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前日談 コーネリアスの日記
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緋月紀一〇四〇一〇年 一月三日
俺は遠征終わりに城下町の少し治安が悪い所を散策していた。本当は報告書を提出しないといけないが、面倒だったから後回しにしていた。因みに何でそんな所を歩いていたかと聞かれても何も言えない。その時の俺は何も考えていなかったし、今思えば自分でも不思議だ。
スラムは治安が悪く、新年も食い物の奪い合いが続いている。治安の良い街中だったらもっと賑やかで面白い物があったのかも知れないが、此処では人間の奴隷達が食料を奪い合っている。
散らかった路地を吹き抜ける風に俺は身震いした。空は暗く、冷え込んできている。魔人が住むこの国は砂漠にある。砂漠と聞くと、昼に見せる灼熱の太陽を想像するかもしれないが、あくまでそれは昼の話だ。
今俺が歩いている夜の砂漠では昼の暑さがまるで嘘のように、極寒の砂がこのスラムに襲いかかる。それに加えて今は冬だというのだから、まともに着る服のない奴隷達では過酷な砂漠の環境を乗り切るのは難しい。
無念かもしれないが、奴隷達は身を寄せ合い、時に衣服や食料、寝床を奪い合う事をしなければ簡単に次の夜を越すことはできないだろう。
冷えてきたし、戻って報告書を提出しようかと思ったその時。
「お兄さん…食べ物かお金、ください…」
そう言って俺に近付いてきた子供は、他の奴隷と比べて少し丸かった。着てる物も他よりちょっとはマシで、他の奴らほど凍えてはいなそうだった。
(最近来たばっかりの奴隷か?顔立ちからして、先週オドがが滅ぼしたアージャ王国の人間だな)
俺は別に人間は嫌いじゃなかった。興味の範疇に無い存在だが、子供は種族問わず可愛いと思う。だから俺が財布から銅貨を取り出そうとした、その時だった。
「その子から離れて、人殺し!」
投げられた石を手の甲で弾き返し、石を投げた女の方を見る。
「私の夫だけじゃなく、この子まで私から奪おうと言うの?やらせはしないわ!」
女は切れ味の悪そうな包丁を持って襲い掛かってきた。
だが残念ながら俺は軍人だ。素人相手に負ける訳もない。それに軍人以前に俺は魔人という屈強な種族だ。身長も人種問わず一般的とされる人間男性の二倍近くはある。
女の殺意だけは高い突きを手でいなして軽く地面に転がすと、俺は子供に銅貨を何枚か投げた。
「坊主、悪いけど今それだけしか持ってねぇから」
少なくともあと三日間は食うに困らないだろう。
俺は直ぐにその親子から離れた。
俺はこの国でも特に強い十二人の将軍、十二神将の一人、〈剣聖〉コーネリアスだ。だから敗戦国から集められた人間の奴隷達は俺を始めとした魔人を、さっきの母親のように憎しみや殺意を込めて睨んでくる。
殺意以外に面白い物も無かったし、そろそろ帰ろうか。そう思ったその時だった。
路地の奥から女の叫び声が聞こえてくる。何て言ってるのかはよく聞き取れないが、恐らく罵倒とか悪態だろう。続けて何かが割れる音が連続して聞こえてくる。
「またアリシアなの…?毎日毎日煩いんだけど。そろそろ死んでくれないかしら」
「アリシアまで悪魔に取り憑かれたに違いないわ。あの親子、呪われてるのよ」
「へー、呪われてるって、どんな風に?」
思わず会話に割って入ると、噂話をしていた女達は直ぐに嫌そうな顔をしたが、俺が人懐っこい笑みを浮かべると、やがて口を開いた。
「奥の掘っ立て小屋、アリシアって女性が住んでるんです。そのアリシアは十年くらい前、売春で稼いでたんですけど、直ぐに妊娠しちゃって。嫌々言いながらも彼女、結局産んだんですよ。最初は何とも無かったんですけど、その子何歳になっても喋らなくて」
「今漸く『あー』とか『うー』とかって言えるくらいなんです」
「子供は十歳くらいか?だとしたらかなり遅いな」
女達は頷いた。
「外見も五歳とかそのくらいにしか見えないんですよ」
