上 下
12 / 175
1-2 冒険者

第10話 帰還する平凡

しおりを挟む
「ゼーゼー……っ──みんな無事か……」
 疲れ果てたロットが顔を上げ皆の無事を確認する。

「なんとかなったな……」

「ロット大活躍」

「さすがに挟み撃ちは焦ったわね……」

「お疲れ様ですみなさん」

 偶発的遭遇で魔物達と戦う事になった俺達だが、なんとか撃退しミミズクを救うことが出来た。

 そういえばあのミミズクはどうなっただろうか、隙を見て逃げ出しただろうか。

「ちょっとあのミミズクの様子を見てきます。近くなのですぐ戻ります」
 先程隠した木の下を確認しに行く。
 
「イタイ、ニゲル」

 どうやら逃げ出す体力は残っていなかったようで、ケガを負っている左翼を広げ地面に伏せっている。
 腰のもう一つの巾着袋から汗を拭うために持っている布を取り出し、応急処置として患部に巻き付ける。

「ニンゲン──! ニゲル……」

 そりゃそうだ。先ほどまでローウルフに追われ、今度は人間に体をいじられているのだから怖いに決まってる。
 加護のおかげで相手の気持ちを量ることは出来ても、こちらの意思は伝わらない。
 なんとももどかしいが、そのうち伝えられるようになるのだろうか?
 そもそもが不思議な能力である以上、パワーアップしないとは限らないはず。

「お待たせしました。ケガを負っていたようです」
 ミミズクを抱き上げ、みんなの元に戻り報告する。

「ほんと、ケガしてるわねその子。だから飛んで逃げれなかったんだ」

「先程ヤマトさんはと言ってましたけど、フクロウとは違うんですか?」

「似てますけど厳密には違います。ほらここ、目の上辺り、ぴょこんと羽が生えてますよね? 羽角と言って、これのある無しで分けられます」
 地球に居た時見たミミズクの羽角と比べて3倍ぐらい大きい気がする。
 しかも右側にしか無く、生まれつきか欠損なのかわからないが地球のとは少し異なるようだ。

「それにしてもヤマト、お前記憶喪失になったって聞いてたけど、よくそんな事知ってるな」

「き、記憶を取り戻そうと色々勉強しまして──ハハハ……」
 騙すつもりなどないが、誤魔化す度に罪悪感を感じる。

「そ、それよりも! これからは帰りなので、ブラックベアとローウルフは持ち帰りますよね?」

「ですね。またアイテムBOXお願いできますか?」
 
「わかりました。モギも含めて買取に出しておこうと思いますけど、どなたか付き添いをお願いできますか?」

「いらない。換金後に後日集合で良い」
 ショートは案外俺を信用してくれているようだ。

「そうだぜ、もうクタクタだ、さっさと街に帰ってメシ食って寝てえ」

「その子はどうするの?」

「とりあえず回復するまでは俺が街で面倒見ようと思います」

「それじゃあ帰ろうか!」

 無理をしない方針の俺からすれば、しっかりとした命の危機を感じたのは転移初日のスライム以来か。
 未知の緑翼のみんなのおかげで難を逃れた俺は、ミミズクを抱えて帰路についた。



「じゃあ明後日の夜、ギルドの酒場で待ち合わせましょう」

「今日は本当にありがとうございました。命拾いしました」

「ヤマトさんだって活躍してたわよ? 私の方こそ命拾いしたわ」

「雑談は明後日だ! メシだメシ!」

「挨拶は大事」

 街へ着いた頃には陽も落ち、辺りを照らす街灯代わりの魔道具に火が入れられ、すっかり夜の雰囲気だ。
 さすがに俺も慣れない仕事クエストに疲れたので、早々に冒険者ギルドへ向かうことにする。

「あ! お帰りなさいヤマトさん。どうでした?──ってその鳥ちゃんは……?」

「色々ありまして……調査は無事終了しました。」

「そうですか……今日はお疲れでしょうし、書類を提出いただいて、詳しい話はまた後日で構いませんよ」

「ありがとうございます。それと、買取をお願いできますか? 預かってまして。少々量が多いので、カウンターの前に出しますね」

「ドサドサドサ」
 収納していたモギと、撃退した魔物達をギルド内に放出する。

『なんだあの量……』 『ブラックベアが2体!?』
 ギルド内に居た他の冒険者たちがざわついている。

「きょ、今日は随分大量ですね……」

「えぇ、もちろんほぼ全て未知の緑翼のみなさんの成果ですよ。俺はただの荷物持ちなんで」

『そういや荷物持ちもしてたなあいつ』 『そんな事だろうと思ったぜ』 『でもあんな大量に……』
 わずかに聞こえてくる内容からして誤解は解けたようだ。

「査定には時間がかかるでしょうし、今日はこれで失礼します」

「は、はい。承りました。お疲れさまでした!」

 用事を済ませ寄り道することなく宿へと帰ることにした。

「お帰り、ヤマトさん。今日は遅かったね」

「ただいまシシリーちゃん。今日は遠出だったんだ」

「わぁ鳥ちゃんだ。ケガしてるみたいだけど、どうしたの?」

「森で保護したんだよ。治るまでは俺が面倒見てやろうかと思って。宿的にはまずかったかな?」

「ん~問題ないよ。ヤマトさんが見るなら滅多なことはないと思うし」

「そう言ってくれて助かるよ」
 1年の付き合いの賜物か。地球でもそうだったが動物を入れる行為は嫌がられる事が多いが、受け入れてもらえてよかった。

「食べてないでしょ? 夕飯はどう──部屋だよね。鳥ちゃんもいるし」

「うん、部屋に頼むよ。あと、生の状態で肉を一切れ用意してくれないかな?」

「鳥ちゃん用だね。わかった、後で持っていくね~」
 迷惑料も含めて普段より多めに支払い部屋に帰る。

(しまった、止まり木が無い。まぁ伏せの状態の方が今は楽だろうし、明日以降考えるか)
 部屋に備え付けのタンスの上にある、底の深めのパンを入れる籠に枕を入れ、その上にミミズクを寝かせてやる。

(こんな激動の1日は転移後初めてだな。それにこの子、治るかな)
 イスに腰掛け、今日の出来事を思い出しながら一呼吸つく。
 
「コンコン──持ってきたよ」
 シシリーが夕食を持ってきてくれたようだ。

 明日は仕事クエストは休みにして、ミミズクの世話をしよう。
しおりを挟む
感想 227

あなたにおすすめの小説

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

処理中です...