上 下
14 / 175
1-3 仕事も色々

第12話 便利屋

しおりを挟む
 
 ギルドから出されるクエストは大別して三種類ある。
 "討伐依頼"──文字通り指定された魔物を退治して、証拠としてその魔物の一部分もしくは持ち帰れるなら全身を提出する。
 "採集依頼"──主にヒール草やモギなど指定された植物や鉱物などを個数を揃えて納品する。
 "市井の声"──これは要は便利屋のようなもので依頼内容は多岐にわたる。
 街のとある地域の組合から路地の掃除の依頼が出ていたり、ここからあそこまで何々を運搬して欲しいという依頼だったり。
 俺が見た中で一番驚いた依頼に犬の散歩代行というものがあった。
 散歩の代行なんてものにお金が出せるとは裕福に違いない。
 お金で時間を買うのは納得いく使い道ではあるが、犬を飼ってるなら散歩は醍醐味の一つなのではないだろうか?
 
 ギルド内の三つの掲示板から、今日は市井の声の掲示板を吟味していた。

(今日中だと……この三件ならこなせるな)

「今日は何件かはしごするからな」 「ホ(イク)」
 肩に乗るリーフルに話しかけ、市井の声の中から三件受注し、早速一件目の街から南の方角、森の境界付近の木こり小屋へと向かった。



 木こりが拠点としている小屋はこじんまりとしている。
 数段の階段があり建物は地面から離されており、年季が伺える見た目だ。

「おはようございます。運搬のお手伝いに参りました」

「……」
 木こり小屋の扉を開けて中に挨拶するが返事が無い。

(依頼日は……今日であってるよな)
 依頼書を確認するが日時も場所も間違いはない。
 面倒だがギルドに戻って確認しなきゃいけないかと考えていると、『ホー! (テキ)』とリーフルが訴えかけてきた。

「お……向こ……この……」
 静けさの中、木こり小屋の裏手方面から何やら声が聞こえる。
 草原寄りとは言えここは森の入り口、危険も当然あるので助太刀に行かねばなるまい。

「やめろ! 納品する時間なんだよ、あっち行けってんだ!」

「木こりの方ですね、大丈夫ですか!」

「あ! 冒険者さんですかい!? 助けてくだせえ! が納品する予定の木の皮を食べちまってるんです」
 木こりの言う通り三匹のラフボアが積み重ねられた丸太の周りで皮を食んでいる。
 ラフボアは草や木の皮をエサとして移動しながら生息する猪の魔物だ。
 動物の猪も存在するが違いとしては、大きさはローウルフの二倍ほどで牙が左右で四本生えており、人間を襲う。
 しかしながら、動きが単純なので危険度はローウルフと同じぐらいだ。

「任せてください。お前は離れててくれ」
 リーフルが乗っている肩を大きく振り、離れるよう指示する。
 狙いやすいように丸太の奥側にいるラフボアが射線に入る位置に移動し、背負っている弓を取り出し狙いを付ける。

「ドスッ──まず一匹」
 矢は狙い通り丸太の奥側にいたラフボアの眉間に命中した。
 ドサっと倒れたラフボアによって状況に気づき、他の二匹が俺を敵として認識したようだ。

「フシューッ!」 「ブフンッ!」
 口から荒い息を吐きながら前足を蹴り突進する構えだ。

「ドドド!!」
 二匹のラフボアが俺目掛け突進してくる。
 それを確認し直角に真横に走り突進を回避する。

(曲芸射ち出来ればもうちょっと安全になるんだけどなぁ)
 先日の狩人のショートの動きを思い出しつつ、しっかり直立した後ラフボアに狙いを定め、立て続けに矢を二本射る。

「ドドスッ」
 二本の矢は一匹のラフボアの側頭部と胴体に命中し、仕留める事が出来た。
 もう一匹のラフボアは勢い余って木に衝突し牙が刺さり動けなくなっている。

だしな……」
 動けなくなっているラフボアに、蹴られないよう横から近づき短剣で喉を切り裂く。
 血が流れだし、最後のラフボアも息絶えた。
 不意に口から出た言葉は、やはりまだ殺生に慣れていない証拠だろう。

「ホーホホ(タベモノ)」
 最初に仕留めたラフボアの上に乗り、嘴でつつきながらそんな事を言っている。

「違うぞリーフル。普通の猪と違ってあんまり美味しくないよ」
 動物の思考は単純だ、リーフルには癒される。
 
「いやぁ助かりましたぜ旦那。危うく全部ぱぁになるとこでした」

「間に合ってよかったです。でも数本不良品が出てしまってますね」

「なぁに、すぐに用意しますんで、ちょっと時間もらえますかね」
 そう言うと木こりは、別に置かれている枝がついたままの、長さが揃えられていない木を瞬く間に加工していく。
 流石の本職といったところだ。

「お待たせして申し訳ない、終わりましたぜ。しっかしお一人で?」

「ええ、私にはこれがありますので」
 用意された木材をアイテムBOXへと収納する。

「へえー! 旦那の魔法ですかい、そりゃ便利なものをお持ちで。その鳥も旦那の?」
 
「そうなんですよ、かわいいですよね」
 羽音をほとんど立てずスッと俺の肩に戻ってきたリーフルを撫でながら、少し得意げに話す。

「ところで旦那、あのぉ……なんですがね……」
 言い淀みながら木こりはラフボアを指差す。

「ラフボアがどうかされましたか?」

「お願いなんですが、一匹──いや、牙だけでも譲ってもらえませんかね……?」

「牙……ですか?」
 基本的には討伐した魔物は討伐した者の所有物となる。
 だから木こりは申し訳なさげに言ってきたのだろう。

「構いませんよ。そういう事なら一匹全部どうぞ。毛皮も鞣せば防寒具としてプレゼント出来ますよ」

「ほんとですかい!? いやぁ有難い! 実は近々娘の誕生日でして。アクセサリーでも作って渡してやろうかと思ってたんですがね、ラフボアの牙は磨いて一皮剝くといい光沢が出て真珠みたいに綺麗なんです」

「ありがてえ! 助けてもらった上にラフボアまで。代わりと言っちゃなんですが、こいつを貰ってやってくだせえ」
 そう言いながら取り回しのよさそうな小さめの鉈のような物を差し出す。

「よろしいんですか?」

「さすがにお礼もなんも無しじゃ悪いんでね」

「それではお言葉に甘えて遠慮なく。じゃあこちらにサインを頂けますか」
 
 ひと悶着あったが無事一件目の仕事クエストを終えた俺は、次の目的地、街の大工の元へと向かう。
しおりを挟む
感想 227

あなたにおすすめの小説

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

処理中です...