「加賀も、遅くまで済まなかった。」
「そんな事は…栖谷さんこそ、お休みの日にすみません」
「とりあえず…帰るぞ?」
「……もう少し…」
「成瀬…」
「明日…話をするんですよね?だとしたら…何かがきっとあるはずなんです。栖谷さんじゃなくちゃいけない何かが。」
「…ハァ、加賀、君まで付き合わせる訳にはいかない。先に帰っててくれ。」
「しかし…」
「僕が付き合うから。それに急速も仕事の内だ。」
「…解りました。それじゃぁ…すみません。」
「あぁ。」
そうして加賀を先に帰らせた栖谷。カタカタと検索をしている雅の横に座ると栖谷はゆっくりと話し出した。
「ただ単に相手が話したくないだけだからとか…それも考えられるぞ?」
「だとしたら、何で犯人は栖谷さんの事を知ってるんですか?」
その雅のひと言で栖谷の顔つきが変わった。
「いわれてみれば…そうだな」
「だからデータベース調べてるんです。時間かかるかも知れないので、栖谷さんも先に帰ってください。今日のでお疲れでしょうし…」
「…なんか…棘あるな」
「そう思うという事は…やましい事でもあるんですか?」
「僕が?ある訳無いだろう…」
「………・・・あった」
「だから…!」
ギシリと椅子を鳴らしながらも背凭れに寄り掛かる雅。そこには数年前に栖谷に確保された被疑者である事実が浮き彫りになっていた。そうしてその画面を見せると栖谷の頭の中に思い起こされてきた。
「…なるほど…僕への恨み…という訳か…」
「明日…気を付けてくださいね?」
「そうする。」
そのデータを保存し、パソコンを閉じると片づけを始める雅。
「……それで?」
「ん?何がだ?」
「…今日は楽しかったんですか?」
「フ…気になるのか?」
「別に。…気に何てしてません。」
そう言いながら鞄を持とうとした時、背中からふわりと抱き締める栖谷。
「僕としては気にしてほしい所なんだが?」
「…だって…気にするだけ……損です」
「なぜ?」
「気にしても絶対いう事一緒だもん、『今日のは栖谷じゃなくて三波だ』って。そんな答え来るの解ってて気にしたって……」
「…そうか」
ひと言のこして栖谷はそっとその腕を離した。ンッ…と背伸びをすると背中を向ける栖谷の方をちらりと見て雅もまた鞄を持ちあげる。そのまま一緒に部屋を出ると誰もいない暗い中、きゅっと服の裾を持ち背中にトンっと凭れた。
「洸の…バカ」
「……雅?」
「なんでそんな……レンタル彼氏なんて引き受けたのよ…2回目受けたら…本気で怒るんだから…」
「やっぱり怒ってたんじゃないか…」
「今の…独り言だもん…」
「大きな独り言だな…全く…」
そう言うと鞄を取り上げて『帰るぞ?』と優しく笑いかけた。
「うーん、まだ、…ですかね。」
「三波さん!…ハァハァ…遅くなりました!ごめんなさい。」
息を切らしながら小宮が走ってきたのを見つけて三波はにこりと笑いかけた。
「いえ、僕もさっき来たばかりですから。」
「すみません。本当に…」
「さて、早速ですが行きましょうか?」
「でもまだ早いんですが…」
「クス、恋人には、色々とあるんですよ?」
そう言って三波は小宮に向かって手を差し出した。赤くなりながらその手を取る小宮。きゅっと握ると柔らかな笑顔で三波は歩きだした。そんな三波を見て一瞬どきっと胸を高鳴らせた小宮の歩幅にあわせている。
「これからどこに行くんですか?」
「そうですねぇ。まずどこか入りますか?」
「どこかって…」
「たまにはウロトルマ以外のコーヒーも悪くないでしょう?」
そう話しながらもカフェに向かって歩いていた。小宮が楽しみにしていたイベントは16時から…待ち合わせたのは10時だった。そのカフェラウンジでで三波は小宮にそっと渡した。
「これ、加奈さんの好みに合うか解りませんけど…」
「…え?本当に…用意してくれたんですか?」
「そりゃ、何かが無いと入れないんですよね?」
「そうですけど…あ、いくらでしたか?私の我儘なので…」
「加奈さん?良いですよ。迷惑でなければ僕からのプレゼントで…貰ってください?」
「ありがとう…ございます…」
そうしてほっこりと嬉しそうに包みを開けた。中からは細身のブレスレットが色違いで2本、入っている。
「填めてもいいですか?」
「どうぞ?」
そういい三波にブラックとシルバー基調の物を渡し、自身はピンクとシルバー基調の物を填めた。
「なんか…不思議な感じですね…」
「そうですか?」
「そりゃ…そうですよ。でもこんな所お店の常連JKに見られでもしたら…三波さんも気を付けてくださいね?」
「加奈さん?」
「はい?」
「今日1日は僕の事名前で呼んでください?」
「え?」
「だって、1日だけの限定とはいっても恋人なんでしょう?」
「でも…それじゃぁ…」
「問題でもありますか?」
「いいんですか?」
「えぇ。それと敬語も禁止」
「それは三波さんだって同じですよ?」