「ふーん…身体売った相手の種族は?」
「魔人でした。結構身なりが良かったです。他はあんまり覚えてないんですけど、髪色と目の色は多分青です」
「アリシアは茶髪で緑の目だもんね」
俺は納得した。魔人の平均寿命は千年だ。成長速度もその分遅い。
「成る程ね。納得したよ。にしてもまァ、スラムの痩せた女を買うとは物好きな魔人が居たもんだ」
女達が明らかに不機嫌そうな顔をするので、俺はさっさとその場を去る事にした。
スラムの痩せた女とヤッた好事家、これは良い酒の肴になりそうだ。
(良い身なりに身体的特徴が出揃ってる。特定班に任せれば面白い事になりそう)
一体どの家の貴族だろう。
スラムにしては面白い話を聞いたので、俺は若干スキップしながら帰路についた。
スラム街を抜ける道をスキップしていると、目の前に小さい子共が立ち塞がった。通路と比べれば本当に小さい、五歳くらいの子供。だけど、この道を行きたくば俺の屍を越えて行け、と言わんばかりの雰囲気を纏っている。
ボロボロの服は返り血が付いており、手には錆びた刃物を握っている。肩からは脚に撒くタイプのポーチが引っ掛かっているが、恐らく盗品だろう。
ボサボサの青い髪から虚ろな青い瞳が覗く。アリシアの子供だろう。
俺はしゃがんでなるべくそのチビ助に目線を近付けた。
「おい坊主ー、さっきお前の母ちゃんが暴れてたけど帰らなくて⸺」
子供は目を見張るような身体能力で俺との距離を縮めると、手に持った刃物を投げ付けた。
「おおっと、危ねー」
俺は刃物を指でキャッチすると、普通に近付いて小僧の襟首を掴んだ。
「あー、うあー!」
小僧は俺の袖の中に手を突っ込んで爪を立ててくる。
「あーあ、オキニの服が血で汚れちゃったよ」
爪の後は腕を容赦無く噛んできた。
「すげー噛む力強くない?今まで何食ってきたんだよ!」
俺が笑っていると、小僧はポーチの中に手を突っ込んだ。
「お兄さん、その子から離れて!」
「え⸺」
発砲音が響き渡り、硝煙の匂いが漂う。
左腕が血で染まっているのに気付き、漸く撃たれたと理解する。
「そのポーチから銃出した訳?」
小僧がもう一度引き金に指を掛けるが、俺はもう一度発砲される前に銃を取り上げた。
「あー!!うがー!んぎゃぁぁぁぁぁ!」
「はいはいちょっと銃見せてねー…あれ、この型番、緋月紀以前の物じゃん。現代じゃ朽ちた化石でしか残ってないと思ってたよ。魔法使ったの?まるで時が戻ったみたい⸺」
俺はハッとして小僧を見詰めた。
何処かで見た顔だ。それに、時を戻したみたいな…。
「お兄さん?」
「ああ、お前はさっきのチビ助か」
「うん…」
アージャのチビ助はおっかなびっくりしながら暴れる小僧を見ている。
「その子、凄く凶暴で…腕、大丈夫ですか?」
「このくらいヘーキヘーキ!それよりさ、この小僧について何か知らない?」
「僕も最近此処に来たばかりなんですけど…聞いた話だと、十歳くらいで、名前は無くって、あとお母さんに虐待されてるらしいです。そのせいか凄く凶暴で、変な魔法を使うって」
「変な?」
「空間を歪めるとか、物を元通りに直すとか…まるで英雄の――」
チビ助の口を人差し指で押さえて俺は礼を言った。
「ありがとう、けどそれより先は続けたらまずい。裁判神官のお世話になりたくないだろう?」
チビ助はハッとしたかのように顔を真っ青にすると頷いた。
「これはお駄賃。銅貨じゃなくて飴ちゃんだ。歯磨きはちゃんとやれよ」
「ありがとうございます!」
チビ助は小僧を見た。
「あのー…その子どうするんですか?」
小僧はまだ叫びながら暴れている。
「…ちょっと気になる事あるから、こっちで預かるよ」
俺は小僧の身体を掴んで暴れられないようにしてやると、そのままスラム街を出た。
屋敷に戻った後、侍従のアラナンに小僧を洗わせて、俺は医務官オグリオンの手当を受けながら魔法に関する文献を幾つか漁った。
『空間を歪めるとか、物を元通りに直すとか』
あのチビ助の言葉を思い返しながら頁を捲っていると、古代の二大究極魔法についての記述があった。
