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1-3 仕事も色々
第15話 全力って難しい
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今日は助っ人を頼まれているのでギルドで待ち合わせている。
相手もソロ冒険者らしく、最近この街に住み始めたらしい。
なんでも街周辺の土地勘が無いので、注意すべき場所や魔物等を教導願いたいとのこと。
ギルド側が新人研修代わりに、先輩冒険者に頼むというのはよくある話で、今回それが俺に回ってきたという訳だ。
さながら街周辺の冒険者流観光ツアーといったところか。
「あ! 鳥の人! 初めましてっす! 自分ロングって言うっす、今日はよろしくお願いします!」
「ホ? (シラナイ)」
「初めましてヤマトです、こっちは相棒のリーフルです。こちらこそよろしくお願いします。早速ですけど出発しましょう」
街の周辺地理は、コツコツと書き記したお手製地図を持っているので、説明には自信がある。
ゆくゆくは森の地図の開拓も進めたいところだ。
「へぇ~それ手書きっすか? この街の冒険者はみんなやってるっすか?」
「どうだろう、他の人のは見たことないけど。俺の場合ただの思い付きで、あると便利だろうと思って少しずつ書いてただけですね」
「なるほど……そういう手も……。いやぁ参考になるっす!」
「確かに。ギルドで周辺地図が売ってればいいのになぁとは、最初の頃は思いましたね」
「ヤマトさんはこの街長いんすか?」
「俺はまだ1年ちょっとぐらいですね。ロングさんは最近と聞きましたけど?」
「"ロング"でいいっすよ、敬語も。こっちが教わる立場なんで」
「わかった。どうしてこの街に?」
「ここから北西に50キロメートルぐらい行った先に"センスバーチ"っていうサウドより少し大きい街があるっす。その周辺にある獣人村が自分の故郷なんすけど、辺境のサウドは稼げるって聞いたから来たっす!」
ロングは耳の形からして多分狸の獣人。
おかっぱ風の茶色の髪型で、男だがかわいらしく見える。
しかし会話中のぞき見える犬歯は鋭く、見た目とはギャップがある。
「向こうでも冒険者を?」
「はい、でも自分ドジなんでほぼ雑用ばかりやってたっす。村ではよく馬鹿にされてたっす……」
雑談をしながら街を出て、草原に入った俺達の前に一匹のスライムが現れた。
「スライムっすね! 自分がやります! どりゃぁぁあー!!」
ロングが、装備している両手持ちの木のハンマーでスライムを全力で殴りつける。
ベシャッという音と共にスライムはハンマーに潰され魔石ごと粉々に飛び散った。
「スライムなら楽勝っすよ!」
「いや……ロング、スライム相手でもいつもそんなに全力なのか?」
「そうっす! 全力で頑張ることが自分の取柄っすから!」
「そっか~……」
◇
「……でこの辺は森との境界だけど、森から強い魔物が出てくることもあるから気を付けておいたほうがいいよ」
「了解っす!」
観光ツアーは順調だった。
……順調だったが一つ気になることがある。
ロングは全力過ぎるのだ。
教える事は素直に聞き入れるし、獣人ということもあって身体能力も高いと思う。
しかし、ヒール草を状態良く摘み取る方法を教えた際は、力が入りすぎ葉の部分をちぎってしまうし、はぐれのローウルフに遭遇した際には、ハンマーを空振りそのままの勢いで転んだりしていた。
このままでは、折角サウドまで来たのにろくなことにならなそうなので、ここは先輩として指摘してやらねばなるまい。
「ロング、ちょっといいかな?」
「なんすか? 昼ご飯っすか!?」
「ホーホホ(タベモノ)」
「いや、腹も減ってはきたけど、ロングを見てて思ったことがあって」
「自分をっすか?」
「一生懸命物事に当たるのは素晴らしいことだ。でも、常に全力じゃなくてもいいんじゃないかな?」
「どういうことっすか?」
