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雛を守る親鳥のように 2
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金髪でエメラルドグリーンの瞳の彼は、ジェイクと言った。顔は整って小さいのに、体が大きくて逞しい。そんな大柄な彼が優しく丁寧におれの体を拭いたり服を着せてくれる。
ジェイクを認識してから、おれの体はどんどん動くようになってきた。と言っても手足はまだ固くて、ゆっくりと彼に体を支えてもらわないとベッドから上半身を起こすこともできない。
でもおれのできることが増えるとジェイクが笑顔で喜んでくれる。「すごい」と褒めてくれるのが嬉しい。
動かすたびにあらゆるところが痛くなる。あまりの痛さに動くことも嫌になってくる。
首を振るのさえ辛いけど、嫌だってことを伝えるために、痛さのあまり涙を流しながら首を振る。ギコギコ骨が鳴るようだ。
「ノア。そんな風に首を振ったら痛める」
ジェイクは慌てて、おれを腕の中に抱きしめて、首を振るのを止めようとしてくる。
「・・・ぁ・・ぁ!」
話したいことはあるのに、言葉が出ない。悔しい。
ジェイクの腕の中で癇癪を起こして、暴れる。
実際には、小さな動きで、ギコギコ気味の悪い人形みたいに関節が動いていただけだ。
けれどジェイクは根気よく何も言わずにおれに付き合ってくれた。それが有難くて、申し訳なくて辛い。
夜はおれにとって馴染みのある闇だ。だけど、ジェイクが隣にいると必ず朝がやってきて、ジェイクの金の髪をキラキラと輝かせる。ジェイクはおれにとって光そのものだ。
そうやっていく日もの夜と朝を迎えた。
※
ジェイクが言うにはおれを見つけたときは、肌も体も石みたいに硬かったそうだ。
それが今は普通の柔らかい肌になっている。指も腕も足もギコギコ鳴らなくても曲がるようになってきた。
ジェイクがゆっくりと、手作りのスープを飲ませてくれる。おれもスプーンを使えるよう練習しているけど、まだまだ使い方が下手だ。ジェイクがまずは食べることを優先しようと今は手伝って飲ませてくれている。
最初は舐めるところから始めて、飲めることがわかったら少しづつ量を増やしていった。正直、お腹も空いていないし、欲しいとも思わない。
でもジェイクが一生懸命に世話をしてくれるから、おれも少しずつ飲んだり食べたりするようになった。
ジェイクに喜んでほしいから。
味もわからないけどきっと美味しい。だってジェイクがおれのために作ってくれたから。
ジェイクにお礼を言いたいから、言葉も出るようになった。お礼を言えるようになったら、次は挨拶もしたくなった。ジェイクの名前も言いたくなった。
一生懸命ジェイクのいない時に練習して、「…ジェイク」と初めてジェイクの名前を呼んだら、ジェイクは手に持っていた荷物を落として、おれに抱き着いてきた。
「ノア、ノア、ノア」とおれの名前を繰り返して呼んでいる。ジェイクにそんな風に名前を呼ばれると胸がキュンっとなる。どうしてかドキドキして顔が赤くなる。
おれも負けじと「…ジェイク、ジェイク」と名前を呼んだ。
ジェイクがおれが苦しくなるくらいまで、ぎゅっと抱きしめるから、「…ジェイク?」とおれは聞いた。
ジェイクは何も言わずにおれの頬に唇をつけて、耳も唇で触れて、おれの顔を見て「フハ」と笑った。その目には涙が滲んでいる。
可愛いその笑顔におれは更に胸がドキドキした。
辛いこともジェイクと一緒だと何も辛くなかった。嬉しいことはもっと嬉しくなった。
ずっとジェイクと一緒だったことにおれは疑問を持たなかった。
目覚めた時からずっと一緒だったから。
ジェイクとおれは一緒にいるものだと思っていた。
ある日、ドンドンとドアの向こうから荒い音がして、男の人が入ってきた。
背の高い、整った顔で黒い長髪の男の人だ。ドアが開いた所を初めて見た。
