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2-3 恋と出会いとお化け
第68話 図鑑少女
しおりを挟む「ところで俺に用ってなんなんだ?──あ、もしかして! とうとうヤマトも盾を考えてんのか!? だったら俺で正解だぜ! バッチリ教えてやるよ! 最初はそうだなぁ……」
早とちりしたロットが早口で語りだす。
「ああ、違います! 盾も確かに考えたいですけど、今日は別件で」
慌てて話に割って入りロットを制する。
「おぉ? じゃあなんの要件なんだ?」
(出過ぎた真似か……? いや、情報があれば次に繋がる対処法も考えやすい……はず)
「突然なんですが、ロットさんは今どなたかと交際されてます?」
本来なら手紙を渡して食事の約束を取り付けるだけでいい。
お節介の自覚はあるが、真剣そうなルーティを見て、出来るだけ情報を集めようと探りを入れる。
「交際? ヤマトお前……そうか。まぁ正直な話、自慢じゃねえけど俺達はこの街で人気者だっつう自覚はある。まさか"ネア"じゃなく俺だとは思いもよらなかったけどな……」
「? ネアさん……?──! ち、違いますよ!! 俺の事じゃなくてですね!」
変な方向に勘を働かせるロットに訂正し、事情を説明する。
「……なるほどなぁ。さっきも言ったけどよ、俺含め、みんなその手の手紙やら誘いやらは頻繁にあるんだよ」
「一応俺の肌感でも、みなさんは中堅と位置付けられてますけど、実際にはベテランクラスの扱い──認識をされてますもんね。人気があるのも良く分かります」
「ああ、まだまだ俺達には過ぎた評価だとは思うけどな……それだけならいいんだけどよ、実際色々とあるんだよ。その人気だけを目的に、『名前を使わせてくれ』だの、『一儲けしませんか』だの、善意の皮被ったうさんくせえ奴らの誘いも多い」
「今は学習したけど、最初は俺達も、それで痛い目を見た事もあった訳だ、はは」
確かに未知の緑翼は名実共に優れたパーティーだ。
見た目も美男美女揃い、その人気にあやかろうと、お金にしか目が向いていない不埒者が放って置くには惜しい人材だ。
「だからよ、いつもならそういう話は断るんだけどな。ヤマトの紹介となると話は別か……」
「いや、正直にお伝えしておきますが、この"ルーティ"さんとは店主と客の関係なだけで、詳しい人間性まで俺は知らないんです。さっき説明した通り、この手紙を渡しに来たのも偶然の事で」
「あぁ、友達って訳じゃないんだな」
「ただ『ライバルが多い』と言ってたので、恐らくお金にまつわる事では無いと感じました。自分を盛ってアピールしようともしてませんでしたから、真剣に想う一人の女性だと俺は思います」
「そうか……ヤマトの慎重さは俺達も良く知ってる。そのヤマトがそう感じたんなら、いっちょ応えてみるか!」
「ありがとうございます、ルーティさんも喜ぶと思います。彼女の話では露店を出すのは……」
ルーティの予定を伝え、食事の席を設ける事で話がついた。
手紙に書かれた内容を俺は把握していないが、男なら多分貰うと嬉しい文面なのだろう。
ロットも満更では無い様子で『まともなのは滅多にねえからな』と、久しぶりの真面目な出会いに前向きのようだった。
後は当人同士の相性次第。
俺が出来る事はここまで、アプルが半額になる事を祈るばかりだ。
◇
「はは、それでよ、その日からは毎晩その矢を抱いて寝てたぐらいでな」
「ふふ、ホント。見た目には分かり辛いけれど、ショートのあの喜びようったら無かったわ」
「あれは俺の最初の宝物。恥じる事は無い」
「だよね。何というか"本物"! って感じがして俺も羨ましかったよ」
「確かに憧れの人からのプレゼントなら物は関係ないですもんね──」
「──ホーホホ! (タベモノ!)」
「ご褒美? うんうん、ありがとなリーフル」
いつものラビトーの肉を口元に運ぶ。
んぐんぐ──「ホッ……」