「力を発揮するのは時と場合を考えなくちゃいけないってことだよ。さっきヒール草の摘み方を教えた時の事を思い出してほしいんだけど、草を"摘む"なんて事は力が弱い人でもできるよね?」
「そうっすね」
「この場合力を出すのは"摘み方"の方、つまり頭を全力で働かせるんだ」
「!!」
「ローウルフを相手した時もそう。まず相手を"観察"することに全力を出す。その後に攻撃を"当てる"時に全力を出す」
「なるほど……」
「常に全力だと疲れるし、肩に力が入って失敗もしやすい。要所要所で、力は使ったほうが上手く行くと思うよ」
「確かにヤマトさんの言う通りっす! 自分、勘違いしてたっす。今までの事も……」
「何かあったの?」
「自分、昔から何やっても失敗ばかりで村でも迷惑かけてたっす。でも失敗しても、いつも全力でやってたら許してもらえてて……『このままじゃダメだ、本当の意味で頼れる男になって、村のみんなに認めてもらおう』と思って、センスバーチで冒険者になったっす」
「そうなんだ」
「冒険者になったのはいいっすけど、やっぱり失敗続きで。あんまりギルドからの信用が無かったっす。でもクエストこなさなきゃ生活に困るっすから、簡単そうな市井の声のクエストとか、ギルドの雑用とかで細々とやってたっす」
人間性も良いし身体能力も高いけど、人に恵まれなかったんだろう。
俺には"ビンス"という素晴らしい師匠との巡り合わせがあったが、ロングは今まで独りぼっちで頑張ってきたんだな。
「ある日ギルドでこの街の噂を聞いたっす。辺境、広大な森、『冒険者やるならサウドが稼げる』って。心機一転頑張るならサウドしかない! そう思って、何とか馬車代を貯めてこっちに来たっす」
「そうだったんだ。大丈夫、ロングはもう本当の意味で全力、出せるよね?」
「そうっす! ヤマトさんの話で気づいたっす!」
「だったら同じ冒険者仲間として、一緒に頑張って行こう!」
「ホホーホ(ナカマ)」
「はいっす!」
観光ツアーが人生相談? になったのは想定外だが、この世界で仲間が増えるのは嬉しい限りだ。
相手もソロ冒険者らしく、最近この街に住み始めたらしい。
なんでも街周辺の土地勘が無いので、注意すべき場所や魔物等を教導願いたいとのこと。
ギルド側が新人研修代わりに、先輩冒険者に頼むというのはよくある話で、今回それが俺に回ってきたという訳だ。
さながら街周辺の冒険者流観光ツアーといったところか。
「あ! 鳥の人! 初めましてっす! 自分ロングって言うっす、今日はよろしくお願いします!」
「ホ? (シラナイ)」
「初めましてヤマトです、こっちは相棒のリーフルです。こちらこそよろしくお願いします。早速ですけど出発しましょう」
街の周辺地理は、コツコツと書き記したお手製地図を持っているので、説明には自信がある。
ゆくゆくは森の地図の開拓も進めたいところだ。
「へぇ~それ手書きっすか? この街の冒険者はみんなやってるっすか?」
「どうだろう、他の人のは見たことないけど。俺の場合ただの思い付きで、あると便利だろうと思って少しずつ書いてただけですね」
「なるほど……そういう手も……。いやぁ参考になるっす!」
「確かに。ギルドで周辺地図が売ってればいいのになぁとは、最初の頃は思いましたね」
「ヤマトさんはこの街長いんすか?」
「俺はまだ1年ちょっとぐらいですね。ロングさんは最近と聞きましたけど?」
「"ロング"でいいっすよ、敬語も。こっちが教わる立場なんで」
「わかった。どうしてこの街に?」
「ここから北西に50キロメートルぐらい行った先に"センスバーチ"っていうサウドより少し大きい街があるっす。その周辺にある獣人村が自分の故郷なんすけど、辺境のサウドは稼げるって聞いたから来たっす!」
ロングは耳の形からして多分狸の獣人。
おかっぱ風の茶色の髪型で、男だがかわいらしく見える。
しかし会話中のぞき見える犬歯は鋭く、見た目とはギャップがある。
