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1-7 想う心
第42話 妻の想い
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依頼通りのペンダントかを確かめる為ギルドへ戻ったところ、コナーさんの姿を発見した。
なんでもコナーさんは『今日は賑やかなこの場に居たいと』とギルド内の腰掛に座り、俺の帰りを待っていたようだ。
本人は満足そうにしているが、若くない体に負担をかけてしまったのは、家で待機するよう促さなかった俺の落ち度だろう。
「コナーさん! てっきりお帰りになられたものかと」 「ホホーホ(ナカマ)」
「おぉヤマトさん。なぁに、依頼を受けて貰えてせっかく今日もギルドに来たんじゃ。家に帰って音も無く後悔を巡らせるより、若い方達の営みを眺めていたかったんじゃよ」
「そうなんですね……」
努めて屈託なく話してくれているが、もちろんそれだけでは無い事は、時より見えるコナーさんのどこか物憂げな表情が物語っている。
「一応それらしきペンダントは見つけることが出来たんですが、ご確認いただけますか?」
くるんでいた手拭いを取りコナーさんに手渡す。
「お──おお! まさしくこれじゃ……この模様……このキズ、確かにわしが妻に贈った物じゃよ」
目には薄っすらと涙を浮かべ、そのしわしわの指で愛おしそうに何度も撫でて確認している。
(よかった……俺が見つけたわけじゃ無いけど、肝心なのはコナーさんの手元に帰ったという事だ)
「精霊様とリーフルが見つけてくれたんですよ。幸運でした」
「精霊様とな? そんな存在おとぎ話でしか聞いたことないのぉ。でもヤマトさんが噓をつくとは思えんし、わしは信じるぞ。リーフルちゃんもありがとうのぉ」
「ホホーホ(ナカマ)」
コナーさんに感謝され、リーフルは満足そうに胸を張っている──ように見える。
「リーフルはお小遣いを頂きましたしね、張り切ったのかもしれません。それともうひとつ、黄色い石の件なんですが、中を開けて──」
(──そうだ。コナーさんは奥様の思い出を重ねて、開けるのをためらっていた)
「──いえ、なんでもありません」
「中の石の事じゃろ?……今日ここで待っている間に色々と考えたんじゃ。ペンダントを開けられないという事が、本当の意味で妻はもう居ないという事を理解して無かった証拠なんじゃ」
「コナーさん……」
「ここで冒険者の皆さんの若さ漲る雰囲気や、未来を信じとる顔つきを見ていたら……勝手ながら励まされたのぉ。こうしてペンダントも無事戻って来た事じゃし、踏ん切りをつける良い機会かもしれんのぉ……」
「──ヤマトさん、一緒に確認してくれんかね? 石が無くなってしまっていないか」
「是非。光栄です」
ペンダントを開こうとするコナーさんの指が震えている。
コナーさんにとっては最後に残された奥様との物理的な温もりなのだから躊躇いも当然、相当な勇気が要るはずだ。
伴侶が居ない俺では真の意味で理解は出来ないのだろう。
だが想像するだけでも、途轍もない寂しさなんだという事は分かる。
他人が口を挟むべきではない、あえて知らんぷりを装いリーフルを撫でながら見守る事にする。
「じゃあ……」
いよいよ踏ん切りがついたのか、コナーさんがペンダントを開いた。
中にはコナーさんの言っていた石がしっかりと収まっていたようで、"思い出"を失っていない事に俺はホッと胸をなでおろした。
すると同時に、その石からまばゆい光と共に暖かいエネルギーが発せられ、頭の中に何かの情景が浮かんできた。
◇
「お、俺と! けけ──結婚してください! ゴチンッ」
「ふふ、力み過ぎよ。おでこ見せて……ほら~赤くなってる」
「ご、ごめん……それで返事はどうでしょうか!」
「もちろんよ、あなたと結婚したいわ」
「やったーーー!! ガンッ──っ!」
「またもう……勢いよく立ち上がるからそうなるのよ。ふふふ」
(これは……多分コナーさん夫妻の過去──奥様の思い出なのか)
「あなた、どうしたの? こんな綺麗なペンダント、高かったでしょ?」
「君に似合うと思って奮発しちゃったんだ。結婚して十周年だし……気に入ってくれたかな……?」
「もちろんよ! ありがとうあなた」
(ペンダントは結婚十周年の記念に奥様に贈った物だったんだな)
「やっぱりここは気持ちいいわね~」
「景色も良いし安全だし、やっぱりここはいつ来てもいいね!」
「ほらお昼よ、どうぞ──あ~ん」
「へへ……何年経っても慣れないなぁ──あむ。ほ、ほら! さっき綺麗な石を拾ったんだ。これをあげるよ」
「もお照れちゃって。ふふ、あなたのそういう所が好きよ」
(思い出の腰掛……)
ピクニックに来た時の思い出だろう、仲睦まじい光景だ。
