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2-1 第二の故郷

第49話 異文化交流

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『ヤマ……ヤマト……』

 ……誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。
 先程神様の居る空間から現実へと戻った事は覚えているが、どうやら俺は助かったようだ。

「ホ……──つんつん」

「ん……はっ!──リーフル……! お前も無事だったんだな……よかった──さわさわ」

「ホホーホ! (ナカマ!)ホホーホ! (ナカマ!)」
 リーフルが元気で居る事が何よりも嬉しく思った。
 死んでしまう程のダメージでは無かったにせよ、ぐったりしては居たので本当に心配だった。

「!──っつ!……いてて……」
 ふと見ると、何かの大きな葉っぱのような物が患部を覆っている。
 刺された傷が痛むが、出血している様子は無い。
  同時に腕や頬も撫でて確認してみるが、感触では治りかけといった様子。
 どうやら誰かが手当てをしてくれたようだ。

(ここ……知らない部屋だ)
 天井から壁から、全て何かしらの植物で形成されていて、部屋の隅を木の幹のような物が貫いている、なんとも自然溢れる造りの家だ。
 窓があり外の景色が見えるが──二階建て所ではない、随分と高い位置にあるような気がする。

(看病もしてくれているし、リーフルも無事に一緒って事は、俺と敵対的な存在では無いんだよな……)
 
「ガチャ──」
 いつもの癖で現状の推察をしていると、誰かが部屋へとやってきた。

「起きたか。危ないところだったぞ、森の守護者様に感謝するのだな」
 何と美しい顔立ちか。
 窓から差し込む光をキラキラと反射する美しい銀髪、先が尖った長い耳に吸い込まれそうな瞳、スラっとした長身、街では見かけない素材で造られた弓を装備し、派手さの無い質素な生地の服を着こなした、一目見てピンときた──"エルフ"族が現れた。
 同性だと言うのに見惚れてしまうようなその佇まいは、同じ人間とは思えない神々しさすら感じる程だ。

「えっと……助けていただいた?──んですよね、ありがとうございました」

「まだ動くには辛いだろう。食事を持ってきてやるから楽にしていろ」
 そう告げるとエルフ族の彼は立ち去った。

(エルフ族の村……なのか? 距離がどれ程か分からないし、どのみちこの傷じゃサウドへ今すぐには帰れそうにないか……)

「あれからどれくらいの時間眠ってたんだ……リーフル、どう?」

「ホ──つんつん」
 リーフルからの返事は無い。
 語彙の変化を期待したが、今までと違いは無いようだ。

「もしかしたらスラスラと会話できるかもって、期待したんだけどなぁ」

「ガチャ──」

「食事だ。食べながらでいい、詳しい話を聞かせてくれ」
 エルフ族の男性が皿一杯に豊富な種類のキノコを乗せて戻って来た。
 ……というよりキノコが乗っている。
 エルフ族はキノコしか食べないのだろうか。

「ありがとうございます、こちらこそ。俺も何が何やらで……エルフ族の方とお会いするのも初めてです」

「そうなのか? まずは名乗るとするか。俺はエルフ族で冒険者の真似事をしている、"ライン・ドグ"と言う。お前は?」

「俺も冒険者を生業としています、ヤマトと言います。こっちは相棒のリーフルです」 「ホ」

「なっ!!……リーフル?!──相棒!?」
 名をラインと言うエルフ族の男性の声量が急に大きくなり、驚いた様子を見せる。

「な、何でしょうか」

「なんと不敬な!──いや、あの様子を見れば信頼関係は疑いようがないか……」

「どういう事でしょうか」

「お前はその肩におわす方の事を知らないのか? どうやって一緒になった──何が目的だ」
 矢継ぎ早の質問に少々戸惑ってしまうが、どうやらリーフルが大層敬われているという事は理解できる。

「ええと──リーフルは仕事クエスト中に俺達が森で助けました。怪我を負っていたので街へ連れ帰り看病していると、懐かれてそのまま一緒に暮らしています」

「ホホーホ(ナカマ)」

「あの里から無理やり連れ去った訳では無いのだな?」

「連れ去る……? 里とは何でしょうか?」

「里の事も……どうやら本当に何も知らずに"森の守護者様"と一緒に暮らしていたようだな」

「森の守護者様……リーフルは何か特別な存在なのでしょうか?」 「ホ?」

「そうだな。悪意を持って守護者様と行動を共にしている訳では無いと判明したんだ、説明をしよう。まずは俺の事から」

「我々エルフ族は自然との共生を信条とし、暮らしている。自然と共生とは言え、この国で生きる以上金は必ず必要となる。そういう訳で俺に関してはお前のように冒険者の真似事──主にはこの村の特産品である"マジックエノキ"等をサウドへ卸しに行ったりして外貨を得る役割を担っている」

「なんだか獣人族と似ていますね」

「特にいがみ合い嫌っている訳では無いが、一緒にされては困る。彼ら獣人族は"動物"の進化先、我々エルフ族は"精霊"の末裔と言われている。お前には似たような暮らしをしているように思えるだろうが、獣人族とは自然に対する価値観が違う」

「失礼しました。浅学でした、勉強になります」

「いや、理解してくれたようだな。気にする事は無い」
 マーウ達獣人族は『森での暮らしが性に合っている』という理由で、街へ住まず森で生活していると聞いている。
 接している感じとしては"自由"に重きを置いて生活している雰囲気だった。
 同じく自然で生きる事を信条としているエルフ族としては、自然を大切に考えていると言った所だろうか。

「先程言ったように俺は冒険者資格を持ち、サウドへの特産品の卸を担当している。そんな折三日前、納品を終え帰る途中で、街中だというのにも関わらずフクロウの鳴き声が耳に入った」

「声のする方へと近付いてみると、血を流し倒れている男達を発見した……俺は驚いたよ。我々エルフ族が崇拝する、その神々しい全身が緑色を纏う森の守護者様がお前にぴったりと寄り添いながら悲痛そうな鳴き声を上げていたんだ」

(そうだ……"ダムソン"……俺は奴を……)

「自然との共生、調和を重んじる我々エルフ族にとって、森の守護者様は精霊様と並び神にも等しい存在だ。そんな守護者様が熱心に懐いている"お前"という存在が気になってな。怪我の様子が酷かったが、我々の秘薬であれば救えると確信し、ここへ連れ帰ったというわけだ」

「そういう事だったんですね……ありがとうございました。ラインさんは命の恩人ですね」

「……倒れていたもう一人は?」

「あぁ、こと切れていたよ。おそらく首に刺さっていた短剣、あれが致命傷だろう。何故あのような状況に?」

(……やっぱり奴は死んだ……)

「実は……」
 俺の身に起こったことをラインに説明する。
 彼は口を挟むこと無く、熱心に俺の話に耳を傾けてくれた。
 自らの口で説明をしているうちに、とうとう"人間"も狩ってしまったという事実が、どこか現実味の無かった俺の中でハッキリとした物へと変わって行った。

「そういう事だったのか……人族にはなんと愚かで残忍な者も居るものか……話を聞いた限りでは、それは立派な正当防衛だ。お前が街へ帰る際には俺も助けた身として、お前の無実をギルドへ証言してやろう」

「怪我の手当てまでしていただいて証言まで──本当にありがとうございます。御礼は後程必ずお約束します」

「気にするな。これも何かの縁、自然のお導きだ。それに俺としては、森の守護者様とお会いできただけでも家宝ものだよ」
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