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書庫での仕事2
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次の日も、次の日も同じだった。おれはジェイクに感謝して毎日を過ごしていた。
ジェイクは優しいから「いいんだよ」って言ってくれる。
ジェイクも毎日おれの部屋に泊まっていた。
ほぼジェイクの部屋に住んでいたころと変わらないが、おれは仕事をしているし、仕事をしている間はジェイクも自分のことができる。ジェイクはこの部屋から出かけて、この部屋に帰ってくる。ここはおれの部屋だから、何から何までジェイクの世話になっていたころとは違う。ずっと傍にいるわけじゃない。
そう思って自分を納得させた。
だっておれもジェイクといたいんだ…。
ジェイクの家にあるベッドより小さいから、二人では狭いのではないかと聞いたら、「こうやってくっついて寝たら大丈夫」と言われた。ジェイクの腕の中におれがすっぽり入る。いつもの寝方だ。
「ノアは大丈夫なのか」と反対に聞かれる。不思議とおれも狭いとは思わない。
「ジェイクと一緒だと安心して眠れるからもっとくっつきたいくらいだ」と言うと、ジェイクが顔を真っ赤にして嬉しそうに破顔する。少し照れていて、顔の整ったジェイクが屈託なく笑うとすごい可愛いな。
とにかくおれは大層助かっていたが、またドムレットが一つに括った黒髪を靡かせながら来た。
「おいどういうことだ。ジェイクが今度の依頼も受けないって言ってるぞ。またお前がやらかしてるんじゃないだろうな」ドムレットが怒りながら言ってくる。
やらかしていると言えばそうかもしれない。
おれは青ざめて「ごめん」と謝る。
「どういうことだよ」
「本が重くて持てなくて、それにすぐ疲れちゃうからジェイクが結局おれの世話をしちゃって」
「甘えるな。本ぐらい自分で持てるようにしろ。お前魔法少しは使えるんだろ。応用しろよ」
ドムレットに言われて目を瞬く。
「でもおれ生活魔法しかできないし。それに目が覚めてから使ったことない」
自分が魔法を使うって発想がなぜかなかった。身の回りのことは困る前にジェイクが全てしてくれるからする必要がなかった。
そのジェイクでさえ、ほとんど魔法を使っていなかった。
「でもはなし。何が使えるか言ってみろ」
「掃除、洗濯、家事?」
こないだはお茶も碌に入れられなかったが。
「いいじゃないか」
「掃除の応用で、ここらへんの埃を全部とれるだろ。クリーンで本の汚れもきれいにすればいい」
ドムレットもできるのか、指を指した目の前の本のカビたような汚れが消えた。
「すごい」
「お前もできるだろう」
おれはドキドキした。おれにできるだろうか。どうやってやるんだったか、理論や細かい方法は忘れていたが、何も考えずやってみた。
いきなり大切な本を犠牲にはできないので、机の上や壁を試しにやってみる。クリーンの魔法を唱えると、机の上や壁がきれいになった。確かにできた。
たぶん生活に密着しているから、体が覚えていた感覚だ。
久しぶりの感覚になんか背中がムズムズする。
呪われる前と変わらないぐらいの能力だ。それでもほっとした。それさえも使えないとなるといよいよ役立たずだ。ジェイクに迷惑をかけるしかない。いやすでに迷惑をかけている。
おれ、もしかして自分も清潔魔法できれいにできるのは?
やってみるとできた・・・!
「まあ、大したことない魔力だが、本を破らない程度だから、ちょうどいいんじゃないか。どうせお前はコントロールも下手だろう」
「それ褒められている?」おれが嬉しくなって言う。
「褒めてないが」ドムレットは目を半分にしながら不思議そうに言う。おれは赤面するが、本を綺麗にするのにちょうどいいなんてよかった。この仕事に合っていると言われたも同然だ。
「ありがとう。ドムレット」
ドムレットにほほ笑んでお礼を言うとまたドムレットの顔が赤くなる。
「もしかしてドムレットってお礼を言われ慣れてない?」
「は? なんだよおれはA級冒険者だぞ、お礼なんて領主や偉い奴らからも言われ慣れている。魔物を討伐をすれば村人から領主までお礼を言ってくる」
ドムレットが怒っているのが楽しくて笑っていると、ジェイクが部屋に入ってきた。
「楽しそうだな。どういうことだどうしてお前がここにいる。ドムレット」
チっとドムレットが舌打ちすると、「お前が依頼を受けない理由をノアが知っているか聞きにきただけだ」
「ノアには関係ない」
ジェイクにノアに関係ないと言われてチクッと胸が痛んだ。
「今度の依頼は領主様から依頼だ。受けないわけにいかない。わかってるだろうな。そこのところノアも説得しろ。ジェイクのことを思うならな」
ドムレットは消えるようにいなくなった。ドムレットは剣士かと思っていたが魔法士なんだな。それよりもいつもおれには「おい」とか「お前」って言うのに、ジェイクの前ではおれのことノアって言うのがなんとなくおかしい。
「ノア、ドムレットに何を言われた」
ジェイクがおれの両腕を掴んでくる。ジェイク怒ってる?
