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第四章
死神の青年は秘密を知る。2
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「なぁどこに行くんだよ」
オレは前を先導する黒猫に話しかける。傍から見たら変な奴だが、普通の人間ならオレのことが見えないからそういうことを気にしないでいられるのは楽だった。
そしてあの部屋で魔女はこう言っていた。
──
「とりあえず私についてきなさい」
「ついてきなさいってことは外に出るのか?」
「当たり前じゃない」
「寒いんだが」
「ここが寒いだけでしょう? 街へ降りれば多少はマシになるわ」
「?」
と言われるがままに街に降りてきたが、確かに寺の場所は雪が積もるほどなのに対して、街には雪のゆ文字もない。寒い事実は変わらないが、その冷たさは死を感じるほどではなかった。
「なぁ」
「それは行ってからのお楽しみ」
「たく、なにがしたいんだよ……」
オレは呆れながら、魔女の機嫌を損ねてオレのせいで世界が滅ぼされるとするならそれは困るため仕方なくついていく。
しばらく歩くと、オレ達は街外れにある大きな建物の近くにきた。
「ここって……」
「げ」
「?」
魔女が変な声を出したかと思うと
「貴方ちょっと、そのへんの茂みに隠れなさい」
「え?」
「いいから早く!」
わけもわからず近くの植え込みに身を潜めた。
「なんなんだよ」
「静かにしてなさいな」
しろ、もといその姿を借りている魔女は植え込みの隙間から建物側の様子を伺っている。
「?」
オレも覗き見ようとして顔をあげると
「ったっ」
俗に言う猫パンチをくらう。
「貴方は顔を出さないで」
オレの姿は見えないんじゃないのかよ。と納得がいかなかったが言われた通りにした。少しして
「あ、もういいわよ」
とお許しが出たためオレは立ち上がり、付いた葉っぱを落とすため服をはたきながら聞く。
「ったく、なんだったんだよ」
「まぁまぁ。先を行くわよ」
「………………」
答えないことには答えないらしいため、トコトコと進み始めた後ろ姿を見て、オレはモヤモヤしながらもそのままついていく。
「なぁここって、病院? だよな」
目の前の建物、それはいくつもの科が複合しているであろう規模の大きい病院。その入口に向かってオレ達は歩いていた。
「そうよ」
「……いい加減目的を言ってもいいんじゃないか?」
「もう少しでわかるわよ」
「わかるって……」
(なにが?)
と疑問は増えながら、病院の玄関口までたどり着く。そこでは老若男女、様々な人達が行き交っていた。魔女は立ち止まると
「えっと確か入って右にエレベーターがあって、4階だったかしらね」
そう言って
「じゃ」
と踵を返して立ち去ろうとする。
「いやいやいや、ちょっと待て」
「?」
「「?」じゃないんだよ。なんだって説明しろよ」
「説明がめんどくさいからここまで連れてきてあげたのでしょう?」
「そうなのか? それにしてもわけがわからない。なんだってこの場所に……」
「だから行ったらわかるわよ。じゃあね」
とかなんとかそれだけ言って走り去ってしまった。
「えぇー」
一人ぽつんと置いていかれたオレはもう一度玄関口の方を向く。
(行ったら、ってなにがあるんだよ)
魔女が言うのだからなにかしらはあるんだろう。それが良いものなのか悪いものなのかがわからないから困っているんだが。
(ええいどうにでもなれだ)
オレは魔女の指定した階に行くことにした。病院に来た人や入院患者にまぎれてエレベーターに乗る。そして4階へたどり着く。来る途中や壁の案内を見る限り、4階は長期入院患者がいる階らしい。
廊下に出ると病室がずらりと並んでおり、数人の看護師が出歩いているだけで玄関口の人の多さとは比べ物にならないくらい静かだった。
「ここになにが……」
オレはゆっくり廊下を進み、病室を一つ一つ覗き込む。
(まぁ見ても知り合いなんかいるわけないんだし、意味ないか)
と思いながらも、ふとある病室のネームプレートに目が留まる。そこには部屋の患者の名前が書いてあるが、他の部屋が複数人なのに対してこの部屋は一人しか名前が書いてない。
(個室か?)