(時空魔法は万物を元の状態に戻し、人の記憶を覗き改竄する…創造魔法は万物のあらゆる傷を癒やし、万物を創造する)
「究極魔法の習得を?裁判神官が黙っちゃいないかと」
オグリオンの質問に俺は首を振った。
「違うよ」
「裁判神官は世界平和の為の組織です。この前も裁判神官に厳重注意受けましたよね。過度に力を使い過ぎれば再び神々が下界を攻撃してくる。それを防ぐ為に⸺」
「…そうさせない為にさ、あの小僧をどうしようかなって」
「ちゃんと考えてるのなら良いのですけど」
「ごめんって、もうあの糞神官共をこの屋敷に立ち入らせないからさ」
「屋敷の外だったら喧嘩して良いとか思ってません?」
俺は敢えて彼の言葉を無視すると、戻ってきた小僧とアラナンに手を振った。
アラナンに連れられて俺の前までやって来た小僧は警戒するように俺達を見ている。
「さて、この小僧どうしたものかね」
「小僧呼びやめたらどうです?」
俺は少し悩んだが、直ぐに名前を思い付いた。時空魔法を使ったとされる古代の英雄にしてフェリドール帝国の現皇帝アレッサンドロから少しばかり拝借して。
「小僧、今日からお前はアレンだ」
「…あー、うぇ、あえ?」
オグリオンは問うた。
「で、アレン君はどうするんです?」
「恐らくこいつは二百年も生きない。俺より早く死ぬだろうさ。こいつが死ぬまで此処で面倒見る」
「…愛玩動物とは訳が違いますからね」
「分かってるよ。こいつは今日から俺の養子だ」
アラナンがオグリオンに「説得は諦めろ」と言うと頭を下げた。
「…役所で手続きして参ります」
「頼んだー」
「チッ、軽い気持ちで掛からないでください。下手したら世界の命運も…」
「分かってるって。俺は超万能コーネリアス様だぞ。それに俺、子供は欲しかったんだ」
俺は立ち上がるとアレンを持ち上げた。
「先ずは飯だよな!」
「あちょっと、テメェ料理出来ないだろ!」
そうやってオグリオンが珍しく動揺するのを見て俺は笑った。
きっとこの先、賑やかで楽しい生活が待っている。その為にも俺がこいつらを守らないと。だって俺は今日から『お父ちゃん』なんだから。
俺は遠征終わりに城下町の少し治安が悪い所を散策していた。本当は報告書を提出しないといけないが、面倒だったから後回しにしていた。因みに何でそんな所を歩いていたかと聞かれても何も言えない。その時の俺は何も考えていなかったし、今思えば自分でも不思議だ。
スラムは治安が悪く、新年も食い物の奪い合いが続いている。治安の良い街中だったらもっと賑やかで面白い物があったのかも知れないが、此処では人間の奴隷達が食料を奪い合っている。
散らかった路地を吹き抜ける風に俺は身震いした。空は暗く、冷え込んできている。魔人が住むこの国は砂漠にある。砂漠と聞くと、昼に見せる灼熱の太陽を想像するかもしれないが、あくまでそれは昼の話だ。
今俺が歩いている夜の砂漠では昼の暑さがまるで嘘のように、極寒の砂がこのスラムに襲いかかる。それに加えて今は冬だというのだから、まともに着る服のない奴隷達では過酷な砂漠の環境を乗り切るのは難しい。
無念かもしれないが、奴隷達は身を寄せ合い、時に衣服や食料、寝床を奪い合う事をしなければ簡単に次の夜を越すことはできないだろう。
冷えてきたし、戻って報告書を提出しようかと思ったその時。
「お兄さん…食べ物かお金、ください…」
そう言って俺に近付いてきた子供は、他の奴隷と比べて少し丸かった。着てる物も他よりちょっとはマシで、他の奴らほど凍えてはいなそうだった。
(最近来たばっかりの奴隷か?顔立ちからして、先週オドがが滅ぼしたアージャ王国の人間だな)
俺は別に人間は嫌いじゃなかった。興味の範疇に無い存在だが、子供は種族問わず可愛いと思う。だから俺が財布から銅貨を取り出そうとした、その時だった。
「その子から離れて、人殺し!」
投げられた石を手の甲で弾き返し、石を投げた女の方を見る。
「私の夫だけじゃなく、この子まで私から奪おうと言うの?やらせはしないわ!」
女は切れ味の悪そうな包丁を持って襲い掛かってきた。