ドアが開くと、部屋に昼の光をもたらした。一瞬明るすぎて目が見えなくなる。ドアが閉じられると部屋は薄暗く感じた。光の残像が瞼の裏に残った。
ジェイクを認識してから、おれの体はどんどん動くようになってきた。と言っても手足はまだ固くて、ゆっくりと彼に体を支えてもらわないとベッドから上半身を起こすこともできない。
でもおれのできることが増えるとジェイクが笑顔で喜んでくれる。「すごい」と褒めてくれるのが嬉しい。
動かすたびにあらゆるところが痛くなる。あまりの痛さに動くことも嫌になってくる。
首を振るのさえ辛いけど、嫌だってことを伝えるために、痛さのあまり涙を流しながら首を振る。ギコギコ骨が鳴るようだ。
「ノア。そんな風に首を振ったら痛める」
ジェイクは慌てて、おれを腕の中に抱きしめて、首を振るのを止めようとしてくる。
「・・・ぁ・・ぁ!」
話したいことはあるのに、言葉が出ない。悔しい。
ジェイクの腕の中で癇癪を起こして、暴れる。
実際には、小さな動きで、ギコギコ気味の悪い人形みたいに関節が動いていただけだ。
けれどジェイクは根気よく何も言わずにおれに付き合ってくれた。それが有難くて、申し訳なくて辛い。
夜はおれにとって馴染みのある闇だ。だけど、ジェイクが隣にいると必ず朝がやってきて、ジェイクの金の髪をキラキラと輝かせる。ジェイクはおれにとって光そのものだ。
そうやっていく日もの夜と朝を迎えた。
※
ジェイクが言うにはおれを見つけたときは、肌も体も石みたいに硬かったそうだ。
それが今は普通の柔らかい肌になっている。指も腕も足もギコギコ鳴らなくても曲がるようになってきた。
ジェイクがゆっくりと、手作りのスープを飲ませてくれる。おれもスプーンを使えるよう練習しているけど、まだまだ使い方が下手だ。ジェイクがまずは食べることを優先しようと今は手伝って飲ませてくれている。
最初は舐めるところから始めて、飲めることがわかったら少しづつ量を増やしていった。正直、お腹も空いていないし、欲しいとも思わない。
でもジェイクが一生懸命に世話をしてくれるから、おれも少しずつ飲んだり食べたりするようになった。
ジェイクに喜んでほしいから。
味もわからないけどきっと美味しい。だってジェイクがおれのために作ってくれたから。
ジェイクにお礼を言いたいから、言葉も出るようになった。お礼を言えるようになったら、次は挨拶もしたくなった。ジェイクの名前も言いたくなった。
一生懸命ジェイクのいない時に練習して、「…ジェイク」と初めてジェイクの名前を呼んだら、ジェイクは手に持っていた荷物を落として、おれに抱き着いてきた。
「ノア、ノア、ノア」とおれの名前を繰り返して呼んでいる。ジェイクにそんな風に名前を呼ばれると胸がキュンっとなる。どうしてかドキドキして顔が赤くなる。
おれも負けじと「…ジェイク、ジェイク」と名前を呼んだ。
ジェイクがおれが苦しくなるくらいまで、ぎゅっと抱きしめるから、「…ジェイク?」とおれは聞いた。
ジェイクは何も言わずにおれの頬に唇をつけて、耳も唇で触れて、おれの顔を見て「フハ」と笑った。その目には涙が滲んでいる。
可愛いその笑顔におれは更に胸がドキドキした。
辛いこともジェイクと一緒だと何も辛くなかった。嬉しいことはもっと嬉しくなった。
ずっとジェイクと一緒だったことにおれは疑問を持たなかった。
目覚めた時からずっと一緒だったから。
ジェイクとおれは一緒にいるものだと思っていた。
ある日、ドンドンとドアの向こうから荒い音がして、男の人が入ってきた。
背の高い、整った顔で黒い長髪の男の人だ。ドアが開いた所を初めて見た。
ドアが開くと、部屋に昼の光をもたらした。一瞬明るすぎて目が見えなくなる。ドアが閉じられると部屋は薄暗く感じた。光の残像が瞼の裏に残った。
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