そこに書かれていたのは『駿河 夢依』という名前。中を覗こうと病室に足を踏み入れようとしたが、お見舞いに来たであろう先着がいるらしく、なにか話しかける声が聞こえたため、さすがに中に入るのはな、と思い留まり入口でその人が出るのをしばらく待った。
その途中、目の前を通った看護師らがコソコソと話しているのが聞こえた。
「駿河さん、もうそろそろ10年経つそうよ」
「もうそんなに経つのね、親御さんも毎日来ていてすごいけど、大変よね」
(この人、10年もここに居るのか)
すると中にいた人が出てきて廊下の看護師らに声をかける。
「あ、看護師さん達、いつもありがとうございます。あの、これ良かったら……」
手土産だろうか、大きめの紙袋を渡そうとしていた。
「あっ……、す、駿河さんありがとうございます。私達は仕事ですからそんなお気遣いなく……」
看護師らは噂話を聞かれたか不安げな苦笑いでその場をやり過ごそうとしている。
「いえいえ、本当に娘をいつもありがとうございます」
(娘……この人が母親なのか)
「では私達はこれで……」
「はい」
真面目な優しい人なのだろう、終始人当たり良くにこにことした笑顔で話をしていた。看護師らは立ち去り、母親も病室の中に戻っていく。戻ったあとも声が聞こえた。
「夢依ちゃん、私も今日は帰るから、また明日ね」
そして母親も病室をあとにする。
(あれ…………)
少し違和感がした。母親の声は聞こえたが、病室にいるであろう娘の声は聞こえなかった。この距離で娘だけの声が聞こえないってことはないだろう。
母親も立ち去ったし、少し覗くくらいなら、と病室の中にオレは忍び込んだ。
オレは前を先導する黒猫に話しかける。傍から見たら変な奴だが、普通の人間ならオレのことが見えないからそういうことを気にしないでいられるのは楽だった。
そしてあの部屋で魔女はこう言っていた。
──
「とりあえず私についてきなさい」
「ついてきなさいってことは外に出るのか?」
「当たり前じゃない」
「寒いんだが」
「ここが寒いだけでしょう? 街へ降りれば多少はマシになるわ」
「?」
と言われるがままに街に降りてきたが、確かに寺の場所は雪が積もるほどなのに対して、街には雪のゆ文字もない。寒い事実は変わらないが、その冷たさは死を感じるほどではなかった。
「なぁ」
「それは行ってからのお楽しみ」
「たく、なにがしたいんだよ……」
オレは呆れながら、魔女の機嫌を損ねてオレのせいで世界が滅ぼされるとするならそれは困るため仕方なくついていく。
しばらく歩くと、オレ達は街外れにある大きな建物の近くにきた。
「ここって……」
「げ」
「?」
魔女が変な声を出したかと思うと
「貴方ちょっと、そのへんの茂みに隠れなさい」
「え?」
「いいから早く!」
わけもわからず近くの植え込みに身を潜めた。
「なんなんだよ」
「静かにしてなさいな」
しろ、もといその姿を借りている魔女は植え込みの隙間から建物側の様子を伺っている。
「?」
オレも覗き見ようとして顔をあげると
「ったっ」
俗に言う猫パンチをくらう。
「貴方は顔を出さないで」
オレの姿は見えないんじゃないのかよ。と納得がいかなかったが言われた通りにした。少しして
「あ、もういいわよ」
とお許しが出たためオレは立ち上がり、付いた葉っぱを落とすため服をはたきながら聞く。
「ったく、なんだったんだよ」
「まぁまぁ。先を行くわよ」
「………………」
答えないことには答えないらしいため、トコトコと進み始めた後ろ姿を見て、オレはモヤモヤしながらもそのままついていく。
「なぁここって、病院? だよな」
目の前の建物、それはいくつもの科が複合しているであろう規模の大きい病院。その入口に向かってオレ達は歩いていた。
「そうよ」
「……いい加減目的を言ってもいいんじゃないか?」
「もう少しでわかるわよ」
「わかるって……」
(なにが?)