ジェイクは優しいから「いいんだよ」って言ってくれる。
ジェイクも毎日おれの部屋に泊まっていた。
ほぼジェイクの部屋に住んでいたころと変わらないが、おれは仕事をしているし、仕事をしている間はジェイクも自分のことができる。ジェイクはこの部屋から出かけて、この部屋に帰ってくる。ここはおれの部屋だから、何から何までジェイクの世話になっていたころとは違う。ずっと傍にいるわけじゃない。
そう思って自分を納得させた。
だっておれもジェイクといたいんだ…。
ジェイクの家にあるベッドより小さいから、二人では狭いのではないかと聞いたら、「こうやってくっついて寝たら大丈夫」と言われた。ジェイクの腕の中におれがすっぽり入る。いつもの寝方だ。
「ノアは大丈夫なのか」と反対に聞かれる。不思議とおれも狭いとは思わない。
「ジェイクと一緒だと安心して眠れるからもっとくっつきたいくらいだ」と言うと、ジェイクが顔を真っ赤にして嬉しそうに破顔する。少し照れていて、顔の整ったジェイクが屈託なく笑うとすごい可愛いな。
とにかくおれは大層助かっていたが、またドムレットが一つに括った黒髪を靡かせながら来た。
「おいどういうことだ。ジェイクが今度の依頼も受けないって言ってるぞ。またお前がやらかしてるんじゃないだろうな」ドムレットが怒りながら言ってくる。
やらかしていると言えばそうかもしれない。
おれは青ざめて「ごめん」と謝る。
「どういうことだよ」
「本が重くて持てなくて、それにすぐ疲れちゃうからジェイクが結局おれの世話をしちゃって」
「甘えるな。本ぐらい自分で持てるようにしろ。お前魔法少しは使えるんだろ。応用しろよ」
ドムレットに言われて目を瞬く。
「でもおれ生活魔法しかできないし。それに目が覚めてから使ったことない」
自分が魔法を使うって発想がなぜかなかった。身の回りのことは困る前にジェイクが全てしてくれるからする必要がなかった。
そのジェイクでさえ、ほとんど魔法を使っていなかった。
「でもはなし。何が使えるか言ってみろ」
「掃除、洗濯、家事?」
こないだはお茶も碌に入れられなかったが。
「いいじゃないか」
「掃除の応用で、ここらへんの埃を全部とれるだろ。クリーンで本の汚れもきれいにすればいい」
ドムレットもできるのか、指を指した目の前の本のカビたような汚れが消えた。
「すごい」
「お前もできるだろう」
おれはドキドキした。おれにできるだろうか。どうやってやるんだったか、理論や細かい方法は忘れていたが、何も考えずやってみた。
いきなり大切な本を犠牲にはできないので、机の上や壁を試しにやってみる。クリーンの魔法を唱えると、机の上や壁がきれいになった。確かにできた。
たぶん生活に密着しているから、体が覚えていた感覚だ。
久しぶりの感覚になんか背中がムズムズする。
呪われる前と変わらないぐらいの能力だ。それでもほっとした。それさえも使えないとなるといよいよ役立たずだ。ジェイクに迷惑をかけるしかない。いやすでに迷惑をかけている。
おれ、もしかして自分も清潔魔法できれいにできるのは?
やってみるとできた・・・!
「まあ、大したことない魔力だが、本を破らない程度だから、ちょうどいいんじゃないか。どうせお前はコントロールも下手だろう」
「それ褒められている?」おれが嬉しくなって言う。
「褒めてないが」ドムレットは目を半分にしながら不思議そうに言う。おれは赤面するが、本を綺麗にするのにちょうどいいなんてよかった。この仕事に合っていると言われたも同然だ。
「ありがとう。ドムレット」
ドムレットにほほ笑んでお礼を言うとまたドムレットの顔が赤くなる。
「もしかしてドムレットってお礼を言われ慣れてない?」
「は? なんだよおれはA級冒険者だぞ、お礼なんて領主や偉い奴らからも言われ慣れている。魔物を討伐をすれば村人から領主までお礼を言ってくる」
ドムレットが怒っているのが楽しくて笑っていると、ジェイクが部屋に入ってきた。
「楽しそうだな。どういうことだどうしてお前がここにいる。ドムレット」
チっとドムレットが舌打ちすると、「お前が依頼を受けない理由をノアが知っているか聞きにきただけだ」
「ノアには関係ない」
ジェイクにノアに関係ないと言われてチクッと胸が痛んだ。
「今度の依頼は領主様から依頼だ。受けないわけにいかない。わかってるだろうな。そこのところノアも説得しろ。ジェイクのことを思うならな」
ドムレットは消えるようにいなくなった。ドムレットは剣士かと思っていたが魔法士なんだな。それよりもいつもおれには「おい」とか「お前」って言うのに、ジェイクの前ではおれのことノアって言うのがなんとなくおかしい。
「ノア、ドムレットに何を言われた」
ジェイクがおれの両腕を掴んでくる。ジェイク怒ってる?
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