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2-4 平凡の非凡

第80話 見い出す力 1

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「はいぃぃっ?!」
 あまりの唐突な宣言に大声を上げてしまう。

「うわぁっ!──な、なんすか!?」 「──ホーッ!? (テキ!?)」
 俺の素っ頓狂な大声に驚き飛び起きる二人。

「ご、ごめんロング。いや、あの……」
 笑顔でこちらを伺う彼女を前に、どう説明すればよいものか言葉に詰まる。

「んん?──あ! 昨日の依頼者さんじゃないっすか。なんでこんなところに??」
 事情を把握していないロングが平然と挨拶をしている。

「ロンちゃん! 昨日はありがとうなぁ。おかげで運命のひと伴侶見つかったわ!」

「それはよかっ……──どういうことっすか?」

「ホーホホ! (タベモノ!)」
 寝起き直後もなんのその、リーフルが早速お腹を空かせているようだ。

「そ、そうだなぁリーフル……ご飯にしながら事情を聞こう……かな」

「うんうん! ヤマちゃんの好きなもんも知りたいし、一緒に食べよ~」

「……ヤマトさんっ」
 ロングが小声で尋ねてくる。

「いや……俺にも何が何やらで……」
 一度目の森の訓練最終日ということもあり、ご褒美にと用意していた牛の赤身とパンとフルーツをテーブルに並べ、夕食の準備に取り掛かる。


 
 露店で使用しているテーブルの上に焚火で焼き上げた肉や魚、パンやフルーツ等が盛られた皿が並ぶ。
 街で摂る夕食でも、ここまで充実した物はそうそう無いという豪勢なメニューだ。

「昨日も今日も魚、ありがとね。こんな所で新鮮な物が食べられるなんて有り難いなぁ」

「ええよええよ~。今回は目一杯積んで来てるから、"サンマンマ"の十匹や二十匹、なんも惜しい事あらへん」
 そう気前よく話してくれる彼女だが、夕食の準備中に聞いた話によると、荷馬車はギルドで預かってもらっているらしく、昨日のロングの差し入れに続き今日も魚を持参し俺の元へやってきたらしい。

「美味しいっすよね~! リーフルちゃんもどうっすか?」

「ホー! (テキ!)」
 ロングが焼き魚を差し出すが、リーフルは一言威嚇すると同時に後ずさった。

「はは、初対面の印象が良く無かったんだろうね」

「……ところでっすよ。どういうことっすか? 色々と訳が分からないっす」
 少し怪訝そうに、ロングが彼女を見据え尋ねる。

「そうだな~……先ずは自己紹介でもしようか。俺はヤマト、こっちはリーフル。冒険者だよ」 「ホ」

「昨日も会ったっすけど、同じく冒険者のロングっす! 魚、ありがとうございました!」

「うんうん。ヤマちゃんにリーちゃんにロンちゃん。よろしくやで! うちは漁師町ハーベイからやってきました、商人のマリンって言います! "マリちゃん"って呼んでな!」
 快活な笑顔でしっかりと挨拶をしてくれる。

(随分と人懐こい──聡明そうな子だなぁ)
 夕食の準備をしていた時から感じるが、態度というよりも、なんとなくだが、彼女はお互いに壁を感じないよう配慮された立ち振る舞いをしているように思える。
 俺の考え過ぎなのかも知れないが、そういう事なら折角のマリンの気遣いを、こちらが他人行儀に返すというのも無粋だろう。

「よろしくねマリちゃん」 「ホ~」

「よろしくっす!」

「うちな、初めてお父さん抜きでハーベイの特産品の魚を行商に来てんけど、今回それだけやなくてお婿さん探しも兼ねててな。予期せず"運命のひと伴侶"を手繰り寄せてしもたって訳やねん!」
 マリンが両手を胸の前に組み遠くを見つめ、目を輝かせながらそう語る。

「う~ん?……俺とマリちゃんは初対面のはずなんだけど、なんで俺が運命の人なのかな?」

「それを説明するには、うちの"理想"を聞いて貰う方が早いかな?」

「理想っすか?」

「そうや~? こほん」
 咳払い一つ、まるでこれからプレゼンテーションを披露するかのように態様を改め、硬い表情に変容する。

「え~、うちが理想とする伴侶の条件につきましては『職業は冒険者か商人である事。性格は慎重で真面目で現実的。だけどちょっぴりお人好しで、たまに自分が損する事もやっちゃうような優しい人。さらに動物好きなら申し分無し』これがうちが求める旦那さんの条件や!」

「……」

「──えぇっ!? そ、それって……」
 ロングが言わんとする事は手に取るように分かる。
 マリンの話を聞くと、確かに"運命"と呼称するほど、まるで俺の人間性を端的に言い表したかのようなだった。

「ギルドで露店の許可取りのついでに冒険者の聞き込みして、ロンちゃんを紹介してもうて話を聞いたりして──まさかまさかやったわ『うちの理想通りの人がおる……』ってな? さらに実際に会うたら"顔"までうちの好みなんて……もう結婚するしかないやん?」
 マリンが頬を赤らめ手をすり合わせながら恥ずかしそうにうつむいている。

「いや……そうは言ってもいきなりとは……」

「そうっすよね……あ! 今思い出したっすけど、そういえば昨日、ヤマトさんの事根掘り葉掘り聞かれたっす。あれって、自分がヤマトさんの弟だって調べがついてたから……?」

(ロングはロングで"弟"って……まぁいいんだけど)

「そうやで! 情報はお金と等価や、商機勝機は魚と一緒で情報の"鮮度"で決まるんや!」
 マリンが商人の発想らしい言葉を語る。

「その……失礼だけど、マリちゃんはいくつなのかな?」
 人懐こい性格にこの見た目なので、実年齢が読めないが、今のところはロングと同世代のように見受けられる。
 現状ではそれが判明したところで、どうということもないが、仮に考慮するにしても年の差がありすぎると考え物なので尋ねてみる。

「ん~? いくつに見える?」
 
「えっと……俺は二十七歳で、ロングは──確かもうすぐ十七歳だっけ?」

「そうっす!」

「となると、マリちゃんも十七歳くらいかな?」

「やっぱり~? この感じやと若く見えるわなぁ。じゃあこっちなら?」
 マリンがおもむろに束ねられたおさげ髪を解いて見せる。


「……どうかしら。これなら少女には見えないでしょう?」
 口調もそうだが、纏う雰囲気や表情、佇まいがまさに大人の女性のそれに急変し、先程まで関西弁ではつらつと話していた人物とはとても思えない変貌ぶりだ。

「おぉ~……」 「ホ? (ワカラナイ)」

「全然違うっす……」

「ふふん、びっくりした? これも商人の技術の一つや。お客さんによっては、下手に出た方がうまい事行くパターンと、威厳を示した方がいいパターンとあるからな~──あ、ちなみにうち二十歳やで」
 いつの間にか解いた髪を結い直し、関西弁のマリンに戻っている。

「えっ、自分よりお姉さんだったんすか!? 見えない……」

「商人恐るべし……」 「ホ~……」
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