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魔導王国アミリ朝クテシア編 〜砂塵と共に流れる因縁の章〜
もし、子が居たのなら
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数分後、中庭の噴水に腰掛けた李恩はちらりと地面を見た。そこには、最愛の夫を抱き抱えているように見えないでもない女の姿がある。
「ごめんなさいね。彼、ちょっと機嫌が悪かったみたい」
そう言った舞蘭の腕の中には、完全に絞め落とされた苏月の姿がある。寝起きで機嫌の悪かった彼は、妻の手によって絞め落とされた。その間、彼は一切抵抗していない。まるで「待て」と言われた犬のように。
「舞蘭さん、前にも思ったけどちょっとやり過ぎじゃないか?大和でも絞め落としてただろ。月さん大人しくしてたのに」
「あら?アレン君がそんな事言うなんて意外だわ。フレデリカちゃんを叩くくらいはしてそうなのに」
「寧ろ正論言ってる俺が蹴られる側だよ…」
李恩はその遣り取りを見て溜息を吐いた。
『もし、想いを告げていたならば…我にも、恋仲と呼べるような者が居ただろうか…』
フレデリカは首を振った。
「あんた達は相思相愛になれても、世界がそれを許しちゃくれなかった」
『そうだな…だが、我も燃えるような恋はしてみたかった』
アレンは思わず呟いた。
「じゃあさっさと器を見付けて転生したら良いだろ」
李恩は手の中の石を見た。
『この石を、器と成る者へ送りたかった。目印としてな。だが拾ったのは、あの細っこい栄養足りてなさそうな男だ』
自分の子孫に対しての余りにも散々な言い草にアレンは顔を顰めた。
「言い過ぎな気もするけど…何で麒麟宮に石を落としたんだ?渡しに来れば良かっただろうに」
『アレッサンドロの張った結界に…邪魔をされてな。我のように中途半端に強力な者は通過出来ないらしく…、割れ目を狙って石を落とすしかなかった』
被害者である舞蘭は、優しい事にうんうんと同情しながら話を聞いている。そして犯人のアレッサンドロに想いを寄せていたフレデリカは、複雑な面持ちで夜空を見上げていた。
「麒麟宮を狙ったんだな?」
『ああ。我と、同じ気配がしたから』
「それ、もしかしたら⸺」
舞蘭がおもむろに口を開く。
「美凛かも知れない」
「…それが妥当だろうな」
アレンの言葉にフレデリカは頷いた。
「来儀皇子はもう亡くなってるから、美凛しか選択肢は無いわよね」
舞蘭は夫の顔を引っ張りながら言った。
「石が落ちてきた夜ね、小さな流れ星が私のお腹に入る夢を見たの。彼にも言ったんだけど、その時はドタバタし過ぎて忘れちゃってたのかも。私は神様による神託とか気にしないけど…もしかしたら、あの子はそういう宿命か天命を持って生まれて来たのかも…ね、美凛はどう思う?」
そう言って舞蘭は李恩の方を向いた。アレン達が李恩の方を見ると、いつの間にか美凛が噴水の中に入って李恩の髪を後ろから弄っていた。
「うーん…、けど私は自分で自分の運命を決めたいなぁ」
『ヒェッ!?』
李恩は自分の長い髪がいつの間にか複雑に結い上げられている事に驚き、変な声を出した。その中には髪以外にも、いつの間にか自分が背後を取られていたという衝撃も混じっている。
「英雄様の背後を取れるなら…説得力あるよね」
アレンもたまに美凛の気配に気付けない事がある。ちょこまかちょこまかと、気配を消したまま移動して厄介な悪戯を仕掛ける事があるのだ。
「舞蘭さん、髪が重すぎて李恩の首が折れちゃうよ。気付いてたなら何で止めなかったのさ…」
