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scene16:嫉妬

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「加賀さん…あのぉ…」
「なんだ?どうした。」
「相談してもいいですか?」
「珍しいな。栖谷さんと何かあったのか?」
「…だって」

そういい話をするべく向かい合う。初めてClearの仕事を美園が目の当たりにした日から、3日後の事だ。場所は昼下がりのウロトルマだ。いつもと同じように、ほぼ変わらぬ席で話している。そこに栖谷の姿は無かった。今日はここでもないのだろう…

「なんだかんだ言っても…ヴィランズ・美園は栖谷さんの事気に入ってるみたいだし…」
「そうか?栖谷さんは全くと言っていいほど眼中にない気がするが…」
「あって貰っても困るけど…」
「それにしても、成瀬ぇ?ヴィランズ・美園って…」
「悪役です…ボス的なのです…」
「クス…本人前にして言えるか?」
「言いませんけど…話反れてます!」
「すまんすまん。それで?別に俺が思うには、美園警部がどう思っていようと栖谷さんにその気がないなら別に何の問題もないんじゃないか?」
「……それもそうなんですけど…」
「なんだ?」
「聞いたんです…噂…」
「栖谷さんに関しての女性問題なら全て白だろ。成瀬の事以外は…」
「……ッッ」
「…どうした?」
「食事の話が出てるみたいなんです…」
「関係ないだろう?食事位。今の俺たちみたいなもんだ…」
「でも…」
「成瀬らしくないな。」
「……だって…」

そんな時だカランカラン…とウロトルマ独特のベル音がした。背面に位置している雅と、その入ってきた人物を見る事の出来る加賀。そんな時、加賀は一瞬目を反らした。

「…加賀さん?」
「成瀬、今日って栖谷さんここか?」
「でもいないでしょ?」
「これはこれは、よく来てくださいますね。」

そう背中越しに声をかけられる雅。その声は紛れもなく栖谷の声だった。

「せ…っ三波さん…」
「はい?なんですか?」
「…今日ここだったんですか?」
「僕も予定がありますので…今からはここのバイトの時間ですが?」
「三波さぁん!!すみません!手伝ってくださぁい!!」
「今行きます!ごゆっくり」

そう言い残して三波を演じる栖谷はその場を離れた。

「知ってたか?成瀬…」
「いえ…知ってたらここ来てません…」
「だろうな…栖谷さんの話なのに…」
「もぉ…なんでかなぁ…」
「でも、話戻るが…食事位じゃ今まで成瀬そんなに怒らなかったろ。」
「怒りませんよ…でも…日にちが問題なんです…」
「日にち?」
「……普通恋人の誕生日当日に約束なんてしますか?」
「…そうなのか?」
「そうですよ……てか…一緒に過ごせるかも何て期待した私がばかだったのかな…」

明らかにしょぼくれた雅。確かに栖谷の誕生日は強制的に戻した10分だとはいえ、一緒に過ごす事が出来た…だけど、自分の誕生日ももしかしたら栖谷と一緒に過ごせるかもしれない…そう思っていた矢先に聞いたうわさがこれだったのだ。

「なんなら直接本人に聞いてみたらどうだ?」
「栖谷さんにですか?……聞けるなら苦労はしませんよ…」
「だからってそんな腑抜けた様子のままだと、どうせ又栖谷さんに突っこまれるぞ?」
「そうなんだけど……」

そうこう話しているといつもの女子高生がやってきた。

「三波さぁん!加奈さんも!来たよー!!」
「すみません、忙しい時間に…」
「いいのよ!星香ちゃん、今日もこんなだし。」
「加奈さん、そんな事言ってると忙しくなりますよ?」
「もぉ、そんな事言ってもいつも三波さんが手伝ってくれるじゃないですか!」
「そりゃ僕も一応個々の店員ですから?」
「…ねぇねぇ、来て早々にイチャつくの見せつけられるこちらの気持ち…解ります?」
「そんな!いちゃついて何て…!ねぇ!三波さん!!」
「そうですか?」

そう笑いながらも話している4人を見て雅の空気はどんどん重たくなってきていた。そんな時だ。星香がやってきて雅に声をかけた。

「あの…ですよね…」
「あ…はい…」
「あの…これ、良かったら食べますか?」
「え?でもこれって…」
「商店街のくじ引いたら予定外に大物あたっちゃって…なので全然気にしなくていいんですけど…」

そう言いながら申し訳なさそうに出してきたのはチョコレートだった。自分たちで食べても食べきれず、ウロトルマに置いて帰ろうかとなったというのだ。それでも消費でき兼ねて困っていた所に雅達が居合わせたというのだった。

「いいんですか?」
「はい、良かったら。」
「ありがとうございます!も食べますか?」
「え…あ……あぁ」

そうして軽く会釈をした加賀。そんな加賀に雅は嬉しそうにチョコレートを分けた。ぴったりと半分に分ける事が出来たため嬉しそうに笑いかけている雅。

「成瀬…俺は今後ここでは春日なのか?」
「すみません。勝手に名づけて…」
「いや…構わないが…で、成瀬は工藤?」
「はい…私は何故か栖谷さんに突如ラインで名づけられました…」
「なるほど…」

そう話していた2人。しかし、明るくふるまう声は雅達の耳にも届く。それでまた堕ちていく雅。

「なぁ成瀬…俺が言うのもなんだが…」
「はい?」
栖谷さんに嫉妬というか…向けても無駄な気がするんだが…」
「…解ってますよ…だけど…何か私ばっかり気がもやもやしてるのって…ずるい」
「いや、俺に言われても困るが…良く言われるんだろ?『三波と栖谷は違う』って」
「言われますけど…」
「諦めろ…」
「じゃぁ、ヴィランズ・美園は?」
「難題が残ってるな…」

そう言いながらも加賀はひと言、『さっきの子に相談してみたらどうだ?』と返してきた。

「さっきのって…」
「チョコレートくれた子。女子高生なら俺よりもよっぽど力になるだろう?」
「そうはいっても、突然恋の相談とかって言っても引かれますよ…」
「成程な。だとしたら俺が言えるのは後1つだな」
「なんですか?」
「成瀬は自分だけがヤキモチ妬いたり、気がもやもやするのが嫌なんだろ?」
「はい…」
「だったら結論。成瀬も栖谷さんにヤキモチ妬かせたらいいんじゃないか?」

それは突拍子もない提案だった。まさか加賀の口からそんな言葉が来るとも思っていなかった雅は少し驚いて言葉が出ずにいた。

「え…っと…それってつまり…」
「ん?」
「栖谷さんを怒らせるって事?」
「誰も怒らせろとは言ってない。人聞き悪い事言うな。確かに冗談で済むところとそうでないボーダーラインはあるだろうが、その見極めは成瀬が調整すればいい。」
「そうはいっても…妬かせるなんて事…今までした事ないし。」
「とはいってもじつは今でも相当栖谷さんの中では紋々してると思うが?」
「してるとは思いませんけど…」
「とにかく。度が過ぎない程度に多少様子見てみてもいいんじゃないか?」
「……ヴィランズの解決には至ってないですけど…」
「それは強敵だからな…」

そう言いながらもニコリと雅に加賀は笑いかけていた。いつも鉄仮面のような加賀。仲間内でもあまり笑う事は無い。しかし、栖谷と雅の前では良く笑うのだ。それを見ていた栖谷も、雅の知らない所でかなりのヤキモチを加賀に抱いてるとは、この時の雅は知る由もなかった。


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