「向こうでも冒険者を?」
「はい、でも自分ドジなんでほぼ雑用ばかりやってたっす。村ではよく馬鹿にされてたっす……」
雑談をしながら街を出て、草原に入った俺達の前に一匹のスライムが現れた。
「スライムっすね! 自分がやります! どりゃぁぁあー!!」
ロングが、装備している両手持ちの木のハンマーでスライムを全力で殴りつける。
ベシャッという音と共にスライムはハンマーに潰され魔石ごと粉々に飛び散った。
「スライムなら楽勝っすよ!」
「いや……ロング、スライム相手でもいつもそんなに全力なのか?」
「そうっす! 全力で頑張ることが自分の取柄っすから!」
「そっか~……」
◇
「……でこの辺は森との境界だけど、森から強い魔物が出てくることもあるから気を付けておいたほうがいいよ」
「了解っす!」
観光ツアーは順調だった。
……順調だったが一つ気になることがある。
ロングは全力過ぎるのだ。
教える事は素直に聞き入れるし、獣人ということもあって身体能力も高いと思う。
しかし、ヒール草を状態良く摘み取る方法を教えた際は、力が入りすぎ葉の部分をちぎってしまうし、はぐれのローウルフに遭遇した際には、ハンマーを空振りそのままの勢いで転んだりしていた。
このままでは、折角サウドまで来たのにろくなことにならなそうなので、ここは先輩として指摘してやらねばなるまい。
「ロング、ちょっといいかな?」
「なんすか? 昼ご飯っすか!?」
「ホーホホ(タベモノ)」
「いや、腹も減ってはきたけど、ロングを見てて思ったことがあって」
「自分をっすか?」
「一生懸命物事に当たるのは素晴らしいことだ。でも、常に全力じゃなくてもいいんじゃないかな?」
「どういうことっすか?」
「力を発揮するのは時と場合を考えなくちゃいけないってことだよ。さっきヒール草の摘み方を教えた時の事を思い出してほしいんだけど、草を"摘む"なんて事は力が弱い人でもできるよね?」
「そうっすね」
「この場合力を出すのは"摘み方"の方、つまり頭を全力で働かせるんだ」
「!!」
「ローウルフを相手した時もそう。まず相手を"観察"することに全力を出す。その後に攻撃を"当てる"時に全力を出す」
「なるほど……」
「常に全力だと疲れるし、肩に力が入って失敗もしやすい。要所要所で、力は使ったほうが上手く行くと思うよ」
「確かにヤマトさんの言う通りっす! 自分、勘違いしてたっす。今までの事も……」
「何かあったの?」
「自分、昔から何やっても失敗ばかりで村でも迷惑かけてたっす。でも失敗しても、いつも全力でやってたら許してもらえてて……『このままじゃダメだ、本当の意味で頼れる男になって、村のみんなに認めてもらおう』と思って、センスバーチで冒険者になったっす」
「そうなんだ」
「冒険者になったのはいいっすけど、やっぱり失敗続きで。あんまりギルドからの信用が無かったっす。でもクエストこなさなきゃ生活に困るっすから、簡単そうな市井の声のクエストとか、ギルドの雑用とかで細々とやってたっす」
人間性も良いし身体能力も高いけど、人に恵まれなかったんだろう。
俺には"ビンス"という素晴らしい師匠との巡り合わせがあったが、ロングは今まで独りぼっちで頑張ってきたんだな。
「ある日ギルドでこの街の噂を聞いたっす。辺境、広大な森、『冒険者やるならサウドが稼げる』って。心機一転頑張るならサウドしかない! そう思って、何とか馬車代を貯めてこっちに来たっす」
「そうだったんだ。大丈夫、ロングはもう本当の意味で全力、出せるよね?」
「そうっす! ヤマトさんの話で気づいたっす!」
「だったら同じ冒険者仲間として、一緒に頑張って行こう!」
「ホホーホ(ナカマ)」
「はいっす!」
観光ツアーが人生相談? になったのは想定外だが、この世界で仲間が増えるのは嬉しい限りだ。
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