「私も気付いたのはさっきよ。そういう悪戯ばっかりする所は月に似たわね」
美凛はびっちゃばっちゃと音を立てて噴水から出て来た。
「にぃっへへ。母上、始祖様をどうするんですか?」
アレンは李恩の方を向いた。
「えーと転生、するのか?転生というか、力を預けるっていうのか?何だろうね」
正式名称は誰も分からない為、アレンは転生と仮称した。仮に器の中に入っても、アレンのようにアレッサンドロの意識が無い場合と、アイユーブのように自由に出入りする場合とある。
『転生、と言うのかは分からない…が、早速⸺』
「待ちなさい」
李恩が口を開くと、それを遮るように舞蘭が毅然とした態度で言った。
「その子は私と彼の最後の子よ。次の皇帝に何かがあってはいけないから、不安要素になるような真似はやめて欲しい」
アレンは反応に困った李恩を援護するように口を開いた。
「舞蘭さん、アイユーブの奴は問題無く⸺」
「ええ、彼はね。シュルークは墓守に〈厄災〉の残滓を使役するだけの力を持った状態で他界したけど、彼女は違う。最も敵の破壊に特化した英雄の一人でありながら、アレッサンドロの結界を破れなかった」
つまり、英雄の中で均衡が保たれていない状態なのだ。大和でよく分かったことだが、力の均衡が崩れると恐ろしい事になる。その力が強大であればある程、その被害は大きくなる。
「私の娘の中に、弱体化した貴女を入れて何かあったら…誰が責任を取るの?」
もし美凛に何かがあって来儀を殺した女の息子である社龍が皇位に就けば、苏安の混乱や二分化は免れない。舞蘭や苏月としては本当は娘を戦場に連れ出すのは不本意だが、手段を選んでいては帝国には勝てない。だからこそ連れて来たのだが、有事を恐れて踏み切れずにいる。
「あの、母上⸺」
美凛は心配無いとでも言おうとしたのだろう。しかし舞蘭はそれを遮るように娘を抱き寄せて続ける。
「私ね、娘に英雄になって欲しいだなんて思ってないの。只幸せに生きて、出来れば子供を生んで、たまに私達に抱っこさせに来てくれれば良い。ねぇ李恩、夫の偉大な祖先にこんな事言いたくないのだけど、今の貴女を娘の中に入れるのは、たとえこの子が何と言おうと嫌よ」
舞蘭が美凛を抱き締めてそう言う中、フレデリカはアレンを見た。
「あんた、自分に子供が居たら…何て言う?」
アレンは視線を落として思案した。
「子供か…子供の中に、他人の人格があったら…それが何か、影響を出す可能性があるとしたら…」
その人格や人格の状態が作用して、何か影響を及ぼす可能性があるとしたら?子など、できた事が無い。だがアリシアや、血が繋がっていないとはいえアレンを実の子のように可愛がっていたコーネリアスの立場に立った時、彼らは何と言うだろう。
「…嫌だ。俺は嫌だ」
アレッサンドロがアレンの中に入ってから一言も言わないのは、恐らく何かしらの影響を及ぼす事で、アレンという人生をこれ以上狂わせる事を恐れているからだろう。
「私もよ。李恩は生前に比べて明らかに弱ってる。アレン、あんたはこの状況をどう判断する?」
「…それは、最高司令官としての判断を仰ぐって捉えて良いのか?」
「そう」
アレンは目を細めて美凛を見た。成長した身体には大分慣れてきたようだが、まだ一ヶ月程しか経っていない。
「あいつに負担を掛け過ぎるのは、戦略的に考えてもまずいと思う。それから…あの状態の李恩は戦えないだろうし、弱ってるんだよな。李恩の死因を探らないと」
「そうね。彼女の死には…何か裏があるように思えてならないわ」
フレデリカとアレンが話していると、舞蘭がこちらを向いた。
