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scene18:過去の記憶…・・

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誤解も解けだし、月明かりが照らす中…2人はただ互いの温もりを感じていた。この日が、この瞬間がまた新たな互いの甘い記憶となる様に…そうして行為が済み、栖谷は体を起こして雅を膝の中に入れ、後ろから抱き締めて話し出した。

「今日の事、聞いてくれるか?」
「ん…」
「少し長くなるが…」

そうして栖谷はゆっくりと話はじめた。




 ・・――― ~6 年 前 ~ ―――…

時は6月10日…この日は梅雨入り前とはいえ、そのものの様な大雨の日だった。それはある大きな事件を追っていた時の事だった。担当していた刑事は栖谷と伊沢だった。栖谷は見張りをし、伊沢が追い詰めていく。そんな中だ。

『栖谷、聞こえるか?』
「どうした?」
『……済まない…』
「なんだ?伊沢!…おい!!」

そのたったひと言の『すまない…』という言葉に何か違和感を感じた栖谷は急いで螺旋階段を上がって行く。

『手を…ヴヴ……ザ…める…ガ…ヴヴ…ッッ…かった…』
「伊沢!聞こえない!どうした!!」

焦る気持ちを抑えながらも栖谷は急いだ。伊沢の居る屋上に向かいもう扉に手がかかろうかと言う時だ。


パァァァァン…・・・・!!!!!


銃声だ…明らかにこの扉の奥から聞こえた…震える手を抑えながらも栖谷は戸の扉を開けた。

「…伊…・・沢?」
「………遅かったな」

そこには左胸を撃たれた伊沢と、見知らぬ男が立っていた。右手には短銃が握られていた。何かを言う前に…一瞬にして聞きたい事は山ほどできた…それでも、栖谷は真っ先に伊沢の元に向かていった。

「伊沢…・・いざ…ッ!!」

左胸に耳をあててみる…首筋に手をやり、脈を取ろうと試みた。しかし、頭上からそんな行動をあざ笑うかの様に冷たい声が降り注ぐ。

「そんな事をしても無駄だよ。完全に死んだ」
「いったい…なんで…」
「裏切りは、自らの寿命を縮める。裏切り者の末路にはピッタリじゃないか?」
「お前は一体…ッッ!!」

顔を上げ、睨み付けるかのようにその声の主を見上げたものの、栖谷は一瞬に言葉を失った。その男の眼は今までに見てきた誰よりも冷たく、何人もの血を浴びてきたかのような目だった。

「伊沢は…伊沢がなぜ死ななくてはいけなかった!!」
「フ…守るもの、守るべき相手、そして散りゆく者……それは誰にだって解らんものだよ。」
「…ク……」
「君も、狩るべき相手だけは見誤るなよ?……公安警察、栖谷洸…君?」
「……待て!!」
「まだ何かあるのか?」
「お前の…御前の名前を聞いていない…」
「…俺の名前は志貴 紅葉しき くれは。CIA特別部隊に居る。」
「C…IA…?CIAがなぜ伊沢を…」
「くどいな。」

そう言い放ち志貴はその場を後にした。残された栖谷は急いで何かの手掛かりがないか…探し出す。躊躇い傷も、他に大きく目立つ傷も無い。ただ……さっきも気になった…左胸にある固い物……
スーツのボタンを外し、そっと内ポケットを探る…

「これは……どうして…?」

ピンポイントで真っ直ぐに打ち抜かれたのだろう…携帯が真っ直ぐに貫通し、ヒビも均等に放射線状に入っている。

「何があったんだ…伊沢……」

こうしては居られない…溢れる血がかかろうと、お構いなしに栖谷は伊沢を背負い、ビルを後にした。その後、現場検証が行われた物の銃の暴発、として事故で片付けられたのだった。この時に追っていた犯人は後日別の場所で逮捕に至ったのだが、取り逃がしたわけでもなく、偽の情報に栖谷と伊沢がかりだされたという結論になったのだ。

(伊沢の銃が暴発したんじゃない…あのCIAが何かを知っているはずだ…志貴…紅葉……)

そうしてそれから数年の間、極秘に栖谷は自分自身で色々と調べていた。そこで解った事は大きな事件で伊沢がCIAの情報局にハッキングをした。そこで大きな『何か』を手に入れたのだろう…それを手に入れて伊沢が何をしようとしていたかは不明だが、それが原因であの志貴に殺されたのだろう…そう言う見解に辿りついた。しかし、付いて回るのは最後に聞いた伊沢のあの言葉…


