12 / 52
scene7:カウントダウン
しおりを挟む
それからと言うもの、自宅はもちろん、署内にも良く届くようになった雅宛ての不審な小包と手紙。良く一緒に同封されているのは、職務中の物であったり、署内の物であったり…
「…またか…」
そうしてある日、帰宅後に開けた封筒の中には思いもよら無い物が入っていた。
「これって…」
そう…内部の人間しか知らないものだった。情報も、その時間帯も、全てにおいて……そんな時だった。タイミングがいいのか悪いのか…雅の携帯に着信があった。
「…もしもし?」
『もしもし、僕だ。』
「栖谷さん?どうしたんですか?何か私やり残した事ありま『今どこにいる』……あの…」
『今どこにいるんだと聞いている』
「今ですか?家ですけど…さっき着いたばかりで…」
『少し時間をくれないか?』
「時間…ですか?」
『あぁ。』
そうして不思議にも感じながらどこへ向かうかを尋ねた雅。その場所は雅の家からほど近い大広場だった。少しだが車の駐車スペースもある。その場所ならと雅は開けただけの鍵を閉め直し、その大広場に歩いて向かった。
(それにしても…相変わらずこういうところは俺様だなぁ…)
そう考えながらも、もう少しで広場に着こうかとした時だ。待ち構えていたであろう車がヘッドライトを付けてゆっくりと近付いてくる。
「これ…ヤバい系?」
ぽつりと呟いた雅は一気に走りだし、大広場の駐車場に駆け込んだ。それでもまだ追いかけてくる車。茂みに飛び込み、駆け上がる中、大きなクラクションが辺りに響き渡った。
そのクラクションが鳴ってから、車は急ブレーキをかけ、荒々しくも向きを変えて出て行った。
「あっぶな…」
そう呟いた雅はゆっくりと体を起こしてスーツに着いた砂を払う。バンっと車から降りる人影…すぐに雅の元に走り近寄ってきた。
「成瀬!大丈夫か?!」
「…あ、栖谷さん…すみません。遅くなって…」
「なんなんだ!今のは一体!!!」
「いえ、暴走車でしょう…心配は…ッッ」
言いかけた雅を思いっきり抱き締めた栖谷。思わず背中を叩き『く…苦しい…』と声をかける雅だったが、栖谷は気に留めないまま抱き締める腕を緩めようとしなかった。
「洸…!!」
そのひと言でようやく栖谷は腕を緩め雅の頬をそっと撫でるように包みこんだ。
「悪かった…」
「何で洸が謝るの…?」
「危ない目に合せた…」
「たまたまだよ…!それに死んだ訳じゃ無いんだし!」
「殺させない…死なせないさ…」
そういう栖谷の眼は今にもどこか泣き出しそうな顔をしている。車に誘い、栖谷は近くのホテルに入った。
「…ッッ…ねぇ…洸……」
「………何か?」
そう少しの間の後に言われた雅は返答の仕様も無かった。そのまま手際よく部屋を決め、手を引かれながらも中に入って行く。大きなベッドがあり、明るく、予想に反した程に落ち着いた音楽が小さくなっている。
「先に入って来い」
「え…でも…」
「構わない。」
そうして半ば強引に雅の手から鞄を取り、浴室に向かわせた栖谷。上着を脱ぎ、ネクタイを解きボタンを1つ外した。そんな中言われるままに中に入る雅。入ったのを確認して栖谷は携帯のメモ機能にさっきの事を打ち込んでいた。どれほどの時間が経っただろうか…10分も経たない間に雅はすぐに出てきた。
「どうした?」
「…何か落ち着かなくて…」
「…」
すっとベッドの淵から立ち上がる栖谷。ゆっくり近付く中で雅は無意識にふいっと背を向けてしまった。そんな雅を後ろからそっと抱きしめた栖谷。ガウン越しの雅の背中にジャケットを脱いだ栖谷の体温は直接と言っていい程に近く感じている。
「雅…僕に一体何を隠している?」
「…洸……?」
「何かあっても気付かない僕だと思っているのか?」
「なんの事?」
シャワーだけと言っても、体に掛けた熱と、栖谷に抱きしめられている熱…それと隠しているあの事の嘘……それが合い重なって雅の鼓動は益々早くなってくる。抱き締めている栖谷の手はゆっくりと左胸に降りてくる。