「ごめんなさいね。美凛の力が必要なのは分かってるの。だけど、実の娘を危険に晒したくはないの。私達には…苏安の皇位継承権を持つ者はもう、この子しか居ないから」
年齢的に、舞蘭はもう子供を生む事は出来ない。若い妃達ならば苏月との間に次の天子を作れるが、舞蘭と苏月の子は美凛唯一人なのだ。
肉親を奪われる悲しみは、アレンにも痛い程よく分かる。だからアレンはその言葉に頷いた。
「こちらとしても余計な犠牲は減らしたい。だから、美凛にはまずその身体にしっかり慣れてもらいたい。それから、俺とフレデリカの方で李恩の死因を探っておく。もしかしたら李恩の弱体化について何か分かるかも知れない」
アレンは李恩の方を向いた。
「美凛への転生は現状許可しかねる。だが、お前の力が必要なのも確かだ。協力してくれるか?」
李恩はアレンとフレデリカの顔を交互に見ると、骨の浮いた顔に薄っすらと笑みを浮かべた。
『協力…懐かしい響きだ…そうだな、協力しよう』
アレンは李恩に手を差し出した。
李恩はその大きくて胼胝のできた手をまじまじと見ていたが、同じ武人の手だと気付くと、嬉々としてその手を握る。
『アレッサンドロが…、武人に転生しようとはな』
李恩の透けた手は骨ばっており、骨に張り付くように残った皮膚には硬い胼胝の感触がある。
(アレッサンドロも、こうやって李恩と握手したのだろうな)
「俺はアレンだ。アレン・エリクト=ザロ」
『そうか、今はアレンと言うのだな…今世でも、よろしく頼もう』
そう言うと、フレデリカがアレンのコートをぐいと引っ張った。
「私の彼氏には、長時間触らないように!あんたも、私以外の女と握手するのは二秒まで!」
「おいおい、手ぇ握る前に終わるってそれ」
「良いの!」
そう言ってフレデリカは李恩に手を差し出す。
李恩はその遣り取りを見て笑った。こうやって騒ぐフレデリカと、振り回されるアレッサンドロを見るのは随分と久しい。
フレデリカの差し出した白い手を握ると、フレデリカは十万年前と何ら変わらない笑みを浮かべた。
「ごめんなさいね。彼、ちょっと機嫌が悪かったみたい」
そう言った舞蘭の腕の中には、完全に絞め落とされた苏月の姿がある。寝起きで機嫌の悪かった彼は、妻の手によって絞め落とされた。その間、彼は一切抵抗していない。まるで「待て」と言われた犬のように。
「舞蘭さん、前にも思ったけどちょっとやり過ぎじゃないか?大和でも絞め落としてただろ。月さん大人しくしてたのに」
「あら?アレン君がそんな事言うなんて意外だわ。フレデリカちゃんを叩くくらいはしてそうなのに」
「寧ろ正論言ってる俺が蹴られる側だよ…」
李恩はその遣り取りを見て溜息を吐いた。
『もし、想いを告げていたならば…我にも、恋仲と呼べるような者が居ただろうか…』
フレデリカは首を振った。
「あんた達は相思相愛になれても、世界がそれを許しちゃくれなかった」
『そうだな…だが、我も燃えるような恋はしてみたかった』
アレンは思わず呟いた。
「じゃあさっさと器を見付けて転生したら良いだろ」
李恩は手の中の石を見た。
『この石を、器と成る者へ送りたかった。目印としてな。だが拾ったのは、あの細っこい栄養足りてなさそうな男だ』
自分の子孫に対しての余りにも散々な言い草にアレンは顔を顰めた。
「言い過ぎな気もするけど…何で麒麟宮に石を落としたんだ?渡しに来れば良かっただろうに」
『アレッサンドロの張った結界に…邪魔をされてな。我のように中途半端に強力な者は通過出来ないらしく…、割れ目を狙って石を落とすしかなかった』
被害者である舞蘭は、優しい事にうんうんと同情しながら話を聞いている。そして犯人のアレッサンドロに想いを寄せていたフレデリカは、複雑な面持ちで夜空を見上げていた。
