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元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

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 先輩が学園の休みの日に我が家にきてくれた。先輩は我が家の精一杯のもてなしだが素朴な料理を楽しんでくれた。
 「おれも手伝ったんですよ」と言うと
 「だから美味しかったんだな」って先輩がいう。おれは思わず顔が赤くなってしまう。この人、人を喜ばせるのが上手い。

 両親も先輩を大絶賛している。「あんな良い貴族さまは見たことがない」って。
 商売柄たくさんの人を見ている両親がいうんだから本当だろう。
 母親は「逃しちゃだめだよ。せっかく可愛がってくれているんだ。手を離しちゃいけないよ」って帰り際に言ってきた。
 いや、どういう意味だ?

 先輩後輩として仲良くしろってことだよな。



 寮でも夜に、もうぶつぶつ「大丈夫」と呟かなくても眠れるようになった。
 先輩が熱を出した時には俺が看病したこともあった、普段はおれの方が9割、面倒を見てもらっているけど。
 
 熱を出している先輩の目が潤んでいて、色ぽくてドキッとしたのは秘密だ。

 一年が経って先輩と同室でなくなる。おれは寂しくて仕方がなかった。


 先輩から告白された。おれだってこんなに優しくされるのは特別だって気付いていた。副会長のサラナス先輩と並んでいる姿を見ては胸が苦しくなっていた。
 サラナス先輩とは単なる生徒会仲間だと聞いてほっとした。
 おれは気づいた。
 もし先輩が誰かと付き合ったら嫌だと。

 「好きだ。恋人になってほしい」
 長身の先輩が真摯な瞳で真剣に告白してくれた。おれなんかに緊張している先輩。改めて見ると、金髪金目で通った鼻に形のいい唇。姿勢のいい逞しい体。先輩がかっこいい。おれの返事を不安そうに待っている。

 おれは頷いた。

 先輩は前世の執着束縛の怖い夫とは違う。


 家に恋人として先輩を紹介しに帰ると、両親はやっとかなんて顔している。
 以前来たときに、先輩はおれと結婚前提に付き合いたいと考えていると両親に言っていたらしい。

 「あんたの気持ちが自分に向くまで待つっておっしゃってたよ。本当にあんたみたいなのどこがいいんだろうか。でも大切にしてもらえて安心だよ」と母に言われて赤面する。

 先輩何を言っちゃってるんですか!

 学園を卒業したら、一緒に暮らそうと言われている。もちろんおれは仕事を続けていいし、自由に過ごしてくれていいって。先輩はおれにベタ惚れだ。

 そう思うと前世の元夫はおれが嫌いだったんだろうか。

 おれは首を振る。
 考えても仕方がない。

 今幸せなんだから、今を大切にしよう。

 「先輩大好きです」
 背の高い先輩の頬に背伸びしてキスをする。
 「僕も愛しているよ」恥ずかしがる先輩が可愛い。すごく喜んでくれている。
 
 「ずっと一緒にいようね」先輩がいう。
 ふと既視感を感じて返事に戸惑う。
 あれ、いつか前に言われた気がする。
 オークション会場から連れ出してくれて、元夫は本当に王子様みたいにキラキラ輝いていた。
 その時になんて言われたのか・・・。

 今世で先輩とうまくいってからはもう記憶がどんどん曖昧になってきていた。
 おれは杞憂を追い出すように頭を振った。


 先輩を見上げると、おれの返事を待って悲しそうに眉毛を垂らしている。おれは安心してもらうために先輩を抱きしめる。

 「はい」
 おれが返事をすると先輩は幸せそうに微笑んだ。

 
 
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