だが残念ながら俺は軍人だ。素人相手に負ける訳もない。それに軍人以前に俺は魔人という屈強な種族だ。身長も人種問わず一般的とされる人間男性の二倍近くはある。
女の殺意だけは高い突きを手でいなして軽く地面に転がすと、俺は子供に銅貨を何枚か投げた。
「坊主、悪いけど今それだけしか持ってねぇから」
少なくともあと三日間は食うに困らないだろう。
俺は直ぐにその親子から離れた。
俺はこの国でも特に強い十二人の将軍、十二神将の一人、〈剣聖〉コーネリアスだ。だから敗戦国から集められた人間の奴隷達は俺を始めとした魔人を、さっきの母親のように憎しみや殺意を込めて睨んでくる。
殺意以外に面白い物も無かったし、そろそろ帰ろうか。そう思ったその時だった。
路地の奥から女の叫び声が聞こえてくる。何て言ってるのかはよく聞き取れないが、恐らく罵倒とか悪態だろう。続けて何かが割れる音が連続して聞こえてくる。
「またアリシアなの…?毎日毎日煩いんだけど。そろそろ死んでくれないかしら」
「アリシアまで悪魔に取り憑かれたに違いないわ。あの親子、呪われてるのよ」
「へー、呪われてるって、どんな風に?」
思わず会話に割って入ると、噂話をしていた女達は直ぐに嫌そうな顔をしたが、俺が人懐っこい笑みを浮かべると、やがて口を開いた。
「奥の掘っ立て小屋、アリシアって女性が住んでるんです。そのアリシアは十年くらい前、売春で稼いでたんですけど、直ぐに妊娠しちゃって。嫌々言いながらも彼女、結局産んだんですよ。最初は何とも無かったんですけど、その子何歳になっても喋らなくて」
「今漸く『あー』とか『うー』とかって言えるくらいなんです」
「子供は十歳くらいか?だとしたらかなり遅いな」
女達は頷いた。
「外見も五歳とかそのくらいにしか見えないんですよ」
「ふーん…身体売った相手の種族は?」
「魔人でした。結構身なりが良かったです。他はあんまり覚えてないんですけど、髪色と目の色は多分青です」
「アリシアは茶髪で緑の目だもんね」
俺は納得した。魔人の平均寿命は千年だ。成長速度もその分遅い。
「成る程ね。納得したよ。にしてもまァ、スラムの痩せた女を買うとは物好きな魔人が居たもんだ」
女達が明らかに不機嫌そうな顔をするので、俺はさっさとその場を去る事にした。
スラムの痩せた女とヤッた好事家、これは良い酒の肴になりそうだ。
(良い身なりに身体的特徴が出揃ってる。特定班に任せれば面白い事になりそう)
一体どの家の貴族だろう。
スラムにしては面白い話を聞いたので、俺は若干スキップしながら帰路についた。
スラム街を抜ける道をスキップしていると、目の前に小さい子共が立ち塞がった。通路と比べれば本当に小さい、五歳くらいの子供。だけど、この道を行きたくば俺の屍を越えて行け、と言わんばかりの雰囲気を纏っている。
ボロボロの服は返り血が付いており、手には錆びた刃物を握っている。肩からは脚に撒くタイプのポーチが引っ掛かっているが、恐らく盗品だろう。
ボサボサの青い髪から虚ろな青い瞳が覗く。アリシアの子供だろう。
俺はしゃがんでなるべくそのチビ助に目線を近付けた。
「おい坊主ー、さっきお前の母ちゃんが暴れてたけど帰らなくて⸺」
子供は目を見張るような身体能力で俺との距離を縮めると、手に持った刃物を投げ付けた。
「おおっと、危ねー」
俺は刃物を指でキャッチすると、普通に近付いて小僧の襟首を掴んだ。
「あー、うあー!」
小僧は俺の袖の中に手を突っ込んで爪を立ててくる。
「あーあ、オキニの服が血で汚れちゃったよ」
爪の後は腕を容赦無く噛んできた。
「すげー噛む力強くない?今まで何食ってきたんだよ!」
俺が笑っていると、小僧はポーチの中に手を突っ込んだ。
「お兄さん、その子から離れて!」
「え⸺」
発砲音が響き渡り、硝煙の匂いが漂う。
左腕が血で染まっているのに気付き、漸く撃たれたと理解する。
「そのポーチから銃出した訳?」
小僧がもう一度引き金に指を掛けるが、俺はもう一度発砲される前に銃を取り上げた。
「あー!!うがー!んぎゃぁぁぁぁぁ!」