「ごめんなさい、迷惑ばかりかけてしまって……」
「水臭い事を言わんでくれ。わしは君が居てくれるだけで幸せなんじゃ。ほれ、アプルでも食べてその可愛い笑顔を見せておくれ」
見るからに弱ってベッドに伏せっている奥様の様子が見える。
コナーさんが献身的に看病している様は胸が締め付けられる思いだ。
「あの人……私が居なくなっても大丈夫かしら……」
奥様が一人ペンダントの石を撫でながら横たわっている姿が見える。
「これを私だと思って持っていて。あなた、寂しくてきっと弱ってしまうわ。だから私はペンダントになっていつまでもあなたの傍に居るわ……」
「う、うう……アルバ……幸せだったかい……? わしは君と一緒になれて本当に幸せだった! 君を幸せに出来たんじゃろうか……」
「最後まで私の事を気にしてくれるのね……ええ、私は世界一幸せ者の妻だわ」
コナーさんの姿は見当たらない。
どうやら奥様一人だけの記憶。
「あわてんぼうな所があるものね……ふふ。死んでしまう事よりも、あなたと離れてしまうのがつらいわ……!」
「お洗濯してあげなくちゃ……ズボンも繕わなきゃ……」
「みんなに……あの人の事お願いしなきゃ……」
「ありが……とう……あな……た……愛してる──愛してるわ……」
◇
「アルバ……くっ……ううう……」
かける言葉が見つからない。
コナーさんは声を押し殺し肩を震わせ、その愛おしそうに握りしめられたペンダントに涙が零れ落ちる。
「ホー? (テキ?)」
「……ううん、違うんだリーフル」
雰囲気を察して酷い事をされたと思ったのか、リーフルが慰めてくれる。
「……わしは妻の最期を看取る事が出来なんだ。何か果物を食べさせてやろうと買い物に出ていての、その合間の事じゃった……」
「『何故あの時家を空けてしまった! 何故傍に居てやらなんだ!!』とずっと後悔しておったんじゃ……でも妻の気持ちが知れた今、後悔なぞ吹き飛びました。あんなにもわしの事を心配してくれていたんじゃ、余生は明るく過ごさねば、妻に申し訳が立たん」
「ヤマトさんとリーフルちゃん、こんな老いぼれの願いを聞き入れてくれて、ありがとうございました……わしはもう大丈夫じゃ」
「俺も"大切な思い出"を取り戻すことが出来て、本当に良かったです」
「これからも友人として、たまにわしの相手をしてくれると嬉しいのぉ。リーフルちゃんも可愛いしのぉ、ほっほっほ」
「ホッホッホ? (タベモノ?)」
ペンダントを開いた瞬間に起こった現象は何だったのか。
林でリーフルを導いてくれたのは……。
──最期に妻が夫に残した深愛の贈り物。
それでいい、きっとそうなんだ。
なんでもコナーさんは『今日は賑やかなこの場に居たいと』とギルド内の腰掛に座り、俺の帰りを待っていたようだ。
本人は満足そうにしているが、若くない体に負担をかけてしまったのは、家で待機するよう促さなかった俺の落ち度だろう。
「コナーさん! てっきりお帰りになられたものかと」 「ホホーホ(ナカマ)」
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「そうなんですね……」
努めて屈託なく話してくれているが、もちろんそれだけでは無い事は、時より見えるコナーさんのどこか物憂げな表情が物語っている。
「一応それらしきペンダントは見つけることが出来たんですが、ご確認いただけますか?」
くるんでいた手拭いを取りコナーさんに手渡す。
「お──おお! まさしくこれじゃ……この模様……このキズ、確かにわしが妻に贈った物じゃよ」
目には薄っすらと涙を浮かべ、そのしわしわの指で愛おしそうに何度も撫でて確認している。
(よかった……俺が見つけたわけじゃ無いけど、肝心なのはコナーさんの手元に帰ったという事だ)
「精霊様とリーフルが見つけてくれたんですよ。幸運でした」
「精霊様とな? そんな存在おとぎ話でしか聞いたことないのぉ。でもヤマトさんが噓をつくとは思えんし、わしは信じるぞ。リーフルちゃんもありがとうのぉ」
「ホホーホ(ナカマ)」
コナーさんに感謝され、リーフルは満足そうに胸を張っている──ように見える。
「リーフルはお小遣いを頂きましたしね、張り切ったのかもしれません。それともうひとつ、黄色い石の件なんですが、中を開けて──」
(──そうだ。コナーさんは奥様の思い出を重ねて、開けるのをためらっていた)
「──いえ、なんでもありません」
「中の石の事じゃろ?……今日ここで待っている間に色々と考えたんじゃ。ペンダントを開けられないという事が、本当の意味で妻はもう居ないという事を理解して無かった証拠なんじゃ」
「コナーさん……」
