上 下
3 / 175
1-1 第二の人生

第3話 冒険者として生きていく 1

しおりを挟む

 目が覚めると、目の前には快晴の空の下に草原が、後方には奥が深そうな森が広がっていた。
 そして自分の格好を検めてみると、上は白い丸首の長袖シャツに下はデニム、どうやら転移直前の格好でこの惑星レシレンに降り立ったようだ。

 あの妙にノリの軽い神様の言っていた事は本当で、俺はこの"レシレン"なる世界で新たな人生を送ることになったようだ。
 だが俺には他の選択肢が無い訳だ。
 この現実を受け入れるより他に道は無いので、不思議と後悔や動揺といったものは湧き出てこない。

(自然豊かな景色……これが地球なら観光気分で安らぎもするけど……)
 神様がなにやら不穏な事を言ってたのを思い出し、このままここに留まって居ては危ないと判断し歩き出す。

 とりあえず見晴らしの良い草原の方に向かい進んでみる。
 広がる草は、くるぶし程度の背の低いもので、歩きにくいということはない。



 歩き始めて十分程経ったころ、半透明の青色をした丸い形の生き物と遭遇した。
 所謂"スライム"というやつだろうか、動きが緩やかで明らかに弱そうだ。
 どうしたものかと観察を始めたその時、俺の中に思念とも感情ともつかない不思議なものが流れ込んできた。

『テキ』 『タベモノ』

 途端に緊張が走る。

 丸腰、戦闘経験なども当然なし。
 見た目から侮っていたが、ただのサラリーマンだった俺には、最弱モンスターと呼ばれるスライムですら厳しい相手だろう。

 咄嗟に、転がっていた何かの骨らしきものを拾い上げる。
 スライムも俺を目指し前進してきている。
 転移直後、数十分でゲームオーバー死亡なんて結末はあまりにもお粗末なので、意を決し殴りかかってみる。

「んなろー!」
 自分を鼓舞する言葉を発しながら、拾った骨らしきものをスライムめがけて振り下ろす。

 水気を含んだ鈍い打撃音が響く。

 一撃を受けたスライムは、人が座って沈んだビーズクッションのような形に変形し、動かなくなった。

(うわ……殺生って初めての経験だな……)
 まだ興奮冷めやらぬ俺の頭の中は、意外と冷静にそんな事を考えていた。
 伝わって来た感情から、スライムが俺を食べようとしていた事に間違いないが、初めてのことに少し罪悪感を覚えるので、合掌しておく。


 ふと先程倒したスライムの中心に、何か光るものがあるのが見えた。
 深い黒色をした、綺麗な石のような物だ。
 着の身着のまま、金も持たない俺には、価値がありそうなものは何であれ重要だ。
 

 スライムとの戦闘ですっかり忘れていたが、背筋を伸ばした視線の先、草原を割る道らしきものを発見していた。
 これを森と逆方向に進んで行けば、人の気配のする所へ辿り着けるはず。
 そう信じて、スライムの石と骨を手に再び歩き出す。


(ふむ……何でスライムの考え? 気持ち? が分かったんだろうか)
 歩きながら先程の戦闘について考える。

 神様は俺に加護とスキルをくれると言っていたので、その関係なのは間違いないだろう。
 スキルは"アイテムBOX"、名前の通り多分収納に関することだ。

 では加護の方に意思疎通出来る能力が備わっているとみるのが自然だろうか。
 だが考えるだけでは結論は出ない。
 神様も『体験してみて』と言っていたし、検証あるのみだろう。
 
 そんな事を考えながら歩を進めていると、視線の先に大きな門のようなものが見えてきた。
 どうやら街があるようだ。
 道の先に人の気配を確信してホッと胸を撫でおろす。



 門の脇に、門番と思われる男が一人立っている。
 四十代後半といったところで、焦げ茶色の短髪で歴戦の戦士然とした雰囲気を纏っている。

「──そこのお前! いったいどうした、なんだその恰好は! どこから来た、身分証は!」
 門番らしき男が矢継ぎ早に俺に問いかける。

「どうもこんにちは。怪しい者じゃ無いんです。旅人……になります」
 
「この街で宿や食事を取りたいのですが入れてもらえませんか?」
 努めて不快を買わないよう、両手を広げ抵抗の意思が無い事を示しながら答える。

「商人でも冒険者でもなく、旅人だぁ? 怪しいなお前、武器は持っているか」

「御覧の通り骨と石しか持ってません。お金もないです」

「裏門側に来たってことはあの森の方から来たってことだ。だがあんな危ない所から骨と石だけ持ってここまで来れるはずがねぇ……なにもんだお前!」
 仕方がないので、信じてはもらえないだろうがありのままを説明することにした。

「……という訳でして。ここに辿り着いた、と」

「……っく……そうか。よ~っくわかった!」

「大変だったんだなぁ、何もかも忘れちまって。そんな妄想まで……よっぽど酷い目にあったんだなぁ……」
 男性が我が事のように涙ぐんでいる。
 なにか盛大に勘違いをされている気がする。

「──よしわかった! そういうことなら俺が面倒見てやる。大船に乗ったつもりで安心しろ、な?」

「俺はビンスって名前だ、お前は?」
 勘違いを正した方がいいのだろうが、チャンスを逃すまいと話に乗る事にする。

「俺は大和希、二十六歳の日本じ──じゃなくて、ごくごく普通の平凡な男です」

「ヤマト・ノゾム……? 変わった名だなぁ」

「まあいい。じゃあヤマト、早速だがお前の持ってるその骨、それは"コカトリス"って魔物の骨だ。そこそこの値はつくからそれを換金しろ」

(魔物の骨だったのかこれ……えらく丈夫だとは思ったけど、貴重な物なのか?)

「換金するには冒険者ギルドで買い取ってもらう必要がある、その辺は全部俺が教えてやるから安心しろ」

「俺はあと一刻程で交代の時間だから、暇つぶしがてら話し相手になってくれ、色々話してやる」
 
「わかりました、お世話になります」
 門の脇に二人で腰を下ろし、話を聞かせてもらう事にした。


 ビンスの話によると、"冒険者"とは、魔物を狩ったり素材を採集したりする仕事を生業にしている者のことを言うらしい。
 この門番の仕事も、この街の冒険者が希望者の中で当番制で担当するようだ。

 交代までの時間、ビンスと話し込んでいる間にも、冒険者と思われる面々が門をくぐって街へ入る姿を観察していた。
 皆それぞれ剣や弓等の武器を装備し、ごつい鉄製の鎧や身軽に動けそうな皮の服を身につけていた。


「お~う、今日は目立った事は無しか?」
 どうやら交代の者がやってきたようだ。

「今日は平和そのものだったぜ、後よろしくな。俺はこいつの面倒を見なくちゃならねえんでな」

「ま~たお得意のお節介かよ。ほどほどにしとけよ~」

「うっせ! そんなんじゃねえよ。詳しくは後日ってことで、じゃあな」
 仲の良さが窺える会話を交わす二人。

「そんじゃ、行くかヤマト」
 そう言ってビンスは俺を街に招き入れてくれた。
しおりを挟む
感想 227

あなたにおすすめの小説

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

処理中です...