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番外編
ジェイクサイド4
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ノアを探すために冒険者になった。そしてノアが行ったと思われるダンジョンに入る資格を持つために死に物狂いでA級冒険者になった。
そうやって見つけたノアは、ずっと石みたいに硬いままだった。顔も体も爪先も精巧な人形のようだった。まつ毛さえも硬くて、おれは壊さないようにおそるおそる触った。
自分の部屋に連れてきて、ベッドに静かに丁寧に寝かす。
早く綺麗にしてあげたいし、綺麗な服も着せてあげたい。石みたいに硬いけど、生きているかもしれない。そう思っておれは大事に大事に世話をした。
あれっと思ったのは、ノアがおれを見ている? と思った時だ。
なんとなくだけど、優しい光がノアの目に宿っているような気がした。
それからはおれは必死になってノアを更に大事に大事に世話した。
こうしたら気持ちいいかなとか、お風呂に入れたり、体を拭いたり、生きているように大切に世話をした。
徐々にノアが瞬きをするようになって、指先も動くようになった。
少しずつ体も柔らかなくなって、温かくなった。おれはノアの小さな指を優しく握って、感謝した。
ノア生きていてくれてありがとう。
ノアの体が温かくなって動けるようになったけど、まだまだ可動域は狭くて、おれはもっと大事にした。反応があると世話のしがいがあるし、ノアが嬉しそうに見えるのが一番嬉しい。
それなのにドムレットが来て何を言ったのかわからないが、ノアがまた固まりかけたことがある。おれは恐怖に陥った。
どんなノアでも大切にする思いはあるが、一度おれの目を見て、話ができて、温かい体のノアを知ったら、それを失うのが怖い。
幸いにもノアは石のようにならずに、また動けるようになってくれた。
それよりもおれに排泄の世話をされていたことに気づいて、それを嫌がるようになった。恥ずかしいんだろうけど、今更だ。
なんでもしてやりたいおれには残念で仕方がない。
焦ったように歩いたり、動こうとなんでもしようとして倒れるノアがおれは心配だ。
無理をしてまた倒れて、固まったらどうするんだ。
そうこうするうちにやっとノアは普通に動けるようになった。
そういえば、どうしておれがノアを助けたか話をしていなかったなと思い至った。
そうして告白もして、これから恋人として付き合いたいと言おう。
もう恋人のつもりだけど、ちゃんと言葉にしよう、そう思った。
おれはノアに助けられた話と、ノアを助けるために冒険者になった話と、ノアが好きだ、愛していると伝えた。
なのにノアはおれから逃げるように仕事をすると言ってきた。
おれの告白はなかったかのようにされたことにショックを受けた。
少なからずノアもおれが好きだと思っていたから。
無理やりにでも抱くか、またはどうしてと責めてしまいそうだった。
おれはなんとか激情を押さえて、家を出た。
※※
やりきれなくて店で久しぶりに飲んでいると、周囲に男も女も一緒に飲もう、話を聞かせてくれと絡んでくる。
フードは被っていたが、目ざとい奴らがA級冒険者と気付いて、知り合いになりたいと囲んでくる。
何も答えず無視をしていると、「おいおいそんな冷たい奴はほっておいておれと、呑もうぜ」
ドムレットがおれにくっついている女に声を掛けている。
女は「ジェイクがいいのよ。あんたとはまた今度ね」そう言って去っていった。
「なんてやつだ」ドムレットは女に怒りながら、おれの隣に座る。
「もてないからって女に当たるな」おれはドムレットに言う。
「そういうお前だってノアには相手にされてないんじゃないのか」
痛いところを言われておれは黙る。
「おれも一杯」とドムレットはカウンターに注文すると、おれの隣に座った。
「大体お前は過保護すぎる」
「過保護で何が悪い」
「いやーあの坊ちゃんだって、本当は坊ちゃんって年じゃないんだろうけど、お前の世話ばかりになるのが嫌なんだろう」
「お前がなにか言ったんじゃないのか」
「まあ、今のままだとお前のお荷物だとは言ったかな」
おれはドムレットの胸倉を掴む。
「だってそうだろう。お前はノアが心配だから離れられないんだろう」
「そうじゃない、一緒にいたいだけだ」
「・・・恥ずかしくもなくよくそんなことを言えるな。怖いな拗らせると。あの氷のジェイク様がこんな束縛純愛拗らせ野郎とは」
「お前には言われたくないな。黒のドムレット様」
「それ髪の色だけだし」
「はあーとにかくノアもお前の負担になりたくないそうだ。それに呪いがお前に行くのを怖がっている」
どうしてお前がノアのことをわかっているんだとイライラする。
「ノアの名前を呼び捨てにするな」
おれは酒を一杯呷った。
夜道を歩きながら考える。どうすれば一緒いれるか。
おれに呪いが移るのが怖い?
ノア甘いよ。
おれが、そんなことでノアを諦めるか?
ノーである。
ノアごめん。お前のこと諦めてあげれない。
おれといて苦しいのもわかるから、離れてあげた方がいいのかもしれない。
でも離れてあげれない。
おれは翌日、拡張鞄とノアに似合う服や身の回りの品を沢山買い求めた。
ノアと一緒にもお店に来たかったが、きっと遠慮するだろう。
用意した品物を渡すと、ノアは感動して、ありがとうと言ってくれた。
ただ拡張鞄の重さしか感じないはずだが、その鞄さえ持ち運べず、青ざめている。
そうしておれは荷物持ちとして、ノアの新しい仕事場について行った。
ドムレットには、本当キモい。と言われたが、おれにとっての宝物はノアなんだから、冒険者として逃せられないのは当たり前だ。
ノア、君が路上で傷ついたおれの手を握って助けてくれた時から、おれは君に夢中なんだよ。
だからおれから離れるのはあきらめて。
終わり
そうやって見つけたノアは、ずっと石みたいに硬いままだった。顔も体も爪先も精巧な人形のようだった。まつ毛さえも硬くて、おれは壊さないようにおそるおそる触った。
自分の部屋に連れてきて、ベッドに静かに丁寧に寝かす。
早く綺麗にしてあげたいし、綺麗な服も着せてあげたい。石みたいに硬いけど、生きているかもしれない。そう思っておれは大事に大事に世話をした。
あれっと思ったのは、ノアがおれを見ている? と思った時だ。
なんとなくだけど、優しい光がノアの目に宿っているような気がした。
それからはおれは必死になってノアを更に大事に大事に世話した。
こうしたら気持ちいいかなとか、お風呂に入れたり、体を拭いたり、生きているように大切に世話をした。
徐々にノアが瞬きをするようになって、指先も動くようになった。
少しずつ体も柔らかなくなって、温かくなった。おれはノアの小さな指を優しく握って、感謝した。
ノア生きていてくれてありがとう。
ノアの体が温かくなって動けるようになったけど、まだまだ可動域は狭くて、おれはもっと大事にした。反応があると世話のしがいがあるし、ノアが嬉しそうに見えるのが一番嬉しい。
それなのにドムレットが来て何を言ったのかわからないが、ノアがまた固まりかけたことがある。おれは恐怖に陥った。
どんなノアでも大切にする思いはあるが、一度おれの目を見て、話ができて、温かい体のノアを知ったら、それを失うのが怖い。
幸いにもノアは石のようにならずに、また動けるようになってくれた。
それよりもおれに排泄の世話をされていたことに気づいて、それを嫌がるようになった。恥ずかしいんだろうけど、今更だ。
なんでもしてやりたいおれには残念で仕方がない。
焦ったように歩いたり、動こうとなんでもしようとして倒れるノアがおれは心配だ。
無理をしてまた倒れて、固まったらどうするんだ。
そうこうするうちにやっとノアは普通に動けるようになった。
そういえば、どうしておれがノアを助けたか話をしていなかったなと思い至った。
そうして告白もして、これから恋人として付き合いたいと言おう。
もう恋人のつもりだけど、ちゃんと言葉にしよう、そう思った。
おれはノアに助けられた話と、ノアを助けるために冒険者になった話と、ノアが好きだ、愛していると伝えた。
なのにノアはおれから逃げるように仕事をすると言ってきた。
おれの告白はなかったかのようにされたことにショックを受けた。
少なからずノアもおれが好きだと思っていたから。
無理やりにでも抱くか、またはどうしてと責めてしまいそうだった。
おれはなんとか激情を押さえて、家を出た。
※※
やりきれなくて店で久しぶりに飲んでいると、周囲に男も女も一緒に飲もう、話を聞かせてくれと絡んでくる。
フードは被っていたが、目ざとい奴らがA級冒険者と気付いて、知り合いになりたいと囲んでくる。
何も答えず無視をしていると、「おいおいそんな冷たい奴はほっておいておれと、呑もうぜ」
ドムレットがおれにくっついている女に声を掛けている。
女は「ジェイクがいいのよ。あんたとはまた今度ね」そう言って去っていった。
「なんてやつだ」ドムレットは女に怒りながら、おれの隣に座る。
「もてないからって女に当たるな」おれはドムレットに言う。
「そういうお前だってノアには相手にされてないんじゃないのか」
痛いところを言われておれは黙る。
「おれも一杯」とドムレットはカウンターに注文すると、おれの隣に座った。
「大体お前は過保護すぎる」
「過保護で何が悪い」
「いやーあの坊ちゃんだって、本当は坊ちゃんって年じゃないんだろうけど、お前の世話ばかりになるのが嫌なんだろう」
「お前がなにか言ったんじゃないのか」
「まあ、今のままだとお前のお荷物だとは言ったかな」
おれはドムレットの胸倉を掴む。
「だってそうだろう。お前はノアが心配だから離れられないんだろう」
「そうじゃない、一緒にいたいだけだ」
「・・・恥ずかしくもなくよくそんなことを言えるな。怖いな拗らせると。あの氷のジェイク様がこんな束縛純愛拗らせ野郎とは」
「お前には言われたくないな。黒のドムレット様」
「それ髪の色だけだし」
「はあーとにかくノアもお前の負担になりたくないそうだ。それに呪いがお前に行くのを怖がっている」
どうしてお前がノアのことをわかっているんだとイライラする。
「ノアの名前を呼び捨てにするな」
おれは酒を一杯呷った。
夜道を歩きながら考える。どうすれば一緒いれるか。
おれに呪いが移るのが怖い?
ノア甘いよ。
おれが、そんなことでノアを諦めるか?
ノーである。
ノアごめん。お前のこと諦めてあげれない。
おれといて苦しいのもわかるから、離れてあげた方がいいのかもしれない。
でも離れてあげれない。
おれは翌日、拡張鞄とノアに似合う服や身の回りの品を沢山買い求めた。
ノアと一緒にもお店に来たかったが、きっと遠慮するだろう。
用意した品物を渡すと、ノアは感動して、ありがとうと言ってくれた。
ただ拡張鞄の重さしか感じないはずだが、その鞄さえ持ち運べず、青ざめている。
そうしておれは荷物持ちとして、ノアの新しい仕事場について行った。
ドムレットには、本当キモい。と言われたが、おれにとっての宝物はノアなんだから、冒険者として逃せられないのは当たり前だ。
ノア、君が路上で傷ついたおれの手を握って助けてくれた時から、おれは君に夢中なんだよ。
だからおれから離れるのはあきらめて。
終わり
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