「こんなに鼓動が早くなるほど、何を隠していると聞いているんだが…?」
「それは…」
「ただ僕を欲しているようには取れないんだけど」
「……ッッ」
耳元で囁く様に…しかし問い詰めるかのように言い切る様に突き刺さる栖谷の言葉。それに輪をかけて左胸を包み込む右手は時折ゆっくりと動き捉えたまま離さ無かった。
「雅…?もう一度聞くよ?僕に何を隠している?」
「……何も…無い…」
その答えを聞くと栖谷はそっと離れた。そのまま背を向けて解いたタイを締め直す。
「こんな所に連れてきて悪かった。着替えろ…送る。」
そう言いながらも上着を着て携帯に目を移す栖谷。どうしたものかと思いながらも俯いて着替えをする雅。それほど時間はかからなかった。鞄を取ろうとした時、一足早く栖谷が手を伸ばす。
「……あ!!」
そうして思わずバッと取り上げようとした時だった。床に落ちた鞄は、ぱっくりと口が空いていた為、中から書類やら財布やら、無造作に広がった。その時、栖谷が目を止めたのは帰った時に来ていた郵便物だった。雅の持つものの中でこれだけが異様に浮き、異質に見えた。茶封筒に何故かパソコンで打たれた住所…
「これは…」
「あの…!!」
明らかに様子がおかしい雅。栖谷の手から奪還しようとするものの、一旦彼の手に渡った物がそう易々と奪い取れるものではない事など知っていた。それでも知られてなるものかと必死になっていた。封筒を手にしたまま立ち上がる栖谷と、諦めたかのように座り込んだままの雅。黙々とただ残りの物を鞄に戻して行った。
「雅、開けるぞ?」
「……ッッ」
上から見下ろしていた栖谷はその様子を見て、封筒の中から手紙を出した。パラリと開け、文字を目で追っていく。同封されている写真も共にだし、見つめている。そして最後の紙を見た途端に一瞬にして顔つきが変わった。
「……これはいつからだ」
「…いえ…その…」
「いつからだと聞いている」
「…」
「雅!答えろ…」
「……1週間位に…なります。」
「なぜ報告しなかった。」
「それは…」
しかしそれ以上言葉が続かなかった雅。鞄を持ち、立たせると手を引き早々にチェックアウトをし、料金を払うと車に押し込んだ。そのまま雅の家に向かう。その道中にインカムを着けた栖谷は、加賀に電話をかけた。
『もしもし、どうされました?』
「明日、何時に来れる?」
『何時…と言いますと…』
「最短で何時に来れる?署でいい」
『言って頂ければ今からでも…』
「だったら今からいう住所に来い。」
そうして栖谷は雅のマンションの住所を加賀に告げた。隣で小さくなっている雅に構う事なく…ぴっと切ると回り道などすることなく、違法ギリギリの走行で雅の家に向かった栖谷はものの10分足らずでそこに着いた。鍵を取り、栖谷は先に車を降りる。ゆっくりと雅が後に続く…そのまま鍵を開け、中に入る雅と後ろから入る栖谷。栖谷が雅の家に入るのはこれが2度目だった。以前入った時とそれほど大きく様変わりをしている様子は無かった。
「何か飲みますか?」
「それより話せ。」
「……」
「この件。他にもあるんだろ?出すんだ。」
「しかし…」
「拒否権は無い。君だけの問題ではない。公安の、署内に殺人鬼への内通者が居る事になる。」
「……」
「雅!いいから出すんだ!!」
そう言われて箱を持ってきた雅。その大きさに少し驚きもしたものの栖谷はすっと見つめていた。中から白手袋が1組出てくる。無駄に指紋を付けない様にとの事らしい。1つ1つが少し大きめのジッパー付きの袋に入り、自身の指紋が付いているであろう箇所が書かれたメモも事細かに書かれている物が入っている。
「1週間でこれか?」
「…はい」
「…ハァ……」
ため息を吐き、日付順に見ていく。カッターの刃から始まり、写真や文面にも悪質加減が増していく。途中まで見た時だ。栖谷の携帯に着信が入った。そう、加賀だ。
「もしもし?僕だ」