「三波さん?」
「あ…修さん」
「ん。」
にこりと笑う三波の顔はいつも店で見慣れているはずなのに…小宮の眼にはいつもと違う様に映っていた。
「これから時間、どうしましょうかね…」
「そうですね…」
「何か見に行きたい所とか…ありますか?」
「…んー……夏物!ちょっと見に行きたいんです!」
「それじゃぁ決まりですね。行きますか」
そうしてほど近いショッピングモールに移動した。色々と見て回っている内に時間もちょうど昼食の時間に差し掛かる。何を食べたいか三波は小宮に問うと、迷った挙句にスパゲッティと答えが返ってくる。他の所のパスタがどんな味なのか…!と意気込んでいる小宮に、三波は小さく笑った。
「どんなパスタも加奈さんの作るカラスミパスタには適いませんよ?」
「そんな…おだてても何も出ません!」
「クス、本当ですよ?」
注文をして、待っていた。その間に色々と小宮は三波に聞いていた。
「そう言えば…」
「はい?」
「三波さんの彼女ってどんな方なんですか?」
「どんな…ですか」
「彼氏役ってだけでもこんな風にしてくれる三波さんの相手っていったらいろんなことしてあげたくなっちゃうくらいな人何だろうなぁって思って…そうしたら、どんな人何だろうって思って…」
「そうですね。泣き虫で、意地っ張りで、強がってしまう。それでいて僕が少し不摂生だったりするとすぐ怒ってくる。『休んで!!』とかね。」
「…何か、お母さんみたいな?」
「似てるかもしれません。」
「それで?」
「人の痛みを自分の事の様にとらえて、泣いてしまう事もあったりしてますね。その割に意外と強い…」
「なんだか…難しそうな人ですか?」
「そんな事ないよ。結構解りやすい。怒っているとか、機嫌悪いとか…その逆にすごく幸せそうだなとかもね。喜怒哀楽がはっきりしてるからかな。」
「へぇ……クス、でもなんか三波さん、幸せそうですね」
「そうですか?」
「はい、今までそんな優しい顔あまり見た事ないですから。」
「…ッッ」
頬をカリカリと掻きながらも、今度は小宮に聞いていた。
「加奈さんは?彼とか居るんですか?」
「いえいえ!そんな!!!いないですよ…」
「好みのタイプとか」
「もぉ!私の事は良いんですって!」
「…それってなんか僕だけ聞かれてズルくないですか?」
「だって、三波さんは居るんでしょ?私は居ないもん」
そういう小宮は少し膨れた様子を見せていた。
「そんなに怒らないでくださいよ」
「別に怒ってませんけど?!」
「クスクス…ほら、パスタ。来ましたよ?」
そう促して2人は食事を楽しんだ。そこから移動をして、開場より1時間ほど早くついてしまった2人。
「他に行くところとか、良かったんですか?」
「はい!!こうして待つのも醍醐味です!」
「それならいいんですが…」
小宮の嬉しそうな顔を見て三波もまた笑い返す。入口で待っている間に行き交う女性が何人も三波を見て振り返っている。
「やっぱり三波さん…目立ちますね…」
「そうですか?」
「はい…皆見てるんですよ?」
「でもカップル限定のイベントに来てる方が僕の事なんて振り返りますかね」
「見てるんです!家に来るお店のJK達だって言ってるじゃないですか!イケメンだって!」
「そう言われても…」
「自覚が無いのってほんと、困ります」
「……フフ、そんなに怒らないでくださいよ」
そういうと三波はそっと肩を抱いて小宮を抱き寄せた。突然のことで少し驚いた小宮だったがそのすぐ後の南の言葉で少しそのままでいる事にした。
「皆、不振そうな目で見てますよ?加奈さんがそんなヤキモチ妬くので…」
「…ッ……そうはいっても…」
「ほら…もう少しこっちに…」
そう言う三波の腕に少しだけ力もこもる。そうこうしていると開場の時間になった。ぞくぞくと中に入って行く。席は指定席の為慌てる事もなかった。
「ここ!ここですよ!」
「そんなに慌てなくても大丈夫」
「うわぁ…楽しみ!!」
「そうですね」
「あと1時間……」
そう話していると三波は『お手洗い…』と言ってその場を離れた。
「待ってますね!」
「はい。」
そのまま一旦会場を後にする。しかし、トイレと言ったはずの三波は出てすぐに携帯を取り出した。
『はい、成瀬です』
「僕だ。済まない、出られなくて。」
『大丈夫です。』
「どうした?」
『先程、家宅捜索で入った所で、栖谷さんに関する物が出たんです。』
「僕の?」
『はい。なのでその事についてのご報告ともし帰れるとすれば、何時ごろになりそうかという事の確認に。』
「少し遅くなるが…20時には着ける様に向かう。」
『解りました。お休みの所申し訳ありません』
「問題ない。」
そうして通話を切り三波は小宮の元に戻って行った。2時間のイベントも思っていたよりも早く時間の経過を感じ、小宮も大満足の様子だった。時計を見れば終了予定時刻から5分程遅くなったものの、想定内だった。