「麒麟宮を狙ったんだな?」
『ああ。我と、同じ気配がしたから』
「それ、もしかしたら⸺」
舞蘭がおもむろに口を開く。
「美凛かも知れない」
「…それが妥当だろうな」
アレンの言葉にフレデリカは頷いた。
「来儀皇子はもう亡くなってるから、美凛しか選択肢は無いわよね」
舞蘭は夫の顔を引っ張りながら言った。
「石が落ちてきた夜ね、小さな流れ星が私のお腹に入る夢を見たの。彼にも言ったんだけど、その時はドタバタし過ぎて忘れちゃってたのかも。私は神様による神託とか気にしないけど…もしかしたら、あの子はそういう宿命か天命を持って生まれて来たのかも…ね、美凛はどう思う?」
そう言って舞蘭は李恩の方を向いた。アレン達が李恩の方を見ると、いつの間にか美凛が噴水の中に入って李恩の髪を後ろから弄っていた。
「うーん…、けど私は自分で自分の運命を決めたいなぁ」
『ヒェッ!?』
李恩は自分の長い髪がいつの間にか複雑に結い上げられている事に驚き、変な声を出した。その中には髪以外にも、いつの間にか自分が背後を取られていたという衝撃も混じっている。
「英雄様の背後を取れるなら…説得力あるよね」
アレンもたまに美凛の気配に気付けない事がある。ちょこまかちょこまかと、気配を消したまま移動して厄介な悪戯を仕掛ける事があるのだ。
「舞蘭さん、髪が重すぎて李恩の首が折れちゃうよ。気付いてたなら何で止めなかったのさ…」
「私も気付いたのはさっきよ。そういう悪戯ばっかりする所は月に似たわね」
美凛はびっちゃばっちゃと音を立てて噴水から出て来た。
「にぃっへへ。母上、始祖様をどうするんですか?」
アレンは李恩の方を向いた。
「えーと転生、するのか?転生というか、力を預けるっていうのか?何だろうね」
正式名称は誰も分からない為、アレンは転生と仮称した。仮に器の中に入っても、アレンのようにアレッサンドロの意識が無い場合と、アイユーブのように自由に出入りする場合とある。
『転生、と言うのかは分からない…が、早速⸺』
「待ちなさい」
李恩が口を開くと、それを遮るように舞蘭が毅然とした態度で言った。
「その子は私と彼の最後の子よ。次の皇帝に何かがあってはいけないから、不安要素になるような真似はやめて欲しい」
アレンは反応に困った李恩を援護するように口を開いた。
「舞蘭さん、アイユーブの奴は問題無く⸺」
「ええ、彼はね。シュルークは墓守に〈厄災〉の残滓を使役するだけの力を持った状態で他界したけど、彼女は違う。最も敵の破壊に特化した英雄の一人でありながら、アレッサンドロの結界を破れなかった」
つまり、英雄の中で均衡が保たれていない状態なのだ。大和でよく分かったことだが、力の均衡が崩れると恐ろしい事になる。その力が強大であればある程、その被害は大きくなる。
「私の娘の中に、弱体化した貴女を入れて何かあったら…誰が責任を取るの?」
もし美凛に何かがあって来儀を殺した女の息子である社龍が皇位に就けば、苏安の混乱や二分化は免れない。舞蘭や苏月としては本当は娘を戦場に連れ出すのは不本意だが、手段を選んでいては帝国には勝てない。だからこそ連れて来たのだが、有事を恐れて踏み切れずにいる。
「あの、母上⸺」
美凛は心配無いとでも言おうとしたのだろう。しかし舞蘭はそれを遮るように娘を抱き寄せて続ける。
「私ね、娘に英雄になって欲しいだなんて思ってないの。只幸せに生きて、出来れば子供を生んで、たまに私達に抱っこさせに来てくれれば良い。ねぇ李恩、夫の偉大な祖先にこんな事言いたくないのだけど、今の貴女を娘の中に入れるのは、たとえこの子が何と言おうと嫌よ」