孤児院の子供達は今からおやつの時間という事で、グラウンドに居た三人は先程この応接間に戻ってきており、俺達は飲み物を前に思い出話に花を咲かせていた。
リーフルは頑張って子供達の相手をしてくれたようで、少々お疲れの様子だ。
目的の手紙も渡し孤児院に挨拶も終えたので、そろそろ帰ろうかと考えていると、建物の中心の吹き抜けになっている中庭に、一人の少女がおやつにも行かず、座り込んでいる様子が見えた。
「あれ……あの子はおやつはいいんですか?」
「ああ、"エマ"ちゃん。また図鑑に夢中になってるのね」
ネアが当たり前といった口ぶりで答える。
「エマちゃんは少し変わってまして。魔物が大好きで、いつも図鑑を眺めては『早くこの目で確かめに行きたい!』って、勉強熱心な子なんですよ」
「もうすぐ十五の誕生日だから冒険者になる」
「あくまでもその予定、だろ? 母さん達も俺達も、まだ許可してねえよ」
「へぇ~、そうなんですね」
本人は楽しんでいるのでとやかく言う事でもないし、彼女を知るみんなも平然としているので、俺が気にかける事でもないのだろうが、その"図鑑"には非常に興味がある。
ここは一つ、俺の持つ秘蔵のお菓子と交換に、話をしてもらえないか交渉してみようと思う。
「すみません、エマちゃんと話をさせてもらっても大丈夫ですか?」
「構わないわよ」
「ありがとうございます。ちょっと失礼します」
──ガチャ
「おぉ~綺麗な庭だなぁリーフル」 「ホ~」
中庭へと出ると、綺麗に整備された花壇に色とりどりの花が咲き誇っており、小休止を取るのになんとも心地の良さそうな空間が広がっていた。
中心には井戸があり、花を眺めやすいようベンチも置かれ、子供の良い発育に貢献しているであろう立派な造りだ。
先程名前を教えて貰ったエマは、ベンチに腰を掛け図鑑に夢中のようで、顔を伏せこちらに気付いている様子は無い。
ここはリーフルの出番だ。
「リーフル、挨拶よろしく」 「ホ」
リーフルと打ち合わせ、エマの下へと近づいてゆく。
「ホホーホ(ナカマ)」
エマの前まで赴くと、リーフルが挨拶を口にした。
「なっ……! 鳥の声!?」
少し驚いた様子のエマが顔を上げ辺りを見渡す。
「こんにちはエマちゃん。俺は未知の緑翼の皆さんの同僚で冒険者のヤマトって言うんだ。こっちは相棒のリーフル」 「ホ~」
「お兄ちゃん達の……? わ! 綺麗な鳥ちゃん!──見せて見せて!」
エマがリーフル目掛け急接近し、まじまじと観察を始めた。
「全身緑色……それに目の羽が片方しかない……」
ぶつぶつと呟きながらリーフルを撫でるように観察している。
「ホ、ホ~……」
さすがのリーフルも勢いに押され、少したじろいだ様子で応えている。
「はは、やっぱり動物も好きなんだね。図鑑が好きって聞いたんだけど、ギルドのと同じやつなのかな?」
ベンチに置かれた図鑑を指し尋ねる。
「わかんない。私、ギルドの図鑑見た事無いもん」
「それもそっか……ごめんね、俺もそういう"情報"の類には興味があってね。もし良ければその図鑑見せてくれないかな?」
「えー。あなた、冒険者だからギルドでいくらでも見れるんでしょ? 羨ましい……だからいや!」
(ふふ……拒否される事は想定内)
「もちろんタダでとは言わないよ。これでどうかな?」
アイテムBOXからリーフルスペシャル味のかき氷を取り出す。
「何それ! 氷? お菓子なの??」
「そうだよ~、かき氷って言うお菓子なんだ。冷たくて癖になる味だよ?」
「う~ん、お菓子はいらない。それよりもその鳥ちゃんを観察させて!」
見た事の無いお菓子であれば釣れるかと思ったのだが、代わりに提示された条件も大した事は無いので、拒否する理由も無い。
「わかった。リーフル! エマちゃんと勉強会だ! かき氷も後で一緒に食べようね」
「ホホーホ? (ナカマ?)」
俺達三人は仲良く談笑しつつかき氷を頬張り、あれこれと動物や魔物について語り合った。
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