『加賀です。今付きましたが…どちらに行けば…』
「2階の206号室。」
『あ、はい。栖谷さんは…』
「僕もいる。上がって来い。」
そう言うとぴっと無下にも切った。待つ事数分でチャイムが鳴る。雅が迎えに出た。
「な…るせ?どうして…」
「どうぞ?…スリッパ用意無くて…そのままで構いません…」
「あ…あぁ……」
そこに何故成瀬が居るのか…そして自宅の様に促すのか…いまいち理解できなかったもののリビングに通された加賀。きれいに整頓されたカウンターキッチンのリビング。1LDKの家だった。そこには栖谷が座って何やら見ている。
「栖谷さん、ここは…」
「私の家です。」
「な…っ?!……・・これは」
「1週間ほど前から届き続けたものだ。やはり成瀬の元に大量に来ていた。」
「何で…これも…!!!」
「中を見るならこれを付けろ。折角の彼女の努力が無駄になる。」
そういい栖谷は手袋を取ると加賀に渡した。しかし少し小さく、加賀は自身の上着のポケットからぴったりサイズの手袋を取りだし填めて袋を開けだした。加賀が見始めた時に栖谷は雅の前に立つと、少し冷たい視線で上から見下ろし話し出した。
「これだけの物証、脅迫文、ましてや公安に対しての反逆とも取れる内容のものを受けていてなぜ黙っていた。」
「それは…」
「ましてや君はさっき、命の危険に晒された。其れがもし公安の人間であるならば容赦はしない。たとえ公安の者でなかったとしても。」
「……」
「もう一度聞く。なぜ黙っていた。」
「………しには…」
「ん?」
「私には思い当る事が無いから…1通目のメモにしてもそう。相手は本当のターゲットは別にいる…そう思ってしまったから…」
「身に覚えがなくともターゲットが他にいるとなぜわかる…」
「きっと…公安という中…その一部…もしくは私が近しい公安の人間…そう言えば解りますか?」
「……成瀬…まさかその相手…」
「きっと加賀さんの思っている人物です。」
「だからなんだ。」
「……ッッ」
「その相手の本来のターゲットが僕だったとして…だからなんだ。」
「栖谷…さん…?」
「僕がターゲットならば僕に来ればいい。それを君に白羽の矢を立て、そして君もまた僕に隠した。」
「そうしなくちゃ…!!洸を守れない…『だったら…!!!!』ッッ…」
「そんな事をされたら俺はどうやって君を守ればいいんだ!!」
雅は初めて聞いた。栖谷の一人称が『僕』ではなく、『俺』というのを。感情が高ぶり、不安定になると時折出る栖谷のこの癖…そうそう聞けるものでもなかった為初めてだったのだ。テーブルを思い切り叩き、小さくなる雅の手を取るとぐっと掴んだ。
「い…た……」
「こんな細い腕で…!どれほどのものか解らない相手に何で1人で向かうつもりだったんだ!!どうするつもりだ!もし本当にあの時君が死んでいたら俺は正気でいられなくなる…!!!!」
「だけど…迷惑かけたくなかった…」
「俺が1度でも迷惑だと言ったか?!」
「栖…ッッ栖谷さん!」
後ろから加賀が止めに入った。掴まれていた手首をもう片方の手で包み込む様に握りしめた雅。そのまま俯いてしまっていた。
「頼むから…1人で抱え込むな。」
「……」
「加賀、押収しろ。」
「は…はい」
「成瀬は当分休め。」
「でも…!!」
「それと…・・僕たち少し距離を置こう。」
「……え?」
「栖谷さん?」
「近くに居過ぎた。……」
「まって…洸……?」
「栖谷さん!」
「加賀、先に行ってくれ。すぐ追う。」
「…」
「行け!」
「はい……」
「待って洸…距離を置くって……」
「……」
「終わりなの?」
「……許可するまで自宅待機だ」
「まって!!……」
「僕の我儘だ。」
「…ッッ洸…!!!」
しかし雅の言葉を遮る様にするりと交わすと栖谷もまた冷たい扉のしまる音と同時に出て行った。
「…またか…」
そうしてある日、帰宅後に開けた封筒の中には思いもよら無い物が入っていた。
「これって…」
