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 元々体の弱かった、レイモンドの妹は喀血が止まらなくなり、最後はレイモンドと何故かおれにも感謝して亡くなった。

 おれの手を握って「アッシェンにあなたがいてよかった。アッシェンをよろしくお願いします」と耳を寄せなければ聞こえないくらい小さい声でいった。

 頼まれなくても、レイモンドの側にいる、とは言わなかった。

 死に行くものにいう言葉ではないことくらいわかる。それでもまだおれはこの妹に嫉妬している。死に行くことで、レイモンドの記憶に残り大切に思われるのだろう。


 一方おれは、頑健な体と潤沢な資金でレイモンドの側にいることができる。

 しかし、レイモンドに妹という枷がなくなれば自由になり、おれの元を去るかもしれない。そんな未来が浮かぶ。

 あの日から一緒にいるが、恋人になるとも、好きだとも言われてない。

 妹はレイモンドにも何か一緒懸命伝えていた。レイモンドは涙を堪えようとして、失敗していた。レイモンドは何度も頷いていた。

 本当に兄妹みたいに育った仲だったらしい。二人の歴史には叶わない。

 二日後には、眠ったようだったレイモンドの妹はそのまま息を引き取った。

 レイモンドの妹の希望通り、レイモンドとおれだけで葬儀を行い見送った。

 せめてものはなむけで、レイモンドの妹に似合いそうな花をたくさん柩に入れた。

 泣きすぎて今にも倒れそうなレイモンドのすぐ側に立つ。

 きっと一人で立っていたいだろうから支えない。倒れたらすぐに支えることができる位置にいるだけだ。

 青い空にたくさんの墓が並ぶ景色をレイモンドと一緒に眺める。

 レイモンドはきっと長い間悲しみにくれるだろうから、ずっと側にいよう。

 「・・公爵様って意外と暇なんですか?」

 流れて通り過ぎる雲をいくつも見ていたら、泣き疲れたレイモンドが下を向きながらいう。

 何を言い出すのかと思いながら頷く。

 実際には激務だが、レイモンドとの時間ならおれはそっちを取る。

 「いつもいつも。僕が熱を出した時もずっと看病して、何かあったらすぐ飛んでくるなんて」合間合間にしゃっくりをしている。

 今その話をしなければいけないのだろうか。

 「妹のことなんてあなたには関係ないのに、いい薬にいい医者もつけてくれた。・・・食べ物にも困らなくて、居心地のいい部屋で過ごせて、最後は妹は幸せだったと思う。いつも僕に引け目を感じていたから」

 「アーノルドさん。ありがとう」
 おれは別れを告げられるのかと緊張した。

 「・・亡くなる前に妹に言われました。いつ命が尽きてもいいように、素直になるように、後悔しないように、必ず言うようにと」

 止まったと思ったのに、レイモンドの眦から涙が次から次へと流れていく。

 何回も言葉を途切らせながらレイモンドは話す。

 「僕が幸せになるように。そんなのが遺言だなんておかしいですよね」

 レイモンドはおれを振り向いた。


 けぶるような、青い瞳がひたっとおれを見つめる。


 おれの胸が学生時代のあの時のようにざわざわする。

 「アーノルドさん、あなたが好きです」
 胸のざわざわがぎゅっと引き絞られるようになる。

 「学生時代は憧れだったけれど、雨の日に僕を救ってくれて、看病してくれて、好きだと言ってくれて、嬉しかった」

 レイモンドは泣きながらなんとか言い終わると、苦しそうに息をする。

 泣きながら話すからだ。

 その後、恐らく疲労と緊張でレイモンドはしゃがみこんだ。息が苦しそうで、唇を合わせて、呼吸を整える。

 「レイモンド、ありがとう」勇気を出してくれてありがとう。レイモンドの妹も後押しをしてくれて感謝しかない。

 本当は妹がレイモンドを一緒にあの世に連れていくのではないかと心配だった。杞憂だった。レイモンドに、生きろと示唆してくれた。
 

 青い空と芝生、大きな木の木陰で、金の髪を光に透かしながら本を読んでいた少年が、今、腕の中にいる。

 おれは腕の中のレイモンドを抱きしめ続けた。










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