「夕飯、どうしますか?」
「そうですね…あんまり修さん拘束してるのも彼女さんに悪いですし…」
「クス…それじゃぁ家まで送ります」
そうして小宮と車に乗せて自宅に向かった。どれくらいかして到着するとシートベルトを外す小宮。そんな小宮の横で三波はカチっとブレスレットを外した。
「そうだ…加奈さん?」
「え?」
「これ。」
そう言うと外したブレスレットを小宮に差し出した。
「え…でもこれって三波さんの…」
「僕が1日付けていたものですが…」
「そんな、悪いです」
「良ければ貰ってください。楽しかった思い出に」
「…ありがとう」
三波の前に手を差し出した小宮はそのブレスレットを受け取った。玄関に入るのを見届けてゆっくりとインカムを装着する。
「もしもし?僕だ」
『栖谷さん?』
「今から向かう。ここからなら15分もあれば着くだろう」
『くれぐれも安全運転でお願いしますね?』
「解って居る」
そうして電話を切り、栖谷に戻ったその顔は署に戻って行った。
それから話した通りにおよそ15分ほどした時、栖谷は署に到着した。インカムで話しながらも中に入って行く。
「…・・それで?」
『栖谷さん以外の話は聞かないと…ようやく言った言葉が『黙秘権使います』だったそうで…』
「加賀は?」
『はい、今目の前で何かオトせる手がかりをと探していますが…』
「解った。」
そうして通話が切れた数分後、ピッと音が鳴り扉が開いた。
「済まない。待たせた。」
「いえ。」
「それで僕しか受け付けないとはどういう事だ?」
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「……この情報だけ見たら僕じゃなくても…誰でもよさそうだが…」
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それまで取り調べていたのも加賀だった。
「どちらにしても、明日話を聞いてみるか。」
「お願いします。」
「加賀も、遅くまで済まなかった。」
「そんな事は…栖谷さんこそ、お休みの日にすみません」
「とりあえず…帰るぞ?」
「……もう少し…」
「成瀬…」
「明日…話をするんですよね?だとしたら…何かがきっとあるはずなんです。栖谷さんじゃなくちゃいけない何かが。」
「…ハァ、加賀、君まで付き合わせる訳にはいかない。先に帰っててくれ。」
「しかし…」
「僕が付き合うから。それに急速も仕事の内だ。」
「…解りました。それじゃぁ…すみません。」
「あぁ。」
そうして加賀を先に帰らせた栖谷。カタカタと検索をしている雅の横に座ると栖谷はゆっくりと話し出した。
「ただ単に相手が話したくないだけだからとか…それも考えられるぞ?」
「だとしたら、何で犯人は栖谷さんの事を知ってるんですか?」
その雅のひと言で栖谷の顔つきが変わった。
「いわれてみれば…そうだな」
「だからデータベース調べてるんです。時間かかるかも知れないので、栖谷さんも先に帰ってください。今日のでお疲れでしょうし…」
「…なんか…棘あるな」
「そう思うという事は…やましい事でもあるんですか?」
「僕が?ある訳無いだろう…」
「………・・・あった」
「だから…!」
ギシリと椅子を鳴らしながらも背凭れに寄り掛かる雅。そこには数年前に栖谷に確保された被疑者である事実が浮き彫りになっていた。そうしてその画面を見せると栖谷の頭の中に思い起こされてきた。
「…なるほど…僕への恨み…という訳か…」
「明日…気を付けてくださいね?」
「そうする。」
そのデータを保存し、パソコンを閉じると片づけを始める雅。
「……それで?」
「ん?何がだ?」
「…今日は楽しかったんですか?」
「フ…気になるのか?」
「別に。…気に何てしてません。」
そう言いながら鞄を持とうとした時、背中からふわりと抱き締める栖谷。
「僕としては気にしてほしい所なんだが?」
「…だって…気にするだけ……損です」
「なぜ?」
「気にしても絶対いう事一緒だもん、『今日のは栖谷じゃなくて三波だ』って。そんな答え来るの解ってて気にしたって……」
「…そうか」
ひと言のこして栖谷はそっとその腕を離した。ンッ…と背伸びをすると背中を向ける栖谷の方をちらりと見て雅もまた鞄を持ちあげる。そのまま一緒に部屋を出ると誰もいない暗い中、きゅっと服の裾を持ち背中にトンっと凭れた。
「洸の…バカ」
「……雅?」
「なんでそんな……レンタル彼氏なんて引き受けたのよ…2回目受けたら…本気で怒るんだから…」
「やっぱり怒ってたんじゃないか…」
「今の…独り言だもん…」
「大きな独り言だな…全く…」
そう言うと鞄を取り上げて『帰るぞ?』と優しく笑いかけた。
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