と疑問は増えながら、病院の玄関口までたどり着く。そこでは老若男女、様々な人達が行き交っていた。魔女は立ち止まると
「えっと確か入って右にエレベーターがあって、4階だったかしらね」
そう言って
「じゃ」
と踵を返して立ち去ろうとする。
「いやいやいや、ちょっと待て」
「?」
「「?」じゃないんだよ。なんだって説明しろよ」
「説明がめんどくさいからここまで連れてきてあげたのでしょう?」
「そうなのか? それにしてもわけがわからない。なんだってこの場所に……」
「だから行ったらわかるわよ。じゃあね」
とかなんとかそれだけ言って走り去ってしまった。
「えぇー」
一人ぽつんと置いていかれたオレはもう一度玄関口の方を向く。
(行ったら、ってなにがあるんだよ)
魔女が言うのだからなにかしらはあるんだろう。それが良いものなのか悪いものなのかがわからないから困っているんだが。
(ええいどうにでもなれだ)
オレは魔女の指定した階に行くことにした。病院に来た人や入院患者にまぎれてエレベーターに乗る。そして4階へたどり着く。来る途中や壁の案内を見る限り、4階は長期入院患者がいる階らしい。
廊下に出ると病室がずらりと並んでおり、数人の看護師が出歩いているだけで玄関口の人の多さとは比べ物にならないくらい静かだった。
「ここになにが……」
オレはゆっくり廊下を進み、病室を一つ一つ覗き込む。
(まぁ見ても知り合いなんかいるわけないんだし、意味ないか)
と思いながらも、ふとある病室のネームプレートに目が留まる。そこには部屋の患者の名前が書いてあるが、他の部屋が複数人なのに対してこの部屋は一人しか名前が書いてない。
(個室か?)
そこに書かれていたのは『駿河 夢依』という名前。中を覗こうと病室に足を踏み入れようとしたが、お見舞いに来たであろう先着がいるらしく、なにか話しかける声が聞こえたため、さすがに中に入るのはな、と思い留まり入口でその人が出るのをしばらく待った。
その途中、目の前を通った看護師らがコソコソと話しているのが聞こえた。
「駿河さん、もうそろそろ10年経つそうよ」
「もうそんなに経つのね、親御さんも毎日来ていてすごいけど、大変よね」
(この人、10年もここに居るのか)
すると中にいた人が出てきて廊下の看護師らに声をかける。
「あ、看護師さん達、いつもありがとうございます。あの、これ良かったら……」
手土産だろうか、大きめの紙袋を渡そうとしていた。
「あっ……、す、駿河さんありがとうございます。私達は仕事ですからそんなお気遣いなく……」
看護師らは噂話を聞かれたか不安げな苦笑いでその場をやり過ごそうとしている。
「いえいえ、本当に娘をいつもありがとうございます」
(娘……この人が母親なのか)
「では私達はこれで……」
「はい」
真面目な優しい人なのだろう、終始人当たり良くにこにことした笑顔で話をしていた。看護師らは立ち去り、母親も病室の中に戻っていく。戻ったあとも声が聞こえた。
「夢依ちゃん、私も今日は帰るから、また明日ね」
そして母親も病室をあとにする。
(あれ…………)
少し違和感がした。母親の声は聞こえたが、病室にいるであろう娘の声は聞こえなかった。この距離で娘だけの声が聞こえないってことはないだろう。
母親も立ち去ったし、少し覗くくらいなら、と病室の中にオレは忍び込んだ。
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