舞蘭が美凛を抱き締めてそう言う中、フレデリカはアレンを見た。
「あんた、自分に子供が居たら…何て言う?」
アレンは視線を落として思案した。
「子供か…子供の中に、他人の人格があったら…それが何か、影響を出す可能性があるとしたら…」
その人格や人格の状態が作用して、何か影響を及ぼす可能性があるとしたら?子など、できた事が無い。だがアリシアや、血が繋がっていないとはいえアレンを実の子のように可愛がっていたコーネリアスの立場に立った時、彼らは何と言うだろう。
「…嫌だ。俺は嫌だ」
アレッサンドロがアレンの中に入ってから一言も言わないのは、恐らく何かしらの影響を及ぼす事で、アレンという人生をこれ以上狂わせる事を恐れているからだろう。
「私もよ。李恩は生前に比べて明らかに弱ってる。アレン、あんたはこの状況をどう判断する?」
「…それは、最高司令官としての判断を仰ぐって捉えて良いのか?」
「そう」
アレンは目を細めて美凛を見た。成長した身体には大分慣れてきたようだが、まだ一ヶ月程しか経っていない。
「あいつに負担を掛け過ぎるのは、戦略的に考えてもまずいと思う。それから…あの状態の李恩は戦えないだろうし、弱ってるんだよな。李恩の死因を探らないと」
「そうね。彼女の死には…何か裏があるように思えてならないわ」
フレデリカとアレンが話していると、舞蘭がこちらを向いた。
「ごめんなさいね。美凛の力が必要なのは分かってるの。だけど、実の娘を危険に晒したくはないの。私達には…苏安の皇位継承権を持つ者はもう、この子しか居ないから」
年齢的に、舞蘭はもう子供を生む事は出来ない。若い妃達ならば苏月との間に次の天子を作れるが、舞蘭と苏月の子は美凛唯一人なのだ。
肉親を奪われる悲しみは、アレンにも痛い程よく分かる。だからアレンはその言葉に頷いた。
「こちらとしても余計な犠牲は減らしたい。だから、美凛にはまずその身体にしっかり慣れてもらいたい。それから、俺とフレデリカの方で李恩の死因を探っておく。もしかしたら李恩の弱体化について何か分かるかも知れない」
アレンは李恩の方を向いた。
「美凛への転生は現状許可しかねる。だが、お前の力が必要なのも確かだ。協力してくれるか?」
李恩はアレンとフレデリカの顔を交互に見ると、骨の浮いた顔に薄っすらと笑みを浮かべた。
『協力…懐かしい響きだ…そうだな、協力しよう』
アレンは李恩に手を差し出した。
李恩はその大きくて胼胝のできた手をまじまじと見ていたが、同じ武人の手だと気付くと、嬉々としてその手を握る。
『アレッサンドロが…、武人に転生しようとはな』
李恩の透けた手は骨ばっており、骨に張り付くように残った皮膚には硬い胼胝の感触がある。
(アレッサンドロも、こうやって李恩と握手したのだろうな)
「俺はアレンだ。アレン・エリクト=ザロ」
『そうか、今はアレンと言うのだな…今世でも、よろしく頼もう』
そう言うと、フレデリカがアレンのコートをぐいと引っ張った。
「私の彼氏には、長時間触らないように!あんたも、私以外の女と握手するのは二秒まで!」
「おいおい、手ぇ握る前に終わるってそれ」
「良いの!」
そう言ってフレデリカは李恩に手を差し出す。
李恩はその遣り取りを見て笑った。こうやって騒ぐフレデリカと、振り回されるアレッサンドロを見るのは随分と久しい。
フレデリカの差し出した白い手を握ると、フレデリカは十万年前と何ら変わらない笑みを浮かべた。
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