そう…内部の人間しか知らないものだった。情報も、その時間帯も、全てにおいて……そんな時だった。タイミングがいいのか悪いのか…雅の携帯に着信があった。
「…もしもし?」
『もしもし、僕だ。』
「栖谷さん?どうしたんですか?何か私やり残した事ありま『今どこにいる』……あの…」
『今どこにいるんだと聞いている』
「今ですか?家ですけど…さっき着いたばかりで…」
『少し時間をくれないか?』
「時間…ですか?」
『あぁ。』
そうして不思議にも感じながらどこへ向かうかを尋ねた雅。その場所は雅の家からほど近い大広場だった。少しだが車の駐車スペースもある。その場所ならと雅は開けただけの鍵を閉め直し、その大広場に歩いて向かった。
(それにしても…相変わらずこういうところは俺様だなぁ…)
そう考えながらも、もう少しで広場に着こうかとした時だ。待ち構えていたであろう車がヘッドライトを付けてゆっくりと近付いてくる。
「これ…ヤバい系?」
ぽつりと呟いた雅は一気に走りだし、大広場の駐車場に駆け込んだ。それでもまだ追いかけてくる車。茂みに飛び込み、駆け上がる中、大きなクラクションが辺りに響き渡った。
そのクラクションが鳴ってから、車は急ブレーキをかけ、荒々しくも向きを変えて出て行った。
「あっぶな…」
そう呟いた雅はゆっくりと体を起こしてスーツに着いた砂を払う。バンっと車から降りる人影…すぐに雅の元に走り近寄ってきた。
「成瀬!大丈夫か?!」
「…あ、栖谷さん…すみません。遅くなって…」
「なんなんだ!今のは一体!!!」
「いえ、暴走車でしょう…心配は…ッッ」
言いかけた雅を思いっきり抱き締めた栖谷。思わず背中を叩き『く…苦しい…』と声をかける雅だったが、栖谷は気に留めないまま抱き締める腕を緩めようとしなかった。
「洸…!!」
そのひと言でようやく栖谷は腕を緩め雅の頬をそっと撫でるように包みこんだ。
「悪かった…」
「何で洸が謝るの…?」
「危ない目に合せた…」
「たまたまだよ…!それに死んだ訳じゃ無いんだし!」
「殺させない…死なせないさ…」
そういう栖谷の眼は今にもどこか泣き出しそうな顔をしている。車に誘い、栖谷は近くのホテルに入った。
「…ッッ…ねぇ…洸……」
「………何か?」
そう少しの間の後に言われた雅は返答の仕様も無かった。そのまま手際よく部屋を決め、手を引かれながらも中に入って行く。大きなベッドがあり、明るく、予想に反した程に落ち着いた音楽が小さくなっている。
「先に入って来い」
「え…でも…」
「構わない。」
そうして半ば強引に雅の手から鞄を取り、浴室に向かわせた栖谷。上着を脱ぎ、ネクタイを解きボタンを1つ外した。そんな中言われるままに中に入る雅。入ったのを確認して栖谷は携帯のメモ機能にさっきの事を打ち込んでいた。どれほどの時間が経っただろうか…10分も経たない間に雅はすぐに出てきた。
「どうした?」
「…何か落ち着かなくて…」
「…」
すっとベッドの淵から立ち上がる栖谷。ゆっくり近付く中で雅は無意識にふいっと背を向けてしまった。そんな雅を後ろからそっと抱きしめた栖谷。ガウン越しの雅の背中にジャケットを脱いだ栖谷の体温は直接と言っていい程に近く感じている。
「雅…僕に一体何を隠している?」
「…洸……?」
「何かあっても気付かない僕だと思っているのか?」
「なんの事?」
シャワーだけと言っても、体に掛けた熱と、栖谷に抱きしめられている熱…それと隠しているあの事の嘘……それが合い重なって雅の鼓動は益々早くなってくる。抱き締めている栖谷の手はゆっくりと左胸に降りてくる。
「こんなに鼓動が早くなるほど、何を隠していると聞いているんだが…?」
「それは…」
「ただ僕を欲しているようには取れないんだけど」
「……ッッ」
耳元で囁く様に…しかし問い詰めるかのように言い切る様に突き刺さる栖谷の言葉。それに輪をかけて左胸を包み込む右手は時折ゆっくりと動き捉えたまま離さ無かった。
「雅…?もう一度聞くよ?僕に何を隠している?」