「はいはいちょっと銃見せてねー…あれ、この型番、緋月紀以前の物じゃん。現代じゃ朽ちた化石でしか残ってないと思ってたよ。魔法使ったの?まるで時が戻ったみたい⸺」
俺はハッとして小僧を見詰めた。
何処かで見た顔だ。それに、時を戻したみたいな…。
「お兄さん?」
「ああ、お前はさっきのチビ助か」
「うん…」
アージャのチビ助はおっかなびっくりしながら暴れる小僧を見ている。
「その子、凄く凶暴で…腕、大丈夫ですか?」
「このくらいヘーキヘーキ!それよりさ、この小僧について何か知らない?」
「僕も最近此処に来たばかりなんですけど…聞いた話だと、十歳くらいで、名前は無くって、あとお母さんに虐待されてるらしいです。そのせいか凄く凶暴で、変な魔法を使うって」
「変な?」
「空間を歪めるとか、物を元通りに直すとか…まるで英雄の――」
チビ助の口を人差し指で押さえて俺は礼を言った。
「ありがとう、けどそれより先は続けたらまずい。裁判神官のお世話になりたくないだろう?」
チビ助はハッとしたかのように顔を真っ青にすると頷いた。
「これはお駄賃。銅貨じゃなくて飴ちゃんだ。歯磨きはちゃんとやれよ」
「ありがとうございます!」
チビ助は小僧を見た。
「あのー…その子どうするんですか?」
小僧はまだ叫びながら暴れている。
「…ちょっと気になる事あるから、こっちで預かるよ」
俺は小僧の身体を掴んで暴れられないようにしてやると、そのままスラム街を出た。
屋敷に戻った後、侍従のアラナンに小僧を洗わせて、俺は医務官オグリオンの手当を受けながら魔法に関する文献を幾つか漁った。
『空間を歪めるとか、物を元通りに直すとか』
あのチビ助の言葉を思い返しながら頁を捲っていると、古代の二大究極魔法についての記述があった。
(時空魔法は万物を元の状態に戻し、人の記憶を覗き改竄する…創造魔法は万物のあらゆる傷を癒やし、万物を創造する)
「究極魔法の習得を?裁判神官が黙っちゃいないかと」
オグリオンの質問に俺は首を振った。
「違うよ」
「裁判神官は世界平和の為の組織です。この前も裁判神官に厳重注意受けましたよね。過度に力を使い過ぎれば再び神々が下界を攻撃してくる。それを防ぐ為に⸺」
「…そうさせない為にさ、あの小僧をどうしようかなって」
「ちゃんと考えてるのなら良いのですけど」
「ごめんって、もうあの糞神官共をこの屋敷に立ち入らせないからさ」
「屋敷の外だったら喧嘩して良いとか思ってません?」
俺は敢えて彼の言葉を無視すると、戻ってきた小僧とアラナンに手を振った。
アラナンに連れられて俺の前までやって来た小僧は警戒するように俺達を見ている。
「さて、この小僧どうしたものかね」
「小僧呼びやめたらどうです?」
俺は少し悩んだが、直ぐに名前を思い付いた。時空魔法を使ったとされる古代の英雄にしてフェリドール帝国の現皇帝アレッサンドロから少しばかり拝借して。
「小僧、今日からお前はアレンだ」
「…あー、うぇ、あえ?」
オグリオンは問うた。
「で、アレン君はどうするんです?」
「恐らくこいつは二百年も生きない。俺より早く死ぬだろうさ。こいつが死ぬまで此処で面倒見る」
「…愛玩動物とは訳が違いますからね」
「分かってるよ。こいつは今日から俺の養子だ」
アラナンがオグリオンに「説得は諦めろ」と言うと頭を下げた。
「…役所で手続きして参ります」
「頼んだー」
「チッ、軽い気持ちで掛からないでください。下手したら世界の命運も…」
「分かってるって。俺は超万能コーネリアス様だぞ。それに俺、子供は欲しかったんだ」
俺は立ち上がるとアレンを持ち上げた。
「先ずは飯だよな!」
「あちょっと、テメェ料理出来ないだろ!」
そうやってオグリオンが珍しく動揺するのを見て俺は笑った。
きっとこの先、賑やかで楽しい生活が待っている。その為にも俺がこいつらを守らないと。だって俺は今日から『お父ちゃん』なんだから。
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