『手を…ヴヴ……ザ…める…ガ…ヴヴ…ッッ…かった…』

きっと思うに『手を染めるつもりは無かった』と言いたかったのだろう…そうすると、殺されたのではなく、…自殺だったのか…詳細は年月を超す度に解らなくなり、闇に染められていくばかりだった。今では何が正しいのか…真実は一体どこにあるのか…解らずにいたのだった…


……―――・・・

「…それで…その伊沢さんっていう人のお墓参りに行ってたの?」
「あぁ。警察学校時代からというよりは本当に小さい時からの幼馴染だったからね。もしかしたら諦めたくなかったのかも知れない…」
「でも…そのCIAの人にも何も教えて貰えず…伊沢さんからの元からも手掛かりは無い…」
「あぁ。」

抱き締めてくれる栖谷の腕からゆっくりと離れ、向きを変えると膝で立ち、雅はそっと上から見下ろして話した。

「しんどかったね…」
「雅?」
「大事な親友失って……それでも洸はこうしてまだ公安を続けてる…凄い事だと思う…」
「……何…ん?」
「うまく言えないんだけど……きっと…伊沢さんは洸のここにいてくれる。」

そう言うと雅はそっと栖谷の胸元に手を伸ばす。トクン…と栖谷の鼓動が雅の手に伝わった。

「洸の事、きっと伊沢さんは見てくれてる…遠くても、すごく近くで見てくれてるよ…」
「雅……」
「だから大丈夫…正しい事も、真実も、時に解らなくても、それは知らなくても良い事だから…伊沢さんが持っていったから。それをもし洸が見つけたら…洸も同じようになるから…それをきっと恐れて伊沢さんが解らない様にしてくれて…ン…」

一生懸命に話をして言葉を紡ぐ雅の胸に顔を埋めた栖谷。腰から背中にかけて腕を回していた。

「ありがとう…雅……」
「…そんな……ありがとうなんて…ンァ…」

ツーッと腰元をなぞる指に一気に敏感に反応する。栖谷の過去を知り、栖谷自身もすこしだけ心は軽くなり、雅もまた、栖谷の心の傷を分かち合えたようで嬉しかった。グイッと腕を引き、上下入替り組み敷いた栖谷はそっと雅の頬を包み込ながらゆっくりと話し出した。

「それから…雅にはもう1つ…」
「え?ン…何?」
「今夜のメインディッシュ…美園警部の事。」
「……ッッ」
「彼女とはなんでもない。今夜だって食事を途中で投げ出した位だ。」
「ヴィランズが?」
「いいや。僕が、だ。」
「でもなんで?」
「嫌になったから。それ以上でも以下でもない…」
「なんだ…」
「ん?」
「私の所に少しでも早く…って意味じゃなかったんだ…」

そう呟くと栖谷の腕の中で雅は体の向きを変えて背中を向けた。しかしそんな雅を抱き締めて栖谷は続ける。

「もちろん?それもあったさ。だけど話が面倒でね…」
「どんな話?どうせ口説かれたんでしょ?」
「……」
「ちょっと…!否定してよ…」
「口説かれて良かったのかと思った…」
「良い訳ないよ…」
「…しかし、雅の読みは残念だがはずれだ。」
「え?」

『こっち向いて』と言わんばかりに体の向きを変えさせられると唇を重ね、ゆっくりと話はじめた栖谷。

「Clearの解散というか…人事の入れ替えを申し出てきた。前々から良く聞かされていたけどね。その度に断わって来たんだが…どうも諦めてくれないらしい。」
「入れ替えって……」
「安心しろ。加賀と雅を誰かに変える何てことはしないから。もし変えてみろ。それこそ僕の命なんていくつあっても足りやしない…」
「……まだ…一緒に仕事出来る?」
「もちろんさ。それとも雅は離れたかったか?」
「…意地悪…」
「お互い様だろう?誰も加賀と雅の代わりなんてならないさ。僕の背中を任せられるのは2人しかいない…」
「……ばか…」
「何と言われようとかまわないさ…」

そういうと栖谷は再び唇を重ねた。ゆっくりとした長く甘い物だった。こうして2人は、和解と同時に夜の中に溶けて行った……


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