「……何も…無い…」
その答えを聞くと栖谷はそっと離れた。そのまま背を向けて解いたタイを締め直す。
「こんな所に連れてきて悪かった。着替えろ…送る。」
そう言いながらも上着を着て携帯に目を移す栖谷。どうしたものかと思いながらも俯いて着替えをする雅。それほど時間はかからなかった。鞄を取ろうとした時、一足早く栖谷が手を伸ばす。
「……あ!!」
そうして思わずバッと取り上げようとした時だった。床に落ちた鞄は、ぱっくりと口が空いていた為、中から書類やら財布やら、無造作に広がった。その時、栖谷が目を止めたのは帰った時に来ていた郵便物だった。雅の持つものの中でこれだけが異様に浮き、異質に見えた。茶封筒に何故かパソコンで打たれた住所…
「これは…」
「あの…!!」
明らかに様子がおかしい雅。栖谷の手から奪還しようとするものの、一旦彼の手に渡った物がそう易々と奪い取れるものではない事など知っていた。それでも知られてなるものかと必死になっていた。封筒を手にしたまま立ち上がる栖谷と、諦めたかのように座り込んだままの雅。黙々とただ残りの物を鞄に戻して行った。
「雅、開けるぞ?」
「……ッッ」
上から見下ろしていた栖谷はその様子を見て、封筒の中から手紙を出した。パラリと開け、文字を目で追っていく。同封されている写真も共にだし、見つめている。そして最後の紙を見た途端に一瞬にして顔つきが変わった。
「……これはいつからだ」
「…いえ…その…」
「いつからだと聞いている」
「…」
「雅!答えろ…」
「……1週間位に…なります。」
「なぜ報告しなかった。」
「それは…」
しかしそれ以上言葉が続かなかった雅。鞄を持ち、立たせると手を引き早々にチェックアウトをし、料金を払うと車に押し込んだ。そのまま雅の家に向かう。その道中にインカムを着けた栖谷は、加賀に電話をかけた。
『もしもし、どうされました?』
「明日、何時に来れる?」
『何時…と言いますと…』
「最短で何時に来れる?署でいい」
『言って頂ければ今からでも…』
「だったら今からいう住所に来い。」
そうして栖谷は雅のマンションの住所を加賀に告げた。隣で小さくなっている雅に構う事なく…ぴっと切ると回り道などすることなく、違法ギリギリの走行で雅の家に向かった栖谷はものの10分足らずでそこに着いた。鍵を取り、栖谷は先に車を降りる。ゆっくりと雅が後に続く…そのまま鍵を開け、中に入る雅と後ろから入る栖谷。栖谷が雅の家に入るのはこれが2度目だった。以前入った時とそれほど大きく様変わりをしている様子は無かった。
「何か飲みますか?」
「それより話せ。」
「……」
「この件。他にもあるんだろ?出すんだ。」
「しかし…」
「拒否権は無い。君だけの問題ではない。公安の、署内に殺人鬼への内通者が居る事になる。」
「……」
「雅!いいから出すんだ!!」
そう言われて箱を持ってきた雅。その大きさに少し驚きもしたものの栖谷はすっと見つめていた。中から白手袋が1組出てくる。無駄に指紋を付けない様にとの事らしい。1つ1つが少し大きめのジッパー付きの袋に入り、自身の指紋が付いているであろう箇所が書かれたメモも事細かに書かれている物が入っている。
「1週間でこれか?」
「…はい」
「…ハァ……」
ため息を吐き、日付順に見ていく。カッターの刃から始まり、写真や文面にも悪質加減が増していく。途中まで見た時だ。栖谷の携帯に着信が入った。そう、加賀だ。
「もしもし?僕だ」
『加賀です。今付きましたが…どちらに行けば…』
「2階の206号室。」
『あ、はい。栖谷さんは…』
「僕もいる。上がって来い。」
そう言うとぴっと無下にも切った。待つ事数分でチャイムが鳴る。雅が迎えに出た。
「な…るせ?どうして…」
「どうぞ?…スリッパ用意無くて…そのままで構いません…」
「あ…あぁ……」