「ここで冒険者の皆さんの若さ漲る雰囲気や、未来を信じとる顔つきを見ていたら……勝手ながら励まされたのぉ。こうしてペンダントも無事戻って来た事じゃし、踏ん切りをつける良い機会かもしれんのぉ……」
「──ヤマトさん、一緒に確認してくれんかね? 石が無くなってしまっていないか」
「是非。光栄です」
ペンダントを開こうとするコナーさんの指が震えている。
コナーさんにとっては最後に残された奥様との物理的な温もりなのだから躊躇いも当然、相当な勇気が要るはずだ。
伴侶が居ない俺では真の意味で理解は出来ないのだろう。
だが想像するだけでも、途轍もない寂しさなんだという事は分かる。
他人が口を挟むべきではない、あえて知らんぷりを装いリーフルを撫でながら見守る事にする。
「じゃあ……」
いよいよ踏ん切りがついたのか、コナーさんがペンダントを開いた。
中にはコナーさんの言っていた石がしっかりと収まっていたようで、"思い出"を失っていない事に俺はホッと胸をなでおろした。
すると同時に、その石からまばゆい光と共に暖かいエネルギーが発せられ、頭の中に何かの情景が浮かんできた。
◇
「お、俺と! けけ──結婚してください! ゴチンッ」
「ふふ、力み過ぎよ。おでこ見せて……ほら~赤くなってる」
「ご、ごめん……それで返事はどうでしょうか!」
「もちろんよ、あなたと結婚したいわ」
「やったーーー!! ガンッ──っ!」
「またもう……勢いよく立ち上がるからそうなるのよ。ふふふ」
(これは……多分コナーさん夫妻の過去──奥様の思い出なのか)
「あなた、どうしたの? こんな綺麗なペンダント、高かったでしょ?」
「君に似合うと思って奮発しちゃったんだ。結婚して十周年だし……気に入ってくれたかな……?」
「もちろんよ! ありがとうあなた」
(ペンダントは結婚十周年の記念に奥様に贈った物だったんだな)
「やっぱりここは気持ちいいわね~」
「景色も良いし安全だし、やっぱりここはいつ来てもいいね!」
「ほらお昼よ、どうぞ──あ~ん」
「へへ……何年経っても慣れないなぁ──あむ。ほ、ほら! さっき綺麗な石を拾ったんだ。これをあげるよ」
「もお照れちゃって。ふふ、あなたのそういう所が好きよ」
(思い出の腰掛……)
ピクニックに来た時の思い出だろう、仲睦まじい光景だ。
「ごめんなさい、迷惑ばかりかけてしまって……」
「水臭い事を言わんでくれ。わしは君が居てくれるだけで幸せなんじゃ。ほれ、アプルでも食べてその可愛い笑顔を見せておくれ」
見るからに弱ってベッドに伏せっている奥様の様子が見える。
コナーさんが献身的に看病している様は胸が締め付けられる思いだ。
「あの人……私が居なくなっても大丈夫かしら……」
奥様が一人ペンダントの石を撫でながら横たわっている姿が見える。
「これを私だと思って持っていて。あなた、寂しくてきっと弱ってしまうわ。だから私はペンダントになっていつまでもあなたの傍に居るわ……」
「う、うう……アルバ……幸せだったかい……? わしは君と一緒になれて本当に幸せだった! 君を幸せに出来たんじゃろうか……」
「最後まで私の事を気にしてくれるのね……ええ、私は世界一幸せ者の妻だわ」
コナーさんの姿は見当たらない。
どうやら奥様一人だけの記憶。
「あわてんぼうな所があるものね……ふふ。死んでしまう事よりも、あなたと離れてしまうのがつらいわ……!」
「お洗濯してあげなくちゃ……ズボンも繕わなきゃ……」
「みんなに……あの人の事お願いしなきゃ……」
「ありが……とう……あな……た……愛してる──愛してるわ……」
◇
「アルバ……くっ……ううう……」
かける言葉が見つからない。
コナーさんは声を押し殺し肩を震わせ、その愛おしそうに握りしめられたペンダントに涙が零れ落ちる。
「ホー? (テキ?)」
「……ううん、違うんだリーフル」
雰囲気を察して酷い事をされたと思ったのか、リーフルが慰めてくれる。
「……わしは妻の最期を看取る事が出来なんだ。何か果物を食べさせてやろうと買い物に出ていての、その合間の事じゃった……」
「『何故あの時家を空けてしまった! 何故傍に居てやらなんだ!!』とずっと後悔しておったんじゃ……でも妻の気持ちが知れた今、後悔なぞ吹き飛びました。あんなにもわしの事を心配してくれていたんじゃ、余生は明るく過ごさねば、妻に申し訳が立たん」
「ヤマトさんとリーフルちゃん、こんな老いぼれの願いを聞き入れてくれて、ありがとうございました……わしはもう大丈夫じゃ」
「俺も"大切な思い出"を取り戻すことが出来て、本当に良かったです」
「これからも友人として、たまにわしの相手をしてくれると嬉しいのぉ。リーフルちゃんも可愛いしのぉ、ほっほっほ」
「ホッホッホ? (タベモノ?)」
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