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囮になる
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有力冒険者が集まっているが、魔物がまだ退治できていない。魔物は戦っているうちに知性が備わってきているようだとジェイクが言っていた。
遠くで戦っている様子を高台から見下ろす。ジェイクは大丈夫だろうか。小さな人影と大きな魔物と砂煙が見える。
おれに呪いをかけさせたロイはまだ生きていて、片方の体を庇いながら、魔物と戦っているようだ。
ケガでもしたんだろうか。昔はあんなに大きく感じた背中が矮小に感じる。ちっとも同情できないが。ほぼ戦力にならないようで他のメンバーから舌打ちをされたりしている。
ロイは普段からチラチラおれを見てくるようになった。気持ち悪い。
ドムレットももちろん魔物退治に参加していて、「なんだあいつ」とおれを見てくるロイを見た。「お前執着してくるやつによく好かれるな」と言われる。
ロイとジェイクは全然違う!
※
昼ごはんを作って、ジェイクが帰ってくるのを待つ。比較的安全地帯にいるけど、遠くで時おり魔物の断末魔みたいな声や激しい戦闘の音が聞こえてくると胸がドキドキする。
そんな声を聞くと魔物も可哀そうに感じてしまう。たった一匹でどうしてここまで来てしまったんだろう。もしかして群れからはぐれたんだろうか。
可哀そうと魔物に自分を投影している場合じゃない。一緒に共存はできないのであれば退治するしかないのだ。
山の向こうに留まってくれれば、こんなことにはならなかったのに。
どうしてここまでやってきたんだろうか。
戦いが長引けば長引くほど両者共に、疲労が蓄積する。ジェイクもケガをするかもしれない。それだけは嫌だ。
囮が魔物の前に出ればもしかして魔物は囮はの後を追わないだろうか。それを集中して攻撃すればいいのでは。
夜に焚火を囲んで冒険者たちで話し合いが始まった。うまい具合に話し合いの場で、囮作戦の話がでた。問題はだれが囮になるかだ。だれも囮になりたがる人間はいない。おれはジェイクの世話係として参加していたが、だれもおれに意見は求めない。
おれはおずおずと手を挙げた。ジェイクが驚いて、やめさせようとするが、おれが手を挙げたのを見た冒険者が「おおー。ジェイクの世話係は勇気があるな」ととんとん拍子に話が決まった。
おれが山の方向に魔物をおびき出す。それを背中から冒険者たちが攻撃することになった。
ジェイクに腕を引っ張られる。
簡易寝所についてから「どうしてあんなことを言ったんだ」ジェイクがこんなにおれに怒ったの見たことがない。
「膠着状態から脱するには何か囮がいるんじゃないかとおれも思ってた」
「だからってノアがやる必要はない」
「でも誰もやりたがらない」
「だからって! ・・・ノアがやるなら、おれがやる」
おれは首を振る。
「ジェイクは魔物を攻撃してくれ。おれ、ジェイクがうまくやるって信じてる」
「・・・ノア」
ジェイクは目を閉じて胸に手を当てた。
「悔しいよ。おれの言うことを聞かないノアの言うことをおれが聞くなんて。ノアを守るっていったのに、ノアがそれに協力してくれないと守ることができない」
ジェイクが目を閉じながら、堪えきれないように静かに涙を流している。
ジェイクだけがおれのために泣いてくれる。
申し訳ないのに、おれはどこかで喜んでいた。
※※
魔物が好きだという赤い宝石を首からぶら下げて、山の麓で大きな岩にのり、おれは魔物が分かるように挑発する。
飛んだり体を大きく振ったり、もしかしたら踊っているように見えるかもしれない。
おれは必死だった。
魔物がおれに気づいて、大きな体を左右に揺らしながらやってくる。
クオーンと音が聞こえた時は何の音かわからなかった。クオーン、クオーンと魔物が泣いているのが分かった。そしてなぜ魔物が赤い宝石が好きなのかわかった。
魔物はうれしいよーと言わんばかりに、おれに近寄ろうとしてくる。
その魔物の目は赤かった。おれの首から下げている宝石と同じ色だ。仲間がいると思ったのか魔物がその場で体を揺らしてクオーンと鳴いている。
おれに近寄ろうと、傷ついた体を物ともせず、足を前に動かしている。
「クオーン、クオーン」
「こっちにおいで。早く、そしてできるなら山の向こうにお帰り」
「クオーンクオーン」
魔物の後ろに多くの冒険者たちが勢ぞろいして弓や刀を握っている。
大きく距離が開いているが魔物の一歩は大きい。
どんどんおれに近寄ってくる。たくさんの矢が魔物の背中を狙って放たれる。
「おいでおいで」おれは疲労困憊であったが、走って山の向こうに続く道にいく。
「おいでおいで」早く山の向こうにお帰り。
おれの足の方が持たない。あーもっと早く足が動けば、もっともっと。今回の旅でだいぶ外にいることにも慣れたが、元々は呪いで動かなかった体だ。だいぶガタがきている。呼吸が苦しくて仕方がない。止まって呼吸をしていると汗が噴き出る。
おれの近くまで魔物がやってくる。目が赤い。嬉しそうに近寄ってから何かが違うと思ったのか、目が不信感を持っているようだ。知性を持っているようだとジェイクが言ったとおりだ。
おれが仲間と違うことに戸惑っている。
「逃げろ! 早く山の向こうに逃げろ! そしてもうこっちに来るな!!」
大声で言ったが魔物に聞こえたかどうか。
おれが言ったと同時に断末魔の鳴き声を上げて、ドーンと魔物が斜めに横に倒れた。倒れた先は後ちょっとでおれの体だった。大きく土煙が立ち昇る。
「わーーー」冒険者たちの歓声を聞こえる。
「・・・ごめん」
おれは倒れた魔物に謝った。
遠くで戦っている様子を高台から見下ろす。ジェイクは大丈夫だろうか。小さな人影と大きな魔物と砂煙が見える。
おれに呪いをかけさせたロイはまだ生きていて、片方の体を庇いながら、魔物と戦っているようだ。
ケガでもしたんだろうか。昔はあんなに大きく感じた背中が矮小に感じる。ちっとも同情できないが。ほぼ戦力にならないようで他のメンバーから舌打ちをされたりしている。
ロイは普段からチラチラおれを見てくるようになった。気持ち悪い。
ドムレットももちろん魔物退治に参加していて、「なんだあいつ」とおれを見てくるロイを見た。「お前執着してくるやつによく好かれるな」と言われる。
ロイとジェイクは全然違う!
※
昼ごはんを作って、ジェイクが帰ってくるのを待つ。比較的安全地帯にいるけど、遠くで時おり魔物の断末魔みたいな声や激しい戦闘の音が聞こえてくると胸がドキドキする。
そんな声を聞くと魔物も可哀そうに感じてしまう。たった一匹でどうしてここまで来てしまったんだろう。もしかして群れからはぐれたんだろうか。
可哀そうと魔物に自分を投影している場合じゃない。一緒に共存はできないのであれば退治するしかないのだ。
山の向こうに留まってくれれば、こんなことにはならなかったのに。
どうしてここまでやってきたんだろうか。
戦いが長引けば長引くほど両者共に、疲労が蓄積する。ジェイクもケガをするかもしれない。それだけは嫌だ。
囮が魔物の前に出ればもしかして魔物は囮はの後を追わないだろうか。それを集中して攻撃すればいいのでは。
夜に焚火を囲んで冒険者たちで話し合いが始まった。うまい具合に話し合いの場で、囮作戦の話がでた。問題はだれが囮になるかだ。だれも囮になりたがる人間はいない。おれはジェイクの世話係として参加していたが、だれもおれに意見は求めない。
おれはおずおずと手を挙げた。ジェイクが驚いて、やめさせようとするが、おれが手を挙げたのを見た冒険者が「おおー。ジェイクの世話係は勇気があるな」ととんとん拍子に話が決まった。
おれが山の方向に魔物をおびき出す。それを背中から冒険者たちが攻撃することになった。
ジェイクに腕を引っ張られる。
簡易寝所についてから「どうしてあんなことを言ったんだ」ジェイクがこんなにおれに怒ったの見たことがない。
「膠着状態から脱するには何か囮がいるんじゃないかとおれも思ってた」
「だからってノアがやる必要はない」
「でも誰もやりたがらない」
「だからって! ・・・ノアがやるなら、おれがやる」
おれは首を振る。
「ジェイクは魔物を攻撃してくれ。おれ、ジェイクがうまくやるって信じてる」
「・・・ノア」
ジェイクは目を閉じて胸に手を当てた。
「悔しいよ。おれの言うことを聞かないノアの言うことをおれが聞くなんて。ノアを守るっていったのに、ノアがそれに協力してくれないと守ることができない」
ジェイクが目を閉じながら、堪えきれないように静かに涙を流している。
ジェイクだけがおれのために泣いてくれる。
申し訳ないのに、おれはどこかで喜んでいた。
※※
魔物が好きだという赤い宝石を首からぶら下げて、山の麓で大きな岩にのり、おれは魔物が分かるように挑発する。
飛んだり体を大きく振ったり、もしかしたら踊っているように見えるかもしれない。
おれは必死だった。
魔物がおれに気づいて、大きな体を左右に揺らしながらやってくる。
クオーンと音が聞こえた時は何の音かわからなかった。クオーン、クオーンと魔物が泣いているのが分かった。そしてなぜ魔物が赤い宝石が好きなのかわかった。
魔物はうれしいよーと言わんばかりに、おれに近寄ろうとしてくる。
その魔物の目は赤かった。おれの首から下げている宝石と同じ色だ。仲間がいると思ったのか魔物がその場で体を揺らしてクオーンと鳴いている。
おれに近寄ろうと、傷ついた体を物ともせず、足を前に動かしている。
「クオーン、クオーン」
「こっちにおいで。早く、そしてできるなら山の向こうにお帰り」
「クオーンクオーン」
魔物の後ろに多くの冒険者たちが勢ぞろいして弓や刀を握っている。
大きく距離が開いているが魔物の一歩は大きい。
どんどんおれに近寄ってくる。たくさんの矢が魔物の背中を狙って放たれる。
「おいでおいで」おれは疲労困憊であったが、走って山の向こうに続く道にいく。
「おいでおいで」早く山の向こうにお帰り。
おれの足の方が持たない。あーもっと早く足が動けば、もっともっと。今回の旅でだいぶ外にいることにも慣れたが、元々は呪いで動かなかった体だ。だいぶガタがきている。呼吸が苦しくて仕方がない。止まって呼吸をしていると汗が噴き出る。
おれの近くまで魔物がやってくる。目が赤い。嬉しそうに近寄ってから何かが違うと思ったのか、目が不信感を持っているようだ。知性を持っているようだとジェイクが言ったとおりだ。
おれが仲間と違うことに戸惑っている。
「逃げろ! 早く山の向こうに逃げろ! そしてもうこっちに来るな!!」
大声で言ったが魔物に聞こえたかどうか。
おれが言ったと同時に断末魔の鳴き声を上げて、ドーンと魔物が斜めに横に倒れた。倒れた先は後ちょっとでおれの体だった。大きく土煙が立ち昇る。
「わーーー」冒険者たちの歓声を聞こえる。
「・・・ごめん」
おれは倒れた魔物に謝った。
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