そこに何故成瀬が居るのか…そして自宅の様に促すのか…いまいち理解できなかったもののリビングに通された加賀。きれいに整頓されたカウンターキッチンのリビング。1LDKの家だった。そこには栖谷が座って何やら見ている。
「栖谷さん、ここは…」
「私の家です。」
「な…っ?!……・・これは」
「1週間ほど前から届き続けたものだ。やはり成瀬の元に大量に来ていた。」
「何で…これも…!!!」
「中を見るならこれを付けろ。折角の彼女の努力が無駄になる。」
そういい栖谷は手袋を取ると加賀に渡した。しかし少し小さく、加賀は自身の上着のポケットからぴったりサイズの手袋を取りだし填めて袋を開けだした。加賀が見始めた時に栖谷は雅の前に立つと、少し冷たい視線で上から見下ろし話し出した。
「これだけの物証、脅迫文、ましてや公安に対しての反逆とも取れる内容のものを受けていてなぜ黙っていた。」
「それは…」
「ましてや君はさっき、命の危険に晒された。其れがもし公安の人間であるならば容赦はしない。たとえ公安の者でなかったとしても。」
「……」
「もう一度聞く。なぜ黙っていた。」
「………しには…」
「ん?」
「私には思い当る事が無いから…1通目のメモにしてもそう。相手は本当のターゲットは別にいる…そう思ってしまったから…」
「身に覚えがなくともターゲットが他にいるとなぜわかる…」
「きっと…公安という中…その一部…もしくは私が近しい公安の人間…そう言えば解りますか?」
「……成瀬…まさかその相手…」
「きっと加賀さんの思っている人物です。」
「だからなんだ。」
「……ッッ」
「その相手の本来のターゲットが僕だったとして…だからなんだ。」
「栖谷…さん…?」
「僕がターゲットならば僕に来ればいい。それを君に白羽の矢を立て、そして君もまた僕に隠した。」
「そうしなくちゃ…!!洸を守れない…『だったら…!!!!』ッッ…」
「そんな事をされたら俺はどうやって君を守ればいいんだ!!」
雅は初めて聞いた。栖谷の一人称が『僕』ではなく、『俺』というのを。感情が高ぶり、不安定になると時折出る栖谷のこの癖…そうそう聞けるものでもなかった為初めてだったのだ。テーブルを思い切り叩き、小さくなる雅の手を取るとぐっと掴んだ。
「い…た……」
「こんな細い腕で…!どれほどのものか解らない相手に何で1人で向かうつもりだったんだ!!どうするつもりだ!もし本当にあの時君が死んでいたら俺は正気でいられなくなる…!!!!」
「だけど…迷惑かけたくなかった…」
「俺が1度でも迷惑だと言ったか?!」
「栖…ッッ栖谷さん!」
後ろから加賀が止めに入った。掴まれていた手首をもう片方の手で包み込む様に握りしめた雅。そのまま俯いてしまっていた。
「頼むから…1人で抱え込むな。」
「……」
「加賀、押収しろ。」
「は…はい」
「成瀬は当分休め。」
「でも…!!」
「それと…・・僕たち少し距離を置こう。」
「……え?」
「栖谷さん?」
「近くに居過ぎた。……」
「まって…洸……?」
「栖谷さん!」
「加賀、先に行ってくれ。すぐ追う。」
「…」
「行け!」
「はい……」
「待って洸…距離を置くって……」
「……」
「終わりなの?」
「……許可するまで自宅待機だ」
「まって!!……」
「僕の我儘だ。」
「…ッッ洸…!!!」
しかし雅の言葉を遮る様にするりと交わすと栖谷もまた冷たい扉のしまる音と同時に出て行った。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
比べないでください
わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」
「ビクトリアならそんなことは言わない」
前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。
もう、うんざりです。
そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる